なぜBungieは「Destiny 2」を独自運営するようになったのか

 「Halo」シリーズのヒットでトップメーカーの一つに躍り出たBungieは,2007年にMicrosoftの元を離れ,再度独立スタジオとなった。その後Activisionと契約し,「Destiny」「Destiny 2」を世に送り出すが,2019年にActivisionとの8年にわたるパブリッシング契約を解消し,「Destiny 2」の独自運営を行うようになる。日本では「Destiny 2」のPS4版のみ,ソニー・インタラクティブエンタテインメントが販売と広報活動を行っていたが,「Destiny 2」の拡張コンテンツ「光の超越」の配信にあわせるタイミングで,日本での広報活動も独自に行うようになり,今に至る。

 海外の会社が運営型のゲームを日本で展開するときには,日本に基盤を持つ会社と協力することが多く,事実,Bungieもソニー・インタラクティブエンタテインメントの協力を得ていたわけだが,ここにきて自社のみで展開するようになった狙いとはなんなのだろうか。そんな疑問にBungieのアジア太平洋地域マーケティングディレクターであるAmber Holmes氏(以下,Holmes氏)にメールインタビューという形で答えてもらった。


――なぜこのタイミングで,日本マーケットに注力していきたいと考えたのかを教えてください。

Amber Holmes氏
Holmes氏:
 何千万人というガーディアンからなる,素晴らしいグローバルコミュニティがある中で,2019年に「Destiny 2」のセルフパブリッシングを始めた際,私たちはアジア太平洋地域専門パブリッシングチームの強固な基盤を構築し,日本にもっと注力していきたいと考えました。もちろん時間はかかりますが,今ようやく私たちは日本に大きく注力できるようになりました。日本の「Destiny 2」コミュニティとの関係を築いていこうとしています。

――日本はほかの国と比べると「Destiny 2」のプレイヤーが少なく,SFというジャンルも人気があるとはいえません。そんなマーケットに注力しようと思ったのはなぜですか。

Holmes氏:
 日本には,毎週ゲームに膨大な時間を費やす他のヨーロッパ市場に匹敵する,とても強い結びつきを持った熱心な「Destiny 2」コミュニティがあります。彼らは「Destiny」世界の伝承や,広大なロケーション各地の探索,友人とのソーシャルプレイを楽しんでいます。
 「Destiny 2」がPlayStation 4,PlayStation 5,Xbox One,Xbox Series X,さらにSteamでも無料でプレイできるようになったことで,多くの日本のプレイヤーがこの素晴らしいコミュニティに新たに加わってくれることに期待したからです。私たちは,この熱狂的で情熱的なコミュニティの成長を見守り,サポートしていくことを心から楽しんでいます。


――日本市場のどのような部分にポテンシャルを感じましたか。

Holmes氏:
 私たちBungieは常々,日本のゲーム市場に「Destiny 2」にとっての大きな可能性を感じていました。「Destiny 2」はアクションMMOシューティングゲームでありながら,常に進化し続ける美しい没入型世界が大きな魅力でもあります。プレイヤーは現実を忘れ,オンライン上で仲間と一緒にワールドクラスのゲームプレイを楽しめます。「Destiny」における最高の体験のひとつは,仲間がいるからこそ成し遂げられた偉業達成の瞬間でしょう。私たちは,世界中のプレイヤーがつながる空間を提供できることを光栄に思っています。


――具体的にどのようなところに可能性を感じたのかを教えてください。

Holmes氏:
 日本のゲーマーやコミュニティの皆さんは,自分たちの遊ぶビデオゲーム,モバイルゲームに熱い情熱を抱いています。だからこそポテンシャルがあるのです。私たちの目標は,友情を育む世界を創り上げること,そして日本において力強く熱烈な,「Destiny 2」のローカルコミュニティを形成することにあります。皆さんには現実を忘れて没入できる「Destiny 2」の世界で,日常から離れ,多忙な仕事のスケジュールを忘れて,友達とリラックスした楽しい時間を過ごしてもらいたいです。
 「Destiny 2」の力強く熱烈なコミュニティを形成することで,そうしたプレイヤーが伝道者となり,新規プレイヤーの前向きな意識を形成し,また新規プレイヤーが「Destiny 2」の世界を旅するうえで助けになってくれることを期待しています。


なぜBungieは「Destiny 2」を独自運営するようになったのか

――2020年は,新型コロナウイルス感染症の拡大により特殊な年となりました。自宅にいることが推奨されるなか,「Destiny 2」のプレイヤーに変化はありましたか。

