Tencent Cloud Day 2023レポート:メタバース作成を容易にする新サービスと活用事例
Tencent Cloudが毎年開催している技術カンファレンス「Tencent Cloud Day 2023」が2022年12月15日に都内,ベルサール六本木で開催された。近年は新型コロナの影響でオンラインイベントとなっていたのだが,今年はオンラインとオフラインの複合イベントとして開催された。ここではイベントで行われた講演の中から,近年話題になることも多いメタバース関連のテーマをまとめたトラック3「Web3.0・メタバースクラウドテック最前線」のセッションをいくつかまとめて紹介してみたい。
このサイトでも何度か紹介したことのあるTencent Cloudだが,名前から分かるように世界最大のゲーム企業群を抱える中国Tencentの関連会社である。
Tencent自体は元々メッセンジャーを主軸とした会社であり,中国という途轍もない人口を抱えた国で,コミュニティを対象としたサービス展開といったソフト面とともに膨大なトラフィックを捌くハード的な技術に秀でている。Wechatの浸透具合は日本では想像もできないほどで,確かな「社会基盤」として中国社会を支えている。
グローバルなゲーム展開についても有名だろう。世界各国の有力ゲームスタジオを傘下にしているほか,同社の「王者栄耀」は現在世界最大の売り上げやユーザー数を抱えるゲームとしてトップに君臨している。
そんな同社グループでクラウドによるネットワークインフラを支えているのがTencent Cloudだ。こちらはゲームをはじめとしたさまざまな用途で使われるものではあるが,このトラックの冒頭で戦略発表にオンライン登壇したBluefin 趙氏によると,とくにライブストリーミングなどの動画配信などを得意としているという。中国国内での動画系コンテンツに占めるシェアは実に9割だそうで,世界一タフそうな市場で培われた体力・技術力は確かなものだ(バックボーンは200Tbpsという)。
ゲーム業界で知られたクラウドの巨人(AWS,GCP,Azure)と比べると日本での知名度は低いのだが,それでも3桁成長というハイペースで国内展開を進めているという。
同社としてはメタバースやWeb 3.0の技術が今後社会に大きな影響をもたらすものと捉えており,産業の新しい方向性を示すものとなると趙氏は表現していた。
そんな同社について,国内でメタバース関連の事業を行う2社によるセッションを順に紹介してみよう。
VRアバターを用いた配信環境などで知られるバーチャルキャストからは取締役CTOの岩城進之介氏がオンライン登壇した。本来は会場で登壇する予定だったのだそうだが,急遽オンライン登壇となった。
同社は2018年にVRアバターを標準化するVRMという統一規格を発表しており,実際に多くのアプリがVRMに対応している。
これは,今後現れるであろうさまざまなメタバースで横断的に利用できるアバターを実現する仕組みであるという。ゲーム業界的には,任天堂のMiiでMiiアバターを使って多くのゲームができるみたいな展開のメタバース版だと思えば分かりやすいだろうか。メタバース空間上ではアイデンティティが必要であるという仮説に基づいている。
岩城氏は,映画などでのメタバースは1つの巨大な(ほぼ唯一の)ものとして描かれることが多いのだが,Webなどの展開から考えると,小規模なものが乱立していくだろうという予測について語っていた。そういった多くのメタバースでは,アバターは第2の身体として個人の人格を表すものになるという。メタバースが違ってもパッと見て知り合いが分かればコミュニケーションを取りやすいのは確かだろう。
ただ,そういったアイデンティティの確保といった目的以外でもVRMは有用だ。フォーマットが共通化されることで,多くのアバターやツールが提供され,VRコミュニティを一層にぎやかなものにすることにも一役買っている。
また,VRMはキャラクターだけではなくアイテムなどにも利用され,アイテムごとに相互作用を定義することでさまざまな用途に使えるものとなるという。提示されていた例だと,バーベキューセットに対して肉というアイテム(それぞれ別々のアイテム)があったときに,バーベキューセットでの焼くというアクションに対して,肉のほうは湯気(煙?)が出て焼きあがっていくアクションが続いていくとった感じだ。これが肉ではなく,サンマでも網の上に置けば同様に加熱調理されていく。
このような相互作用のあるアイテム群をユーザーが持ち込むことで,遊びの空間をクリエイティブに作り出すことができる。最初からバーチャル空間を作って提供するといった多くのメタバースとは違った発想のシステムである。
また,VRMではアバター作成者の意思をデータとして反映し,使用範囲(商用やアダルト,暴力表現など)を制限する仕組みも備わっている。版権キャラを商用化する際などには極めて有効な仕組みとなるだろう。
さて,そんなバーチャルキャストであるが,現在Tencent Cloudを利用しているわけではない。現在は評価中であるとのことだ。AWSとGCPでサービスを行っている同社の評価では,AWSにあるようなサービスはたいてい揃っている(ただし名前が違うので見つけるのに少し手間がかかる)という。また,非常に高機能なサービスが提供されており,それだけでアプリが完成してしまうようなものもあるという。
また,こういったサービスではインフラコストは非常に重要であり,そういった面でもTencent Cloudを評価していた。
では,岩城氏が挙げていたTencent Cloudの便利な機能というのを見ていこう。
GME(Game Multimedia Engine)は,ボイスチャット用の多機能なエンジンで,テキストの読み上げや音声の書き起こし,翻訳,ボイスチェンジャー機能などをサポートした高機能なものとなっている。メタバースで利用できる3D情報にも対応しているので,メタバース内でのボイスチャットについてはこれだけで足るのではないかと思わせるものとなっている。
TRTCもボイスチャット用のものだが,こちらの機能はシンプルで大規模配信に向いたものとなっている。講演会で何万人に対して音声を届けたり,ステージ上の数人のトークを多数に配信することに向いたサービスだ。
どちらも共通して音声データ以外にカスタムデータを送信できることも特徴となっている。これは3D座標や動きのデータなどの付加情報を音声と並行して送信できるというもので,音声が届いてからでは間に合わないリップシンク用のモーションや表情データを同時に送るといった利用法があるものだ。1秒間に30個,1KB単位と,制限はあるものの,チャットツールの範囲だけでちょっとしたことに使えると岩城氏は評価していた。
そのほか,カラオケ用の機能や美顔処理など,すでにほかのサービスで実用化されているような機能が盛り込まれていたりなど,ちゃんと使いものになるものが組み込まれているあたりの実用性の高さもポイントなようだ。
ただし,高機能すぎるので,一度使うと他社への乗り換えは困難になることや,マニュアルの一部に中国語が残っているあたりは懸念点として挙げられていた。中国語部分については,漢字なのでだいたい意味が分かったり,サポートに聞いて解決していたりするので,大きな問題にはなっていないとのことだった。
続いて,monoAIからXR CLOUD事業本部営業企画部副部長の小林靖司氏が登壇し,同社のXR CLOUDサービスへのTencent Cloudの活用事例について紹介していた。
monoAIというと,以前はモノビットという社名でネットワークを中心としたゲームサーバーやミドルウェアを展開していた会社だ。同社の大規模接続サーバー技術などはそのままに,現在ではXR関連のビジネスが大半になってきているという。
XR CLOUDというのは,大量のVRアバターが集まれるコミュニティ空間を提供する同社のサービスである。同様な機能のVRイベント用ツールは過去にもいくつかあったのだが,それらが数百人規模を対象としているのに対して,数万人を1つの空間に集めても大丈夫といったあたりがウリのシステムとなっている。ビジネス利用を志向した大規模サービスなのだと小林氏は語っていた。
実績のあるゲームエンジン由来なシステムなので,性能的な部分では問題はなく,企業案件なども請け負っていたそうなのだが,その由来ゆえにPCやスマホで使う際には専用アプリをインストールする必要がある。そこが1つのネックになっていたようだ。
スマホアプリではアプリの申請や承認に時間がかかり,迅速な展開はできない。また企業用では,セキュリティ的な問題から社内のPCに特殊なアプリをインストールすることができない会社が多数を占めており,視聴者数を伸ばすことが難しいのだという。
そこで同社が利用したのがTencent Cloudが提供するブラウザ版だったという。明言はされていなかったが,クラウド上でレンダリングされた映像をブラウザで表示するタイプのクラウドゲーム式のソリューションだと思われる。
特別な準備は必要なく,スマホだけで利用できれば利用はぐっと手軽になる。こういったブラウザ式の展開により,利用者数は10倍以上に伸びたのだそうだ。
スマホからの入力を受け取りつつクラウド上でレンダリングして映像配信するようなソリューションは,単独の会社が開発するとなると膨大なインフラコストがかかるものだが,そこは莫大なリソースを有するクラウド企業に任せるのが賢明だ。とはいえ普通のクラウド企業ではそれも簡単ではないかもしれないが(もしくは高価過ぎる),Tencent Cloudはゲームに近い母体を持っており,クラウドゲーム用のGPUサーバーなどのソリューションも用意されているので話は早い。
中国企業となると個人情報などをどこに保管するのかなどが問題にされる可能性が出てくるのだが,そういったものは国内のデータセンターだけを利用するような指定は可能であるそうだ。
続いて,Tencent Cloud Japan Head of Solutionアーキテクトを務める付昂氏からメタバース関連の新サービスについての講演が行われた。発表されたのは,メタバースなどで使用できるアバターを作るためのシステムだ。
メタバースでは,ユーザーが自由にアバターを作成できるようにするというだけでもそれなりに大変だ。
実際,多くの場合は作成済みのものから選択したり,あらかじめ作っておいたものをインポートするというものとなっている。オンラインゲームではスライダーなどをいじってユーザーが自由にアバターをカスタマイズできるといったものが結構あるのだが,少し複雑すぎて万人向けではない。メタバース側が提供するアバター作成機能としては,パーツ選択式か多少の調整の範囲に留めておくのが無難だろう。Facebookのアバターなどもその例だ。
Tencent Cloudが提供するものもそういった部類である。新たにメタバースを構築しようという場合には,かなり手間が省けることになる。パーツ選択などで自由にエディットしてアバターを作成するほかに,写真から自動的にアバターを生成する機能も用意されているので,自分の顔に似せたい場合にはさらに手軽に作成が可能だ。
また,用意されるパーツによってアバターの雰囲気はかなり変えることもできるようだ。サンプルを見る限り,カートゥーン的なものから等身の高いリアルなモノまで,メタバースの種類に合わせて設定できるようだ。
こうして作成したアバターは,音声,表情,ジェスチャーによって駆動できる。アバターを通してボイスチャットを行う場合には,音声に従ったリップシンクが行われ,スマホのカメラにより,表情も反映される。顔面上の256個の特徴点をリアルタイムに検出しており,フェイシャルトラッキングでアバターに表情を付けることができるのだ。
また,全身が写るようにカメラを設定した場合には,フルボディトラッキングにより,自分の動いたとおりにアバターの3Dモデルを動かすことも可能である。その場合,同時に顔の表情も取れるのかと再三確認してみたのだが,いまひとつよく分からない。顔と体のデータを同時に扱えるようになったという記述はあるのだが,24個の関節点の動きを取るとなっているので表情までは取ってくれないぽい感じか。まあ,スマホ1つでVtuberとまではいかないものの,モーションキャプチャがスマホ1台でできるだけでもいろいろ面白いことはできそうだ。
アバターだけでなく,バーチャルワールド開発キットも提供される。ユーザーが提供されたテンプレートやアセットを組み合わせて自由に空間を構築できるのだ。クラウドレンダリングによって,普通のスマホだけでも美麗なワールドを作成することが可能だ。
なお,メタバ―ス関連でつきものとなっている,Web 3.0要素,つまりブロックチェーンを使ったトークンの処理などに関するTencent Cloud自体からのセッションはなかった。メタバースに注力するとはいっても,その手のサービスは提供しているわけではないようだ。別途セッションによってBware Labsによるブロックチェーンインフラが紹介されるなど,そのあたりは外部サービスに依存するのだろう。
もっともブロックチェーンによるトークンエコノミーを含まずとも,アバターコミュニティ要素だけでもメタバースの大半を構築することはできるだろう。多くのオンラインゲームなどはそういったものに依存せずに存在しているのだから。トークンの永続性に価値を見出すかどうか。Web 3.0を巡る怪しくもややこしい問題は,有力なWeb 3.0型のメタバースが普及する段階になって改めて議論されるのだろう。果たして新しい社会のあり方を構築するのか,ただの幻想で終わるのか,もうしばらく展開に注視したい。
このサイトでも何度か紹介したことのあるTencent Cloudだが,名前から分かるように世界最大のゲーム企業群を抱える中国Tencentの関連会社である。
Tencent自体は元々メッセンジャーを主軸とした会社であり,中国という途轍もない人口を抱えた国で,コミュニティを対象としたサービス展開といったソフト面とともに膨大なトラフィックを捌くハード的な技術に秀でている。Wechatの浸透具合は日本では想像もできないほどで,確かな「社会基盤」として中国社会を支えている。
グローバルなゲーム展開についても有名だろう。世界各国の有力ゲームスタジオを傘下にしているほか,同社の「王者栄耀」は現在世界最大の売り上げやユーザー数を抱えるゲームとしてトップに君臨している。
ゲーム業界で知られたクラウドの巨人(AWS,GCP,Azure)と比べると日本での知名度は低いのだが,それでも3桁成長というハイペースで国内展開を進めているという。
同社としてはメタバースやWeb 3.0の技術が今後社会に大きな影響をもたらすものと捉えており,産業の新しい方向性を示すものとなると趙氏は表現していた。
そんな同社について,国内でメタバース関連の事業を行う2社によるセッションを順に紹介してみよう。
VRアバターの標準化を目指すバーチャルキャスト
VRアバターを用いた配信環境などで知られるバーチャルキャストからは取締役CTOの岩城進之介氏がオンライン登壇した。本来は会場で登壇する予定だったのだそうだが,急遽オンライン登壇となった。
同社は2018年にVRアバターを標準化するVRMという統一規格を発表しており,実際に多くのアプリがVRMに対応している。
これは,今後現れるであろうさまざまなメタバースで横断的に利用できるアバターを実現する仕組みであるという。ゲーム業界的には,任天堂のMiiでMiiアバターを使って多くのゲームができるみたいな展開のメタバース版だと思えば分かりやすいだろうか。メタバース空間上ではアイデンティティが必要であるという仮説に基づいている。
岩城氏は,映画などでのメタバースは1つの巨大な(ほぼ唯一の)ものとして描かれることが多いのだが,Webなどの展開から考えると,小規模なものが乱立していくだろうという予測について語っていた。そういった多くのメタバースでは,アバターは第2の身体として個人の人格を表すものになるという。メタバースが違ってもパッと見て知り合いが分かればコミュニケーションを取りやすいのは確かだろう。
ただ,そういったアイデンティティの確保といった目的以外でもVRMは有用だ。フォーマットが共通化されることで,多くのアバターやツールが提供され,VRコミュニティを一層にぎやかなものにすることにも一役買っている。
また,VRMはキャラクターだけではなくアイテムなどにも利用され,アイテムごとに相互作用を定義することでさまざまな用途に使えるものとなるという。提示されていた例だと,バーベキューセットに対して肉というアイテム(それぞれ別々のアイテム)があったときに,バーベキューセットでの焼くというアクションに対して,肉のほうは湯気(煙?)が出て焼きあがっていくアクションが続いていくとった感じだ。これが肉ではなく,サンマでも網の上に置けば同様に加熱調理されていく。
このような相互作用のあるアイテム群をユーザーが持ち込むことで,遊びの空間をクリエイティブに作り出すことができる。最初からバーチャル空間を作って提供するといった多くのメタバースとは違った発想のシステムである。
また,VRMではアバター作成者の意思をデータとして反映し,使用範囲(商用やアダルト,暴力表現など)を制限する仕組みも備わっている。版権キャラを商用化する際などには極めて有効な仕組みとなるだろう。
さて,そんなバーチャルキャストであるが,現在Tencent Cloudを利用しているわけではない。現在は評価中であるとのことだ。AWSとGCPでサービスを行っている同社の評価では,AWSにあるようなサービスはたいてい揃っている(ただし名前が違うので見つけるのに少し手間がかかる)という。また,非常に高機能なサービスが提供されており,それだけでアプリが完成してしまうようなものもあるという。
また,こういったサービスではインフラコストは非常に重要であり,そういった面でもTencent Cloudを評価していた。
では,岩城氏が挙げていたTencent Cloudの便利な機能というのを見ていこう。
TRTCもボイスチャット用のものだが,こちらの機能はシンプルで大規模配信に向いたものとなっている。講演会で何万人に対して音声を届けたり,ステージ上の数人のトークを多数に配信することに向いたサービスだ。
どちらも共通して音声データ以外にカスタムデータを送信できることも特徴となっている。これは3D座標や動きのデータなどの付加情報を音声と並行して送信できるというもので,音声が届いてからでは間に合わないリップシンク用のモーションや表情データを同時に送るといった利用法があるものだ。1秒間に30個,1KB単位と,制限はあるものの,チャットツールの範囲だけでちょっとしたことに使えると岩城氏は評価していた。
そのほか,カラオケ用の機能や美顔処理など,すでにほかのサービスで実用化されているような機能が盛り込まれていたりなど,ちゃんと使いものになるものが組み込まれているあたりの実用性の高さもポイントなようだ。
ただし,高機能すぎるので,一度使うと他社への乗り換えは困難になることや,マニュアルの一部に中国語が残っているあたりは懸念点として挙げられていた。中国語部分については,漢字なのでだいたい意味が分かったり,サポートに聞いて解決していたりするので,大きな問題にはなっていないとのことだった。
Tencent Cloudでブラウザサポート
monoAIというと,以前はモノビットという社名でネットワークを中心としたゲームサーバーやミドルウェアを展開していた会社だ。同社の大規模接続サーバー技術などはそのままに,現在ではXR関連のビジネスが大半になってきているという。
