【月間総括】不調が鮮明になってきたソニーグループのゲーム事業

 今月はソニーグループと任天堂の決算の話をするが,日本市場を「アニメをもとにしたゲームが主流の市場」とSIEが定義し続けると後悔するだろう,ということにも触れたい。

 最初は第2四半期の決算だが,実績はソニーと任天堂で明暗が分かれた。
 ソニーグループの決算は,ゲームの不調が鮮明になってきたと考えている。一般的にこれは不思議な話である。PS5は発売されて約2年が経過したところだが,先月も指摘したように普通であれば伸びてくるタイミングだからだ。


 PS5の販売台数も330万台と前年同期比では伸びてはいないが,生産台数が650万台になったとの報告があり,台数は増えてきている(上図の累計台数参照)。
 しかし,KPI(重要経営指標)は悪化しているのである。先月も,ソニーグループのKPIを掲示したが,第2四半期のソフト販売(PS4とPS5の合算)は6250万本と前期比で1390万本も減少している。しかも,コロナ禍前の2019年度2Qよりも減っているのである。ソニーグループは繰り返し,コロナ禍からのリスタートによる影響と述べているのだが,コロナ禍前の水準を2四半期連続で下回っていることを考えると,それだけとはちょっと思えないのである。


 ソニーの落ち込みがリスタートだけと思えない理由は,任天堂の決算にある。任天堂の第2四半期は,増収増益だった。ただ,これには為替の影響が多分に含まれているので,販売数量で比較するほうが適切だろう。

 第2四半期(3か月)のSwitch販売台数は,同9%減の325万台とPS5に比べて減少した。夏場の半導体不足で7月と8月は生産がかなり落ち込んだ影響としている。PS5が夏場に一定量作れたことを考えると,厳しい結果だったが詳細は後述する。

 一方,ソフトは同7%増の5248万本と増えているのである。ソニーがいう「コロナ禍のリスタート」でゲームプレイ時間が減少し,ソフトが厳選して買われている状況に,コンシューマゲーム市場が陥っているのであれば「よりライトユーザーが多いとされる」任天堂の販売本数は,落ち込んでいないとおかしいはずである。

 任天堂のゲームソフト販売本数にはダウンロード専用タイトルの本数はカウントされないため,「モンスターハンターライズ」のDLC「サンブレイク」は入っていないことも考えると,コロナ禍のリスタートに原因を求めるのは,いかにも無理があると思う。

 また,これまでジム・ライアン氏が好調を盛んに喧伝したアドオンも,前年同期比ほぼ横ばいの1883億円にとどまった。

 ソニーグループに対するヒアリングでも回答があったが,この第2四半期は円安が進行したので実質的には販売が大幅に落ち込んでいるのである。ジム・ライアン氏が声高に5月の事業説明会でアドオンの成長を誇っていたが,そのタイミングではすでに退潮に入っていたことになる。

 かつてのPCオンラインゲームやスマートフォンゲームもそうだったように,徐々にオンラインゲームのアクティブユーザーは減少し,課金額も落ち込んでいく。
 ストレージからは各々の思い入れが詰まったゲームを消去しにくいため,遊ばれなくなったゲームがストレージに沈殿していくのである。
 

 また,リニューアルしたPlayStation Plusも会員数は減少して,うまくいっているように見えない。前回の決算説明会でもこのリニューアルの重要性を指摘していたのに,いざこの結果になるとコメントしないとは個人的には苦言を呈したいところである。

 そもそもPS Plusのようなサービスは,ゲーム機ビジネスの成否とはあまり因果関係がない。それでいてストレージ容量の消費が激しい。戦略性のあるビジネスには見えないのである。

 「経営とはヒトモノカネを因果関係の成立する分野にどう配分するか?」であると東洋証券では考えている。因果関係の乏しいものに大事なリソースを投入するのは資本の無駄遣いである。その観点からすると,PS5は迷信を信じすぎたハードであるといっていいだろう。互換性も高性能も最終的な収益に結びついていないのである。AAAタイトルは確かに収益には貢献しているが,それはハードウェアが普及した結果ともいえるし,あれほどの大失敗に終わったWii Uでも,スプラトゥーンはヒットしていた。

 限りある経営資源を何に振りわけるかは重要な課題である。任天堂もソニーグループも,この点ではまだ問題に対応すべき課題は大きいように思う。

 なんにせよ。ここままではCall of DutyやGod of Warのようなゲームだけが売れて、全体でみると3Qも前年同期を下回る状況になると予測している。結果,ソニーグループは現地通貨ベースでの不振が続いてしまうだろう。それほど物理的な限界はビジネスに対する影響が大きいと東洋証券では考えている。対応策はPS5のマイナーチェンジ時にSSDの容量を大幅に増やすことであろう。

 そして,任天堂の決算である。すでに,数字は述べた通り増収増益だったが,今回の決算説明会では,スプラトゥーン3が日本での販売比率が高いことが問題視されていた。
 これはポケモンの最新作も同様で,11月24日早朝に任天堂と株式会社ポケモンから「ポケットモンスター スカーレット・バイオレット」の販売が3日間で1000万本の販売本数(セルスルー)になったと発表があった。このうち,日本が405万本としているので,シェアが40%に達していることになる。

 日本のシェアが高いイコール世界では売れていないという論法に陥っているとも言える。東洋証券では日本のマーケットの潜在性を高く評価しているし,先行性があると考えているのだが,日本の世界に占めるGDPが10%程度になっているので,これより高いとバランスが悪いと思われてしまうのである。

 実際にはスマートフォンゲームでもそうなのだが,日本の市場は先行して幅広い年齢層に普及した影響もあって,欧州よりも年齢層が広い市場である。
 GDP比で見られるのは個人的にはあまり適切ではないと思う。むしろ,ゲーム市場が拡大していることを示す先行指標ではないかと考えている。
 この見方が適切かどうかは,任天堂の次世代機がゲーム機らしいデザイン・スタイル,そして十分なストレージ容量を持っていれば,確認できるだろう。

 次にハードである。この夏のSwitch生産は非常に厳しかったようである。半導体の不足は,米国の利上げで急速に緩和しているが,夏場はまだ不足がひどく生産はほぼ止まっていたようだ。
 通常であれば船便で,夏場に生産した分を米国や欧州に1〜2カ月かけて運ぶのだが,今年はこれができない。昨年,欧州向けはシベリア鉄道を使ったが,今年はウクライナの戦争もあり,使えない。このため,飛行機で運んでいる。東洋証券では飛行機のひっ迫を危惧していたが,西鉄や近鉄GHDなどの国際貨物事業の決算説明会で足下はパソコン販売が落ち込んでいることもあり,輸送数量が鈍化した結果,余裕ある状況である。

 これで第3四半期(10-12月)全体では対応できそうであるが,日本は11月現在店頭にSwitchはほとんどない。この点について任天堂にヒアリングすると11月はブラックフライデーの影響が強い米国を優先しているという回答であった。日本の商戦期は12月なのでポケモンのタイミングで本体がないのはやむをえないという判断のようである。これは適切であろう。以前筆者は,SIEから「日本を軽視しない」というありがたいご連絡をいただいたときに,米国を優先していると認めたほうが良いと書いたことがある。この辺りは,任天堂のほうが実直に見えてしまう。

 年間のSwitchハードは生産難もあって販売計画を2100万台から1900万台に下方修正された。下方修正された水準でも,任天堂ハードとしては異例の水準なのである。
 東洋証券は現時点で来期はハードの減少を想定しているが,OLEDモデルの効果が続いているので来年年末商戦期までは好調が続くだろう。そのあとはモデルチェンジか,次世代機が必要になってくるのではないだろうか。

 最後に日本市場の潜在性について述べたい。2022年11月の国内市場は,任天堂が非常に強い。PS5のタイトルもヒットチャートにでてくるのであるが,トップの任天堂・ポケモンタイトルの数字が文字通り桁違いなので,PlayStationのシェアは大幅に落ち込んでいる。とくにファミ通のランキングを見てもこの上期はSwitchがヒットチャートを独占する動きがでた。PlayStation市場はもはや日本では存在感がほとんどないのである。

 2020年に,筆者はPlayStaionブランドが凋落すると予測した。2022年現在,その予測は的中したといって差し支えないと思う。SIEからは,日本を軽視しているとの指摘に,ショックを受けているとご連絡をいただいたが,現状の状況のほうがよほど衝撃的であろう。

 日本のマーケットはファミ通のデータではほとんど成長していないことになっているが,これはダウンロードタイトルが入っていないことに留意が必要である。インディーズなどのダウンロードタイトルを含めた市場は成長していると思われるが,明確なデータはない。ただ,スプラトゥーンやポケモンの勢いを見ると,SIEが望むフォトリアルのソフトが売れないからと切り捨てる姿勢は極めてもったいないように見える。

 ぜひともソニーグループには日本市場の位置づけを再定義してもらいたい。「アニメがもとになったゲームが売れる奇妙な市場」という定義していると,きっと後悔を生むだろう。