Holmes氏:
 今は正確な詳細を共有することはできませんが,プレイヤーの方々が,ゲーム内外で世界中とのつながりを持ち続けるための手段として「Destiny 2」を利用していることは間違いありません。ご存知のように,私たちのスタジオが掲げるミッションのひとつは,新たな友情のきっかけとなるようなエンターテイメント体験を構築することです。私たちは,何かを楽しむ時,仲間と一緒にやるともっと楽しくなるものだと信じています。「Destiny 2」は,希望に満ちた世界になることを目指して構築されました。このゲームには,仲間との協力を促すようなコンテンツがたくさんあります。


――プレイヤーの「Destiny 2」に対するパーセプション/マインドの変化はいかがでしょうか。

Holmes氏:
 非常に喜ばしいことに,「Destiny」コミュニティは世界的に見ても最もフレンドリーで親切で,サポート精神が強いです。このパンデミックの中,現状に怯えている人々,離れ離れになることを余儀なくされた人々,あるいは誰かとのつながりを求める人々など,多くの人にとって「Destiny 2」は命綱のような存在になっていました。
 私たちBungieは,情熱的で多様性に富んだプレイヤーコミュニティをきっかけとして,生涯続く友情や一生の思い出が生まれるような世界を創造することを目指しています。従業員の安全と世界中の人々とつながりを守りながら,新型コロナウイルスの蔓延抑制に貢献できるということこそが,私たちのチームの日々の活力になっています。私たちのグローバルコミュニティは,仲間のガーディアンや病院で病気と闘っている子供たちを支援するための慈善活動にいつも積極的に参加してくれることからも分かるように,本当に温かく,素晴らしいコミュニティです。これまでにコミュニティから寄せられた募金額は,850万ドルを超えています。

なぜBungieは「Destiny 2」を独自運営するようになったのか

――では,今後の日本における「Destiny 2」のマーケティング戦略についておうかがいします。どのように日本マーケットで普及させていきたいと考えていますか。

Holmes氏:
 美しいロケーションや興味深い伝承,そしてソロでもチームでも楽しめる戦闘メカニズムに富んだ「Destiny 2」という広大な生きた世界の魅力を,日本のコミュニティにしっかりとアピールしていきます。
 「Destiny 2」をプレイしてくれている日本のプレイヤーに改めて感謝すると同時に,日本のゲームコミュニティに向けて,無料でプレイできるようになった今が,「Destiny 2」を始めるには絶好のタイミングだということも強調してお伝えしたいですね。特に,拡張コンテンツ「Destiny 2: 光の超越」がリリースされた11月11日には,より良くなった新規プレイヤー向けチュートリアルを体験してもらえるようになっています。

――「Destiny 2」は,Activisionとの協業でしたが,独自運営に踏み切った理由を教えてください。

Holmes氏:
 私たちがActivisionとのパートナーシップを開始した2010年当時,ゲーム業界を取り巻く環境は今とは異なっていました。まったく新しいゲーム体験の構築を目指す独立スタジオである私たちは,その可能性を信じ,勇気ある決断をともにしてくれるパートナーを求めていました。
 「Destiny」には私たちの信じるビジョンがありました。しかし,そこまでの規模のゲームをリリースするには,定評あるパブリッシャのサポートが必要だったのです。その後2019年には,「Destiny」コミュニティからの応援もあり,「Destiny 2」のパブリッシングは自分たちの手で行っていけると判断しました。
 自社パブリッシングへと切り換えたことにより,「Destiny 2」の本質的価値やビジョンに焦点を合わせるとともに,ゲーム内の新要素全般に関する意思決定や世界中のマーケティング戦略の策定をさらにスピーディーに行えるようになりました。そして,ローカルコンテンツを用いて各地域のプレイヤーにアピールしていくという私たちの手法を,より柔軟に展開していけると考えています。


――海外の会社がオンラインゲームを日本で運営するときは,日本の会社と協力することが多いですが,なぜBungieは単独でやることを選択したのでしょうか。

Holmes氏:
 私たちには,多くの「世界」を同時に持続させる有力な独立マルチフランチャイズ・エンターテイメント企業となるという長期的ビジョンがあり,現段階では自社パブリッシングによって得られる柔軟性を活かして,それぞれの作品に適した独自のコミュニティを形成して,作品にとって理に適ったビジネスモデルを選択し,私たちの作る新しい世界をどのようにして市場に出していくのかを決めていきたいと考えています。
 業界の状況が短期間で大きく変わってきていることは述べましたが,私たちはそれぞれの「世界」について,常に最適なタイミングで最良の判断を下していきたいと考えているからです。

なぜBungieは「Destiny 2」を独自運営するようになったのか

――日本に目を向けることに障害はありませんでしたか。

Holmes氏:
 欧米のビデオゲームシリーズに対して持続的に日本のゲーマーが関心を示してくれていることもあり,欧米のパブリッシャにとって日本のビデオゲーム市場は大きなポテンシャルを備えています。しかし,私たちにとって大きな障壁のひとつとなったのは,Bungieのゲームスタジオとしてのブランド知名度の低さです。これはMicrosoft傘下にあったことと(そのためXboxで知られる),日本でのソニーの人気の高さが原因としてあるかと思います。他国市場ではBungieはXboxでHaloシリーズを大成功させたデベロッパとして有名ですが,PlayStationが主要プラットフォームであり,PCプレイヤー人口が拡大する日本でBungieと「Destiny」のブランド知名度を上げるのは簡単なことではありません。


――「Destiny 2」のような運営型タイトルの場合,どのようなプロモーションが有効だと考えていますか。

Holmes氏:
 私たちのゲームに対するビジョンは,皆さんが時間を過ごしたいと思うような――皆さんが楽しいことをしたい,友達の前で楽しいことをして見せたいと思うような世界を創り出すことにあります。そのため,プロモーションはコミュニティに焦点を絞っています。そうした場で,ローカルのコミュニティに向けてゲームの話題を提供し,「Destiny 2」で出会える仲間たちや,どういう楽しさが待ち受けているのかを話すことができるわけです。また,コミュニティの意見に耳を傾け,フィードバックが大切にされ,取り入られていることを皆さんに知らせることができます。
 「Destiny 2」はプレイヤーの皆さんが毎日でもお楽しみいただけるコンテンツが盛りだくさんの,基本プレイ無料ゲームです。私たちは,ローカルのゲームコミュニティの皆さんと協力してゲームの知識向上や重要な更新情報の周知に努め,日本のプレイヤーに本作をプレイして楽しい,プレイしやすいと思ってもらえるような,手に取りたくなるようなゲームを創っていきたいです。


――「Destiny 2の魅力を日本のコミュニティにしっかりとアピールしていきたいと思っている」とのことですが,具体的にどのようなアピール方法を考えていますか。

Holmes氏:
 ローカルチームが日本にしっかりと据えられたことで,私たちはコアコミュニティのメンバーとつながりを持ってBungieファミリーに引き入れ,また開発やコミュニティチームにそうした人たちの声を届け,「Destiny」の日本チャンネルやマーケティングで彼らのコンテンツを取り上げることができるようになりました。
 「Destiny 2:光の超越」のレイドトレーラーをご覧になった人もいると思いますが,そこでは世界中の様々なクリエイターに並んで,超猫拳(@suupaanekopunch)さんをフィーチャーしています。


――Bungieにとって,日本市場での成功の定義を教えてください。一定のプレイヤー数を確保することでしょうか,それとも一定の売り上げを得ることや,日本での知名度アップなどでしょうか。

Holmes氏:
 私たちの定義する「成功」とは,コアバリューを通じて日本での知名度を高めることにあります。Bungieはビジネスの形として,そして自社タイトルの開発に適用されるものとして,「プレイヤーエクスペリエンスを何より大切にする」というコアバリューを掲げています。
 私たちはプレイヤー皆さんがいつでもどこでも集うことができるような,友情を育むゲームを制作する会社として広く知られたいと考えています。「Destiny 2」は基本プレイ無料のアクションシューティングであることを日本の皆さんに知ってもらいたいと思っています。また私たちは無料プレイのコンテンツと,シーズンパスや年ごとの拡張コンテンツの購入でプレイできるコンテンツのバランスを最適なものするため,努力を続けています。どんなタイプのプレイヤーも最大限にゲームを楽しみ,費やした時間に見合う達成感を感じられるべきです。

 なお,Bungieの7つのコアバリューは以下のとおりです。
・チームは英雄よりも強い
・プレイヤーエクスペリエンスを最優先
・確固たるアイデアにも柔軟性を
・締めくくることを毎日の習慣に
・広い視野を持つ
・楽しみを追及する
・世界に爪痕を残す

――ありがとうございました。

なぜBungieは「Destiny 2」を独自運営するようになったのか