ボーナス:ゲーム業界が2番めに好むサプライズの仕組み

開発者は大金を期待して極限まで追い込むことができるが,成功が報われる保証はない。

 私が子供の頃,学校から病気で家に帰ってきたとき,Monty Hall氏がホストを務めるテレビ番組「Let's Make a Deal」をよく見ていた。

 その番組では,Hall氏がスタジオの観客の中から出場者を選び,人生を変えるような金額ではなく,役に立つ程度の金額を与えていた。それから,彼は謎のボックスまたは閉じたカーテンに向かってジェスチャーをして,取引を持ち掛ける。彼らがすでに受け取ったお金と,そのカーテンの後ろにあるものを交換しようというのだ。出場者が決定をしたあと,隠された賞品が明らかにされる。こちらが,その番組がどのように行われていたかの例だ。

 人々が全費用支払い済みのバカンスや新車を獲得するのを見て興奮するのと同様に,ショーの楽しみの半分は,誰かが確実なものを捨てて貪欲の餌食になり,パンケーキの皿しか入ってない箱や,カーテンの裏に生きているヤギがいるだけなのを見ることだった。

 番組が出場者の不幸を喜んだとしても,ほとんどの人が幸せな気持ちで帰宅していた。出場者は常に少なくとも,少しは利益を上げており(ブービーの賞品は通常,慰労賞やそれなりの現金と交換されていた),何人の出場者が正しい選択をしても,ショーの運営者は楽しませてくれて,利益のある商品を手に入れることができていた。

 私が最初にサプライズの仕組みに触れたのは,それがきっかけだった。これはLoot Boxのように聞こえるかもしれないが,よりタイムリーな類似物は開発者のボーナスだろう。

 これらの間には1つのはっきりした違いがある。Let's Make A Dealの参加者がミステリーボックスの中に腐ったカブなどを発見しても,ほとんどはかなり温厚でいたのだが,失ったものが1分前に与えられたものではなく,何か月も何年もかけて計画し,自分で推し進めていたものだったとしたら,もっと問題になるだろう。

Borderlands 3はヒットしたが,開発者は期待していたボーナスを得られていない
ボーナス:ゲーム業界が2番めに好むサプライズの仕組み

 今週Kotakuが報じた「Borderlands 3」スタジオが開発者に6桁もの高額なボーナスを支払うという約束を破ったとの報道によると,Gearbox Softwareの従業員は,それを証明しているかもしれない。

 スタジオは今週,従業員に「Borderlands 3」が予想以上にコストがかかり,予想以上に売れなかったこと,そしてスタジオが大きく成長し,ケベック州に2つ目の拠点を開設したことを理由に,ボーナスが大幅に少なくなることを覚悟するようにと伝えたと報じられている。スタジオが期待していたほどの収益を上げられなかったのが,これらすべての理由なのだが,その責任はボーナスが削減された従業員よりも上のレベルにあると言っても問題ないだろう。

 ゲーム業界はこの種の論争に慣れ親しんでいる。なぜなら,ボーナスは開発者にとっては魅力的なものであり,雇用者にとっては搾取可能なものだからだ。Gearboxを見ると,十数人の現役スタッフと元スタッフがKotakuに語ったところでは,スタジオは平均以下の給料を支払っているが,ヒットしたときには大きなボーナスが出る可能性があるとのこと,彼らは「Borderlands 2」のボーナスが期待通りだったと指摘している。しかし,それ以外の過去10年間のスタジオの主要作品,―Duke Nukem Forever, Aliens: Colonial Marines, Borderlands: The Pre-Sequel, and Battleborn など,ボーナスを期待するような作品はあまりなかった。発売から数か月で800万本近く売れたBorderlands 3のような大ヒット作でさえ,臨時収入を期待していた開発者にとっては,苦い失望となっている。

 ボーナス計画は,開発者に最高の仕事をさせるためのインセンティブとして,目の前にぶら下げられたニンジンだ。しかし,ボーナス制度は,開発者に低賃金を受け入れさせたり,長時間労働をさせたり,他の方法よりも多くのことを我慢させたり,自分のために働いていない仕事に留まるように説得したりするために使われることもある。

「雇用主は,大きな給料日の約束が彼らへの影響力を与え,実際にボーナスを支払うことはその影響力を放棄することだと知っている」

 Rockstarの開発者とクランチの問題について話す中で(関連英文記事),繰り返し聞いたことの1つに,ボーナスが会社の虐待的な労働文化を強制するうえで重要な役割を果たしていたという話があった。ボーナスチェックでボートやその他のステータスシンボルを購入した従業員の話もあったが,ボーナススキームは報酬だけでなく罰としても利用される可能性があったのだ。

 「時間をかけて働かなければ,解雇されたり,年末の昇給やボーナスに影響が出て,キャリアアップにも影響が出るという考えが常にありました」と,元ロックスターNYCの従業員は語っている。

 雇用主は,高額な報酬が約束されていることで彼らに影響力を与え,実際にボーナスを支払うことでその影響力を放棄してしまうことを知っている。そのため,2010年には,過去と現在のInfinity Wardの従業員38人がActivisionを訴え(関連英文記事),パブリッシャは5400万ドルの支払い義務があり,Modern Warfare 3が完成するまでModern Warfare 2のボーナスの支払いを人質にしていたと述べた。

 Modern Warfare 2は2009年11月に発売され,大成功を収めた。Modern Warfare 3は最終的に2011年11月に発売されたため,表向きはModern Warfare 2での仕事に報いるために作られたボーナスは,ゲームの売り上げが記録を更新してから丸2年間は支払われなかった(関連英文記事)。仮にActivisionがその期間内にModern Warfare 2のボーナスを最終的に支払ったとしても,Modern Warfare 3のボーナスは開発者の頭を抑えて次のゲームへの意欲を失わないようにするためのものである。

Modern Warfare 2のロイヤリティに関するActivisionの方針? 急がないだ
ボーナス:ゲーム業界が2番めに好むサプライズの仕組み

 これはModern Warfare 2のボーナスを巡ってActivisionが直面していた2件めの訴訟で,Infinity Wardの共同設立者であるJason West氏とVince Zampella氏もまた,Activisionが彼らにロイヤリティを支払う代わりに,捏造した理由で彼らを解雇することを選択したと述べ,3600万ドルを求めてパブリッシャを提訴していた(関連英文記事)。

 Activisionは最終的に,これらの訴訟の法的プロセスの途中で原告に4200万ドルを支払い(関連英文記事),その後,最終的な契約の詳細については明らかにしないまま,原告たちと和解した(関連英文記事)。

 しかし,ボーナスの魅力は強力なので,ボーナスの支払いに消極的なActivisionの姿勢をめぐって激しく争われている訴訟の最中でも,Activisionはニンジンをぶら下げていた。この2つの訴訟の間に,Activisionのコミュニティサイト編集者Dan Amrich 氏は「Gamers Against Bobby Kotick and Activision」と題したFacebookページで,West氏とZampella氏には確かに「非常に大きなボーナス」が支払われており,それがInfinity Wardの残りの従業員に再分配されることになっていると述べている(関連英文記事)。

 「Activisionはそのボーナスを着服していません」とAmrich氏は述べている。「Activisionはボーナスを着服していません。でもIWで働かないとそれはもらえません。お分かりですか?」

 (奇妙なことに,それは同時にInfinity Wardの開発者に,

a) Modern Warfare 3が出荷される2年後に給料をもらえるようになるまで粘り強く働き続け
b) ボーナスの自分の取り分を増やすために同僚に辞めるよう,説得に時間を費やす

というインセンティブを与えたのだ)

 Infinity Wardの大失敗の1年前,MidwayのMortal Kombat vs DC Universeの開発者たちは,ヒット作を出したにも関わらず,ロイヤリティが支払われないという似たような問題を抱えていた。今回の問題は,雇用主のMidwayが彼らに支払いたくなかったからではなく,Midwayが破産し,その債権者がパブリッシャにボーナスを払わせてくれなかったからだった(関連英文記事)。そのゲームを作ったスタジオ(現在はNetherRealmとして知られている)は長年の間,過剰なクランチで知られていたので(関連英文記事),疲れ果てた開発者の多くに怪我をさせてしまったようだ。

更新:発表後,ボーナスが保留されていたMidwayの元開発者から連絡があり,最終的にはスタジオの新しい親会社であるWarner Bros. がスタッフにボーナスを支給したとのこと。

 その1年前には,板垣伴信氏がテクモと不仲になり,デッド オア アライブとニンジャガイデンのパブリッシャを辞め,未払いのボーナスをめぐって1億4800万円(142万ドル)の支払いを求めて同社を訴えている(関連英文記事)。

 そして,これはどれも,パブリッシャがクリエイティブの会計を通じてボーナスを抑制する可能性にさえ入っていない。 ― ViacomがHarmonixへの業績に関連した支払いで3億8300万ドルから逃れようとしたように(関連英文記事) ― あるいは,開発者がMetacriticのスコアに結び付けられたボーナスで抱えていた問題のように(関連英文記事)。

 ボーナスが悪い考えだと言っているわけではない。結局のところ,ゲームを実際に作っている人たちはその成功を分かち合うべきであり,可変ボーナス (利益分配,ロイヤリティの支払い,その他の方法によるものかどうかに関わらず) は多くのビジネスの基本的な部分だ。しかし,開発者は,ボーナス制度の最終的な目標は,お金を公平に分配することではなく,従業員を一生懸命,長く働かせることで,雇用者にとってより多くのお金を得ることであることを理解すべきだ。

 あまりにも大雑把な言い方をすると,企業はお金が好きなのだ。そして,お金を手放す必要があればあるほど,手放さない理由を見つけなければならないというインセンティブが強くなる。ここではいくつかの例を取り上げてきたが,この最新の Gearbox のケースを除いて,これらの話はすべて訴訟によって明るみに出たものだということは注目に値する。

 しかし,どのくらいの開発者が自分の苦情を法廷に出さないことを選ぶだろうか? 数千ドルのために現在の雇用主を訴えないことを決定する人はどれくらいいるだろうか? 裁判にはお金がかかり,結果は不確実え,会社には自分自身を守るためのより多くのリソースがある。それは,おそらくあなたの現在の仕事を終わらせるだけでなく,身元調査で雇用主を訴える傾向を発見した将来の雇用主との仕事を得る可能性を傷つけることになるだろう。彼らは不安定な雇用で知られた小さな業界で働いているので,どれだけ多くの開発者が,彼らの価値よりも少ない金額を受け入れることを余儀なくされていると感じているのだろうか? この業界では,企業から搾取されたり,ボーナスを徴収されたりしている企業の話があと何件あるだろうか?

 あなたの答えは,平均的なゲーム業界のスタジオが公正に事業を行うことをどれだけ信頼しているかによって大きく左右されるだろう。しかし,上記のようなケースは極端な例外だと思っていても,人々がボーナス制度で取るリスクには根本的な不均衡がある。

 従業員にとっては,ボーナスは投機的なものであり,自分が影響力を持てない要因に基づいている。しかし,雇用者にとっては,ボーナス制度がもたらす効果のほうがはるかに信頼性が高い。プロジェクトが失敗しても,ヒットしても,企業はすでにボーナス制度の恩恵を受けているが,従業員はより一層努力し,より多くのことを我慢し,箱の中やカーテンの裏に何があるのかを知るためだけに,より長く働き続けているのだ。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら