ゲームの音楽と開発がハーモニーを奏でるために

プロジェクト開始時点から作曲家と開発者が協働する利点についてForgotton AnneのPeter Due氏が語る。

 米ラスベガスで開催されたDICEサミットで,デンマークの作曲家Peter Due氏は,その場にいる喜びを全身で表していた。彼が手がけたThroughline GamesによるForgotton Anneのゲーム音楽がDICE Awardsで「Outstanding Achievement in Original Music Composition(オリジナル音楽作曲における顕著な功績)」部門でノミネートされており,我々GamesIndustry.bizはその発表前の午後に話を聞いた。

 チャーミングなインディーズゲームであるForgotton Anneのゲームプレイに乗って奏でられるDue氏の楽曲は,ゴッド・オブ・ウォー,スパイダーマン(Marvel's Spider-Man),デトロイト ビカム ヒューマン(Detroit:Become Human),そしてテトリス エフェクト(Tetris Effect)など,莫大な予算をかけたAAAタイトルと並んでノミネートされており,状況としてはほぼ「ダビデと4人のゴリアテ」の様相を呈していた。大量に市場に出回ったこれらの大型タイトルと並んでForgotton Anneがノミネートの栄誉に浴すことになったのは,このタイトルの制作過程が,彼が経験した中でも珍しい独創的なアプローチだったことの影響が大きいとDue氏は考えている。

 「Forgotton Anneで興味深かったのは,最初から私もプロセスの一部だったということでした」とDue氏は語る。「映画やテレビの仕事では,私がジョインするのはすべてができ上がってからですが,このプロジェクトではまったく違いました。私は最初から開発プロセスの一部であり,それは大いにインスピレーションを与えてくれました。音楽と,ストーリー,キャラクター,ゲームアートの開発が並行して行われ,事実,ストーリーを書いている人やアート制作をしている人は私の音楽を聴きながら仕事していました。私たちはお互いに影響しあっていたと思います」


 Due氏によれば,普段は,プロジェクトがかなり進行してから呼ばれることが多く,ときにそれは真の意味でのコラボレーションとは呼べないものだという。

 「電話がかかってきて『音楽が必要なんだけど,明日中にできる?』なんていうこともよくあります。そんなとき私は『最善は尽くしますが,もう1週間あればより良いものができるのに』と返答することになります。極めて短期間で音楽を作ることは可能です。でももう少し時間があれば,もっといいものが作れます。Forgotton Anneのような大きなプロジェクトが成功した秘訣は,いろいろなことを試してみる時間が十分にあったことも一つの理由だと言えるでしょう」

 ゲームプロジェクトの場合,Due氏が関わるのは通常数か月で,もしくは数週間なんていうこともある。Forgotton Anneには2014年の夏から参画したものの,ゲームがローンチしたのは実に4年後のことだった。しかも,その間,しばしば長い中断期間があり,6か月ほどあまりすることがなかった期間もあったそうだ。だが,その息抜き期間から恩恵を受けることもあったという。

「一部のゲームディレクターは,自分たちのゲームに載せる音楽について,うまく考えを表現できないこともあります。音楽は異なる言語ですからね」

 「作り終わった楽曲を改めて振り返って,『OKだけれど,もうちょっと良くできる』と修正する機会を与えてくれました。個人的にはそれでいいと思いました。同僚の中にはそういうこと(追加・修正)をやり過ぎないほうがいいと思う人もいますが,私はそういう(仕事の)やり方も大いにアリだと思います」

 アポイントされた作曲家がそれについてどう感じるかは関係なく,作曲家がプロジェクトの最初から関わっているほうが,ほとんどの場合,最終的により良い成果物をもたらすとDue氏は確信している。「どこへ向かうのか,そして,なぜそこへ向かうのかについて,ゲームディレクターと作曲家が共通認識を持てる」からだという。この認識は,ゲーム開発において一切前例がないというわけではないものの,さまざまな理由から一般的ではない。

 Due氏は続ける。「予算の問題で,ときには開発の初期段階から音楽について深く検討できないこともあるでしょう。そういうときは,最後の最後,土壇場になって『あぁ神よ,私たちは音楽を入れなければならない』と慌てることになります。個人的に何度も聞いた話です。一部のゲームディレクターは,自分たちのゲームに載せる音楽について,うまく考えを表現できないこともあります。音楽は異なる言語ですからね」

 「Throughline Gamesが極めて素晴らしいのは,開発チームに音楽に精通した人たちがいたことです。これはとても大事なことです。音楽は,ノン・バーバル(言葉ではない)な言語です。言葉ではなく感情なのです。作曲家とディレクターの関係性の中で,作曲家はディレクターが意図する感情を,ピアノの鍵盤で弾き,楽曲に響かせ,ある特別なものにしていかねばなりません。これは簡単なことではありません」

 ある意味,作曲家はプロジェクトの最初から楽曲制作をしないのが得策かもしれない。一つのプロジェクトにそれだけ長い時間を捧げて創作するよりも,ターンアラウンドが速いプロジェクトに短期間だけ関わってサクサクと曲を作るほうが,金銭的なメリットだけを考えたらよほど得だとDue氏も認める。だが改めて言うが,人が仕事から得るのはお金だけではない。

 Forgotton Anneに楽曲を提供したことについて「正直,何かを犠牲にしたとは思っていません」とDue氏は言う。「芸術的な観点で,このプロジェクトのさまざまな段階で関われたのは,大変やりがいがあることでしたし,刺激的で楽しいことがたくさんありました。いろいろありましたが,すべて価値があり,糧となりました」

 その夜,Original Music Compositionのノミネートの中から受賞したのはForgotton Anneではなくゴッド・オブ・ウォーだった。だが,ノミネートされたことでDue氏は正しい高評価を得られたかもしれない。彼は現在Throughlineの専属作曲家となり,同スタジオのいくつかのプロジェクトに取り組んでいる。もちろん,これらのプロジェクトはみな初期段階にある。つまり,彼がゲームに己の創作の軌跡を残すのに十分な時間があるということだ。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら