EGDFの調査でヨーロッパのスタジオは閉鎖を恐れていることが判明

EGDFの調査でヨーロッパのスタジオは閉鎖を恐れていることが判明
EGDFのJari-Pekka Kaleva氏によると,COVID-19の影響により,約17%が3か月以内に閉鎖すると予測している。

 COVID-19のアウトブレイクは,ヨーロッパのすべての人に大きな影響を与えている。ほぼすべての人がウイルスを克服するために苦労している人を知っており,我々欧州ゲームデベロッパ連盟(EGDF)では,発生中に同僚や愛する人を失った人に心からの哀悼の意を表したい。

 2020年3月末,EGDFは,欧州のゲーム業界におけるCOVID-19感染によるビジネスへの影響を大まかに把握するため,全欧州を対象とした調査を実施した。239のスタジオから回答を得たが,これはヨーロッパにある約5000のゲーム開発スタジオの約5%に当たる。


スタートアップ企業や零細企業が真っ先に被害を受ける


 スタジオの約17%が,今後3か月以内に閉鎖を余儀なくされる可能性があると答えている。調査データによると,このグループの大多数は10人以下の従業員を雇用する零細企業で,その多くは新興企業だ。

最大の影響は,ゲーム制作の資金調達をしようとしている小規模スタジオにあるようだ

 驚くことではないが,このアウトブレイクは,現在ゲームを作るための資金調達をしようとしている小規模スタジオに最も大きな影響を与えているようだ。典型的なアーリーステージのスタートアップ企業は,最適なケースでは6か月から1年のランウェイ(※会社がつぶれるまでの猶予期間)を持っている。現在,ゲーム業界のトレードミッションやイベントはキャンセルされており,これらの企業は投資やパブリッシング,下請け,その他のパートナーシップ交渉を締めくくるための時間と資金が不足している。さらに,世界的な経済の不透明感から,多くの投資家がすべての投資活動を凍結している。

 業界の専門家や下請け案件を見つけようとしている零細企業にとって明るい兆しは,大手スタジオの約20%がいまだに人材不足に悩んでおり,ゲーム開発プロセスの一部を外注化する方法を積極的に模索しているという事実だ。


採用と生産の遅れが中規模・大規模スタジオを襲う


 約13%のスタジオがCOVID-19の発生中,通常よりもビジネスがうまくいっていると答えた。

 通常,大規模なスタジオほど短期的には安定していることは明らかだが,50人から249人の従業員を雇用する企業の約28%が,今後6か月間の存続に問題があるかもしれないと報告している。これらの企業は,リモートワークが原因で発生しているゲーム制作の不確実性と遅延に苦しんいる。

 夏の間も渡航制限や不確実性が続けば,海外からの専門的な労働者の採用にも影響が出てくる。大手企業でも多かれ少なかれ専門職の人材確保に依存しており,採用の遅れは長期的には苦戦を強いられる可能性がある。


セルフパブリッシング,無料ダウンロードのデベロッパが最も抵抗を受ける


 COVID-19発生時には,約13%のスタジオが「例年よりも好調」と回答し,モバイルゲームデベロッパのほぼ27%,PCゲームデベロッパの18%が,通常よりもビジネスがうまくいっていると回答している。しかし,PCと家庭用ゲーム機の両方のプラットフォームでゲームを開発しているスタジオのうち,COVID-19の発生により状況が改善していると答えたのはわずか6%に留まり,家庭用ゲーム機のみのデベロッパは皆無だった。

欧州ゲームデベロッパ連盟 COO,Jari-Pekka Kaleva氏
EGDFの調査でヨーロッパのスタジオは閉鎖を恐れていることが判明
 今回の発生により,ゲームのダウンロード数が大幅に増加しているとの報告が相次いでいる。EGDFの調査結果によると,とくにモバイル側ではダウンロード数の増加が収益の増加につながっているようだ。

 ゲームデベロッパがパブリッシング契約に依存している家庭用ゲーム機およびPC市場では,今回の大流行はゲームデベロッパにとって大きな課題となっている。家庭用ゲーム機とPCの両方でゲームを開発しているスタジオの約53%が,通常よりも業績が悪化していると報告している。アウトブレイクの悪影響は,PCのみのデベロッパでは 41%と低く,モバイルのみのデベロッパでは27%と大幅に低くなっている。

 モバイル向けゲームデベロッパは,無料でダウンロードできるビジネスモデルを採用していることが多いため,ダウンロード課金型のビジネスモデルを採用しているPC向けゲームデベロッパよりも,ダウンロード数の急激な増加を収益化することに長けていると言えるだろう。さらに,PCや家庭用ゲーム機ゲームのデベロッパは,セルフパブリッシングではなくパブリッシャに依存していることが多く,現在の状況では,主要な業界イベントがすべてキャンセルされるため,パブリッシャとの取引を成立させるのははるかに困難だ。


低い資金燃焼率と公的支援が企業の生き残りを助ける


 EGDFの調査で最も驚いたのは,南欧・西欧のゲームデベロッパが他の地域のデベロッパよりも将来を悲観しているということだ。これは,ヨーロッパの中でもとくに大きな被害を受けた地域であることが一因となっている。さらに,公的支援が不足しているため,たとえばスペインやポルトガルの地元のゲーム開発スタジオは,発生前からすでに存続に苦慮していたという。

公的な緊急融資はすべて,企業が倒産した場合に補助金に転換できるソフトローンにすべきである

 ゲームスタジオが最も安定しているのは,公的支援制度が安定している北欧諸国(デンマークは,60%のスタジオが12か月以上の運営期間があると見積もっている)やフィンランド(同54%)―やブルガリア(57%)やルーマニア(56%)のような東欧諸国― で,ヨーロッパの他の地域に比べて経営の資金燃焼率が低く,グローバルな大手スタジオが長期的な下請け契約を提供している。

 東欧のデベロッパの約11.4%,北欧諸国のデベロッパの約12.5%のみが,今後3か月間に閉鎖を余儀なくされる可能性があると報告しているのに対し,西欧では19%,南欧では24%だった。

 さらに興味深いのは,ドイツが2019年にゲームに対する5000万ドル(約50億円)の公的助成金をベースとした支援策を開始したことで(関連英文記事),自社に7か月から12か月のランウェイがあると見積もっているゲームデベロッパの割合がとくに高かった唯一の国であることだ。これは,公的支援のおかげで,ドイツのスタジオは短期的にはかなりうまくいっていることを示している。しかし,これらの企業が2020年秋の間に投資ラウンドやパブリッシング案件のクロージングを開始できなければ,大きな課題に直面することになる。


地方のゲームスタジオが公的支援を受けて生き残るための5つのステップ


 欧州のほぼすべての国が,ウイルスの発生を乗り越えて生き残りをかけて奮闘している企業のための緊急対策を導入している。EGDFは,EU加盟国が危機を乗り越えてゲーム産業を支援し,危機後の経済再建を図りながらデジタル成長の可能性を最大限に引き出すためのベストプラクティスとして,以下の5つのステップを挙げている。

●より大きな官僚的柔軟性
 企業や団体は,COVID-19のためにキャンセルないし延期されたイベントへの参加費で公的資金の返還を強制されるべきではない。EU加盟国の中には,官僚的な柔軟性のなさだけでゲームデベロッパのスタジオを殺している国もある。

●ゲーム業界への公的支援を継続し,De Minimisの閾値を引き上げる
 EGDFは,欧州各地で導入されているすべての緊急中小企業支援策を歓迎する。しかし,中小企業向けのCOVID-19緊急支援のほとんどがDe Minimis(※細かいことは考慮しない)支援になる。支援を必要とするすべての企業が公的支援を利用できるようにするために,欧州委員会は,De Minimis支援の基準額を 3 年間で20万ドルから40万ドルに引き上げるべきである。

●倒産のためのセーフティネットを導入する
 経済をキックスタートさせる最も簡単な方法の1つは,経験豊富な起業家が最初の破産後すぐに第2ラウンドの起業を開始できるようにすることであり,より成功する可能性が高い。したがって,すべての公的緊急融資は,企業が倒産した場合に助成金に変えることができるソフトローンにすべきであり,少なくとも国の規制に個人破産を導入すべきだ。さらに,今こそスタートアップのインキュベーターを「アンキュベーター」(※uncubater:incubateの語源となるラテン語のcubareは「横たわらせる」の意なので「倒れさせない」者といった感じの造語と思われる)に変えるべきである。― 失敗した起業家が個人的な被害を最小限に抑えて事業を中断し,制御された倒産を可能にするセーフティネットとして機能するよう支援するのだ。

●2020年の後半と2021年の前半の間に貿易ミッションに投資する
 これは,少なくとも最悪の状況を乗り越えて生き残ったスタジオが,ランウェイの終了する前に必要とされる民間投資やパートナーシップを見つけるのに役立つだろう。

●公共のシードファンディングを通じて,ゲーム業界のスタートアップブームをキックスタートさせる
 COVID-19のアウトブレイクが終了したら,民間投資の規模よりもはるかに多くのスタートアップが資金調達を探すことになる。そのため,EUとその加盟国は,国や地域のイノベーション機関が,欧州投資基金(European Investment Fund)や欧州投資銀行(European Investment Bank)とともに,公的な緊急ベンチャーキャピタルファンドを立ち上げることができるような,新しいシード資金調達手段を導入することが非常に重要となる。

 EGDFのWebサイトでは,主要な調査結果を基にしたインフォグラフィックを含めた調査の詳細を確認できる(参考URL)。


Jari-Pekka Kaleva氏はゲーム政策の専門家であり,欧州ゲームデベロッパ連盟(EGDF)の最高執行責任者(COO)であり,Neogames Finlandの上級政策アナリストでもある。10年以上にわたり,ヨーロッパのゲームデベロッパを代表してヨーロッパの政治を追い続けている。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら