「Half-Life:Alyx」海外評価のまとめ

批評家たちは「Half-Life」の恐ろしいほどの触覚と見事なまでの再現性を称賛している― が,次作まで13年かかるのだろうか。

 現状のところ,2020年について何が言えるかというと,ビデオゲームのリリーススケジュールはその休眠期から見事に脱却している。Moon Studiosの「Ori and the Will of the Wisps」,id Softwareの「Doom Eternal」,そして任天堂の「どうぶつの森」は,それぞれのジャンルで高い評価を得ている。

 昨日はその中でもおそらく最大のものがもたらされた。Half-Life:AlyxはValveを代表するシリーズゲームの2007年以降で久々の新作であり,それ以来13年の間,文字どおり毎日のようにこのゲームが求められていたと言っても過言ではなかった。バーチャルリアリティ専用タイトルであることと,タイトルに「3」がないことは大きな注意点だが,それはHalf-Lifeをやめることにはなならない。Alyxが非常に大きな話題になることは間違いない。

 とはいえ,VR専用であることはゲームに到達できる人数を厳しく制限するだろう(関連英文記事)。VR市場は,主要な関係者が何年にもわたって地道な努力をしてきたにもかかわらず,いまだにニッチな市場であり,Half-Lifeの新作を10年以上待ち望んできたファンたちは,このような高額な参入費用がかかる小さな市場でしか手に入らないことに満足しているわけではない。

「これはHalf-Life 2の物理学における革命の自然な結末のように感じます」-Rock Paper Shotgun

 この失望感は,「Valve は売り上げを気にしていない」という議論で否定されているが,その論理はここまでしか通用しない。シアトルを拠点とする同社が,利益を上げる必要はもちろんないのだが,ビジネスの基盤となったユーザーへのサービスにもう少し気を配るべきだという主張もある。Valveは結局のところ,Half-Lifeを中心に結成され,SteamはHalf-Life 2を通じて設立された。

 昨日公開されたインタビューの中で(関連英文記事),ValveのSean Vanaman氏は次のように語っていた。「ファンが大切にしているシリーズを人質にすることでファンを追い詰めて,(Valve Index の)購入に追い込んでいると感じられないようにすることが,我々にとって非常に重要でした」と語っている。このような認識はValveの開発者の手に負えないものだが,少なくともHalf-Life.Alyxの開発者は,そういった認識を持っていたようだ。しかしHalf-Life: Alyxでは,VRがシリーズを前進させるためには不可欠であるという説得力のある主張をしている。

 Rock Paper ShotgunのGraham Smith氏は,「Half-Life: Alyx」は説得力のある作品だという(参考URL)。Alyxでは,シリーズを象徴する敵の1人との最初の出会いの瞬間からVRの説得力が感じられると主張している。

この,遠くの物体を拾って調べることができる「グラビティグローブ」は,このゲームの醍醐味の1つだ
「Half-Life:Alyx」海外評価のまとめ

 「VRは他のゲームでは味わえないスケール感を伝えてくれますので,建設中のシタデルを見上げると,うずうずしました。また,餃子を求めて荒ぶる箸のように,針のような鋭い足で屋根の上を這いずり回る Striders の威圧的な大きさと器用さには,まったく新しい評価をすることができました」と Smith 氏は語っている。

 VR の最も明白なインパクトは,非常に大きなものだけでなく,細かい部分にも見られる。モーションコントローラ,とくに Valve Index用のモーション コントローラは,手や指でのトラッキングの忠実度が他に類を見ないほど高いため,ユーザーは手を伸ばして自然な方法で仮想オブジェクトと対話することができる。Valveがこれらのオブジェクトに配慮していることと,ゲーム内を探索する際の一瞬一瞬の満足感の両方については,どの評論家も称賛の声を上げていた。

 「それを助けるために,Russellsというグラビティグローブがあります。これはValveの設計技術の好例です。反転してキャッチすることは,すぐに自然にできるようになりますが,Russellsは毎回満足して使用することができ,家庭用VRのセットアップにおける移動やプレイスペースの制約に関する問題を解決してくれます」とSmith氏は述べている。

「Half-Life:Alyxはオープンスペースに行くたびに,どんどん敵を投げつけてきます」-Kotaku

 「これは,Half-Life 2 での物理学の革命の自然な結末のように感じられます。このゲームでは,Kleinerの研究室のような設定が導入され,プレイヤーは棚の中を歩き回ったり,当時としては前例のない方法でオブジェクトや機械をいじったりすることが奨励されていました。HL:Aはこの点を極限まで追求しています」

 「敵を撃つ,機械をハッキングして修理する,食器棚をあちこちいじくり回すという3つのことを主に行うことになりますが,街の工場や蒸留所,アパートの中を移動していくうちに,Alyx Vanceはとてもお腹を空かせた請負業者だと思うようになりました。配線を直して,何か食べようと戸棚を探しても,散弾銃の薬莢と弾薬クリップしか見つからないのです」

 このような細部へのこだわりは戦闘にも適用されており,各銃器には従来の一人称視点のシューティングゲームではほとんど見られなかったようなインタラクションが必要となる。Polyonの Ben Kuchera氏がレビューの中で述べているように(参考URL),プレイヤーに「複数の可動部を持つ何かを扱っている」ということを認識させる効果があるのだ。

 「しかし,それは負担になるほど複雑ではありません。最初に与えられる武器であるハンドガンが良い例です。これを使うには,バックパックからマガジンを取り出してグリップに叩きつけ,スライドを引いて弾を入れなければなりません」

 「リロードは,ボタンを押して消耗したマガジンを地面に落とし,上記と同じ動作を繰り返すことで行われます。簡単なように聞こえますが,ちょっと考えてみてください。積み上げられた円筒状のブロックの後ろでしゃがみ,周囲の環境から自分に向かってマガジンを取り出して装填し,弾を装填して,物理的に立ち上がって頭の上を弾丸が飛び交う中で応戦する……。これはアクション映画のようなワークアウトであり,見つけた他の武器も,この基本的な方式のバリエーションとなります」

戦闘システムは正確で触覚的なものになっているが,大量の敵には圧倒されることがある
「Half-Life:Alyx」海外評価のまとめ

 「Valve のHalf-Life: Alyx 開発者は,その技術に精通しています。彼らはアイデアを導入し,プレッシャーをかけずにそのアイデアで遊ぶ時間と機会をプレイヤーに与え,プレッシャーが高まるにつれて,その熟練度を試さなければならない状況に置いていくのです」

 Kuchera氏にとって,戦闘シナリオの難易度がエスカレートしていくのは「巧妙に処理されている」とのことだが,すべての批評家が同意したわけではなかった。KotakuのNathan Grayson氏は,Valveが実現したことに概ね感銘を受けている一方で,ゲームのパズルと戦闘の両方について,「VRは没入感を高めるというよりもむしろ障害になってしまいます」と語っている(参考URL)。

 「VR シューティング ギャラリーではなく,きちんとした一人称視点のシューティング ゲームに感じられるようとしていますがて,Half-Life:Alyx は,より多くのことを投げかけています。Alyxは,オープンスペースに入るたびに,たくさんの敵を投げつけてきます。これらの敵は標準的なFPSの悪役と比べると確かに静止していますが,あなたを追いかけてきたり,側面から攻撃してきたり,手榴弾を投げてカバーの外に追い出したり,マンハックを送ってきてあなたを追い詰めてきたりします」

「Alyxは,Ravenholmのファンボーイが集まって,それをフルゲームにするとはどういうことかを考えた結果のような気がします」-Vice

 「最初はワクワクしますが……,しかし,これらの戦いはすぐに「Ring Around The Rosie(※日本でいう「かごめかごめ」)」のような不器用なゲームへと変化していきます。停止開始のワープコントロールと,ぎこちないアナログスティックベースの旋回を使って戦闘エリア内を逃げ回り,ときおり敵を爆破してから近距離テレポートのスプリントで新しいカバーに戻るというものです。その種の持続的な運動量や状況認識は理想的な制御構成とは言えません。テンポの速い戦闘シナリオでは自然には感じられません」

 しかし ほとんどの部分では,Half-Life: Alyxはアクションよりもホラーに傾いている。数多くのレビューでシリーズの前作からのトーンシフトが指摘されているが,ViceのPatrick Klepek氏ほど分かりやすくこのことを述べている人はいない(参考URL)。「Alyxで,本質的にValveがホラーゲームを作っているとは予想してもいませんでした。凄く怖いですよ」

 「ヘッドクラブがまた怖いんです,これは小宇宙でAlyxが働いている理由ですね」とKlepek氏は書いている。「このゲームはゆっくりとしたペースで,各エリアを根気よく計画的に進むことが求められており,戦闘は威圧感とスリルが等しくなっています。グロテスクなホラーや兵士などの敵が出てきそうなエリアに入る前には,心臓がバクバクして深呼吸をしたことも何度もありました」

 「ここで1つだけ強調しておきたいのは,これは何よりもホラーゲームだということです。太陽の下で人型コンバインの敵と戦う場面もありますが,Alyxの大部分は未知の恐怖との戦いと回避に費やされます。バイオハザード7以来の注目度の高いホラーゲームで,私は大好きなゲームだったのですが,Valveがどこまでこれに傾いているのか,きちんと告知しているかどうかは分かりません。Alyxは,Ravenholmのファンボーイたちが集まって,それを使ってフルゲームを作るとはどういうことなのかと考えた結果のような気がします」

これまでのどのHalf-Lifeゲームよりも,Alyxはホラー要素に強く傾いている
「Half-Life:Alyx」海外評価のまとめ

 Klepek氏はこの評価を賞賛として提供しているが,このような強烈な体験は万人受けするものではないと考えるのが妥当だろう。しかし,その主観的な挑戦がHalf-Life: Alyxの達成感を低くしているわけではなく,シリーズのどのゲームよりも良い終わり方をしていると言えるだろう。PC GamerのChristopher Livingstone氏は,以前は一度に30分間しかVRを使用したことがなかったそうだが,今回は最後の3時間を一気にプレイしたという(参考URL)。

 「乗り物酔いはしませんが,一般的にはVRに飽きます。プラスチックの塊が顔に固定されていることに疲れ,立ち仕事をして身をかがめ,不器用に手を伸ばさなければならないことに疲れ,携帯電話をチェックしたり,コーヒーを一口飲んだりすることができないことに疲れています。しかし,Half-Lifeの最終章の間,私は休みませんでしたし,休もうとも思いませんでした。Alyxの最終章の間は,休憩を取らず,取りたくもなかったのです。疲れてはいませんでした。完全に夢中になり,プレイをやめたくなかったのです」

 PCGamesNのDustin Bailey氏は,このゲームの最終レベルが 「驚異的なもの」であることを発見し,エンディングが 「Half-Lifeの世界を再び新たな物語へと切り開いていくために,とんでもないことをしている」ことから,やや無謀な結論を導き出している(参考URL)。

 「最後には,Valve が肩を掴んで『もっとHalf-Lifeのゲームを作るぞ!』と叫んでいるような気分になります」と Bailey氏は語っている。

 この楽観論は多くのレビューに見られるが,13年間もValveに「Half-Life」をもっと作って欲しいと懇願してきたのに,ニッチなプラットフォーム向けの(明らかに素晴らしい)独占タイトルが与えられただけであり,同社がシリーズの将来をどう見ているのかは不明である。おそらくRock Paper ShotgunのGraham Smith氏は,白熱したレビューの中で少し憂鬱な別れの言葉で最高の表現をしていたのではないだろうか。

 「しかし,とにかくValveにどのような形であれ,Half-Lifeをもっと出してほしいと切望しています。このゲームのスリリングで,ネタバレしない,待ちきれない,話したくなるような結末に到達してから約3時間後,あることを思いました」

 「願わくば,シリーズが再び戻ってくるまでに,脳内コンピュータインタフェースの登場を待つ必要がありませんように」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら