「人々が戻ってきて新しいものを買っています― VRではかつてなかったことです」

昨年は次世代のVRハードウェアがもたらされた。そして2020年はソフトウェアで同様な革命が起きるだろうとNdreamsのPatrick O'Luanaigh氏は語る。

 バーチャルリアリティには認識の問題がある。VR市場の再登場を追ってきた人にとっては,それを衰退したトレンドと見なすのは簡単なことだ。結局のところ,我々はこの10年の間,その進歩を分析してきた。

 しかし,その評価には人を惑わすものがある。このサイトには2012年からOculus VRについての記事が掲載されているが,それはまさに長年にわたる約束やアイデアから脱却した始まりのときだった。商業的なリアリティとしてVRが本格的に始まったのは2016年3月,コンシューマ版のOculus Riftが発売されてからだ。私がVRについて書いてきたのは人生のほぼ4分の1になるかもしれないが,ゲームやコンテンツのマーケットプレイスとしては,まだ5年目に入ったばかりである。

 NdreamsのCEOであるPatrick O'Luanaigh氏は,Rift発売前の数年間を「Palmer Luckey時代」と表現している。この時代は、大きな買収(関連英文記事)と「途方もない誇大広告」によって定義された時代で,VR ハードウェアは初日から成功するはずだという永続的な感覚が生まれていた。VRに携わる多くの人々がその誇大広告を生み出して煽る役割を果たしたが,それと同じように,高価で進化する技術はまだ大量に普及させる準備ができていないので辛抱してほしいと諭していた。


「ソニーは,実際にヘッドセットの販売数を発表している数少ない企業の1つです ―それがもどかしいんです」

 O'Luanaigh氏は,Yorkshire Game Festivalでの基調講演後に,GamesIndustry.bizの取材に応じて,次のように振り返っている。「彼らの失敗は,最初に発売されたVRヘッドセットDK1が素晴らしいものではなかったということです。多くの欠陥がありました」

 Ndreamsは,2013年にVRに軸足を移したにもかかわらず,常にゆっくりとした安定した哲学を提唱してきた。O'Luanaigh氏は市場の将来について予想通り熱狂的だが,昨年のOculus Questの発売までは,そのような熱意は希望的観測として見過ごされることが多かったようだ。それ以前の市場では,PlayStation VRは文句なしのサクセスストーリーだった。

 「PlayStation VRは終始,本当によくやってくれました」と氏は語る。「ソニーの販売台数を見ることができますが,同社はヘッドセットの販売台数を実際に発表している数少ない企業の1つです。我々は(市場全体の規模について)かなり正確な社内の推定値を持っていると思っていますが,それがもどかしいんです」

 この不透明さが,VRの認識の問題の中心となっている。市場の大きさが,そこに従事して生計を投じてきた人々にさえも不明瞭な場合,彼らには何を隠しているのか問う権利があるだろう。しかしO'Luanaigh氏にとっては,我々が目にすることができるものだけでも,十分な進歩の証拠を提供しているようだ。ソニーは2019年末にPSVRヘッドセットで500万台の販売を確認しているが,これはVRデベロッパが到達できるオーディエンスのほんの一部にすぎないのだ。

Phantom: Covert OpsはNdreamsの次回作であり,予算と規模の面でステップアップしている
「人々が戻ってきて新しいものを買っています―  VRではかつてなかったことです」

 PSVRは,最も先進的なヘッドセットというわけではなく,モバイル向けに特化して設計されているわけでもないにもかかわらず,このマイルストーンに到達した。PSVRの次期バージョンは市場を大きく後押しする可能性があるが,O'Luanaigh氏は,ソニーは高額な支出をするコアユーザーの反応に十分満足しており,第2版の発売は非常に有利な賭けになると考えている。

 「ソニーは,VRが来年か2年先まで続くのであれば,ハードウェアをアップデートする必要があることを知っていると思います」と氏は語る。「なぜなら,それは時代遅れのものであり,その頃にはさらに時代遅れのものになっているからです。もし彼らがVRのサポートを継続しないとしたら,私は非常に驚きますね」

「私にとってQuestは第2世代のVRです。すべてのワイヤーをなくし,すべての複雑さをなくしています」

 「でも,PlayStation 5と同時に発表されるとは思っていません。今年はビジネスの核心部分に焦点を当てなければなりません。……ですから,今年はPS5の話題で持ちきりになると思います。それが確固たるものになったら,そのときに何をしているのかが分かると思います」

 しかし,新しいハードウェアは常に歓迎されているが,O'Luanaigh氏は,市場全体としてはRift,Vive,PSVRの発売後に続いた「小康状態」を過ぎていると考えている。 ―2016年の必死の半年間で投入されたすべてのものがそうだ。昨年5月のOculus Questの発売ですべてが変わり,一部の人がメインストリームの受け入れに向けたパスであると考える最初のステップとなっている(関連英文記事)。

 「VRを理解するためには試してみる必要があり,Questが登場するまでは ―そしてロケーションベースのエンターテイメントやVRアーケードがオープンするまでは― ほとんどの人は試してみることもできませんでした」とO'Luanaigh氏は続ける。「 (ヘッドセットは)自宅で誰かのPCに有線接続されて,立ち往生していました。世界の大多数の人はまだVRを試したことがありませんが,Questはそれを変えようとしています。デモを行うためのデバイスとしては,はるかに優れています」

