【月間総括】消えたNintendo Switch。第3四半期決算と気になる新型肺炎について
ゲーム機は,任天堂,ソニーともに中国生産の比率が高い。その結果,最初に影響が出たのがNintendo Switchである。任天堂は,2月6日にSwitchと「リングフィットアドベンチャー」の生産・出荷に影響が生じると発表した(参考URL)。
その後,店頭からSwitchの姿がほぼ消える事態となっている。一方,米国や欧州ではまだ,品薄になっていないようである。
これは,生産から店頭までの輸送時間の差によるものである。任天堂の説明によると,ゲーム機は船便で運ばれており,工場から小売店までに要する時間は日本が2週間程度,米国は西海岸まで1か月以上,さらにフロリダまでは陸送なのでさらに時間がかかり,欧州はスエズ運河経由で輸送するため,アメリカ以上に時間を要する。
前回も述べたように,年末年始商戦はSwitchの販売が非常に好調だった。年明け後も8万台を超える週間販売が継続しており,任天堂の在庫も少ない状況だったと推測される。実際,同社の在庫(たな卸資産)は前年度第3四半期末の1818億円→今第3四半期末の1001億円と大幅に減少している。
おそらく,Switchは製造から販売までのリードタイムが短い状態になっていたと推測され,新型肺炎の影響で,企業の活動が2月9日まで停止されたことで,即刻,品薄につながったということであろう。
一方,海外では,3月末までの必要量が1月末までに出荷済みで,現在は洋上在庫として輸送中であり,順次到着する見通しであることから,品薄との話が出てこないわけである。
なお,任天堂は昨年からSwitchをベトナムでも生産している。ならば,ベトナムで生産すればいいのではないか? と思われるかもしれない。ところが,現時点ではベトナムで組み立てはできても,重要部品のいくつかは中国でしか生産できないものがある。2月10日以降も多くの工場労働者が春節に伴う帰省から戻れず,稼働率はそれほど高くないと見られる状況にあるので,ベトナムにおいても,生産量は相当限られてしまうのである。
そして,このことは一般的な話でありSwitchに限ったものではないが,通常停止した生産ラインを再稼働し,フル生産にするには一定の時間が必要である。Switchの品薄解消には今しばらく時間が必要となるだろう。
なお,PlayStation 4についても,製造の状況は大差ないようだ。ソニーに対するヒアリングでは,ライフサイクル末期で需要が極端に落ち込んでいることもあり,当面は問題ないとしている。それでも,新型肺炎が長期化すると電子機器生産への大きな影響は避けられず,PlayStation 5やXbox Series Xの発売にも響きかねない。エース経済研究所としても,一刻も早い終息を願うばかりである。
では,第3四半期の決算の話に入ろう。まずはソニーからである。ソニーのゲーム事業は大幅な減収減益だった。ソニーの説明によると,PS4ハードウェアの落ち込み(2018年度3Q 810万台→2019年度3Q 610万台),F2Pタイトル(フォートナイトのことを指していると推測)の落ち込みが要因としている。
エース経済研究所では,PS4の売上(着荷)台数を590万台と予想していたので,予想よりは良かったものの,この差の過半は日本でのPS4シリーズの1万円値下げによるもので説明が付くと考えている(業績予想上は前年度と同じ5000円の値下げを前提としていた)。なお,自社タイトルの新作は良くなかったものの,過去作のダウンロード販売などが好調で想定通りだったとしている。
PS4の販売の落ち込みは,一般的には「PS5が登場するとアナウンスされたこと」が背景にあると考えられているが,エース経済研究所では,世代を経るごとにマイナーチェンジを行う回数が減っていることが,販売鈍化の遠因と考えている。
2020年度の販売台数は前回も書いた通り600万台と予想している。「FF7R」などの有力タイトルが予定されているものの,ソフトウェアではハード販売の牽引効果は限定的と見ており,マイナーチェンジも期待しにくいためだ。そして,前回の繰り返しになるが,PS4の販売落ち込みはPS5に対する期待を著しく高めることになるだろう。
次は,任天堂である。第3四半期決算は,Switchシリーズの販売が非常に好調で1082万台と,エース経済研究所の予想950万台〜1000万台を大幅に上回った。
この要因は,Switch Liteにある。国内ではそれほど強いとの印象がないSwitch Liteだが,米国で販売を伸ばしているのである。
すでに,前回の決算説明会時に古川社長が認めていたプレイスタイルの変化が影響しているようである。今回の経営方針説明会でも,宮本フェロー,塩田取締役共に,プレイスタイルの変化については肯定的な回答であった。
この米国で起こったゲーム専用機ソフトは,「リビングの大画面で見るだけで無く,ソファーやベッドでも楽しめる」への変化が今後のゲーム機ビジネスにどのような状況を生むのか非常に興味深い。今後も注視したい。
そして,発売からの12四半期累計時点の販売(着荷)台数は再びPS4を上回った。PS4が累計で1億台を超えていることを考えると,Switchも,それが十分ターゲットに入っていると考えている。実現は,マイナーチェンジ次第だろう。今回の経営方針説明会では,2020年には新型の発売を予定していないとわざわざ発表した。ということは,来年以降については想定しているのだと考えられる。
●発売から12四半期累計の販売(着荷)台数推移)
まだ,マイナーチェンジされたSwitchがどのようなゲーム機になるかは分からないが,ぜひ,デザイン面でも差別化して欲しいものである。
これまでのSwitchと違うと認識されれば,販売により良い結果を生むだろう。
来月は,DeNAの巨額減損損失について触れたい。
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