2018年を揺るがしたLoot Box問題まとめ: 己自身と戦うことになったゲーム業界

2018年を振り返る:状況証拠的にLoot Boxはギャンブルだが法整備は途上。

 ゲームはあなたの子供を悪魔の抱擁に走らせることもなければ,人肉に飢えた殺人狂に変えてしまうこともない。しかし,遥かに悪質なものに向かわせるかもしれないという証拠はますます増えている。それはゲーム業界とそのファンたちに,正真正銘,永続的な被害をもたらすものだ。

 もちろん,これはLoot Box以外の何ものでもない。ゲーム業界は再び道徳的なパニックを引き起こしかねない恐ろしい状況にある。長い年月をかけ,我々の業界は「暴力とゲーム」をめぐる無益な討論を経て,ゲームがいかに多様で創造的なものであるかを世界に示してきた。

 しかし,およそ16か月になろうか。「Middle-Earth:Shadow of War」がこの業界に醜い爪痕を残し,「StarWars Battlefront II」は意気揚々と登場したにも関わらず木っ端微塵になった。Loot Box論争が勃発したとき,ある上院議員は80年代の喫煙広告との比較を始め,このゲームは「スターウォーズをテーマにしたオンラインカジノ」だと言い放った(関連英文記事)。

「あなたが同紙に同意するとすればとても残念だ」

 それ以来,世界各国の規制当局が注目し始めた。あまりに難解なモノを理解しようとする無益な努力は,問題を完全に把握することが困難な結論に向けて重い足取りを進めている。EA(関連英文記事)や2K Games(関連英文記事)のような企業はスポーツゲームで未成年者がギャンブルを行いやすくする権利を主張している。怒れる消費者は,そもそも我々をこういう状況にさせているAAAゲーム開発の厳しい現実を理解できていない。

 「カジノと同じく,金の多寡で人を分け隔てるLoot Boxのゲームが13歳の子供たちにギャンブルを奨励」という,ブザマながらそれなりに目を引くタイトルをヘッドラインに踊らせた英デイリー・メール紙の記事と共に,カジノとLoot Boxの比較は激しい論争を巻き起こしながら勢いよく駆け巡った。

 あなたが同紙に同意するとすればとても残念だ。しかし,この問題を過去1年間にわたって広範囲に取材した私からしても,Loot Boxがギャンブルの形態ではないと断じるのは難しい。

 特定のパブリッシャが責任を回避するために採用しているいくつかの緩和策や技術はあるものの,より無害なLoot Boxでさえ,ギャンブルで一般的に見られる心理的メカニズムを包含している。

 よくご存じない方に説明すると,それらは,(心理学上の)強化スケジュールのさまざまな比率,感覚フィードバックなどのゲームプレイ経験,さらなる金銭的支出を促すように設計されたトラップシステム,そして,それらがいつも利用可能な状態であることだ。

 Loot Boxが法的にはギャンブルの定義を満たしていないとはいえ,心理的な定義は満たすと言える。

 ここで再び,よくご存じない方に補足すると,ギャンブルの心理的定義は英ノッティンガム・トレント大学の心理学者Mark Griffiths氏によって進められており,5つのコアとなる基準がある。すなわち,金銭と価値あるアイテムの交換,未知の未来の事象がその交換を決定する,その結果は少なくとも部分的にはランダムチャンスによって決定される,参加しなければ損失回避は可能,勝者は敗者を犠牲にする,ということだ。

 Loot Boxではプレイヤーは常に賞品を受け取ることになるため,法解釈上は負けたことにはならないが,それはプレイヤーにとっての価値は無視している。

「我々は,Loot Boxはギャンブルではないと考えます。Loot Boxは,サプライズの要素と,プレイヤーが常に何かを手に入れられる,ベースボールカードのようなものだと信じます
-ESRB president Patricia Vance氏

 どのようにギャンブルを定義するかが重要だ。しかし,世界中の政府の立法機関はLoot Boxが提示する潜在的なリスクを根本的に理解できていない。ベルギーを除き(関連英文記事),これまでのところギャンブルに関する各国の規制当局の反応は,Loot Boxを容認する姿勢だ。Loot Boxでのコンテンツが実際の金銭的価値と交換することが可能でなければならないからだ。

 16の国のギャンブル規制当局が「パブリッシャは,Loot Boxのようなゲーム内機能は,国内法の下でのギャンブルに該当しないようにせねばならない」という書簡に署名しているが(関連英文記事),その一点張りで,結果としてLoot Boxは問題視されないままきている。

 ギャンブルか否かという審査の過程で立法機関や当局がなかなか理解できていないのは,現実世界におけるアイテムの価値についてはほぼ無関係であるということだ。ベルギーのゲーム委員会だけが,プレイヤーに帰属する価値を考慮する唯一の機関であり,「アイテムの『価値』はすなわち使いやすさの程度として定義することができる。具体的には,便利だとか,素敵だということでプレイヤーがお金を払うアイテム」としている。

 Loot Boxがギャンブルに抵触するという懸念を払拭するために頻繁に行われる議論では,収集可能なカードゲーム,果てはキンダーサプライズエッグ(編注:Kinder Surprise Eggs,英国の子供向けチョコレート菓子で,タマゴ型のチョコレート菓子の中にさまざまなおまけが入っている)とまで比較された。米国のエンターテイメントソフトウェア格付委員会(Entertainment Software Rating Board)のPatricia Vance会長が,Maggie Hassan上院議員に宛てた書簡でこう述べている。「我々は,Loot Boxはギャンブルではないと考えます。Loot Boxは,サプライズの要素と,プレイヤーが常に何かを手に入れられる,ベースボールカードのようなものだと信じます」

 しかし,英ヨーク・セントジョン大学のDavid Zendle博士と英ヨーク大学のPaul Cairns博士が私に語ったところでは,Vance会長のようなレトリックは「時代遅れ」であり,「少々妨害的」なものだという。

 両博士はメールで次のように説明してくれた。「人々の関心を,Loot Boxと物理的に収集可能なカードゲームの類似点に集中させています。しかし,それは違いをうまく取り繕っていることにほかなりません。Loot Boxと物理なCCG(コレクタブルカードゲーム)の間には多くの違いがあります。速度とボリュームに関係するかもしれない重要な違いを挙げてみましょう。プレイヤーはトレーディングカードを買うよりも,もっと簡単にLoot Boxを買うことができます。それに,いちどきに,そして容易に,カードよりも大量に購入することができます」

「ときには,これらが似ているように見えたとしても。重要なのは『違い』であり,『類似点』ではありません
-David Zendle博士,Paul Cairns博士

 両博士はまた,ブースターパックを購入する際の物理的,現実的な障壁を除けば,Loot Boxとトレーディングカードの表面的なレベルでの比較は「本質的に議論の余地がある」と指摘した。

 彼らはまた「この関連性は,物理的なカードパックがどうLoot Boxに似ていようと,潜在的に有害です。ときには,これらが似ているように見えたとしても。重要なのは『違い』であり,『類似点』ではありません」と述べた。

 今年の初め,両博士は,Loot Box調査の一環として,オーストラリア環境・コミュニケーション調査委員会(Australian Environment and Communications Reference Committee,以下「ECRC」)のために7000人以上のゲーマーに対してアンケートを実施した。調査結果は,Aaron Drummond氏とJames Sauer氏による論文記事「ゲームのLoot Boxは心理学的にはギャンブルに似ている」の論証を支持することとなり,また,「Loot Boxへの支出とギャンブル浪費の重要なつながり」を発見した(関連記事)。

 実際,両博士は,ある個人における賭博の問題が深刻であればあるほど,Loot Boxに費やす金額が多いことを発見した。

 「我々が観察したこの因果関係は,きわめて重要である」と彼らがECRCに提出したアセスメントには記載されている。「実際,ゲーマーがLoot Boxに費やした金額というのは,うつ病や薬物乱用などの分かりやすく明確な要因よりも,その個人のギャンブル浪費のより良い予測因子となった」

 5か月間にわたってこの問題を調査したECRCは90ページの報告書を発行し(参考URL),オーストラリア政府に対して,Loot Boxに関する包括的な見直しを行うよう忠告した。報告書では,Loot Boxは「本質的に似ているものではない」とし,Loot Boxを入手する方法はさまざまであるが,やはり現実世界での金銭的価値という法的な観点で議論が再燃した。

 ほかの世界の政府機関の多くは,まさに現在Loot Boxを検証している。最も注目すべき最近の動向は米連邦取引委員会だろう(関連記事)。Loot Boxの仕組みは,プレイヤーが継続的に現金を出すという点でギャンブルとかなりの類似点を持っていることは各国共通の懸念事項だが,Zendle博士とCairns博士は,いずれもいつになったら,もしくは,いつか,法的なコンセンサスが成立できるのか不明としている。

 ギャンブル中毒の危険性は十分に裏付けられており,ゲームでのマイクロトランザクションの問題に関する多くの逸話的な証拠もある(関連英文記事)。サイコロを振るという反道徳的な興奮を呼び起こすために特別にデザインされたLoot Boxが,両方の世界で最悪なものを体現するのは当然だ。

「法解釈上は違法ではないからという理由だけで,いかがわしい行為をしつこく続けるのは,敷居を下げているのではなく,ドブに蹴り込むようなものだ」

 Juniper Researchの最近の予測では,Loot Boxは,デジタルゲーム市場を2022年には1600億ドル規模に押し上げうると示唆されている(関連英文記事)。著者である研究者のLauren Foye女史は次のようにも指摘する。「ランダムなジェネレーションのアイテムを貨幣化することによって,パブリッシャはゲーム内ギャンブルの形態を効果的に推進し,ゲームタイトルのライフサイクルとエンゲージメントの両方をオーディエンスに及ぼすことができます」

 EAの社内予測によれば,一つのAAAゲームのLoot Boxによる収入は,7000万〜2億ドルの間だったという。そのような数字が叩き出せるとあれば,同社がベルギー地域で販売するゲームからLoot Boxを除くよりも,同国の規制当局との法的闘争に臨むことを選んだとしても驚くことではない(関連英文記事)。

 しかし,私たちはどうなるのだろうか? そして,もっと重要なことは,私たちはどこに向かっているのだろうか? 法的な観点からは,ベルギーの決定は,定義がどれだけ可鍛性(力で破壊されることなく変形できる性質)があるのかを示したという点で最も重要だ。もちろん,デベロッパやパブリッシャにとっては頭痛の種だが,International Game Developers Association(IGDA:国際ゲームデベロッパ協会)でさえ,業界がLoot Boxを採用することに反対の姿勢を取っている(関連英文記事)。

 先日,同協会のエグゼクティブディレクターのJen MacLean女史は,子供にLoot Boxをマーケティングしないこと,リワードごとのオッズを明らかにすること,両親に対してLoot Boxの害を啓蒙するキャンペーンを立ち上げることを業界全体のコミットメントとして提唱した。

 ゲーム業界はこの1年間,己自身と戦ってきた。多くの規制当局はLoot Boxは法的にはギャンブルではないとしつつも,どれだけギャンブルに似た行為であるかについて懸念を持っていることは間違いない。

 おそらくゲーム業界は,合法であるという注意書きが,Loot Boxの継続的使用を正当化するのに十分であるかどうかを己に問うべきだろう。「Loot Boxは心理学的にギャンブルに類似する」との見方は科学的な証拠でも明らかだ。そして各国政府当局はゲームとギャンブルの間を分ける「ますます曖昧な線引き」への懸念を提起している。しかし,パブリッシャたちは強制されない限りこの問題を見て見ぬ振りをしている。

 子供たちにギャンブルを押し付けるとして,企業責任を問うのは酷だろうか? 法解釈上は違法ではないからという理由だけで,いかがわしい行為をしつこく続けるのは,敷居を下げているのではなく,ドブに蹴り込むようなものだ。

 法的な定義にかかわらず,Loot Boxは明らかに有害な行動に関連していると,さまざまな証拠が示している。ギャンブルの悪影響を懸念するのであれば,Loot Boxに気をつけておく必要がある。法解釈上で違法ではないから正しいということにはならないのだ。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら