[GDC Summer]モバイルガチャシステムの進化を探る

 GDC Summerで,モバイルゲームでのいわゆる「ガチャ」に関する講演が行われた。
 講師であるJakub Remiar氏は独立系のゲームデザイナで5年の経歴を持つという。博士号も持っており,専攻は心理学だ。

 冒頭,ガチャとはなにかという説明で,ガシャポンの写真が提示されていた。

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 写真のような形態のサービスをカプセルトイとしてバンダイが始めたのが「ガシャポン」であり,ガチャの起源としてこれを挙げるのは正しいことだ。
 ネットで検索すると「ガシャポンはバンダイの商標でガチャポンはタカラトミーアーツの商標」としているようなサイトもあるのだが,実際は「ガチャポン」や「ガチャガチャ」もバンダイが登録している商標だ。ただし「ガチャ」単体についてはタカラトミーアーツが所有している。出願自体はブレイマンという埼玉の会社によるものだが,名義人変更でタカラトミーアーツの所有となった。ほとんどはバンダイが押さえているわけだが,なぜか一番通りのよいガチャだけ取られてしまっているわけだ。本講演のタイトルも「Evolution of Gacha Systems in Mobile Free to Play Games」である。
 ガチャはFree to Playのモバイルゲームでは広く使われており,西洋では少し形を変えて「Loot Box」として扱われることが多い。

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 まず,氏はガチャを4つのサブシステムに分類した。最初はガチャの根幹をなすTokenシステムだ。これはカードやキャラクター,アイテムなどをコレクションしていくシステムのことである。さまざまなレベルを持った母集団からランダムに選ばれることが特徴となっている。通常,レベルごとにドロップ率は異なる。
 通常,プレイヤーがガチャをコンプするまで続けられるが,これは重要な意味を持つとRemiar氏は語る。
 プール内のトークンが少なすぎれば,プレイヤーはすぐにそれらを集め終わってしまうだろう。サービスを長く続けるにはトークンを増やし続ける必要がある。

 次に登場してくるのが,Duplicateシステムだ。トークンは通貨のようにゲームエコシステム内で永遠に流通しており,それらを回収するのがDuplicateシステムなのだという。キラキラと画面が輝いて最高レアの演出が始まったとしよう。しかし,出てきたのはすでに持っているカードだった。「それじゃない!」となったときに対応するシステムだと思えばいいだろう。意味的にはダブったときのシステムだ。元のキャラを強化するために使えるなど,プレイヤーに進化が感じられることが重要だという。

 3番めのシステムはデッキサイズだ。デッキ,つまりカード(など)を何枚まで持てるかといった問題だ。キャラクターなどのトークンがよく使われるわけだが,装備品やアイテムなどもあり,通常2,3倍の量になるという。デッキの大きさがどうして問題になるのか? デッキサイズが小さいと,特性に差を出せなくなるなど,戦略的に苦しくなる。

 最後に最も目立たないサブシステムとしてCollection Driverが挙げられた。これはトークンを集めよう(ガチャを回そう)という動機を誘発する要因となるものだ。多くのシステムではこれの実装に失敗していると氏は語っていた。
 ゲーム要素として属性などが取り入れられていると,特定のシナリオでは役に立たないカードが出てきたり,一定のデッキが最強にならないように対戦システムが変わり続けたりといった具合だ。ゲームシステム自体に根差したものが求められる。
 この誘因が弱いとガチャシステム自体が回らなくなる。さらに最悪なのはいくつかのトークンが強すぎて,どんなクエストも簡単にこなせるようになると,デッキを入れ替える需要は激減し,ゲームが崩壊する。

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 続いてRemiar氏はガチャエンジンの種類について考察を述べ始めた。


Solid Token Gacha:ガチでハードなガチャ


 最初に出てきたのはSolid Token Gachaで,氏はHard Gachaと呼んでいた。これは集めるトークンが非常に多い,もしくは必要なトークンを入手するのが本当に大変なガチャのことだという。これは出るか出ないかだけで途中段階が存在せず,オールオアナッシングのシナリオになっている。星で格付けするシステムだと通常,★★★から★★★★★★くらいで使われるらしい。
 またこれは日本のガシャポンを祖とする発想のものであり,日本ではいまだにこれが主流である。パズドラは2012年にリリースされ,モバイルゲームで最初に10億ドルを超えた作品だが,氏はパズドラのゲームのデザインは世界中のモバイルゲームに最も大きな影響を与えているものであり,Solid Token Gachaの代表であるという。モンストなどのゲームも同様にSolid Token Gachaを採用して大きな成功を収めており,これらはすべてアジアのゲームとなっている。収益もほとんどがアジア市場でのものだ。西洋市場での成功は限定的だ。
 西洋市場では長い間大成功するモバイルゲームは出なかったのだが,Solid Token Gachaを採用して初めて西洋で成功したのが,Marvel Contest of ChampionsやLegendary: Game of Heroesだという。2017年にはEmpires & Puzzelsがこの方式で大きな成功を収めている。

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 Solid Token Gachaは,Tokenシステム的に見ると3つの実装形態がある。コレクション数を膨大にしてしまう方法,ガチャの中身を入れ替えたり期間限定にしてプレッシャーをかける方法,そして単に入手難度を大きく上げる方法だ。
 Duplicateシステム的に見ると,半端なカードがダブった場合には何も得られないような感覚になることがあるという。もっと強いモノをすでに持っている場合にはそうなる。しかし,トークンはほかのカードのステータスを上げることにも利用できる。最上位のカードを進化させたり,能力を解除する場合などだ。

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 またSolid Token Gachaでのデッキサイズは,複数のデッキ,複数の階層でだいたい5つのトークンであるという。
 Solid Token GachaのCollection Driverとなるのは,主にメインシナリオやサブシナリオのPvEの進行となる。強いカードを友達に貸し出せるみたいなシステムだとソーシャル要素も大いに利用できるという。また,大会専用のカードなどを作るところがないわけではないが,この手のシステムではPvPにはあまり力を入れられることはない。

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 Solid Token Gachaの利点はいくつかあるが,まず,サービスを長く続けることができる点だ。パズドラやモンストは6年以上経ってもいまだ根強い人気を誇る。またコンテンツが少しずつ追加されるため,その内容は非常に深くなっていく。モンストでは2500枚以上のカードがあるという。新コンテンツの追加では,ユーザー単価を跳ね上げることもできる。ドラゴンボールZ ドッカンバトルは,イベントがあるたびに全米の売り上げランキングトップに跳ね上がってくる。マネタイズは非常に強力だ。

 欠点としては,非常にコンテンツ駆動に偏ることが挙げられる。頻繁なコンテンツアップデートが必要であり,それが途切れればプレイヤーは離れてしまう。ほかにも初動からかなり多めのコンテンツが必要であり,トークン数でいくと最低300は必要になるという。最大の問題はトークンの入手にある。運任せの方式なので,有利に始めるためにリセマラを誘発したりしている。そのため,開始時にハイランクが保証されたトークンを配るようなキャンペーンもよく行われている。

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Shard Token Gacha:集めるのは簡単,ゲーム作成は困難


 続いてShard Token GachaないしFragment Gachaエンジンに話は移った。
 このシステムではトークンがシャード(欠片)に分解できるのが特徴だ。ほとんどのトークンを手に入れるのは非常に簡単だが,その強化は難しいといったシステムになっている。欠片として強化に使用できるのですべてのドロップが報酬となる。
 この手のシステムのGachaのビジュアル的な特徴は,トークンの絵の下に到達度を示すバーがついていることだ。

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 このシステムは2016年にSupercellからリリースされたCrash Royaleから始まっており,雑多なドロップと常に報酬がダブるような仕様は,日本式のSolid Token Gachaに対する回答であると氏は説明していた。これをマネたゲームも次々と登場しているが,Golf Crash以外で大きな成功を収めているものはないという。Golf Crashは,Crash Royaleとは戦わないという賢い戦略で独自のコアループを作り,独自のユーザー層を獲得している。最近では,Trailer Park BoysやAdventure Communist,Miner Tycoonといった放置ゲームでも使われている。

 Shard GachaのTokenシステムでは,トークンシャードが頻繁かつ大量に配られることが特徴となっている。これは報酬感やトークンの成長を感じ取りやすいシステムだ。すべてのドロップに意味があり,無駄がない。
 ガチャのプールが追加されることは,単純にプレイヤー全体の資産が増えることを意味しており,ローテートや限定ガチャなどはないとされている。
 また,スタート時のガチャプールは小さめで,全体にSolid Token Gachaよりも規模は小さくなるという。プレイを続けることで報酬は得られるので,運任せの要素は少ないとRemiar氏は語っている。

 Duplicateシステムはこの方式では,強化のコアになる部分である。シャードに分解できるとはいっても,あるトークンの強化に使えるのは,そのトークン自身を分解したシャードだけであるという。どのゲームのどの部分のことかよく分からないのだが,そういうものらしい。そして,強化に必要なシャード量は,指数関数的に上昇していく。重要になるのはゲーム内通貨で,これが強化の調整役ともなっている。

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 デッキサイズは,オリジナルのCrash Royaleではトークン8個だった。Golf Crashでは7つだ。これらより少ないのは限定的であり,問題を起こすことが多いという。あるゲームでは3vs3の対戦をするのだが,うち2つはフレンドのトークンが使われるので,プレイヤーが選べるのは1つだけになる。Adventure Communistなどのゲームでは,最終的にすべてのカードをいつでも使えるようになるものもある。

 これらのゲームは,絶えず変化するPvPメタゲームによって駆動されている。新しく開放されたガチャプールのトークンで新たな戦略を生み出していくのだ。Golf Crashなどではシングルプレイヤー向けのコンテンツも用意されているが,そちらに対応するにはマルチプレイヤーとは異なるデッキ構成が必要になってくる。

