クランチ（修羅場）の仕組みを熟知している上司として， Mark Lloyd氏は自宅で仕事をしているデベロッパへの影響を心配している。

　クランチとは，我々の時間と人生を身代金にする現象だ。私はRockstar Lincolnでの12年間を含む個人的な経験からこのことを知っている。

　クランチはまた，経営陣からの命令であっても，暗黙のスタジオ文化であっても，同僚からの仲間からの圧力であっても，誰かまたは何かによって強制される。従来のクランチにはこれらの要因があるが，パンデミックによって誘発されたリモートワークへのシフトは，内部から来る新たな危険をもたらす。

　クランチは容赦ないプレッシャーという形で現れるが，それは人間である我々が生産性の期待に応えようと考えるとき，自分自身のストレスに変換される。このストレスは，仕事以外の生活にも波及し，異常行動や疲労困憊となり，家族との時間や余暇活動，精神状態にも影響を及ぼする。このようなプレッシャーのかかる状況が維持されると，ストレスによる燃え尽き症候群が必ず起こる。

リモートクランチはどのようにして起こるのか

　私のような人は，1日の終わりには疲れ果てて怠惰な気分になる。ルーチンワークの上に複数の Zoom ミーティングを重ねているが，ビデオフィードでさえも，視覚的な合図や複雑なインタラクションを十分に得ることができないため，集中力を高めていなくてはならない。

　この業界の多くのデベロッパは，ワーキングチームの側面やスタジオの文化が好きで，1人で仕事をしている人でも，いくつかのレベルの相互作用を見逃してしまうだろう。コワーキングアプリケーションは便利だが，全員が一緒の部屋にいるときの相互作用の感覚に代わるものではない。そのような環境では，評価されていると感じたり，認められていると感じたりするのはずっと難しくなる。一般的にリモートワークのほうが処理が多く，つながりが少ないからだ。

職場を離れ，どんな形であれ家に通勤し，玄関に入り，1日中会えなくて寂しかった家族に会ってハグし，そのドアを閉めて仕事に向かうことができることには，信じられないほど強力な何かがある

　自宅で仕事をしていて，自分も家族もそれに慣れていない場合，気が散り，期待され，新しいルーチンが発生する。あなたの仕事場は，せいぜい，家の中の別のオフィススペースだ。では，生産性の高いリモートチームのプレイヤーは，ちょっとした時間を過ごすためにどこに行くのだろうか？　仕事のプレッシャーや家族のプレッシャーから一息つくためだ。コロナウイルスのプレッシャー？　

それは大変だね，本当に大変だ

　毎日の仕事からプライベートへの移行の難しさもある。
　仕事から家庭や家族にすぐに脳を切り替えることが求められている。職場を出て，どんな形であれ家に通勤し，玄関に入り，1日中会えず寂しかった家族に会ってハグし，そのドアを閉めて仕事の日を迎えることができることには，信じられないほど強力な何かがある。それは，その後の時間を家族のこと，楽しいこと，明日までの仕事との断絶についての時間にしてくれる。

　その区分を失った我々は，リモートワークによって，在宅ワークの牢獄に閉じ込められ，自分自身の牢屋になってしまう人も出てくるという現実的な危険性がある。少し大げさかもしれないが，私はそう思っている。

　リモートワーカーとして，私はベッドに入る前にメールをチェックしなければならない瞬間がある。それは午後11時だ, 私のパートナーと私は家を施錠している, と私は携帯電話を拾う. 夕食を食べていると，メールが着弾した。いつものように，緊急だ。

　それで どうするのか？　私がリモートワークをしていなかったら，翌朝まで待たなければならないだろう。でもご存じだろうか？　PCはまだ起動しており，15分程度の仕事なので，とりあえずやってみる。とくに私が読んだメールが，「そこにノートPCがあるよね。今すぐにこれをやってもらえる？」で終わっている場合は。

　メールが届いたときに見逃した自分のせいだと思うかもしれない。もっと早くチェックしておけばよかったと思うかもしれない。今すぐこの仕事をしなければならないという本当のプレッシャーがある。深夜なので，緊急性があるかどうかを尋ねることはできない。正しいことをしなければならないと感じている。いつの間にか，起きて朝食を食べながらメールをチェックするようになる。パートナーや子供たちに注意を払うよりもだ。彼らはそれが仕事だと理解している。

　その結果，あなたの1日の労働時間が15時間になり，時間外の依頼に対応することが当たり前になってしまうのだ。しかし，従来のクランチとの違いは何だろうか？　それは，あなたがこのクランチを決めており，前例を作って，直接あなたの家の中にあることだ。仕事から逃れるために家にも帰れず，線引きも曖昧で，期待値も曖昧だ。うっかり自分が自分の監督官になってしまっているのだ。

　1人で遠隔地にいると，仕事をしないことに罪悪感を感じるのは完全に理解できる。人が何を考えているのか気になるかもしれず，みんな残業していると思い込んでしまうだろう。トラブルに巻き込まれることもあるかもしれない。

　もしあなたがこのように感じているのであれば，きっとそれはあなただけではないと思う。私も6年間リモートワークを続けていたが，いまだにそのように感じている。私の解決策は，リモートワークと内勤のバランスだ。正直なところ，フルタイムの内勤がいい。

(Photo by Flickr user maticulous)

リモートクランチはどのようにプレイアウトできるか

　では，家庭生活と仕事の明確な区分けがなくなり，生産性，ワークライフバランス，プレッシャーの管理に完全に責任を持つようになったとき，我々の精神状態はどのように影響を受けるのだろうか？

　以前は，このような緊張感を克服するためには，地域に根ざしたチームの努力が必要で，簡単に助けを求めたり，お互いをサポートしたり，答えを得たりできる職場での作業が必要だった。我々には呼び出せる予備の技術者がいた。気が散ることもなく，比較的自由に戦場で戦うことに慣れていた。クランチはビデオゲームを作る方法ではないが，1つの場所で，1つの時間に，一緒に逆境に立ち向かうことには，何か説得力がある。

倫理的ではないにしても，チームでスタジオ内でのクランチは，ある程度管理しやすいものだ

　我々はプレッシャーのかかる状況では，多くの視覚的，物理的な合図を当然のように受け止めている。同僚に寄り添って簡単な質問をするだけで，どれだけの追加情報が得られるのか，いつも気付いているわけではない。また，デスクに戻る際に，会議の内容をより深く理解するために5分間の雑談をすることもある。そのような小さな「余分な」知識の収集には，今ではスケジュールされたSlackの会話，Zoom，Teams，Google，または誰もが使用している他のアプリが必要になる。

　スタジオがこの危機に陥ったときに，従来のようなクランチになったとしたら，リモートワークは，ただでさえプレッシャーがかかり，明らかな課題を克服するためにチームが一丸となって取り組まなければならない状況に，さらに悪影響を及ぼす可能性がある。

　その結果，リーダーシップチームがオフィスで疲れた顔で2か月連続でピザを食べている姿で，人々が耐えている危機とそれがチームに与えている影響を明確に思い出させてくれるようなことがなくなる。このようなリーダーたちは，チームの人々が生産性や生活をリモートで管理できないことで，自分自身や家族，ひいてはスタジオの生計にダメージを与えているという危機にうなされていることだろう。

　チームが一緒のスタジオ内でのクランチは，倫理的ではないにしても，ある程度管理しやすいものだ。多くのデベロッパにとって，家庭生活とは少なくとも1つの明確な分離があり，それは逃げ場であり，生きていくための方法だ。もしリーダーが1人でリモートワークをしているときに，部下にも同じ圧力をかけてしまうと，自分たちの生産性を効果的に監督しながらも，いつもの「安全な空間」の中での作業になってしまい，関係者全員への潜在的なダメージを増大させ，早めることになってしまうだろう。

では，我々は何をすべきなのだろうか？

　我々はどうすればいいのだろうか？　もちろん，リモートワークにはそれなりのよいところがある。しかし，私の考えでは，それは慎重に計画された実行に依存している。差し迫った懸念は，パンデミックでリモートワークに移行して以来，この移行が適切でスタジオにとってより良いものであるかどうかを十分に評価できないということだ。

　より理想的な状況では，私の提案は，計画的に段階的に，そしてエスカレートしながら，誰かにリモートワークを設定してもらう方法だ。ここにいくつかの機材があるから，やってみよう」というアプローチではない。では，重要なポイントは？　それがうまくいかなかったときに，なんの問題もなくオフィスワークに戻るための明確で迅速な方法があることだ。

何らかの形でのリモートワークは，我々の業務の未来に必要なものであることは間違いない

　システム化されたアプローチであっても，継続的かつ長期的なリモートワークは快適ではなく，毅然とした回復力と構造を必要とする。リモートワークがすべてのデベロッパに合うわけではないのは事実だ。リモートワークは，会社の文化や社員に合ったものでなければならず，事業継続計画の一部でなければならない。リーダーやチームは，リモートワークへの移行が実際にスタジオの利益になるかどうかを，測定可能な方法でじっくりと考える必要がある。

　研究によると，リモートワークは人々をより多くの時間働かせ，どこにいても，自宅にいても，常に「スイッチが入っている」状態にする可能性があると警告されている（参考URL）。では，これが新しい当たり前になると考えているスタジオにとって，これは何を意味しているのだろうか？

　いつものように，ビジネスを安定させる際には，極端な解決策は避けなければならない。この危機が部分的または完全なリモートワークで終わったあと，恒久的にリモートワークを導入しようとしているスタジオは，それが現在のプロジェクトやチームにとってどれだけ持続可能なものであるかについて，深刻な疑問に答える必要があることを理解する必要がある。

　多くの人にとって，このような働き方を余儀なくされることは，スタジオがより柔軟に対応する必要性を確認することになり，それがリモートワークに切り替える強力な動機になるのではないだろうか。

しかし，私が知っていることは……

　何らかの形でのリモートワークが，我々の業務の未来には必要であることは間違いない。

　成功している完全リモート企業は存在するが，通常はゼロから構築されており，チームメンバーはリモートワークを目的として採用されている。長期的な戦略的視点からリモートワークを検討しているのであれば，多くの相談を受けたうえでの包括的な計画が不可欠だ。

　リモートワークを試してみたいと思っている人にとっては，オフィスにいるのではなく，実際に自分で作った空間で，自分の時間をコントロールして生産性を高めることができる，景色の変化の魅力に魅了されるのは簡単なことだ。滅多に夜勤をしないのであれば，気が散ることが少なく，静かなオフィスのおかげで，確かにそのようなことが起こるように思える。しかし，長期間にわたって夜勤をしていると，あなたの生活にも影響が出てくる。ただ，長期的に夜勤をしている人に聞いてみてほしい。

　スタジオがリモートワークの統合を検討することは，より賢明なことのように思える。ここでの注意点は，リモートワークの生産性に影響を与える要因が個人的にもプロジェクトベースにも多くあるということだ。しかし，より重要なことは，サポートシステムを明確にすることだ。我々は本質的にオフィスベースの仕事の課題をすべて取り上げ，それを人々の家庭に押し付け，その結果として生じる圧力に彼らの家族を直接さらすことになるからだ。

　この「新しい標準」への突入は，業界としてはまだ経験したことのないような窮屈感を生み出すことになるだろう。注意が合言葉だ。

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Mark Lloyd氏は20年の経験を持つ業界のベテランだ。1999年の設立から12年間，Rockstar Lincolnのスタジオを経営し，ActivisionのスタジオThe Blast Furnaceの設立メンバーであり，現在はRemote Control Productionsに勤務している。また，「ゼロクランチ - 倫理的でコスト効率の良いソフトウェア開発への最良の方法」と題した過剰な労働慣行についての本も執筆している。