メタバースを作成する際に「悪魔は細部に潜む」

Novaquarkのユーザークリエイト型MMO Dual Universeの壮大な野望は明らかだが,まだ詳細の多くが未確定だ。

 今日はDual Universeのα3テスト期間の開始に注目したい。―このMMOはデベロッパNovaquarkが6年間作業しているが,まだ道は半ばだ。11月のMontreal International Gaming SummitでのGamesIndustry.bizとのインタビューで,Novaquarkの創設者Jean-Christoph Baillie氏は,まだ確定していないゲームの要素がたくさんあることをあっさり認めていた。

 Dual Universeが秘めた野心の大きさを考えると,これは期待せざるをえない。ゲームのWebサイトは,文明構築MMOと銘打っており「広大な完全に編集可能なSF宇宙で行われる,連続した単一サンドボックス空間でのMMORPG。プレイヤー主導のゲーム内経済,政治, 貿易, 戦争といった創発的なゲームプレイに焦点を当てている」としている。Baillie氏は,MinecraftやEve Onlineのようなゲームを挙げながら,Dual Universeが意図しているものを説明するが,ゲームの名前によって暗示されるさらに大きな目標は,メタバースのコンセプトのように聞こえる。メタバースは,多くの開発者が実現しようとしてきたが,成功の度合いはさまざまだった。


 「これは昔からある伝統的なアイデアです。私はSFで見たことがあります」とBaillie氏は認める。「これは新しいアイデアではありません。しかし,この作品を作るうえで中心的なものの1つはテクノロジーです。6年が経っています。我々が開発した技術は,完全にクレイジーな複雑さを持っています。我々は数年前から最高の独創的な博士号を持っています。私は誰もそれを行うことはできませんと言っているわけではありませんが,それはあなたがガレージで2日間でできるようなものではありません。本当に複雑です」

「これはSFに昔からある伝統的なものです。これは新しいアイデアではありません。しかし,この作品を作るうえで中心的なものの1つはテクノロジーです」

 Baillie氏は,過去の開発者がどんなに優秀であったとしても,このメタバースのビジョンを実現するには,ブロードバンド接続や強力なクライアントPCなど,今日のインフラが必要だったと付け加えている。最後に,氏はSecondLifeのようなコンセプトの以前の実験は,より魅力的な方向に焦点を当てられていた可能性があることを示唆した。

 「悪魔は細部に潜んでいます」とBaillie氏は語る。「SecondLifeが取った特定の方向性は興味深いものでした ― 誰もそれが成功だったことを否定できません ― しかし,問題はそれがゲームではなかったことです。だから,本当に楽しいものではありませんでした。それは3DのWebブラウザのようなものですが,当時は凄いものでした。我々はそれを楽しいゲームにしたいという考えから始めています。だから我々はエンターテイメントに焦点を当てています。それがメタバースを始めるうえでの主な目標です」

 宇宙全体を構築するには明らかに多くの作業が必要だが,Novaquarkはユーザーに助けを求めている。Dual Universeは,ユーザーが生成したコンテンツに大きく依存している。Baillie氏は,デベロッパが作成した新規プレイヤー導入用の入門エリアのようなコンテンツもあると述べているが,開発チームの焦点はそこではない。代わりに,ユーザーが住みたい宇宙を作るためのツールやシステムを設計している。氏は,プレイヤーベースの約5%が,船や建物から企業や国まで,コンテンツの作成に専念し,残りの95%にやるべきことを与えるだろうと見積もっている。

Dual Universeのプレイヤーは,企業から彼らが指揮する艦隊まですべてを作成することができる
メタバースを作成する際に「悪魔は細部に潜む」

 「我々は彼らにツールを提供して,ゲームで伝統的にクエストと呼ばれているものを作れるようにします」とBaillie氏は語る。「我々は基本的にそれをジョブと呼んでいます。彼らはジョブを公開します。『鉱夫を探しています。防衛戦闘機を飛ばすためにパイロットを探しています。何かを管理する人を探しています』。彼らは必要なものを公開するでしょう,そして,彼らは新しいプレイヤーを引き付けるために求人に行くでしょう。そして,『私たちと一緒に来てください。船を与えてあなたを訓練するつもりです』などと語るのです」

 Baillie氏は,平均的なDual Universeプレイヤーにとって瞬間的なゲームプレイがどうなるかは確信が持てないが,それは新興サンドボックスの性質だと語る。コンテンツを作る5%の人が,他の95%の人が消費するコンテンツを作成するとなると,氏は,プレイヤーのクリティカルマス(※成功に必要な限界量)を獲得することが鍵だと信じている。そのため,Baillie氏はゲームのシングルシャードアプローチが不可欠であると述べているのだ。プレイヤー人口を分割すると,クリティカルマスに到達できず,プレイヤーがあらゆる分野に特化して,素晴らしい経験を生み出すことが難しくなる。

 当然のことながら,これは,予測不可能なプレイヤーとその創造物に満ちたこの創発的なサンドボックスを,Novaquarkがどのようにモデレートする計画かについての議論につながっていく。Novaquarkは,プレイヤーが仲間のプレイヤーの行動に対して異なる許容度を持つことを知っており,そのためにいくつかのアフォーダンスを作成することを計画している。PvPアクションのない「聖域惑星」と,安全地帯があり,プレイヤーはそれらの場所で自分の領土を主張することができる。そこは,他のプレイヤーが何かを壊したり,地面を掘ったりすることが許されない1平方キロメートルのホームベースに相当する。それ以外の場所では,それらに影響を与えることができる。

「我々は,ファンタジーを売っています。今日の現実世界のものが,この仮想世界の中ににじみ出ているのを見たくはないのです。あなたもStar Warsの映画に政治的なものは期待してないでしょう。それは意味をなしません」

 Novaquarkが一線を越える特定のプレイヤーアクションにどのように対処するのかについては,Baillie氏はモデルを念頭に置いている。

 「我々は,YouTube,Facebookなどのように,ユーザーが生成したコンテンツベースの会社であることを認識する必要があります」とBaillie氏は語る。「ユーザーが存在し,コンテンツを制作するツールを提供し,不正行為が発生し,問題が発生します。ゲーム内には,見つけた不正コンテンツを報告する方法があります。受諾されるものと受け入れられないものを記載したユーザーライセンス契約を公開します。しかし,結局のところ,FacebookやYouTubeの人々がやらなければならないことと同じです」

 もちろん,プレイヤーはDual Universeで互いにコミュニケーションを取ることができ,コンテンツ作成ツールは創造的な方法で行うための新しい方法をたくさん与えてくれる。それでは,Novaquarkは,攻撃的なコンテンツをゲームから締め出したいという願望に対して,プレイヤーの自由な表現のバランスをどのように取るのだろうか? 

 「それは良い質問であり,我々はまだ公式の答えを持っていません」と,Baillie氏は語る。「私は言論の自由に賛成です。また,あなたが不快に感じるものは,大きく文化に依存していることも問題です。ですから,それに明確な答えを与えることは非常に困難です。私が重要だと思うことは,実際に1万年後に起こるであろうファンタジーの世界を売るということです。ですから私にとって,政治的布教活動も,宗教的布教活動も,この世界にはっきりと存在しない歴史の一部に言及してはなりません。それが線を引く方法です」

 「ドナルド・トランプが1万年近く前に死んでいて,誰も彼を覚えていないので,この宇宙でドナルド・トランプの写真を手に入れる方法はありません。それはこの宇宙に適合しません。それが我々が押したい方向です。我々は,ファンタジーを売っています。今日の現実世界のものが,この仮想世界の中ににじみ出ているのを見たくはないのです。あなたもStar Warsの映画に政治的なものは期待してないでしょう。それは意味をなしません。同じことが当てはまります」

 我々は,その基準では,ナチスの旗とLGBTQプライドフラッグの両方がゲームから禁止される可能性があることを指摘した。Baillie氏は,それらのものを同じレベルに置かないと強調しているが,そのようなシンボルが使用される文脈に応じて,当初考えていたよりも複雑な問題になる可能性があると指摘していた。

 Dual Universeの現実世界の現代文化に対するルールはまた,ユーザー生成コンテンツ主導のゲームで長年の定番となっている問題をゲームから遮断する: つまり,プレイヤーのお気に入りのブランドのIP侵害レクリエーションだ。それを念頭に置いて,我々は,連載漫画に出てくる猫,Garfield の高さ500フィートの像をDual Universeに作ることが許容されるかどうか仮定的に尋ねてみた。

 「私の意見では,ナチスのシンボルとGarfieldの間には非常に大きな違いがあります」とBaillie氏は語る。「Garfieldには何の問題もありません。時間の試練をどうにか生き延びた文化的なアイコンだと言えますね」

※Novaquarkの本拠であるフランスの著作権法ではアメリカ式のフェアユースを意識したと思われる上記発言は通用しないはずであるが,サーバーの設置場所などに依存する問題かもしれない。猫がOKそうなので,誰か耳の大きなネズミの像を試してみてほしいところである。


 彼は,新しいゲーム内の宗教を発明して,他のプレイヤーに宣伝するようなことをすることはアリだが,現実世界の宗教をゲームに持ち込むことは禁じられるだろうと付け加えた。(先週,Novaquarkはノートルダム大聖堂のプレイヤーによるゲーム内再建を祝うコミュニティスポットライトコラムを掲載していたが(参考URL),「現実世界の宗教なし」ルールにどのような例外が適用されるのかについて疑問を投げかけてみた)。

現実世界の宗教はDual Universeでは歓迎されないかもしれないが,このカトリックの礼拝所は今のところ受け入れられているようだ
メタバースを作成する際に「悪魔は細部に潜む」

 「プレイヤーに提供するのは,1万年後の世界でロールプレイングをするファンタジーです」とBaillie氏は語る。「そして,我々はその論理に固執したいと思っています」

 ユーザーが生成したコンテンツに関するもう1つの共通の懸念は,企業が顧客の時間,労力,創造性に基づいてビジネスを構築する手法に由来するものだ。それを念頭に置いて,Dual Universeの他の95%のプレイヤーをゲームに留まらせる理由となる,コンテンツを作るユーザーに対してなんらかの補償をする計画について尋ねてみた。

「ただのゲームでなく生計を立てるようになると,突然ゲームの認識が変わります。それはゲームプレイヤーの種類を変えます」

 「これは我々が取り組みたい大きな課題ですが,それを適切に行う方法を正確には知りません」とBaillie氏は語る。「明らかに,我々は最も貢献しているコンテンツクリエイターに報酬を与えたいのです。彼らはゲームや他の人々に多くの価値をもたらします。我々はメカニズムを持っていません。たくさんのアイデアがありますが,話すのは早すぎます」

 「これが,単なるゲームではなく,生計を立てるものとなると,突然ゲームの認識が変わってきますので,少し危険です。それはゲームプレイヤーの種類を変えます。基本的に『ファーミング』をする人がたくさん出るでしょう」

 Baillie氏は,「コミュニティに承認された本物のコンテンツクリエイターだけが生計を立てることができる」というメカニズムがあるかもしれないと示唆した。それでも,氏はプレイヤーが現実世界のお金のためにゲーム内通貨を現金化することについては,部分的には法的な影響,そしてそれがプレイヤーの経験にどのような影響を与えるかを懸念し,簡単なことをしたくないという。

 「あなたは物流をしていて,宇宙で貨物を積んだ大きなトラックで運転していて,突然この貨物が1万ドルの価値があることに気付きました」とBaillie氏は語る。「(※ゲーム内で)海賊に襲われたら,不愉快なことになります。たぶん,あなたの(※リアルの)休暇か,あなたの子供の大学(基金)が飛んでいきます。これは最悪です。そして,我々は楽しさに関するエンターテイメントプラットフォームを作ろうとしています。そういう要素は邪魔になります」

 Dual Universeに関する多くの質問にはまだ答えられないが,Baillie氏は,その開発を取り巻く要因を考えると,それは予想されることだと言う。

 「うちは新興企業です」とBaillie氏は語る。「我々は個人投資家を持っています。これまでに2000万ユーロを調達しました。我々は,根本的に新しいものでMMO業界を混乱させたいと考えています。失敗する可能性があります。それはありえます。未知の要素はかなり多いですが,これはテクノロジーに基づいて何か新しいことをしようとしている新興企業では典型的なものです」

 「成功すれば,業界を刷新するような新しい体験が生まれるのです。それが我々が戦っているものです」

開示:MIGSは,イベントに出席するためにGamesIndustry.bizのための旅行や宿泊施設を提供しました。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら