クラウドゲームの現状:その実際の市場の広がりと可能性,そして危険性を踏まえて語られた講演をレポート

クラウドゲームの現状:その実際の市場の広がりと可能性,そして危険性を踏まえて語られた講演をレポート
 GoogleやAmazonの参入によって急激に盛り上がりを見せるクラウドゲームサービスだが,その全体像をいまひとつ掴みきれていない人は少なくないように思う。また「ゲームを遊ぶ」という体験は原則として非常に個人的な体験であるがゆえに,クラウドゲームの可能性や将来性について,どうしてもゲームに対する個人の視点が入り込んでしまうケースも散見される。

 devcom 2019ではこの問題に対し,「クラウドゲームのこれまでとこれから」を,具体的な事例を踏まえつつ解説した講演が行われた。クラウドゲームという世界はすでに大変に広大であり,またクラウドゲーム市場に直接関わっている登壇者の見解が100%正確であるとは言い切れないが,現状を整理するにあたって非常に有益だと感じたのでレポートしたい。


「Assassin's Creed: Odyssey」を起動できるSteamユーザーは全体の47%


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 登壇したPlaygigaのDirector of Product & Content AcquisitionであるJuancho Carrillo氏は,最初になぜゲームが従来のようなゲーム単体単位での販売ないしマイクロトランザクションモデルから,サブスクリプションモデルへと変わっていくと予想されているかを説明した。

 この予測の根拠はシンプルで,かつて作品単体単位で販売していた音楽や映像が,今ではサブスクリプションモデルを中心としているからだ。ゲームはもはや音楽と映画を足したものよりも大きな市場規模を有している以上,ゲームもまた少しずつサブスクリプションモデルに移行していくのではないかというのは,多くの論者が指摘する予測だろう。

 もちろんゲーム消費の中心がサブスクリプションモデルに移行するのが今年や来年に起こる,というのは早計であるとCarrillo氏は語る。現状ではまだまだサブスクリプションモデルへの移行準備は整っていないというのが氏の見解だ。

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 さて,近年起きている(あるいは起きつつある)クラウドゲーム界隈における変化としては,3点が指摘できるという。

 1つめは大手パブリッシャの参入だ。EAがOriginを使ってクラウドゲームに参入するなど,様々な大手パブリッシャが大なり小なり「クラウドゲーム」という遊ばれ方に注目している。

 2つめはGoogleやMicrosoftといった世界規模のネットワークインフラを持つ企業がクラウドゲームに注力するようになったという点だ。これまではどうしても地域依存性が高かったクラウドゲームだが,全世界的なインフラを持つ会社が参入してくる意味は大きい。

 3つめは5Gの整備である。広帯域で低遅延な回線に対する業界の期待は大きいようだ。5G回線網が整備されると対象プラットフォームをモバイルにまで拡大できる。最近はモバイル端末も急速に進化しているものの,最新のハイエンド機種を前提にしたゲームなどは市場が狭すぎるほか,バッテリー消費や熱問題などで現実的ではない。しかしクラウドゲームでなら,実質動画再生だけなので低価格なモバイル端末でもハイエンドゲームを実行することができる。ゲーム作成時にメモリ容量などの制限や機種間の互換性なども気にしなくてよくなるなど,ゲームの幅も大きく拡大できるのだ。

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 パブリッシャやプラットフォーマーがクラウドゲームに注目するのには,大きな理由がある。それは端的に「市場を拡大する」という効果があるからだ。

 たとえばSteamの統計をもとにすると,「Assassin's Creed: Odyssey」を起動できる(「プレイできる」ではない)PCを持ったSteamユーザーは,全Steamユーザーの47%にすぎない。クラウドゲームはこの壁を打ち破る技術であり,つまり雑な計算をすれば「最新のAAAタイトルがプレイできる市場が倍に増える」ことになるというわけだ。

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ハードコアゲーマーは「最後のお客」


 さてここまでの話ですでに,本誌の読者であれば「そうは言っても……」という感想を抱きがちだろう。だがここには「クラウドゲームのニーズがどこにあるか」のズレが顕在化しているとCarrillo氏は指摘する。


 2019年現在,クラウドゲームを最も有効に活用でき,かつ有益だと感じているのは,カジュアルなファミリー層であるという。

 このような層にとってみると,既存のゲームは,

  • ハードウェアが高すぎる
  • ソフトウェアも高すぎる
  • 遊びたいゲームを見つける難度が高すぎる
  • ハードウェアを接続する難易度が高すぎる
  • ペアレンタルコントロールが(往々にして)存在しない

といった問題を抱えている。これに対してクラウドゲームは最適解とも言える。とくにアカウントごとにプロファイルが作れるゲームであれば,子供が複数人いたり,親と子供でアカウントを共有したりする場合でも,セーブデータがコンフリクトすることなくゲームを遊べる。

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 そして氏の予想によれば,2020年以降にクラウドゲームが真っ先に浸透していくのは発展途上国だという。

 インドで「PUBG mobile」が爆発的な人気を獲得したように,発展途上国においてもゲームに対する欲求はきわめて高い。だがそれらに国において,たとえばコンシューマゲームマシンはあまりにも高価だ。アメリカにおけるPS4の価格を1とした場合,ブラジルでは16,インドネシアでは27,フィリピンでは33と,とても手を出し難い価格設定になっている。

 つまり発展途上国は「ゲームに対する需要は高いが,適切なプラットフォームが存在しない」状況にある。このため,このギャップを解消できるクラウドゲームは,これから発展途上国において普及するのではないか,という予測が成り立つ。

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 しかるに最後に普及するのがハードコアなゲーマーだ。

 ハードコアなゲーマーにとってみれば,「Assassin's Creed: Odyssey」を起動できないPC(ないしコンソール機)しか持っていないということは考えにくく,なんなら必要に応じて最新のCPU・メモリ・グラフィックスカードを購入して自分で換装する技術も有している。この層にとってみるとクラウドゲームがもたらすメリットは薄く,むしろラグのようなデメリットのほうが大きなキズとして気になってしまう。

 だがこの層にまったく普及しないということもないだろう,というのがCarrillo氏の予測だ。かつて「ネットでゲームを購入してダウンロードする」ビジネスは,ハードコアゲーマーの間でなかなか受け入れられなかった(さまざまなデメリットが語られもした)。だが今では誰もがダウンロードでゲームを購入している。

 つまり「時間はかかるが,いつかは浸透する」のがこの層だということになる。


クラウドゲームの多様性


 さて,クラウドゲームの現状はどうなっているかということを考えるにあたって,シンプルな指標は「現在稼働している,ストリーミング技術を使ったサービスが世界にいくつあるか」という数字となるだろう――その数は実に30を超える。

 もちろん中には半ば死にかけているサービスもあったり,一般的なクラウドゲームとは異なる技術で動いたりしているものもあるが,後者については「クラウドゲームはこのようにサービスすることも可能」という多様性を見せてくれるものとも言える。以下,ざっくりと列挙しよう。

  • PCストリーミング:
  •  自分のPCでゲームを動かし,その画像を別のデバイスにストリーミングしてプレイする。SteamLinkなど。

  • ファイルストリーミング:
  •  厳密にはクラウドゲームとは言えないが,ユーザーはゲームのダンロード時間をほとんど感じることなくゲームをプレイできる。

  • バーチャルPC:
  •  リモートのPCそのものを提供する。遊ぶべきゲームはプレイヤーが所持していなくてはならない。GeForce Nowが相当。

  • クラウドゲーム:
  •  特定のPCゲームをクラウドでプレイする。Switch版のPSO2などが該当。

  • オンデマンドゲーム(その1):
  •  一般的にはサブスクリプションモデルで,ビデオストリーミング技術を用いる。Stadiaはこれ。

  • オンデマンドゲーム(その2):
  •  上記と似ているが,ビデオストリーミングではなくコマンドをストリーミングする。帯域の消費と遅延が少ないが,ローカルにGPUを必要とする。
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 また,一口にクラウドゲームといっても,その機能や性能はサービスごとに異なる。

 なかでも大きな差があるのは解像度で,Carrillo氏は「解像度はコストに直結」「コスト=インフラと考えるべき」と指摘する。つまり大規模なインフラを持っているプラットフォームが有利,というわけだ。

 だがそれ以外にも,前述したようにプロファイルを複数持てること(ファミリー層にとっては重要)だったり,プラットフォーム側がローカルマルチプレイをリモートで可能とするような技術を実装していたりといった形で,サービスに差は出る。

 Carrillo氏はとくに「ローカルマルチプレイをリモートで行う」ことには大きなメリット(マーケティング的に言えばリテンションの確保)があると指摘する。プレイヤーにとってみれば,事実上のオンラインマルチプレイとして遠距離の友人と一緒にプレイできるというだけでなく,家の中でプレイする場合であっても画面をスプリットする必要がなくなる。言うまでもなくデベロッパの開発コストも大幅に低減させる。

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 このように多様なサービス形態があり得るクラウドゲームだが,カテゴリを大きく分ければ3つに分類可能だとCarrillo氏は指摘する。

 1つはコンテンツ。ゲームをプレイヤーが用意するのか,サービス側が用意するのか。

 もう1つは機能。解像度,プロファイル作成,リモートでのローカルマルチプレイといった,顧客満足度・顧客獲得・リテンションの向上に寄与する機能をどのように実装しているのか。

 最後にデバイス。モバイルやPCだけでなく,スマートTVやテレビの上に置く小型のPC(トップボックス)など,さまざまな可能性がある。

 加えて,売上をどう分配するかでもプラットフォームごとの特徴が発生し得るほか,現状ではまだまだローカルのインフラに依存する要素も多い。

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 デベロッパにとっての利便性という面(とくにそのプラットフォームに対してどれくらいゲームを提供しやすいか)に注目すると,4段階に分かれる。

 最も簡単なのは「プラットフォーマーにそのまま権利を提供するだけ」というパターン。これはとてもシンプルだ。

 続いてちょっと作業量が増えるのがSDKを導入するパターン。ソースコードの修正や,新たなビルドの作成が必要となり得る。

 もうちょっと厄介になるのが移植だ。別のOSで動くようにポートしなくてはならなかったり,それにあわせてSDKを導入する必要があったりする。

 少し方向性が違うのが,「クラウドでしか実現不可能なゲーム」。これは超強力なPCが利用できればこそ可能となるゲームで,この場合はクラウドゲーム以外でのリリースは不可能となる(Carrillo氏はStadiaでこのタイプのゲームがリリースされるのではないかと予測する)。

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ゲームの新しい,もう一つの市場として



 最後にCarrillo氏は,クラウドゲームの持つリスクについて簡単に解説した。

 最大のリスクは「ネットに繋がっていなくてはならない」という問題だ。このため接続が不安定になる環境においてクラウドゲームでアクションゲームを遊ぶというのは,かなり厳しい状況になりえる。

 ただし解像度という点について言うと,HDですらない960×540ドットの540p画像であっても,スマートフォンのような小さな画面で見ると,FHD(1920×1080)と容易には区別がつかないという。実際,Carrillo氏が何人かのプロの開発者に低解像度の画面を見せたところ,「FHDでよくこれだけ動くね」というコメントをもらったという。

 このため実のところ「どうしても超高速回線が常時維持されていなくてはならない」というわけでもない,ということには注意が必要だ。


 もう一つのリスクは,ユーザーインタフェースの設計だ。

 クラウドゲームの場合,ユーザーがどんなデバイスでゲームを遊ぶのか,予測ができない。大きな画面で,かつ画面から離れて遊ぶのかもしれないし,小さな画面を目の前に置いて遊ぶのかもしれない。こうなってくると「文字の大きさをどうすればよいか」というレベルで考えることが多くなる。

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 なおクラウドゲームを提供する側のリスクとしては,ゲーマー独特の挙動というものが挙げられるという。映像や音楽のサブスクリプションと異なり,ゲーマーは「提供されているゲームのなかに遊びたいものがあれば1か月だけ契約し,遊び終わると契約を切って,また遊びたいゲームがリストに加わると契約する」という行動パターンが多いという。

 このためサブスクリプションモデルが持つ「なかなか解約されない」という特徴を,過度に信頼することはできない。


 講演の最後にCarrillo氏は,現在のクラウドゲームは,デベロッパとパブリッシャのメリットが強調されているきらいがある,と指摘する。ゲームを遊ぶ側にとってどんなメリットがあるのかが,いまひとつはっきりしないのだ。

 そしてまた,前述のようにハードコアゲーマーにとってみると,クラウドゲームにはほとんどメリットがない。このためどうしても「ゲームについて物を申す人ほど,クラウドゲームに対しては辛口になりがち」という状況が生まれがちだ。

 だが,クラウドゲームによってメリットを受けるゲーマーの数は,世界全体で見ると決して少なくはない。「ゲームの未来はクラウドゲーム1本に絞られている」と考えるよりは,当面はクラウドゲームとは「そういう選択肢もあって,それでゲームを楽しむ人口が増える技術」と考えるほうが無難だろう。

 またCarrillo氏は「GoogleやMicrosoft,Amazonという世界的なインフラを持ったプレイヤーが参入してきた以上,クラウドゲームがまた今回も消えてしまうということは考えにくい。好き嫌いに関わらず,ひとつのジャンルとして残っていくだろう」と語った。

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 そのうえでCarrillo氏はコアゲーマーに対するクラウドゲームの浸透について「怠惰こそ最強のリテンションツール」と指摘する。

 確かにラグその他を考えると,コアゲーマーほどクラウドゲームに対してネガティブな評価を下しがちだ。しかしクラウドゲームが持つ「遊びたいと思った瞬間にゲームを開始できる」という特徴は,一度体験してしまえば「これでもいい」と判断するゲーマーを増やすに十分だというわけだ。

 Carrillo氏が語る「現役のコアゲーマーよりも,家族を持って忙しくなった『かつてのコアゲーマー』から順番に,クラウドゲームが浸透するのではないか」という言葉は,なかなかに強い予測であるように感じる。

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 加えて,クラウドゲームとTVコンテンツが接近していくという可能性も無視できない。現状でも「デビス杯にあわせてテニスゲームを配信」「MotoGPにあわせてバイクゲームを配信」という施策が大ヒットすることがあるという(カジュアルゲーマーという論点に立つと,「モバイルゲームを,モバイルの画面にストリームする」というスタイルにも十分に可能性がある)。

 このあたりも含めて――そして,たとえばGamescomにNetflixが巨大なブースを出していたことも含めて――クラウドゲームは「コアゲーマー以外の目線」を踏まえてその可能性を考えるべきではないか。そんなことを思わせてくれる講演だった。