「Unityプロモーション・パートナー・プログラム」は,ユーザーにどんなメリットをもたらすものなのか?

ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン 常名隆司氏
フォントワークス 福島里江氏
 ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン(以下,ユニティ)は,今年に入って「プロモーション・パートナー・プログラム」を展開している。これは,Unity Pro/Plusユーザーに向けて,ゲーム制作関連製品・サービスを割引で購入できるように斡旋するプロモーションである。
 第1弾となったのはフォントワークスのフォントサービス「LETS」の優待販売で(関連記事),第2弾はモーションキャプチャデバイスのNoitom の「Perception Neuron Pro」が割引で購入できるというものである(関連記事)。

 ゲームエンジンの利用者に,ゲーム制作関連の他社製品が割引されるという,ちょっと珍しいプロモーションである。ゲーム制作者にとっては非常にありがたい話なのだが,そもそもこういった話はどこから始まったものなのだろうか。今回は,ユニティのAsset Store担当の常名隆司氏とフォントワークス企画推進部の福島里江氏に話を聞いてみた。

 まず,常名氏は,以前からライセンス契約中のユーザーと,その創作活動や開発業務と相性がいい製品やサービスを提供しているメーカーを結び付けたいと考えていたと語る。ライセンス契約者のサポートの一環でもあり,Unityを使ったゲームエコシステムの拡大にもつなげたいといったところだろう。
 ゲーム開発向けの製品やサービスにはさまざまなものがあるが,それらをユーザーに知ってほしい,そしてそういったものを使ってさらに成長してほしいという思いがあったそうだ。そういったことを支援するためのプロジェクトを考えていたという。

 「具体的にどういった製品やサービスに声をかけようかと考えていたときに,タイミングよくフォントワークスさんからお話があったんです」(常名氏)

 聞くと,フォントワークスから,Unityのユーザーにフォントワークスのフォントをさらに利用してもらう方法がないかという相談だったという。
 こちらの記事でも紹介しているように,ライトユーザー向けフォント提供サービス「mojimo-game」はゲームで使いやすい12種類のフォントの利用ライセンスを安価にまとめた商品だ。最初からフォントデータ自体をゲームに埋め込んで配信できるようになっているというのが最大の特徴である(Unityでは利用するフォントを埋め込む必要がある)。同社のプロ向けの「LETS」でも拡張ライセンスを使用することでフォントの組み込み配布が可能となっている。

 「弊社は元々,大手のゲーム会社やパブリッシャでのシェアはNo.1だったのですが,新しいインディーズ系の開発者向けのmojimoという商品をにどうやって広めていくかと考えて,インディーズ系で多く使われているUnityとタイアップできないだろうかと打診してみました」(福島氏)

 Asset Storeでの販売の話も出たようだが,常名氏によると,単体売り切りのソフトではなくサブスクリプションライセンスを売る場合には,アセットパブリッシャは通常とは異なる販売条件を締結せねばならず,またそれはグローバル展開が前提の条件設定のため,コストがかなりかかってしまうのだという。

 「そこまでコストをかけるなら,その分をユーザーに還元してほしいとお願いしました」(常名氏)

 ユニティ自体のビジネスはそれで大丈夫なのかという気も少しするのだが,このような経緯を経て日本独自で立ち上げられたのが,今回のUnityプロモーション・パートナー・プログラムということになる。
 メーカー各社はプロモーション費用の代わりに割引を行い,ユニティは登録者に対してそれらの製品・サービスを紹介するというものだ。ユニティ自体はユーザーに紹介するだけで,それぞれの販売やサポートは各社が行うという形態となっている。だいたいの仕組みは分かってきた。

 「フォントは,皆さん困りどころだったというのは私たちも理解していました。Asset Storeにあるフォントが万人受けするかというとそうでもありません。そこに,フォントワークスさんの豊富なフォントを,インディーズさんだと『ちょっと無理っす』といった価格のサービスだったLETSという形で破格に提供していただけるというのは,Unity Pro/Plusを使っているユーザーの成長を助ける意味でまさにドンピシャかなと思いました」(常名氏)

 話の中で当初のmojimo-gameから,より本格的なサービスであるLETSが対象に選ばれている。LETSは日本語書体だけでも数百のフォントを定額で使い放題にできるサービスだ。さまざまな業界向けのプランがあるが,ゲーム業界向けには拡張ライセンスを使用することで,フォントデータ自体をゲームに埋め込んで配信できるようになる(前述のようにUnityでは利用するフォントを埋め込む必要があるので,拡張ライセンスはほぼ必須)。

 もう少し具体的に書くと,LETSの場合は入会金が3万円(会社単位),年会費が2万4000円(3年コース:PC単位),ゲームをリリースするときに必要な拡張ライセンスが10万円というのが通常価格であり,小規模スタジオでゲーム制作でPC2台にインストールするとした場合の初年度費用は,17万8000円となる(税別)。これがプロモーション・パートナー・プログラムの適用で,入会金と初年度分の拡張ライセンスの費用が免除されて,4万8000円で済むという。2年め以降は通常と同じ料金となるが,導入時の負担軽減はありがたいと思う人も多いだろう。

 「これで成長できて『次の年には正規の料金を払えるくらいに』収益が上がるようになってほしいです」(常名氏)

 一応確認してみたのだが,ユニティは自社製品の有料ユーザーに他社製品を紹介しているだけであり,紹介された製品の利用がUnityだけに限られるといった条件などはまったくないという。(あまり大っぴらには言わないだろうが)このプログラムを利用して導入した製品と他社エンジンの組み合わせでゲームを作っても問題はない。「ゲーム制作者の手助けをする」という点で,同社のスタンスは創業時からまったく変わっていないようだ。

 このキャンペーンプログラムの反響についてはユニティ側では分からないとのことなので,フォントワークスに聞いてみた。

 「なかなかの反響がありました。ただ,もっともっと多くのインディーズゲームクリエイターの方に商用フォントを使っていただき、UIのクオリティが格段に変わるという体験をしてほしいと思っています。そういった意味で、インディーズゲームクリエイターの方にも手の届きやすいこの価格帯で提供させていただけることはとても意義が大きいなと感じています。もっともっとクリエイター支援を行っていきたいですね」(福島氏)

 大手ゲーム会社では十分なシェアを有している同社も,さらに裾野を広げるように啓蒙活動をしていきたいとのことだった。
 ただ,このプロモーションプログラム自体の認知はまださほど高くないようで,常名氏によると,メールマガジンなどで告知しているものの,こういったキャンペーンの存在がまだそれほど認知されていないという状況なのだそうだ。もったいない。なんにせよ,ユーザーはただお得なだけなので,十分に活用したいところだ。


余談:標準フォントの話


 ところで,Unityに標準で搭載されている日本語フォントはどういうものなのだろうか? 私の名前で恐縮だがUnityで「植木」と表示してみると,どうも「直」の部分がおかしい字が出てくる。念のために書いておくと,Unreal Engineでもほぼ同じ系列のフォントが使われているので同じようになる。調べると,簡体字のフォントが流用されているようなのだが,これ以外にも微妙な字は結構あるようだ。
 UnityのデフォルトフォントはArialだが,Arialにないフォントの場合は,UnityにバンドルされているLiberation Sansというフォントが使用されるという。ここで挙げた現象はそこのフォントの問題のようだ。実際のところ,このフォントを使ってとくに問題のないゲームも多いようだが,これ以外のフォントについては,デベロッパ側でフリーフォントや有償フォントを準備して利用してほしいとのことだった。

ちょっと怪しい字
「Unityプロモーション・パートナー・プログラム」は,ユーザーにどんなメリットをもたらすものなのか?
「Unityプロモーション・パートナー・プログラム」は,ユーザーにどんなメリットをもたらすものなのか?


モーションキャプチャデバイスも割引で


 今回のインタビューで関係者は登場していないのだが,第2弾のPerception Neuron Pro(以下,Neuron)についても少し紹介しておこう。
 NeuronはNoitomが開発したモーションキャプチャデバイスだ。ちなみに,社名は「MOTION」の逆並びである。その米国販社であるNoitom Internationalの協力によるキャンペーンとなる。


 モーションキャプチャというと,身体にプローブを付けて赤外線カメラを周囲に配置したスタジオ内でアクターが演技するという,それなりに大規模なものが主流である。それだけのコストをかけららるのならよいのだが,インディーズではまず不可能だ。

 個人でのモーションキャプチャというのはゲーム制作者の一つの夢のようなものかもしれない。上半身ならスマホでもできる時代にはなっているのだが,全身のデータを取って,しかもゲームで使おうということになるとそれなりにコストがかかる。おそらく,旧型のKinnect for WindowsとMikuMikuCaptureの組み合わせが最安なのだろうが,現状ではKinectの入手自体が難しい(MikuMikuCaputureはKinect V2などには対応していない)。昨今ではVtuberの流行と並行して,HTCのViveトラッカーを利用したバーチャルモーションキャプチャシステムなども出てきているので,そちらのほうがまだ現実的かもしれない。

 さて,Neuronで使われているのはスマホなどで使われているような加速度センサーとジャイロセンサーである。これを小さなデバイスに収め,身体の各部に取り付けて,それらの運動量からモーションを割り出すといった仕組みになっている。演技できるだけの空間さえあれば特別なスタジオは必要なく,比較的安価で比較的精度が高いのが大きな特徴である。
 「Neuron Pro」とあるので,Proではない製品もあるだろうというのは容易に想像できると思うが,廉価版としてNeuron 2というものもある。そちらは半額くらい(日本円で20万円程度)の価格設定だ。カタログスペックでのセンサーの精度などは変わらないものの,Neuron 2の電源供給がワイヤードなのに対し,Neuron Proはワイヤレス仕様となり,その分センサーデバイスが大きくなっている。Neuron 2のほうができることは多そうなのだが,今回はPro版でのキャンペーンだ。

 なぜNeuronをプロモーション・パートナー・プログラムの第2弾をNeuronにしたのだろうか。常名氏に聞いてみた。

 「あちこち何社かに声をかけて,それに応えてくれた1社だったのです。最近,UnityのProライセンスを使っている会社でVtuberを使っているところが増えていまして,そういった会社で多く使われていたのが,この製品だったのです。Noitomさんのデバイスを使ってモーションキャプチャを行うことが,ユーザーさんの成長の一助になるのではないかと考えました」(常名氏)

 残念ながらこちらは先着100名の台数限定のキャンペーンであって,割引率も5%とさほど高くはない。正規価格からの割引額にすると2万5000円程度だ。米国販社からのものなので,日本語でのサポートに不安がある場合は日本の代理店で購入したほうがよいのかもしれない。


 フォントサービスにモーションキャプチャと,非常に広範囲に展開されそうなUnityプロモーション・パートナー・プログラムだが,今後はどのようなものが登場するのだろうか。常名氏によると,各種ゲーム用のツールやミドルウェアはもちろんのこと,ゲームとは直接関係はないが,アート制作で使われるようなソフトウェアやUnityを学べるスクール系の事業者,小規模の会社で使えるコワーキングスペースやシェアオフィスなどにも声をかけているという。ゲーム制作に役立つモノであればなんでもありという方針のようだ。
 ちなみに,リクエストがあれば交渉に出かけるほか,立候補も大歓迎だそうなので,機会があったら連絡を取ってみるのもよいだろう。

 キャンペーン追加の頻度としては「年内に10」というのを目標に挙げていた。現状では提供されている商品が少ないため注目度は上がっていないようだが,10個のパートナープログラムを発表したらWebページなども大きくリニューアルしてもっとユーザーにアピールしていく予定だという。

 「数が集まることで,我々もユーザーさんとパートナーさんを丁寧におつなぎできるようになります。そのあたりは我々がこれから頑張らないといけないところですね。Asset Storeもそうなのですが,どこよりも安くなるようにお願いしています。ユーザーさんが探し回らなくてすむようにしたいのです。なにか新しいモノを導入しようと考えたときに『まずあそこを見てから考えよう』といった場所になるようにしたいと思っています」(常名氏)

 何度も繰り返すようだが,ゲーム制作者にとってはお得なだけのものなので,今後の充実に期待しよう。


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