XR CLOUDというのは,大量のVRアバターが集まれるコミュニティ空間を提供する同社のサービスである。同様な機能のVRイベント用ツールは過去にもいくつかあったのだが,それらが数百人規模を対象としているのに対して,数万人を1つの空間に集めても大丈夫といったあたりがウリのシステムとなっている。ビジネス利用を志向した大規模サービスなのだと小林氏は語っていた。
実績のあるゲームエンジン由来なシステムなので,性能的な部分では問題はなく,企業案件なども請け負っていたそうなのだが,その由来ゆえにPCやスマホで使う際には専用アプリをインストールする必要がある。そこが1つのネックになっていたようだ。
スマホアプリではアプリの申請や承認に時間がかかり,迅速な展開はできない。また企業用では,セキュリティ的な問題から社内のPCに特殊なアプリをインストールすることができない会社が多数を占めており,視聴者数を伸ばすことが難しいのだという。
そこで同社が利用したのがTencent Cloudが提供するブラウザ版だったという。明言はされていなかったが,クラウド上でレンダリングされた映像をブラウザで表示するタイプのクラウドゲーム式のソリューションだと思われる。
特別な準備は必要なく,スマホだけで利用できれば利用はぐっと手軽になる。こういったブラウザ式の展開により,利用者数は10倍以上に伸びたのだそうだ。
中国企業となると個人情報などをどこに保管するのかなどが問題にされる可能性が出てくるのだが,そういったものは国内のデータセンターだけを利用するような指定は可能であるそうだ。
Tencent Cloudの新サービス
続いて,Tencent Cloud Japan Head of Solutionアーキテクトを務める付昂氏からメタバース関連の新サービスについての講演が行われた。発表されたのは,メタバースなどで使用できるアバターを作るためのシステムだ。
メタバースでは,ユーザーが自由にアバターを作成できるようにするというだけでもそれなりに大変だ。
実際,多くの場合は作成済みのものから選択したり,あらかじめ作っておいたものをインポートするというものとなっている。オンラインゲームではスライダーなどをいじってユーザーが自由にアバターをカスタマイズできるといったものが結構あるのだが,少し複雑すぎて万人向けではない。メタバース側が提供するアバター作成機能としては,パーツ選択式か多少の調整の範囲に留めておくのが無難だろう。Facebookのアバターなどもその例だ。
Tencent Cloudが提供するものもそういった部類である。新たにメタバースを構築しようという場合には,かなり手間が省けることになる。パーツ選択などで自由にエディットしてアバターを作成するほかに,写真から自動的にアバターを生成する機能も用意されているので,自分の顔に似せたい場合にはさらに手軽に作成が可能だ。
また,用意されるパーツによってアバターの雰囲気はかなり変えることもできるようだ。サンプルを見る限り,カートゥーン的なものから等身の高いリアルなモノまで,メタバースの種類に合わせて設定できるようだ。
こうして作成したアバターは,音声,表情,ジェスチャーによって駆動できる。アバターを通してボイスチャットを行う場合には,音声に従ったリップシンクが行われ,スマホのカメラにより,表情も反映される。顔面上の256個の特徴点をリアルタイムに検出しており,フェイシャルトラッキングでアバターに表情を付けることができるのだ。
また,全身が写るようにカメラを設定した場合には,フルボディトラッキングにより,自分の動いたとおりにアバターの3Dモデルを動かすことも可能である。その場合,同時に顔の表情も取れるのかと再三確認してみたのだが,いまひとつよく分からない。顔と体のデータを同時に扱えるようになったという記述はあるのだが,24個の関節点の動きを取るとなっているので表情までは取ってくれないぽい感じか。まあ,スマホ1つでVtuberとまではいかないものの,モーションキャプチャがスマホ1台でできるだけでもいろいろ面白いことはできそうだ。
アバターだけでなく,バーチャルワールド開発キットも提供される。ユーザーが提供されたテンプレートやアセットを組み合わせて自由に空間を構築できるのだ。クラウドレンダリングによって,普通のスマホだけでも美麗なワールドを作成することが可能だ。
もっともブロックチェーンによるトークンエコノミーを含まずとも,アバターコミュニティ要素だけでもメタバースの大半を構築することはできるだろう。多くのオンラインゲームなどはそういったものに依存せずに存在しているのだから。トークンの永続性に価値を見出すかどうか。Web 3.0を巡る怪しくもややこしい問題は,有力なWeb 3.0型のメタバースが普及する段階になって改めて議論されるのだろう。果たして新しい社会のあり方を構築するのか,ただの幻想で終わるのか,もうしばらく展開に注視したい。