九州は元気だ。CEDEC+KYUSHU 2018開催

 2018年12月1日,福岡県・九州産業大学で「CEDEC+KYUSHU 2018」が開催された。CEDECの地方版イベントとして今回で2回めの正式開催となるが,こういったCEDECの地方イベントが行われているのは九州・福岡のみであり,地元企業の熱の高さがうかがえる。当日は8トラック40+1セッションが行われ,大勢のゲーム開発者や学生などで賑わった。

 堀井雄二氏を招いて行われたドラクエシリーズ32年を振り返る基調講演は,当然ながら大入り満員の状況であった。モデレータの日野氏がなんとか「ポロり」を引き出そうと粘っていた基調講演の模様は後日(できれば)レポートしたい。

基調講演の模様

会場となった九州産業大学
 そのほかにも,地元のゲーム企業や招待セッションなどで大手ゲームメーカーの講演が多数開催された。セッションリストを最初に見たときには,個人的にちょっと意外なメーカー名も並んでいたりしたのだが,調べてみると九州企業とはいえないかもしれないが,九州にもスタジオを併設しているゲーム会社も実は結構あるのだ。レベルファイブやサイバーコネクトツー,ガンバリオンなどの,本イベントの主導企業ともいえる会社も複数のセッションを展開して積極的にセッションで情報共有を図っていた。

 またゲーム関連では,EVO Japan 2019が福岡で開催されるという話題も九州的には大きなものであろう。関連講演を聞いてみると地元側の受け入れ態勢が素晴らしい。自治体にガチな人がいると違うなと感じた。ちなみに,EVO Japan 2019に関しては,弊社(Aetas)はほぼノータッチである。来年2月開催なので,もう準備も佳境といったところかもしれない。格闘ゲームの祭典が九州の地でどのような盛り上がりを見せるのか,来年のイベント本編に注目したい。
展示エリア全景
会場内の試遊エリアの模様


会場で見かけたモノ


 展示会場や体験会場で目に付いたものを2つ紹介しておこう。

●VRM-100
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 まず,ジャパンディスプレイによる高精細VRヘッドマウントディスプレイの展示である。
 VRM-100は,同社の液晶ディスプレイを用いたデモ用のVRヘッドセットだ。使用されている液晶パネルは両目合わせて2880×1600ドットの解像度,80fps駆動というスペックのもので,Oculus Goなどで使われている有機ELパネルが2560×1440ドットの75fps駆動であることを考えると,若干スペックが高い。数字的には「若干」なのだが,実際に体験してみると数字以上に「綺麗」なのだ。
 これは,VRヘッドセットで使われる有機ELパネルのほとんど(PSVR以外全部?)は,よく言われる千鳥配列(RGBの画素比率が同じではない)であり,数値上の解像度ほどには映像情報の解像度は高くないことが主な原因だ。バックライト制御による黒挿入も行っているので,有機ELに対してやや不利な動画解像度もきわめて高く保たれている。
 理論上,千鳥配列がレンダリング解像度が持つ画質をフルに発揮できないのは間違いない。RGB配列は性能をフルに発揮できるので,解像度的に千鳥配列よりワンランク上の絵が出せると考えてもあながち間違いではない。
 VRの場合,解像度を上げると要求スペックが高くなる。同じ性能でドライブすると実現できる表現力が低くなる。性能に余裕があればよいのだが,オールインワンタイプのVRヘッドセットなどでは,ジョン・カーマック氏が「ハイエンドPCの1/1000の性能しかない」と嘆くくらいモバイルプロセッサには余裕がない。無駄にしている部分を回収できるというだけでも価値は高い。

2枚のパネルをモジュール化した本体部とゴーグル部で構成される。ゴーグルは一般的なCardboradタイプのものをベースにしたものだそうで,特別な機能は持っていない。ほかのゴーグルに取り付けて動作させることもできる
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 80fps仕様というのも,PCではややもの足りない感じなのだが,モバイルだとちょうどよいところだろう。ジャパンディスプレイでは,とくに解像感の差が出やすい文字を中心に優位性をアピールしていた。VR空間内で,PCディスプレイの情報を表示して作業できるバーチャルデスクトップ的なアプリは昔からあるのだが,テキストを表示したときにVRヘッドセットの解像度では読みづらくなるのが問題だった。そういった真に解像感が要求される分野でとくに差が出るというアピールだ。
 ちなみに,今回の製品は615ppiのパネルなのだが,同社はすでに1000ppiのパネルも開発しているとのことで,PCハイエンド用にも展開が期待される。
 今回のVRM-100は,デベロップメントキットという形でツクモから市販されている。パネル部分とVRヘッドセット部を組み合わせたもので,PCと接続して使用するものとなる。ValveがSteamVRの互換環境用として提供しているOpenVRに準拠したドライバが提供されているため,Unityなどの開発環境で対応ソフトを開発できる。現状では,ベースステーションなどへのセンサーは搭載されない3DoF対応なので,SteamVRアプリの完全展開は無理だが,部分的には動くソフトもあるのだろう。気になる人は,12月5日から開催されるファインテックでも展示されるそうなので,足を運んででみるといいかもしれない。

ジャパンディスプレイ内製品情報ページ



●TJBot zero
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 IBMブースに展示されていたボール紙によるロボットは,Raspberry Pi zeroを搭載し,カメラやマイク,モーターを制御することで多彩な働きをすることができるものとなっている。
 Raspberry Pi zeroは,マルチコア&64bit化で性能を上げた最近のRaspberry 3シリーズではなく,昔からあるラズパイの仕様に近いものを非常に小さくまとめた製品だ。正直,非力ではあるが,TJBot zeroでは処理の多くをクラウド上で行うので,通信機能さえあれば性能はあまり問われないのだ。
 クラウド上では,IBM Watsonにより,本当に非常に多彩なことが可能となる。つまりこんなボール紙のロボットながら,ユーザーと音声会話したり,カメラで画像認識したり,あれやこれやもできてしまうのだ。頑張ればクイズで全米チャンピオンに勝ったりもできるはずだ?
 IBM Watsonには,チャットボット,データ収集,画像認識,音声認識,音声合成,翻訳など多くの機能が用意されており,こういった工作系でありがちなラジコンロボットとはまったく別次元のロボットを構築できる。ボール紙製でも中身は最先端というか世界最高峰のAIが利用できるのだ(まあロボットの形自体にはあまり意味はないのだが)。

九州は元気だ。CEDEC+KYUSHU 2018開催
 TJbot zeroは型紙のデータは公開されているので,それをもとに製作できるのだが,会場では,ほぼカッティングされた台紙が配布されていた。TJBot zeroを組み立てるためには別途電子部品を用意して多少の電子工作が必要だが,筐体部は簡単に組み立てられる。
 IBM Watson(IBM Cloud)にはライトアカウントも用意されており,ある程度の範囲なら,無料で使用できる。ロボットの制御には,APIをノードベースでビジュアルに組み立てられるツールが利用できるという。
 人間と会話できるようなロボットが,この程度の工作で作れてしまう……思えば,かなり凄い世の中になってしまったのかもしれない。

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TJBot情報ページ


CEDEC+KYUSHU 2018公式サイト