「第2回XR総合展【夏】」で,12K 360度カメラやバーチャル東京タワーなど,気になる展示をチェック
2022年6月29日,東京ビッグサイトで「第2回XR総合展【夏】」が開催された。ここでは,同イベントと併催されていたイベントの中からXR関連の話題をピックアップして紹介してみたい。
●truRes-12K
truRes-12KはHeartCoreの12K 360度カメラだ。360度映像を高解像度で撮影できる。魚眼レンズを使ったこの手のカメラの場合,撮像素子が一般的なカメラ用の横長のモノを使うと,実際の画像は中央に投影された円形部分に集約されてしまうため,実際には縦解像度(4Kなら2160ドット)分の解像度しかない。したがって,4Kカメラを2台使っても実質2K×2の映像しか撮れない(8K360度カメラとして売られているものは,たいてい正方形映像素子を使っていると思うが)。
同社のtruRes-12Kは,7680×7680ドットの映像素子2個を使って360度映像を撮影するため,実質16Kと言ってよい(業界的には16Kと呼ばれる)性能だが,同社的には有効ピクセル数換算をしているようで,あえて12Kと称している。
360度映像で16Kというのはかなりの精細度だ。最も普及しているVRヘッドセットであるMeta Quest 2が左右視野角90度ちょっとで1832ドットなので,表示画素1ピクセル当たり2ドットくらいの情報量となる。将来的な高解像度製品にも余裕をもって対応できるだろう(逆に言うと,現状では8Kで十分とも言えるの)。
●Meta Town
今回の展示会ではメタバースが1つの焦点になると思ったが,周辺技術(メタバース用のコンテンツ制作支援など)はあっても,メタバースをどういう風に使っていくのか,どういうコンテンツを出していくのかという提案は少なかった。ASATECのMeta Townはいわゆるメタバースそのものではないものの,リアル空間をXR的に使ったアプリの展開例としてMeta Townの採用事例をいくつか示していた。
最初の機能は景観シミュレーションである。まだ建築されていないビルが出来上がったらどう見えるのかなどがスマホを通して,実際の風景上に合成されるといったものになる。
すでに建築市場では導入されているようで,分譲地の現地に行けば,住宅メーカーが提示しているモデル住宅の間取りなどをスマホ越しに確認できるのだ。敷地内にどのように建てられるのかだけではなく,壁を突き抜ければ部屋の内部の様子も確認できる。間取りをそのまま歩いて体感できるのだ。間取り図だけではよく分からなかった実際の広さが分かるため,かなり好評だという。
2つめは,次世代音声ガイドというものだった。AR的に実際の風景内にキャラクターが表示されて,その場所でいろいろなガイドをしてくれるというものだ。道案内のようなことや,商品説明のような事例が紹介されていた。観光ガイドとして使えるといいかもしれない。
3つめは,実際の街や娯楽施設などを使ったXR的ゲームの展開だ。特定の場所に現れる扉を見つけてクイズを解き扉を開けると,次の目的地の風景が現れるのだそうだ。「リアルRPG」と名付けられていたが,RPGというよりはアドベンチャーゲームをリアル空間で行うものである。
4つめは,歴史的文化的な情報を現実風景に重ね合わせるというものだ。たとえば,城の石垣だけが残っている地域はけっこうあるが,そこに城などが合成されるとどうだろう? 街の歴史を示す遺構や文化的な解説を加えてはどうかという,主に自治体向けの提案といえそうだ。
5つめは災害時のシミュレーションでの活用例である。洪水時にはどこまで水がくるのかといったものを実際の風景内で確認できるという。
6つめは,実際の風景を使ったエンタテインメントでの活用として,博物館から逃げ出した恐竜を捕まえるXRゲームが紹介された。
7つめは,街全体が水槽になったかのように魚が空を飛ぶといった空間内を美術館化するような提案が行われていた。町全体でNFTアートの展示会を行うといった構想もあるそうだ。
なお,率直に言ってしまえば,これらには展示で謳われていたようなデジタルツイン要素はなく,メタバースでもないのだが,デジタルツイン的なメタバースが作られた場合に実装されるであろう機能のユースケースという意味では参考になるところがあるかもしれない。XR総合展としては,きわめてまっとうな展示ではあったが,流行りのバズワードに無理やり乗せてきた感は否めない。
●バーチャル東京タワー
東京タワーを管理しているのは,ズバリ株式会社TOKYO TOWERという会社なのだが,そこに許可を取って公式VRコンテンツとして開発を進めているという。風景の一環として東京タワーが出てくるコンテンツもないではないのだが,内部まで再現されているのはこれだけだ。
VR不動産のような展開も行っており,東京タワー前にVRのマンションを建築して,そこからの眺望を売るといったビジネスモデルとなる。
漠然とした仮想空間にいろいろコンテンツ入れてみましたとか,現実空間とリンクさせて将来的にいろいろできたらいいねみたいなものよりは,具体性があっていい。
また,同社では東京タワー以外に,各地のランドマークでも同様のVR化を進めているそうだ。世界中がデジタルツイン化されるまでにはまだしばらくかかりそうなので,世界中の名所に特化して楽しめるメタバースというのもアリではあろう。
●MK360
MK360は,1台で部屋中の壁に映像を投影できる広範囲プロジェクタだ。投影角は190度だそうで,ほぼほぼ部屋中を1台でまかなえる。解像度は4K,明るさは3400ANSIカンデラで,会場では5×5mの広さで投影が行われていた(天井だけちょっと低い)。通常,この手の複数スクリーンへの映像投影では複数のプロジェクタが使われるのだが,MK360では魚眼(?)レンズを使うことで1台で行っている。中心位置のキャリブレーションのほか,メッシュ状になった制御点を移動させて,部屋の要所要所に合わせることで,どんな形の部屋にでも適合させられるようになっている。180度映像や360度映像(の一部切り出し)をできるだけ正確に再現できる環境だ。
また,8K360度カメラPilot Oneを使用することで,リアルタイムの360度映像をMK360で再生することもできるという。ライブイベントのサテライト視聴などで有用かもしれない。
なお,価格は407万円くらい(※為替相場によって変動)とのことだった。
●ミライセンス
今回行われたデモは,手首に取り付けられたスマホと,指でつまむ振動子(ボタン付き),MRメガネによって構成されるもので,MRメガネで見えるスライムに対して,1) トリガーで撃つことでスライムの身体の表面を凍らせる(石化?)。2) 張り付けた氷に光を当てて,氷を破壊する。3) 氷を破壊したところにできる宝石に光を当てて,宝石を抜き出す。という3ステージに分かれている。それぞれ,スライムに弾が当たったときの感触,スライムや氷に対して光が当たったときの感触,宝石を抜き出すときの感触が指先にフィードバックされる。とくに宝石が抜けると,つまんだコントローラが手前側に軽く押されるような感覚が再現されている。
軽くゲーム仕立てになっていて,最大4人でプレイして得点を競う形式だ。体験としては,総合的な触感をアピールすることが中心で,力感の体験は少し弱めなのが残念だった。以前行っていたデモでは,ちょっと驚くくらい手が引っ張られる感触があったのだが。次はぜひ釣りゲーム仕立てにしてほしいところだ。
とはいえ,技術デモが進化して,スマホやMRメガネと組み合わせたソリューションとして登場してきた。商品化も近いのかもしれない。この技術は,現世代のゲーム機のコントローラならそのままで再現できるとのことなので,そちらのほうにも期待したい。
●網膜投影型小型レーザープロジェクタモジュール
コーデンシのブースで小さなレーザー式網膜投射モジュールを見かけたので,ウェアラブルEXPOで何度か展示されていた福井大学関係の製品かと思って聞いてみたのだが,独自開発のものとのことだった。すでに製品化目前の段階にあるという。
会場ではメガネ部に設置されたスクリーンに直接投影していたが,そのようなスクリーン投影型にも網膜照射型にも対応可能とのこと。見たところ普通のメガネ内に組み込むには若干大きめな感じだが,映像は鮮明だ。今後XR機器の普及に向けてこのようなモジュールを使ったデバイス開発も進んでいくのだろう。