Falcon Ageはどうやって「見つけられやすさ」に対処したのか? ― 翼をつけたのさ

Outer Loopのデビュー作を無事に飛び立たせるために行った軌道修正について,クリエイティブ・ディレクターのChandana Ekanyake氏が語る。

 Outer Loop Gamesの共同創設者兼クリエイティブ・ディレクターのChandana Ekanayake氏が,カナダ・モントリオールで開催される「Disco:MTL Discoverability Summit」で基調講演を行う。しかし,サミットの主題である「見つけられやすさ(Discoverability)」という課題へのアプローチについて我々と話したときの彼の姿は,なんでも叶える知恵の宝珠を手に山を降りてくる預言者というよりは,即興でいろいろ試行錯誤している実直さを伴っていた。

※タイトルにも使われている「wing it」は「翼を付ける」「即興で対応する」の2つの意味を含んだもので,当然ながらfalconにかけている

 Ekanayake氏はかつてUber Entertainmentに在籍し,2010年のXbox 360のゲーム「Monday Night Combat」のマーケティングの責任者も務めていた頃の話をしてくれた。

 「私は多くの広報やソーシャルメディアで活動しており,マーケティング面を担当していました。しかし報道関係やコミュニティにはまったく知り合いはいませんでした。我々が注目を集め始めたのは,初回のPAX Eastだったと思います。プレイアブルデモを持ち込んで発表し,トレイラーも出して,Twitterも始めました。とりあえず何でもやってみて,どれがうまくいくかを見定めていました。今,Outer LoopがFalcon Ageでやっているのも同じことです」

 Falcon Ageは,VRヘッドセットと非VRの両方でプレイできる一人称視点のアドベンチャーゲームで,主人公が相棒のハヤブサを育てながらその絆を深めていく。本作のタイトルとテーマを考えれば,ハヤブサがマーケティングで常に重要な役割を果たすことは自明だが,当初はどういう角度でアプローチすればプレイヤーに響くのかはっきり分からなかったとEkanayake氏は認める。

Falcon Ageはどうやって「見つけられやすさ」に対処したのか? ― 翼をつけたのさ

 「(Falcon Ageでは)たくさんのgifを作り,Twitterでさまざまなことを試しました。訴求力があるように見えたのはハヤブサのひな鳥で,この絵を持ってくるといつも良い反応を得られることが分かりました。たくさんシェアされ,『これはいったい何のゲームだろう?』と思われたようでした。『よし,このやり方はうまくいった。もっと試してみよう』これが我々のスタートでした。特別なことはありません。何がうまくいくかやってみよう,世間の反応を見てみよう,もう少しやってみよう,それだけです」

 Ekanayake氏によれば,それぞれのgif,画像,トレイラー,ブログの様子を把握するためにタブをつけ,TwitterやTumblrで誰が「いいね」してくれたのか,どのくらい広くシェアしてもらえたかを調べたという。

「TwitterやYouTubeにgifや動画を投げ入れて,無料でコンセプトを試し,人々のレスポンスを見ることもできます」

 「gifはエンゲージメントの点で静止画像よりも確実に優れていました。そして,最初のフレームとしてひな鳥を使ったものは,もっとも良い反応を得ました。なのでショートクリップをやるときは,最初にいつもひな鳥を入れました。すると人々が見るサムネイル画像になるわけです」

 ソーシャルメディア戦略ではほかにもいいものがあった。市場にあまた出回っているほかの一人称視点ゲームと混同されないように,すべてのスクリーンショットに必ずハヤブサが入っているようにしたのだ。また,インディーズゲームのデベロッパが注目を集めるためには「#screenshotsaturday」のようなハッシュタグは極めて効果的だった。さらに,発するほぼすべてのツイートがゲームのことをまったく知らない人に紹介するような内容だった。それがフォロワーをシラけさせるとしてもそのリスクはとるべき価値があると判断し,ツイートが多すぎても問題にはしなかったという(実際,Outer Loopのオフィシャル Twitterアカウントには,昨年8月のFalcon Ageの発表から約600のツイートがある)。

 これはらすべて,Ekanayake氏がソーシャルメディアについて高く評価している特質の一つに集約される。

 「ゲームをローンチしたとき,ゲームが購入されるかされないかで,コンセプトを実際に試すことができます。また,TwitterやYouTubeにgifや動画を投げ入れて人々のレスポンスを見れば,プロダクトをリリースするコストなしに,コンセプトを試すこともできます。ソーシャルメディア上のビジュアルやコンセプト,ゲームプレイのアイデアに人々が反応するようであれば,実際のローンチと同じとは言えないまでも,順調に進んでいると言えるでしょう」

 結果,ソーシャルメディアからのフィードバックに応じて変化したのはマーケティングだけではなく,ゲーム自体もだった。Ekanayake氏がこのゲームのユーザーインタフェースについてRedditに投稿したところ,ファンからの重要なフィードバックを得て,同社はさらに多くのオプションを追加した。そして,ゲームのある部分がオーディエンスにウケると思われたとき,開発者たちはその興味をさらに引き出す方法を探した。

 「当初は,ハヤブサのためにカスタマイズ可能な帽子や服をたくさん用意するつもりはありませんでした。もともとは機能寄りで,ゼルダのようなアイテムで世界のさまざまな部分を開くためのものでした。しかし我々がいくつかのアイテムを披露したところ,そういった『装う』部分に非常に大きな反応がありました。そこで『OK,もっとやってみよう』ということになりました」

 これによりOuter Loopはゲーム内のグッズを拡大し,Supergiant GamesのTransistorやCampo SantoのFirewatchのようなほかのインディーズデベロッパのヒット作とアイテムのタイアップを追加した。Epic GamesのゲームストアのPCでFalcon Ageがデビュー予定のため,Fortniteをテーマにしたハヤブサのカスタマイズオプションも追加される。Ekanayake氏はこれをほかのプラットフォームにも持ってききたいと考えている。

 VRにハヤブサがいるというファンタジーは,プレイヤーたちの共鳴を起こしたようだ。Outer Loopはさまざまなゲームイベントで10分間のデモを行ったが,どこの会場でも,ゲームをプレイするのではなく,ひたすらハヤブサを「かわいがって,着せ替えて,そして一緒に遊んでいる」プレイヤーたちがいたという。ハヤブサがどれほど説得力を持っていたか,そして一定の人々は戦うことにあまり興味を持っていないということが分かり,Outer Loopはこのゲームに戦闘なしのインプリントモードを追加した。

Falcon Ageはどうやって「見つけられやすさ」に対処したのか? ― 翼をつけたのさ

 VRヘッドセットなしでプレイするというゲームの選択肢もまた,社内からではなく,外部からのフィードバックに基づく転換だった。Ekanayake氏によれば,非VRモードはもともと開発時間を節約するために組み込まれたものだという。Unityでレベル設計をしていたとき,小さな変更を確認するためのプレイテストを開始したあと,再度調整してさらに調整を繰り返すのにヘッドセットを装着したり外したりするのが大変だった。しかし,開発者たちが非VRでプレイテストしたとき,ハヤブサのシステムは想像していたよりもゲームエクスペリエンスを高めるのに十分なユニークさを持ち合わせていることが分かった。

非VRモードの追加は,より多くの作業と設計の調整(現在も進行中)を意味したが,それはOuter Loopのより幅広い戦略に沿ったものだった。

 「VRヘッドセットを持っていなくて,普段はこれを体験できないプレイヤーにもこのゲームが広がることを願いました」とEkanayake氏は言う。「できる限り多くの人々に,そしてできるだけ多くのプラットフォームで私たちが作ったものを経験してほしいので,それも検討事項でした」

 そして,非VRモードは必ずしも「見つけられやすさ」問題の解決策として意図されたものではなかったが,Ekanayake氏によれば,それはそれでかなり有益であったと信じられるそうだ。例えば,Falcon Ageは,VR専用タイトルをあまりレビューしない販売業者から多くのレビューを受け,そして非VRオプションはほかのチャネルから発見してもらえるのに適していたという。

 「我々のゲームには,ほかより多くのストリーマーがいます。これは非VRモードがあるからで,ヘッドセットをつけないほうが,ストリームしつつ,オーディエンスとトークしやすいのです」

 Outer Loopの次のゲームのマーケティングは,新たな視点からアプローチするそうだ。確かに,もしそのゲームに,カスタマイズ可能な飛び回るひな鳥がいない限り,そうせねばならないだろう。他方,試行錯誤のアプローチを抽象化し,そのうち何がうまくいくかを見て,マーケティングやゲーム自体をうまく適応させていくことは,たとえ基調講演のキャッチーなタイトルにはならないとしても,アプローチとしては,あるべき姿だ。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら