インディの企画をプロがダメ出し。devcomで開催された「ピッチの練習セッション」とは

インディの企画をプロがダメ出し。devcomで開催された「ピッチの練習セッション」とは
 インディーズゲームが世界中で開発され、リリースされるいま、開発資金を獲得する手段としてパブリッシャを得たり,投資家から融資を得たりといったルートはとても一般的になっている。そして大型の技術カンファレンスにおいては,パブリッシャや投資家に自分のゲームをアピールする場が設けられることも多い。

 だが,こういったピッチ(※売り込み)の場においては,上手くいくプレゼンと,上手くいかないプレゼンがある。devcom 2019ではポーランドを代表するゲーム開発会社やパブリッシャ,ゲームカンファレンスの主催が集まり,実際に聴衆からインディーズゲームのピッチを受けて,その企画を講評するというセッションが行われた。辛口ながらも納得できる講評が飛び交ったセッションの模様をレポートしたい。

 ちなみに時間の制限もあるので,今回の模擬ピッチは「画面を使った説明はなし,口頭での解説のみ」「アイデアレベルのものを発表」と規定されている(一部,すでにある程度まで開発が進んだゲームをピッチしている人もいたが,そこはそれ)。

左からJakub Marszlkowski氏(GIC),Lukasz Hacura氏(Anshar Studios),Alina Gribanova氏(BoomBit),Karol Zajaczkowski氏(11 bit studios)
インディの企画をプロがダメ出し。devcomで開催された「ピッチの練習セッション」とは


挑戦者その1:バードウォッチング・カードゲーム


概要:バードウォッチングをテーマとしたシミュレータ。アナログのカードゲームをベースにしており,ゲームシステムにはすでに定評がある。アナログのカードと異なり,鳥が動く姿を見たり,鳴き声を聞いたりできる。バードウォッチングはPCゲームとしては珍しいテーマだから,そこをストロングポイントにできると考える。

Hacura氏:
 アナログゲームをデジタルゲーム化したというプロジェクトで,良い結果に終わった例はゼロではないけれど,ほとんど耳にしない。
 また,確かにバードウォッチングは珍しいテーマだけど,それはつまり狭いテーマだということでもある。アナログのカードゲームという狭いジャンルに加えて,バードウォッチングという狭いテーマをかけ合わせるのは,商業的には危険だ。

Zajaczkowski氏:
 たとえば,これが戦車をテーマとしたカードゲームだというなら,まだチャンスは大きい。戦車は人気があり,それがどんなゲームになるのかも簡単に想像できる。

Gribanova氏:
 ターゲットがあまりにもニッチすぎる。美しいプロダクトだと思うけれど,商業的には厳しいと言わざるを得ない。また例に出た戦車であれば,戦車はさまざまなインタラクションがある兵器だが,鳥はインタラクションに限界があることにも注意したい。

Marszalkowski氏:
 別の角度からの問題点として,鳥には地域差が大きいという点が指摘できる。世界のあちこちで,「その地域で一般的な鳥」や「人気のある鳥」が違いすぎるうえ,鳥の名前も言語によって大きく異る。結果,ローカライズコストが大きくならざるを得ず,広告宣伝にあたっても苦戦が予想できる。


挑戦者その2:8人マルチプレイ2D対戦ゲーム


概要:
 最大8人の2Dマルチプレイ対戦ゲーム。「Overcooked」と「Gang beasts」を足したゲームを2Dで提供する。アナログスティックで自由に移動し,ボタンを長押しして溜め,ボタンを離すと溜めに応じた「突き飛ばし」が発生するので,これを使って他のプレイヤーを攻撃する。キャラクターはペンギンで,「殺す」という表現をしないことで対象年齢を広げる。
 ゲームモードとしてはCapture the Flagと,サッカーのようなゲームを用意する。2人1チームで戦うことと,カオスな展開が特徴。

Zajaczkowski氏:
 そういう紹介のされ方をすると,「じゃあGang Beastsでよくない? そっちのほうが面白くない?」という気持ちになってしまう。カオスな展開が特徴と言うが,Gang Beastsもカオスな展開をするゲームであり,それを売りにするのは危険だ。
 また多人数マルチプレイはゲーム数的に見て飽和状態にあり,人気のあるゲームには強固なコミュニティが成立しているため,あとから入っていくのは難しい。

Hacura氏:
 ピッチにおいて有名なゲームをリファレンスすると,差別化のポイントが見えなくなることがある。有名なゲームの名前を出すならば,そのゲームよりも自分のゲームのほうが強いことを示す必要が発生する。
 一般的に,ピッチでそういう状況に陥るのは,危険だと言っていい。

Gribanova氏:
 説明を聞いても,どういうゲームなのか脳内に絵が浮かばない。どうやって戦うのか,どうやってサッカーになるのか,ピンとこない。

Marszalkowski氏:
 画面を見せて説明できれば簡単かもしれないが,画面を見せずに説明する場を設けることで,自分のゲームをより上手に説明できるようになるから,練習してみてほしい。
 それとは別に,いくらなんでも似たようなゲームが多すぎるように感じる。「殺す」という表現を避けることで対象年齢を広げるにしても,あまりに競争相手が多すぎる。

Hacura氏:
 そのゲームをSteamでリリースするとき,どんなタグがつくかで考えてみると企画を整理しやすい。タグには人気・不人気があるけれど,不人気なタグが組み合わさってしまうようだと,企画として厳しい可能性が高い。


挑戦者その3:モバイルでの格闘ゲーム


概要:
 モバイルの格闘ゲーム。1台のスマートフォンの両側を握って2人で対戦する。コントロールが特徴的で,技はスワイプを使って繰り出す。ゲーム展開としてはスマブラ的な展開になる。

Gribanova氏:
 モバイルで格闘ゲームという組み合わせは素晴らしいと思う。何かユニークな仕様があれば,ファンに受け入れられるかもしれない。

Zajaczkowski氏:
 個人的にはモバイルという,現代のゲーム産業において最も厳しい領域に,いきなり飛び込もうとしているのが気になる。
 そのうえで,この企画は,モバイルゲームの一般的な遊ばれ方からは,かなり遠い。多くのモバイルゲームは「ながら」で遊ばれるものであり,またスマートフォンを持つ本人が一人で楽しむものだ。
 ここにおいて「向かい合ってゲームをする」というプレイスタイルが,いまモバイルゲームを遊んでいる人にすぐ受け入れられるかということになると,疑問がある。

Marszalkowski氏:
 時間が残り少ないので最も大きな問題だけを指摘すると,このゲームの企画の内容や品質が問題なのではなく,このゲームがモバイルで失敗したとき,次に向かうべきプラットフォームが存在しないのが問題だ。かろうじてSwitchはあり得ると思うが,「タッチパネルの両端を2人が握ってプレイする」というインターフェースは,PCでもコンソールでも実装できない。
 とくにインディーズゲームの場合,「あるプラットフォームで失敗しても,別のプラットフォームで勝負できる」ようなデザインのほうが望ましい。


 残念ながらピッチはここで時間切れとなった。

 なかなか手厳しい意見が並ぶ展開となったが,それぞれの指摘は「ごもっとも」と言わざるを得ないものが多い。「独創的なゲームでなくてはならないが,ニッチにニッチをかけ合わせるような方向性では商業的に危険であり,そのプラットフォームにおける一般的なプレイヤーにとって縁遠い実装もまた危険」という指摘は,「商業的に成功し得る独創的な作品」はけしてちょっとした思いつきの先に生まれ得るものではないと感じさせられる。

 ともあれ,こういう場で一線級のプロからダメ出しを得られる機会はとても貴重だ。日本でもCEDECにおけるペラコンのような企画があるが,このように口頭でプレゼンする企画も増えてほしいと思う。