Patrick O'Luanaigh氏
「人々が戻ってきて新しいものを買っています―  VRではかつてなかったことです」
 「私にとってQuestは第2世代のVRです。充電して装着するだけで,ワイヤーも複雑さも忘れて,最高です。6自由度の動きができ,適切なハンドトラッキングが可能です。2〜3年後には,これも昔ながらのものになっているでしょう」

 Questの公式な販売数は発表されていないが,VR市場全体を牽引してきたことを示す強い指標がある。Oculusのワイヤレスヘッドセットはほぼ永久に完売しており,無数の開発者からは,以前には不可能と思われた販売マイルストーンのようなものが報告されている。 ― Stress Level ZeroのBoneworksは1週間後に10万本を販売し(参考URL),Superhot VRは2019年のクリスマスに7日間で200万ドルを稼いでいる(参考URL)。

 「我々が知っているデベロッパによると(Questでゲームを出している),クリスマスの間の数字は驚異的だったそうです」とO'Luanaigh氏は語る。「彼らから聞いた話では,本当にうまくいっているということです。人々は戻ってきて,またプレイし,新しいものを購入しています。― これまでVRでは起こり得なかったことです。Job Simulatorはうまくいきましたし,Beat Saberもうまくいきましたが,そういうのは多くはありませんでした」

 O'Luanaigh氏は付け加えた「あなたが賢くて,人々が好む楽しいゲームを持っているなら,今すぐにでもお金を稼げる可能性があります」


「人々は戻ってきて,またプレイして,新しいものを買っています ― これまでVRでは起こり得なかったことです」

 Ndreams は,まだ Oculus Quest 向けの製品を発表していないが,その最初の製品は,スタジオの歴史の中で最も野心的な VR ゲームになるだろう。Phantom: Covert Opsは,Yorkshire Games Festivalで行われたO'Luanaigh氏の基調講演の中で,VR向けに作られる,より野心的なゲームの波の一部であるとまとめていた。2019年がハードウェアが新たなレベルに達した年であったとすれば,2020年にはソフトウェアが,VR空間はデモのように感じられる短くて極小のゲームで構成されているというアイデアに挑戦することになるだろう。

 O'Luanaigh氏は,これらはより大きな賭けだと語るが,現在の市場の規模と構造は,無責任にリスクを冒すものではないことを意味している。

 「Oculus Studiosがサポートしてくれているという点ではラッキーです」と氏は語る。Oculusの独占タイトルとなるPhantom: Covert Opsについて,氏は次のように述べていた。「しかし,これはQuestとRift用で,うまくやれば非常に人気のあるジャンルです。 ― 去年のE3で多くの賞を受賞たことがとても役に立っています」

Half-Life.Alyxは,新しいプレイヤーをこのゲームに呼び込むことができるだろ。AlyxはVRに新しいプレイヤーを呼び込み,野心的なゲームのためのより大きな市場を創造する
「人々が戻ってきて新しいものを買っています―  VRではかつてなかったことです」

 「リスクは常にありますが,我々にとっては大したことではありません。我々は,ゲームを売ることだけですべての収入をまかなっているのではないという立場にいます。新しいハードをプッシュするために,いくつかのハード会社からサポートを受けています。それがリスクを軽減するのに役立っています」

 Phantom: Covert Opsはある程度,先月発売されて大好評を博したHalf-Life:Alyx(関連記事)やRespawn Entertainmentが近日発売予定のMedal of Honor: Above and Beyond VRと似たような目標を掲げている。いずれも,規模と生産価値の水準を上げることでVRソフトウェア市場を揺さぶろうとする意識的な試みである。

「VRには1億ドルを費やすに足るインストールベースが必要です……,でももうすぐそこまで来ています」

 Valveは,予算やビジョンを制限する必要性がないためにそうした。 ― 他のスタジオが持っていない贅沢だ ― しかし,O'Luanaigh氏は,十分に市場に密接して,大規模なゲームへの欲求がエスカレートしているのを見極めてきた。もしHalf-Life: Alyxが成功すれば,AAA製品への食欲を刺激し,エコシステムに新たなプレイヤーを呼び込むことになるだろう。

 「英国の全機種のランキングでVRゲームがトップになることはあるのでしょうか? Blood and Truthは1位になりました。どんなゲームでも100万本以上売れるでしょうか? Beat Saberは200万本です。マイルストーンがどんどん近づいてきています」

 「競争するのはまだ早すぎます。より多くの人にVRをプレイしてもらう必要がありますが,人々はVRゲームに何を求めているのでしょうか? Red Dead RedemptionをVRでプレイしたい, Grand Theft Autoをプレイしたい,Call of Duty をプレイしたいなど,自分たちが大好きな大作ゲームをプレイしたいと思っています」

 「現在,これらのすべてが当てはまるわけではありませんが,その規模,ゲームの大きさ,品質,予算が求められています。VRでは1億ドルの投資を正当化するのに十分な普及台数が必要です。しかし,それは実現しつつあります」

 「Half-Life: Alyxがその良い例です。他にもAsgard's Wrathというゲームがありましたが,これは2000万ドル以上の予算があると思われます。Blood and Truthは2000万ドル以上でないと無理です。今,VRでは本当に大きな賭けが行われていて,今年はもっと多くの発表があると思います」

 「人々は常にゲームが大きくなっていくのを見たいと思っていて,良いニュースは,それが確実に起こっていることです」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら