【DLC】ゲーム開発におけるリーダーの責任とは?

DLC:Tim Schafer,Amy Hennig,Bryan Intiharが上に立つ者の義務について語る。

 時に我々のインタビューの中で,とても面白く,価値があるにも関わらず,記事としては収まりが良くないものがある。それらを未発表のという名のゴミ箱に投げ捨てるのではなく,さまざまなトピックについて一歩踏み込んだ洞察を提供するためのコラムとして,リパッケージしたいと思う。フォーマットは記事ごとに変わるが,「DLC」のバナーの下に公開する。

 今年の初め,Activision Blizzardは過去最高益を達成したと発表した。同時に,約800人の従業員を解雇することも発表した(関連英文記事)。Activisionの株主はこれを評価したようで,同社の株価は翌日10%も上昇した。だが開発側やメディアの多くの反応は,不必要に残酷,というものだった。

 Activision Blizzardが己の利益に特化することにためらいを感じないとしても,解雇はやはり,やりすぎだと思われる。私はその発表があったのとちょうど同じ週にラスベガスで開催されていたDICE Conference に出席していたが,その話が報道されるやいなや,参加者の立ち話は「カンファレンス,今のところどう?」から「Activision Blizzardの話,聞いた?」に変わった。結局のところ,会社が追求しているのが利益以外の何物でもないとしても(関連英文記事),せっかく叩き出した過去最高益に解雇通知で報いるのは裏切りのように思われるのだ。

「会社の利便性のために解雇などはしません。もし終身雇用がいいのなら,そう見なして100%コミットします」 -Tim Schafer

 解雇という考え方は,Activision Blizzardが社会的な契約に違反したようなものだ。忠誠心やパフォーマンスを求めつつ,それが充足されると手を翻して捨てる。同社の従業員に対する責任の度合いが低下したように感じたが,ゲーム業界ではあまり馴染みのないこの考え方はぜひ変わってほしいと願う。私はこのカンファレンスに残っていた指導的立場にある何人かの人たちにインタビューを試み,会社の部下たちに対してどのような責任があると感じているかを聞いてみることにした。

 Double Fine Productionsのファウンダー(創設者)Tim Schafer氏がそのトップバッターだ。つまりActivision Blizzardのニュースが発表された日の午後に話を聞いた。まだニュースが報道されている最中だったが,従業員にどのような責任があると考えるかを尋ねた。

 「究極の責任ですか? 毎晩寝る前に考えてますよ。60人の社員にちゃんと支払ができるかどうか。会社を作って18年やってこれたのは,真剣に考えてきたことの証ではないかと思っています。私たちの事業開発部門は,列車の前にできるだけ長くレールを敷き,働く人たちが安心してそれぞれの仕事にフォーカスできるよう,クリエイティブな仕事をしてもらえるようにと常に頑張っています」

 Schafer氏は,Double Fineという会社が極めて小さいことで,従業員たち(=チーム)を知っていることが助けになっているという。

 「チームやその家族と一緒に遊びに行ったこともあります。とても個人的な関係です。大企業と小企業の違いでしょうね。DoubleFineの採用面接では,応募者から,決まって『御社は安定していますか』と聞かれます。回答はこうです。『確かにたくさんの浮き沈みがありましたが,私たち20年近く前からやっていて,従業員の仕事に100%コミットしています。私たちはあなたがここの従業員でいる限り,永遠にコミットします。会社の利便性のために解雇などはしません。会社の損益計算書をよく見せなければならないような顔の見えない一般株主もいません。それに,もし終身雇用がいいのなら,そう見なして100%コミットします』

 翌日はEA Visceral,Naughty Dog,Crystal Dynamicsといったゲームスタジオでクリエイティブ・ディレクターを長らく務め,自身の独立系スタジオも立ち上げたAmy Hennig女史にも同じ質問をした。彼女は,DICE Summitのあとに行った我々のインタビューでもActivision Blizzardの状況について直接語ってくれているが(関連英文記事),彼女が自分のチームに対してどのような責任を負っているかについて語ってくれた部分は,この記事で扱いたい。

 「漠然とした意味で? 率直さです」と彼女は言った。「それが最も重要なことだと思います。皆,私たちの媒体や業界の実情を理解しています。そして最高のボスは率直で,正直であることです。でなければ会社やスタジオ全体が,彼らの仕事がどれだけ保証されているものなのか,何が起こっているのか,そして何が決められていくのかなどについての憶測が乱れ飛び,皆が恐怖におののくことになってしまいます」

「最悪なのは,皆を闇の中に置き去りにし,エキサイティングな目標や,登るべき頂点を与えないことです」 -Amy Hennig

 「フワッとした答えに聞こえるかもしれませんが,しっかりしたビジョンはあります。人々は物差しを持っているリーダーに従うことを望みます。『私にはビジョンがある。このとおりだ。ここに丘があり,私があなた達を導いて登ります』と引っ張ってくれるような上司のことです。往々にして,会社やスタジオの『WHY(理由)』がいったい何であるのかがよく分かっていないことが多々あります。これは会社のトップからくるべきものです。それがあることで,人々は辛いときでもモチベーションを維持し,チームは道を誤ることなく進むことができます。多くの人々はこれらのことをあまり得意としません。それが得意だからといってリーダーシップを発揮するポジションには昇進しないかもしれません。彼らはほかの理由で昇進したのでしょう」

 「そして,もしあなたが大規模なスタジオのヘッドで,チームや働いてくれる人たちを最大の資産と見なせるほどの洞察力があるとしたら,ほんの少し先ばかりを見るのではなく,将来を見据えた計画を立てることで彼ら/彼女らを守ることになります」

 「私は300人もいるような大型チームではなく,非常に小さなチームでスタートしています。ですから,そういったことを私自身のためにも考えています。最も重要な側面は,率直さ,信頼,誠実さ,そして,チームにとって極めてクリアなビジョンを常に述べたり,言い換えたりできることです。そうすることでチームは正しい方向性を持って意思決定することができるようになります。最悪なのは,皆を闇の中に置き去りにし,エキサイティングな目標や,登るべき頂点を与えないことです」

「当初,私の責任は,チームが信じ得るゲームのビジョンを確立するのを助けることでした」-Bryan Intihar

 また,PlayStation 4エクスクルーシブとなっているMarvel's Spider-Manのクリエイティブ・ディレクター,InsomniacのBryan Intihar氏にも話を聞いた。結局のところ,フランチャイズの指針となる原則,まさに「With great power comes great responsibility.(大いなる力には大きな責任が伴う:スパイダーマンでの名ゼリフ)」を考えれば,Intihar氏はチームに対する自分自信の責務を熟慮しなければならなかったことだろう。

 「当初,私の責任は,チームが信じ得るゲームのビジョンを確立するのを助けることだったと思います。もしチームのサポートがなければ,水中で死ぬことになります。私たちのゲームは巨大かつ複雑なので,チームが一体にならないと,何かを得るのは難しいのです」

 「Insomniacで働くことの素晴らしい点は,誰かにアイデアのバトンを渡したら,すぐさま改善されることです。一人ですべてをやろうと思っているくらい才能がある人がたくさんいます。責任とは,彼らが信じることができ,明確に理解できるビジョンを提供することで,権力は彼らに自由にやらせてあげることです。私は学ばねばなりませんでした。何をかというと,すべてに対する答えなんて必要ないということ,すべてをこと細かく知る必要なんてないということです」

 「こう言ったことがあります。『こんなアイデアがあるんだけど,どうすればもっと良くなるかな』あるいは,『ねえ,これうまくいってないと思う。どうすればいい?』と。ゲームは無限に良くなりました。そしてこれがまさに私が学ばなければならなかったものでした。チームが『ちょっと締め付けすぎ』と言い始めたらきちんと耳を傾けなければなりません。私は怖かったんです。失敗するのが。ある意味,手を放したことで,ゲームは思い切り花開くことができました」

 ここ数週間のEpic GamesNetherRealm StudiosCloud Imperium GamesRiot Gamesに関するニュースを踏まえ,チームリーダーからCEOまで,ゲーム業界で部下を持つすべての人にとって,今こそが自問するよいタイミングだろう。「権力が及ぶ人たちに対して,自身はどのような責任を負っているか? そして,その責任を果たせているのか?」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら