【月間総括】PS5の不調を克服することは可能か 〜2023年の業界展望〜

 今月は,2023年のゲーム業界について考えていきたいが,その前に触れたいことがある。Microsoftのフィル・スペンサー氏がActivision Blizzardの買収完了後に,任天堂プラットフォームに「コールオブデュティシリーズ」(以下,CoD)の供給で合意したと発表した点についてだ。

 この発表後FTCがMicrosoftを提訴しており,今後の推移は分からない。ただ,報道を見る限り,ソニーがCoDを喪失することに相当の危機感を抱いているようである。これは,おそらく今でも世間一般が「ゲーム機はソフトのために嫌々ながら買われている」と山内氏が言っていた話を,今も信じているためだと思われる。

 この考えは,本連載で繰り返し指摘しているように,これまでの販売数データから観測された結果と矛盾している。 特にPS4は人気タイトルである「ドラクエ」「モンハン」「FF」が発売されたにもかかわらず,下のグラフにあるようにPS VitaやPS3同様に国内では売れなかった。AAAと呼ばれる優良大型タイトルがハード販売の成否を決めるなら,この様なことは起こらないはずである。 任天堂もゼルダ,マリオ,ポケモンと有力IPを擁しているのに,ハードの売れ行きはバラバラで変動が激しい。

 さらにSwitch は,アメリカでも人気のCoDシリーズは発売されていない。しかし,セールスは非常に好調だ。これだけの材料が揃っていると,一部の人気ソフトの発売だけでハードが売れるとは言えないのではないだろうか。


 この後述べる2023年のテーマにも被るが,たくさん生産できないものは結局のところ普及しないのである。AAAをいくらかき集めても,生産できなければ失敗が待っているだけであろう。
 店頭にゲーム機がなければ悲しむのは,ユーザー達なのである。SIEがこのこと理解していないように見えるのは,とても悲しいことであると筆者は思う。

 それでは,本題に入ろう。
 まず,本連載ではあまり取り上げなくなったスマートフォンゲームだが, 2023年はより一層,厳しい状況になるのではないだろうか。



 このグラフは,東洋証券でウォッチしているスマートフォンゲーム会社,DeNA,サイバーエージェント(以上,ゲーム事業),ガンホー,コロプラ,グリー,ミクシィの四半期売上高推移である。

 2021年2月に登場した「ウマ娘 プリティーダービー」を擁するサイバーエージェントのゲーム事業が突出しているために分かりにくいが,他の5社は,2017年をピークに売上高が減少していることが分かる。そして,大ヒットしたウマ娘も,リリース半年後にはピークを迎え,下がっている。 一般的には,スマートフォンゲーム会社の売上高減少傾向は,個別タイトルのヒットの有無だと思われているが,日本市場でルートボックス(いわゆるガチャ)をビジネスモデルとしている企業全体でこの傾向にあるということは,内部要因というより,外部要因の影響を受けていると考えたほうが良さそうである。

 外部要因とは,タッチパネル操作への食傷感とストレージコストの飽和ではないかと筆者は見ている。 2022年10月にバンク・オブ・イノベーションからリリースされた「メメントモリ」が課金高35億円(10月分)とヒットしたが,同ゲームは放置系と呼ばれる,ゲーム要素がほとんどないタイプのゲームであり,プレイヤーの目的はより一層デジタルガチャになっている。スマートフォン登場から 10年以上が経過し,静電容量方式のタッチパネルでできる操作がほぼやりつくされた可能性があり,効率化された姿が「メメントモリ」ではないかと思う。

 そしてコンシューマゲーム業界である。
 2023 年のポイントは PS5だろう。PS5は供給難が続いていたが,今後は,大幅に供給が増えるとソニーグループは度々説明している(来月はこの点について触れる予定である)。過去を振り返っても,PlayStationは頻繁にモデルチェンジを繰り返してきた。特に3年目は大規模なマイナーチェンジをするタイミングである。

 最初に掲載したグラフでも,ゲーム機販売のトレンドが変わったのはマイナーチェンジのタイミングである。PS5も現状の日本におけるユーザーに見放されたように見えるほどの販売不振は,これで挽回できるかもしれない。 東洋証券が考える日本市場におけるPS5の回復は,信頼回復を目指す施策を実施することにほかならない。

 SIEの幹部は,軽視していると言われて悲しむのではなく,実効性のある施策でユーザーへの信用を回復することが必要だろう。悲しんでもユーザーは喜ばないのである。
 そして,ゲーム機が売れる理由としては,デザインとスタイルが重要である(度々指摘しているが)。テレビにつなげるというスタイルはもはや変えようがないし,アメリカの SIEでは理解が難しいと思うのでこれ以上は述べない。本社がアメリカにある限り,筆者の微妙な言い回しは,おそらく理解してもらえないだろう。

 だが,デザインは修正できるはずだ。特にゲーム機らしいデザインは,「横長かつ板状のもの」であるという。PS2,PS4,任天堂 Switch などこれは異論が少ないだろう。 IT 機器は薄くそして,平たいものが好まれるようである。

 加えて,携帯機では狭額縁(ベゼルレス)と据え置きのコントローラで,標準化されたグリップ付きにすることはだめなようである。 Switchの次世代機がどうなるかは分からないが,携帯機能を乗せるならこの部分には注意が必要である。デザインは繊細で微妙なので,扱いが難しいところがある。それだけに PS5のマイナーチェンジは,よく考えていただきたいものである。PS5はこのチャンスを逃すと,挽回は相当難しいことになる。2023年はソニーグループにとっても,とても重要なものになるだろう。

 また筆者が指摘してきた通り,供給が増えたことでPS5の転売価格は下落した。この点は来月詳しく触れる予定だが,メディアでいろいろ騒がれたメルカリへの要請や,転売対策はあまり意味がない。結局は筆者の主張通り数多く作ることである。ぜひPS6ではSIEがショックを受けたり,悲しんだりすることがないようにしてほしいものである。

 最後に,任天堂である。良好に見える Switch だが,生産性の面では課題が残った。部品の調達難はともかく,発売から6年間で日本の店頭にあったのは,全期間を通してみると計1年強といった印象である。つまり,大部分の期間は日本の店頭にSwitchはなかったということだ。こうなった要因は,調達難もそうだが,ゲーム機市場が成長していることを把握できなかったことにある。

 そもそも人間は先入観が強いので,10 年以上市場の成長を認識していないと,その状況がまだまだ続くと思ってしまいがちである。 そして,Wii U は失敗であった。その結果,慎重になりすぎて,需要を低く読み間違えたといっていいだろう。
古川社長は,ユーザーが視覚情報で購買を決定していることをすでに理解していると思う。そうなると次は,売れる商品には大量の供給力が必要で,それは 年4000万台クラスになってきているということである。 たくさん作れないものは普及しないのはPS5で明らかである。ぜひ他社の失敗を反面教師にしてもらいたいと思う。

 次世代Switchのデザインに関しては,平凡なデザインで良いと考える。iPhoneは毎年新味がないと言われているが日本ではずっと売れている。メディアは革新性を求めるがユーザーは変化を好まないからである。

 2023年は,次世代機に向けた動きが任天堂内部で静かに進む年だと思うので,デザインと生産性に注力してもらいたい。任天堂にとっても水面下で重要な年になるだろう。