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 Shard Token Gachaの利点は,多彩かつ頻繁なドロップがあり,運任せの要素は最小限となっていることだ。すべてのトークンは同じ強さであり,スタート時に巨大なトークンプールは必要ない。ゲームの運用が始まってもSolid Token Gachaと比べてはるかに少ないトークンをより少ない頻度で追加するだけでゲームを維持可能だ。これは裏を返せば,ゲームシステムを作るのが難しくなるという欠点にもつながっている。トークンがたくさんあるのなら,ほかのトークンでカバーすることも簡単だが,それぞれがユニークで特殊なトークンでは替えは利かない。これはバランス調整の難しさにもつながっている。
 ガチャによるコレクション要素は小さく,最終的には誰もがそれぞれのトークンを少なくとも1つは所有することになる。ゲームの主目的は,トークンを最大限に強化することにある。バランス上,限定トークンのようなものは作りにくく,それによるマネタイズは難しい。また手持ちのデッキやコレクションを一新させるようなCollection Driverの設定も難しい。とくにシングルプレイヤーでそういった動機付けをするのはさらに難しいという。

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Merge Token Gacha:運要素を緩和したガチャ


 最後に紹介されたのがMerge Token Gachaだ。氏によるとこれがガチャの最新の進化形態ということのようだ。代表作はAFK ArenaとArchroである。
 このシステムではトークンは通常,ダブったトークンと合成することでレアリティを上げていくのだという。全体のコレクションサイズはSolid Token Gachaよりは小さく,Shard Token Gachaよりは大きくなり,運要素はShard Token Gachaよりは大きいが,Solid Token Gachaほどではないのだそうだ。両者の中間的な位置付けのものだとされていた。

 ゲームの見た目からこのシステムかどうかを判断するヒントとしては,あるトークンのレアリティ違いのものがインベントリ内で隣に並んでいるかどうかがポイントであるという。

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 AFK Arenaでは,特定の属性のみのガチャを用意したり,違う属性やタイプのトークンでも合成素材にできるなど,ランダム性を緩和する措置が取られているのが特徴であるとのことだ。
 Archeroは多少厳しく,合成時には同じタイプ同じレアリティのものを3つまでしか使えない。

 Tokenシステム的に見ると,通常,2,3個の低レアトークンをレアリティの高いトークンに合成することで構成されている。これにより合成したトークンはレベルキャップが上昇する。
 Duplicateシステムは,ゲームでのランダム性の重要度を決定しているという。タイプとレア度を揃えた素材しか合成に使えないArcheroよりも,タイプやレアリティを問わず使えるAFK Arenaのほうが乱数の影響は低くなっている。このあたり,リテンションやマネタイズで取れる選択肢が多いと氏は説明していた。
 デッキサイズは,Solid Token Gachaに似ている。装備などのレイヤーでデッキサイズを拡大することもできる。

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 Merge Token Gachaの利点は,運要素を調整できることだという。低レアのトークンを高レアの強化に使えるので,アンコモンレベルのトークンでも十分に報酬となり,インベントリの掃除にも役立つのだそうだ。
 一方で,インベントリ管理が重視されているので,ときにそれが面倒になることもあるという。AFK Arenaではあまりないのかもしれないが,合成に使えないトークンがインベントリの半分を占めてしまうこともあるとのことだ。

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 氏は最後にまとめとして,現状の傾向を説明した。これらにはアクセシビリティ(どちらかというとユーザビリティか)で明確な違いがあるという。
 ガチャが持つ根源的なランダム性は,西洋では受け入れられなかった。西洋市場が出した1つの回答が,Crash Royaleに代表されるShard Token Gachaだという。そして,現在,それらのミックスモデルとしてMerge Token Gachaが登場した。ただ,最近は西洋でもSolid Token Gachaに慣れた人が増えつつあり,そちらも非常に大きな市場を構成している。


 ガチャというのはなにもモバイルゲームで始まったものではないので,モバイル以前にもいろいろな形態のものは存在しており,モバイルゲームが普及した頃には,いわゆるSolid Token Gachaでもかなり複雑なシステムが構築されていた。そういったものを踏まえてみると,多少違和感がある講演でもあった(途中でパスドラのパワーアップ合成を調べなおしたりしてしまった)。
 ガチャが3つのタイプに分類されていたのだが,個人的には,実装の違いとうよりも単にメーカーの味付けや方針が違っただけではないかという風にも思えた。コンプガチャであるとか,提示されている確率がデタラメであるとか,賭博との関係とか,内在する可能性のある問題点をどう回避するのかとか,ガチャについて語るべきことはもっとあるような気はしないでもない。

 氏が問題視しているであろう「運」要素とその緩和で,いくつかのアプローチがまとめられており,そのあたりでガチャに不慣れな人には分かりやすいまとめ方だったかもしれない。