ゲームにおける主張の欠如は「一部は価値観の問題,一部は勇気の問題」

Jesse Schell氏がスーパーヒーロー・デートシミュレータ「Mission: It's Complicated」の開発について語る。

 「愛にはさまざまな形がある」 それが今年初めにSchell Gamesからリリースされた無料のスーパーヒーロー・デートゲームMission: It's Complicatedの中心的なメッセージだ。

 多くのデートシミュレータとは異なり,プレイヤーのキャラクターはロマンスを求めない。代わりに,あなたはスーパーヒーローのペアに,一緒にミッションを完了してからデートに行かせることによって,絆を強くさせていく。本当にお互いを愛しているデュオだけがEater of Worldsを倒すことができるようになるのだ。

 しかし,ゲームのイントロにもあるように,愛は恋愛感情や性的感情だけで定義されるものではなく,性別で定義されるものでもない。

 Mission: It's Complicatedでは,プレイヤーはゲイ,レズビアン,バイセクシャル,トランスなどのキャラクター同士で関係性を育むことができ,強い友情を共有する2人のヒーローでゲームに勝利することも可能だ。

 ヒーロー同士の関係性を構築するというコンセプトは,ゲーム開始当初からゲームの中心にあったが,プレイヤーがどのペアを選択するか,性別やセクシュアリティなどに関係なく完全な自由を可能にするか,チームは決断を迫られた。

Jesse Schell氏,Schell Games
ゲームにおける主張の欠如は「一部は価値観の問題,一部は勇気の問題」
 「チームは,『できるかどうかやってみよう,それを受け入れよう,それを受け入れて,ゲームの主要なテーマにしよう』と考えていました」

 「ロマンチックな関係もあれば,プラトニックな関係もありますが,どれがどれになるかは分かりません。それが一種のサスペンスになっていて,多くのプレイヤーにとっては,2人のキャラクターが一緒に仕事をするとどうなるかを見るのが楽しいのです」

 「また,これを採用することで,これまでほとんどのゲームでは実現できなかった,ゲーム内のどのキャラクターでもペアを組むことができるようになるということにも気がつきました。多くのデートシミュレータでは,自分が主人公で,そこにはデートするキャラクターがいて,一方通行の関係になっています。しかし,誰とでもペアを作れるというアイデアは,とても新鮮で楽しいものでした」

 バレンタインデーに発売されたMission: It's Complicated は,もともと禁煙や減量などのアドバイスを提供するバーチャル ヘルス コーチのチャット エンジンに取り組んでいたチームによるものだった。この技術が完成したあとで,チームはそれをどのようにエンターテイメントに利用できるかを考えた。

 当初の案は,ゴーストバスターズのようなチームの配車係を演じるビジュアルノベルで,予算を超えたアニメーションやグラフィックスを必要とせずに,チームでアクション満載のストーリーを展開するものだった。このアイデアは,スーパーヒーローゲーム,そしてスーパーヒーローデートゲームへと発展した。これはファンが自分で恋愛のカップリングを想像する「Shipping」というコミック界で有名な言葉によって,その卓越性に拍車をかけることになった。

※Shippingは2人の間を取り持つような行動のこと。ゲーム的な意味合いでは日本で言うカップリングに近いと思われる。

「多くの仲間たちが運営している大規模なスタジオはたくさんありますが,彼らは必ずしも社会的に進歩的であるとは限りません」

 ファンシップは,性別やセクシュアリティの境界線を破ることが多く,Schell Games は,タイトルの中でできる限り多くの LGBTQ+ コミュニティを表現したいと考えていた。

 「Schell Gamesは,タイトルの中でLGBTQ+のコミュニティを表現したいと考えていました」と氏は語る。「もしこれを成功させることができれば,それはかなり特別なものになるでしょう」とSchell氏は述べている。彼らは,さまざまなコミュニティの文化について知っていることをすべて取り入れて,さまざまなストーリーをまとめようとした。

 「我々は本当に緊張していました。なぜなら,我々はこれらの異なるセクシュアリティの状況についての物語を伝えようとしているだけでなく,それらをユーモアのあるものにしようとしていたからです」

 これは,登場人物がお互いを想う気持ちを超えた複雑で繊細な問題に取り組むという決定によって,さらに困難なものになった。たとえば,あるコーヒーデートの最中に,2人の主人公が自分がゲイであることを肯定し,1人がトランスジェンダーであることを明かし,もう1人が保証と受け入れを申し出る。議論はトランスジェンダーのホルモン療法にまで発展する。

 会話は自然で,穏やかで,快適なものになっている。監督が小説家でもあり,効率的でありながら敬意を持った対話が必要であることを熟知していることと,他のスタッフがこのような会話を正しく処理するためにどれだけの決意を持っているかに起因しているとSchell氏は指摘している。

Mission: It's Complicatedのデート中に取り上げられた複雑でセンシティブな問題の一例
ゲームにおける主張の欠如は「一部は価値観の問題,一部は勇気の問題」

 「これはチームにとって大きな情熱を持ったプロジェクトでした。『これがコンセプトだ,これで行こう』と押し付けたのではなく,完全に彼らから生まれたものです。彼らは最初からそれを理解しており,我々もそれを理解していました。我々は彼らがこれを実行して,機能させることを望んでいたのです」

 スタジオは,悪気がないようにするために,専門家を雇い,すべてを読み解き,トーンが適切であることを確認し,意図せず攻撃的になる可能性のあるものをハイライトして,それを修正するための方法を提案した。

 「あなたのコミュニティが大きく保守的であればあるほど 難しい会話をすることになるでしょう。誰もがそれに賛成するわけではありません」

 「とくに,チームはトランスの会話について心配していたのを覚えています」とSchell氏は語る。「専門家は大丈夫だと言ってくれましたが,別のキャラクターで変更しなければならない点がいくつかありました。これはちょっとしたサプライズでした。ですから,専門家を呼んで脚本のアドバイスをしてもらって本当によかったと思っています」

 「我々は,これを本当に楽しく,本当に包容力のあるものにしようとしているのですが,もしそれが誤って誰かに不快感を与えてしまうと,それ自体の目的に反してしまうことになります。ですから,我々は多くの注意を払っていました。我々はそれを恐れるのではなく,そこに入って,それを成功させたかったのです」

 デベロッパは,スタジオ内や友人や家族など,できる限り多くの人に非公式に相談したが,Schell氏は,すべてが真実であることを確認するために,専門家を雇うことの重要性を強調している。

 簡単なプレイスルーをするだけで,可能な限り多くの人々を表現するために取られたケアを示している。― 他のメディアのスーパーヒーローでは間違いなく言うことができない何か。たとえば,Marvelのコミックは,異なる文化,性別,セクシュアリティを表現するための堅実な仕事をしていたが,現在の映画シリーズでは,黒人のスーパーヒーローの登場に10年,女性のために11年を要した。

 Mission: It's Complicatedのようなゲームは,より大胆な作品として際立っているが,Schell氏は自身のスタジオがインディーズであることが重要な要素であることを認めている。

ヒーローたちは一緒にミッションに参加して絆を深めていかなければならないが,それが友情に発展するのか愛に発展するのかは分からない
ゲームにおける主張の欠如は「一部は価値観の問題,一部は勇気の問題」

 「インディーズゲームは,漫画がリスクを取るのと同じようにリスクを取ることができます。正直なところ,リスクのほうが少ないのです。それがMarvelが多くの道を切り開くことができた理由の1つです。あなたが一般的にコミックの観客を見てみると,とくに60年代,70年代,80年代には,観客はすでに一般的に自分たちを部外者と見ていました。MarvelとStan Leeはそれをよく理解していたので,彼らは本物のアウトサイダーのキャラクターを題材にした物語を作りました。超人ハルク,ドクターストレンジ,サブマリナーなど,社会から敬遠されているキャラクターがたくさんいます。ピーター・パーカーもそうです」

「我々は,本当に楽しくて包容力のあるものを作ろうとしています。それが誤って誰かに不快感を与えていたら,それは目的に反して働くことになるでしょう」

 「それはコミックにはすでに備わっていることで,彼らはそれを簡単にプッシュすることができ,正直なところ,彼らはそれほど多くのラインを持っていませんでした。コミックを6巻まで発売して,それが大ヒットしたとしても,失うものはなんなのでしょうか? ハリウッドがミスを犯すと1億ドルのリスクを冒すことになります。遅れているのは同情できますが,一般的にはそういう傾向があります」

 「我々はもう少し外に出る余裕があります。ゲームの成功のために1億人もの人にプレイしてもらう必要はありません。適切な人々が必要なだけです。このゲームを見つけて共鳴してくれる人が必要なのです」

 これは,大規模なゲーム,とくにAAAの空間では首長が不足している理由を物語っている。Dragon Age」のような例外はあるものの,大作ゲームで見られるキャラクターにこのような問題が取り組まれていないのには2つの重大な理由があるとSchell氏は考えている。

 「1つめは,AAAの文化だからです」と氏は語る。「多くの大規模なスタジオは,多くの仲間たちによって運営されていますが,― そういうものです。彼らは必ずしも社会的に進歩的であるとは限りません。第2に,彼らが求めている市場は,常にこのようなメッセージを歓迎するとは限らず,彼らがしなければならないであろう居心地の悪い会話につながってしまうでしょう」

 「これは価値観の問題でもあり,勇気の問題でもあります。簡単なことではないのです。彼らはそれを行うことができますが,それを正しく取得することは困難です。コミュニティが大きく保守的になればなるほど,難しい会話をすることになり, 誰もがそれに賛成するわけではありません」

 リリースされたMission: It's Complicatedは好評を博したが,スタジオでは,モバイルなどの他のプラットフォームを検討する前に,このゲームがどの程度の成功を収めているかを評価している。Schell氏は,ビジュアル ノベルは他のジャンルに比べて普及が遅いと指摘しているが,今のところゲームのパフォーマンスには満足しているとのことだ。

 セクシュアリティやジェンダーアイデンティティなどのテーマをあえて探求しようとするものは,必然的に抵抗を受け,ゲームの視聴者の一部から反発を受けることがある。しかし,Schell氏は,スタジオが人々からいくつかのコメントを受けていることを認めているが,それらは少数派であるとしている。

 「我々がそれを隠しているわけではないということも,その一部だと思います」と氏は結論づけている。「人が最も動揺するのは,1つのことを期待して入ったのに,それが個人的に不快にさせるものを持っていることが判明したときです。それで,彼らは動揺します。我々は,これが何であるか,それがどのようなものであるかを明確にしようとしていました。一部の人からは少し不満の声も出ていますが,彼らのためのゲームではないので大丈夫です」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら