VR向け統一3Dアバターファイルフォーマット「VRM」発表
VRMは,いわゆるVtuberで利用できる3Dアバターのための標準データフォーマットを目指して策定された規格だ。モデリングデータを主体に,Vtuberとして利用する際に必要になりそうなデータが加えられている。モデル,テクスチャ,各種メタデータなど,1人のアバターに必要なものを1つのファイルにまとめるファイルフォーマットがVRMということになる。VRMフォーマットはドワンゴが中心となって策定しており,現在Github上で公開されている。
VRM関連ドキュメント
さて,VRMのモデリングデータ自体は,OpenGLの汎用データフォーマット規格GLTF2.0に準拠しつつ,人体構造制御に必要な制約などを加えたものになっているという。
しかしVtuberなど,VR空間上のアバターモデルとして使用するためにはそれだけでは十分ではない。一人称視点でレンダリングした場合に,どの部分を表示しないことにするのかの指定が必要になり,VRMではそういった情報もサポートしている。
人格権は主に作成されたアバターを使って「そのキャラクターを演じること」に対する権利だという。「特定個人以外使えない」「特定の条件の人のみ」「誰でも使える」といった指定が可能になっているという。さらに商用利用の可否や「暴力的なゲームには使われたくない」とか「エロはダメ」とかいった指定もできる。用途はともかく,人格権についてはあまり例を見ない条項だろう。場合によっては,フィールド内に同じキャラクターのアバターが複数存在することを嫌う人もいそうだし,もっとさまざまな条件が加わってくるかもしれない。
ただ,こういったものはまだ実験的に取り入れられたという段階のようで,実運用する際にどんなデータ管理が必要になってくるのかは,現時点では未知数な部分もあるようだ。たとえば,今後ゲーム内で使われるようになった場合,ゲームの動きをしていても「演じて」いることになるのか,それは人格権があるといえるのか,格闘ゲームなどで使う場合は暴力表現にならないのかなど,検討すべき課題は多いようだ。今後こういった部分は,VRMの使われ方を見て改善されていく模様だ。
VRMコンソーシアム
今回の発表会では,VR空間上でのアバター展開を行っている事業者を中心に,以下の13社が集まった。
- IVR アバター作成サービス「V☆カツ」などを展開
- エクシヴィ VRでアニメを作る「AniCast」などを展開
- S-court スマホで美少女キャラを作る「カスタムキャスト」を展開
- DUO ミライアカリなどのVtuber事務所やVライブアプリ「イリアム」など多方面な展開
- ドワンゴ 「ニコニ立体」や「バーチャル大晦日」など多彩な展開
- バーチャルキャスト VRライブスタジオ「バーチャルキャスト」を展開
- ミラティブ スマホでVRキャラによる実況配信に対応した「Mirrativ」を展開
- Wright Flyer Live Entertainment Vtuberと会話できる「REALITY」やスマホでアバター作成から配信までできるアプリを展開
- クラスター 多人数によるVR会議システム「Cluster」を展開
- クリプトン・フューチャー・メディア 3Dキャラによるライブ配信システム「R3」を展開
- SHOWROOM VRライブ配信サービス「SHOWROOM」を展開
- ピクシブ VRM対応3Dキャラ作成ツール「VRoid」を展開
- ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン 技術的支援や国際標準化へ向けたサポートを予定
これら13社が発起人となり,今後VRMをもっと標準的な規格としていくためのVRMコンソーシアムを2019年2月に設立する予定だという。今回は,その設立に向けた発表も行われた。
活動としては,統一規格の技術仕様の検討を行う技術コミッティ,権利保護手段などを検討する知財・著作権コミッティ,標準化自体を推進するVRM標準化推進コミッティを設けて議論と行動を行っていく予定だという。
今回発表されたVRM自体はオープンな規格だが,今後仕様の拡張や改変を行う場合に正会員だと議決権を持ち,新たなブランチを切る権利なども与えられるという。賛助会員は仕様やガイドラインなどの情報を優先的に入手できる立場であるとのこと。オブザーバーは各コミッティに参加できるが議決権はなしといった具合だ。発起人となる13社は正会員になるのかなどは語られていないが,現在,オブザーバーとして任天堂が加わっている。
現在会員募集要項が公開されているので,興味のある人は準備会のサイトを確認しよう。
VRMコンソーシアム設立準備会
VRMの可能性
VRMについては,策定の経緯からしても「Vtuber用」と書くのが一番分かりやすいとは思うのだが,実態としては,より一般的には3Dアバターの統一フォーマットであり,Vtuverとして使うための配慮が行われているものという理解のほうが正確かもしれない。
これまでVtuber用の統一的なデータフォーマットがなかったというのはあるが,じゃあ3Dキャラクターの統一的なデータフォーマットってなによ? と聞かれると,それも困る。とくにゲームでの活用を考えるなら,キャラクターの標準フォーマットとしての意味合いのほうが重要になるだろう。
個人的には,VRを前面に出すよりも3Dキャラクターの標準フォーマットにデータ交換時のライセンス情報などを盛り込みつつ,Vtuber向けの部分は,その拡張として定義したほうが汎用性が高く,海外受けもよかったのではないかという気はしている。
アバターを主眼としていることから,VRMが想定しているのは人型のモデリングデータとなる。やろうと思えば現状のVRMのままで犬とかでもできなくはないようだが,あまり範囲を広げるとツール側での対応が複雑になるので,人間型に限定しているとのことだった。
ありがちな展開として考えられる尻尾などは,単なる揺れモノとしてならすぐに実装できるが,モデリングデータとしては想定されていない。そもそも任意に制御することが難しそうだ。しかし,独自に拡張することもできなくはないので,その場合は表情とリンクさせて動かすような制御はできるだろうとのことだった。アバターに尻尾とか羽根とか増やそうと思っている人は制御方法から考えておこう。
なお。表情については,喜怒哀楽の4パターンは定義されていて,拡張は容易とのことだった。
発表会では「日本発」の規格ということが強調されており,会場で「de jure標準(ISOなどのような公的な標準規格)を目指すのか」といった気の早い質問も行われていたが,規格自体はまだまだできたばかりだ。アバターならではの課題もいろいろ山積みされているようで,今後の活動に期待が寄せられる。
なお,すでに協賛企業のツールなどではVRMがサポートされており,キャラクター作成や配信などに利用できる。興味のある人は,関連サイトの情報を確認しておこう。