Xbox Series X|SとPlayStation 5はインディーズにどのようなメリットをもたらすのか?

インディーズスタジオやパブリッシャに,新しい家庭用ゲーム機がもたらす可能性について話を聞いた。

 新しいゲーム機が発表されるたびに,最先端のハードを限界まで押し上げ,従来のゲーム機にはないビジュアルや体験を提供する高価格帯のゲーム機への興奮に振り回されてしまうのは,あまりにも簡単なことだ。

 しかし,PlayStationとXboxの成功における役割は過去2世代にわたって変化しており,小規模なインディーズデベロッパにとっての影響を考慮することも重要だ。

 Xbox 360世代では,MicrosoftはXbox Live Arcadeでインディーズ向けのチャンピオンと称されていたが,これによりデベロッパは,当時主流だった流通チャネルである小売店では決して許されなかった方法で,より短くて安価な体験を消費者に直接販売することが可能になった。Microsoftの注目が薄れる中,ソニーとその戦略的コンテンツチームは,Hotline Miami などの高評価を得たインディーズタイトルをPS3とVitaに投入し,PS4の発売が近づくにつれ,それらのタイトルに誇りを持たせることに成功した。

 前世代では,ID@Xboxの取り組みにより,再びMicrosoftのほうにシフトしていた。デジタル配信が成熟するにつれて,インディーズはPS4とXbox Oneの両方で順調に推移している。そして,MicrosoftはXbox Game Passで利用可能なインディーズタイトルの数を増やし,さらに先週のXbox Series X|Sの初日に発売された一握りのタイトルをプッシュしており,同社はインディーズのためのチャンピオンとして見られることを切望しているようだ ―少なくとも当分の間は。

No More RobotsのMike Rose氏
Xbox Series X|SとPlayStation 5はインディーズにどのようなメリットをもたらすのか?
 「ビデオゲームでは歴史は繰り返される傾向にあり,今も間違いなくそれを目の当たりにしています」と,インディーズパブリッシャNo More Robotsの創設者であるMike Rose氏は指摘する。プラットフォームホルダーが家庭用ゲーム機のサイクルで間違いなく "負けた "場合,次のサイクルではインディーズデベロッパに大きく依存する傾向がある。

 「プラットフォームホルダーが『勝っている』ときは,彼らは自己満足になり,ビジネスはより扱いにくくなり,彼らがコントロールするのはより困難になります。その結果,小規模なデベロッパは取り残され,プラットフォームホルダーは,大規模なAAAタイトルに頼るようになるのです。これが,各世代でこのような反転が起きている理由です。Microsoftが現在,PlayStationよりも多くのデベロッパからのサポートを受けているのは,このためだと思われます。というのも,PlayStationがPS4の追い風に乗ろうとしているのに対し,Series Xでは可能な限り最高のチャンスが与えられるように,何年も前から準備をしてきたからです」

 「もちろん,Microsoftがそれを成功させれば,数年後にはまた同じようなシフトが起こり,Xbox Series XのAAAへのフォーカスがより大きくなることが予想されます。ゲーム業界は狂気の定義を学んでいないと言ってもいいと思います」

 Larian Studiosのパブリッシングディレクター,Michael Douse氏は,PlayStationは今年の夏のデジタルショーケースでもインディーズゲームに力を入れているが,興味深いのは,これらのタイトルをインディーズゲームとは位置づけていないということだ。

ついに,インディーズ デベロッパが家庭用ゲーム機世代のローンチラインナップに参加できるようになってきました -Alex Nichiporchik,TinyBuild

 「これは,プロモーションや配信など,あまり知られていないゲーム制作の分野に対する姿勢の変化を反映しているため,重要なことです」と氏は語る。「過去数年間で最高評価を得たゲームの大部分を見れば,その大部分がインディーズタイトルであると言えるでしょう。彼らは求められており,高品質であり,プレイヤーが求めているものなのです。それらは単に『ゲーム』にすぎないのに,今では他の種類のものと同じように扱われています」

 両機のローンチラインアップを見てみると,いまだにAAAのクロスジェネレーションタイトルと,ソニーの場合はファーストパーティの新作タイトルで占められていることが分かるだろう。PS5ではBugsnaxやThe Pathless,Xbox Series XではYes,Your GraceやThe Falconeer(関連英文記事:Xbox Series XではHaloの遅れにより,Xboxのラインナップの中でもとくに目立ったタイトル)など,インディーズゲームの存在感は健在だ。

 それに比べて,PS4では初日からインディーズタイトルがわずかに用意されていた。Xbox Oneにはそのようなタイトルはなかった。

 「ついに,インディーズデベロッパが各世代のゲーム機のラインナップに参加できるようになりました」とTinyBuildのCEOであるAlex Nichiporchik氏は語る。「これは,プラットフォームがローンチ時により多様なコンテンツ ポートフォリオを持つことの価値を理解していることを意味し,次世代機が発売される前にゲーム エンジンのサポートを展開できるほど技術が成熟していることを意味しています」

 Fall Guysのクリエイティブディレクターである Mediatonic の Jeff Tanton 氏は,次のように付け加えている。「Microsoftとソニーは,今世代の最初からプラットフォームが広教会(※さまざまな主張を受け入れる立場)になることを明確に表明しています。そして,小規模で見知らぬ,おそらくもっと予想外の体験をするファンにも,次のAAAシューターやオープンワールドアドベンチャーのファンにも同じくらい興味を持ってもらえるでしょう」

 DaedalicのパブリッシングディレクターであるJonas Husges氏は,今回はインディーズにとって下位互換性があることが大きなメリットであると付け加えている。「我々のカタログのすべてが初日からプレイヤーの皆様に楽しんでいただけることを知っているのは素晴らしいことです」と語る。

Halo: Infiniteの発売延期により,インディーズのThe Falconeerは,Xbox Series X|Sのローンチタイトルとして重要な位置づけになっている
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 では,次世代のインディーズには何が期待できるのだろうか? そのようなスタジオは,新しいゲーム機が提供するハイエンドなビジュアルに依存しておらず,場合によってはそれを実現することさえできないということは,とっくの昔に確立されている。もちろん例外もあるが,XboxのローンチタイトルであるBright Memory 1.0は一人で開発されたレイトレーシングを多用したシューティングゲームだが(関連英文記事),大抵の場合,グラフィカルなスペクタクルはインディーズがもたらすものではない。

MediatonicのJeff Tanton氏
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 しかし,Tanton氏は過去の世代で最も野心的なインディーズタイトルの1つであるHello GamesのNo Man Skyを,小規模なスタジオが新しいハードウェアの可能性を最大限に引き出すことができることを示している例として指摘している。

 「ギルドフォードの小さなスタジオが無限の宇宙を創造したことを忘れてはいけません」と氏は語る。「それを考えると,AAAスタジオと同じように新しい家庭用ゲーム機のパワーを押し出すインディーズデベロッパが出てくると思いますが,より多くのインディーズデベロッパが新しい家庭用ゲーム機の新機能,とくにコントローラや入力デバイスの周辺を探り始め,ユニークなインタラクションのエッジを見つけて,それをちょうど良いアイデアにマッチングさせようとすることを期待しています」

 Team 17のスタジオ責任者であるChris Coates氏は,インディーズがタイトルの没入感や雰囲気を向上させるために使用できるツールとして,次世代機の特徴的な機能,とくにPS5の触覚フィードバックや3Dオーディオを挙げている。

 「インディーズタイトルの多くは,体験時間が短いかもしれませんが,よりユニークで実験的なものになることが多く,これが本当に重要な鍵となります」と氏は語る。「インディーズの場合は,多くの場合,何かを試す余地があり,このような分野では,本当にクールなアイデアが結実する可能性があります」

 Husges氏は,現行機でFortniteのような主要タイトルが最初の一歩を踏み出したように,世代が進むにつれてクロスプレイがより標準化されていくことを期待している。Epicのバトルロイヤルのような大人気マルチプレイヤータイトルの魅力は明らかだが,インディーズ企業にとってのインパクトのほうが重要かもしれない。

 「ユーザーベースを分割することは,小規模なチームにとってはとくに困難であり,すべてのプラットフォームで同じサーバーを使用することは,ゲーマーにとってもメリットがあります」と氏は語る。「すでにその方向への第一歩がいくつか見えてきていますが,まだ一般的になるには程遠い状況です。これが新世代で変わるかどうかはまだ分かりません」

家庭用ゲーム機が理論的にアクセスを許可しているすべてのオーディエンスを活用できたインディーズはほとんどません。馬を水場に連れていくことはできても,それを飲ませることはできないのです」 -Michael Douse,Larian

 しかし,Nichiporchik氏を最も興奮させるのは,SSDによって可能になったより高速な処理速度だ。
 「メモリを使って,より多くのことができるようになり,より革新的なゲームプレイやゲーム構造が可能になります。個人的には,AIと物理,そしてそこでできることに興奮しています。グラフィックスはもう何年も前から十分に優れていますが,次世代機のこの『ゲーム感覚』の部分は,すぐに慣れてしまうものです」

 Douse氏にとって,インディーズ向けの新しい家庭用ゲーム機で最も重要なのはハードウェアではなく,ソフトウェアとインタフェース,具体的にはストアのそれだ。

 「PS4とXbox Oneの時代には,どちらのパートナーにも家庭用ゲーム機での独立した流通の道がありましたが,デジタルストアはあまり良くありあませんでした」と氏は語る。「デベロッパにとってストアはゲームを販売する場所です。大多数のプレイヤーにとっては,すでに欲しいゲームを購入するための場所であって,習慣的に閲覧するためのものではありません。これが問題であることに変わりはありません」

 氏は,発見性アルゴリズムとゲームマーケットプレイスの民主化に関して,Steamを「クラス最高」と指摘している。自律的でデータ駆動型の方法で動作するため,インディーズにとっては,より幅広い,そして潜在的に新しいオーディエンスを開拓できる。

 「この(アンロックされたオーディエンス)こそが,何よりも,この新世代に入ってきたインディーズにとって最も強力な資産です」と氏は語る。「デザイン自体は常にシリコンによって制限されていますが,より多くの売上を見込むことができれば,より大きな夢を見ることができます。ほとんどのインディーズは,選択や経済的な理由で,その力を十分に活用していません。しかし,彼ら自身の過失ではないにせよ,インディーズスペースのほとんどの人は,理論的には家庭用ゲーム機がアクセスを許可するすべてのオーディエンスを利用することができませんでした。馬に水場に連れていくことはできても,馬に水を飲ませることはできなかったのです」

Larian StudiosのMichael Douse氏は,次世代機のインディーズにとってはハードウェアよりもストアプロセスのほうが重要になるだろうと語る
Xbox Series X|SとPlayStation 5はインディーズにどのようなメリットをもたらすのか?

 しかし,両家庭用ゲーム機のインタフェースの一部として,コミュニティ ハブなどのエディトリアル フィードへの注目が高まっていることに彼は励まされている。デベロッパが自分のゲームを熱心なオーディエンスに見せることができるチャネルは,非常に貴重なものだ。Douse氏は付け加えて,5つの予告編とスクリーンショットが掲載されたストアリストでは,「もうこれ以上は無理です」と語った。

 また,スタジオがプラットフォーム所有者やパブリッシャに依存してゲームをストアに追加しなくても,マーケットプレイスがさらに開かれることを切望している。「ゲームのパブリッシングは,可能な限り自動化された手順でシンプルなものでなければならず,そしてそのパブリッシングされたコンテンツは,それを掘り下げてくれる関連性のあるオーディエンスの目に触れるようにします。私が理解している限りでは,これが我々が目指す方向性です。我々は,このことがもたらすノックオン効果を過小評価すべきではありません」

 氏は締めくくっている。「コンテンツが自動的に循環し,最も関連性の高いオーディエンスに表示され,より民主的なプラットフォームが,ストアを運営する唯一の適切な方法です。非常にシンプルなことですが,もしあなたのゲームが良ければ,そのゲームが好きな人に見てもらうべきです。そうすれば,誰もが幸せになるのです」

 「私が見聞きした限りでは,誰もがそれに向かって努力していました。人々を笑顔にするために多くの犠牲を払って何かを作ってきたのであれば,相手側の人たちは,そのギフトを,それにつながると感じるかもしれない人々の目に届くように,できるだけ簡単にするべきなのです。マラソンランナーに,レース後の帰りで坂道を走らせてはいけません」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら