私のお金はどこに? Part1:Steamの経済学
これはPCゲーム発売の最初から最後まですべてのプロセスを解説するシリーズ記事の最初の一編である。我々はここでは開発にまで踏み込まない ― それはまったく別の話だ。
我々はSteamについてたくさんの話をするつもりだ。なぜならそれは最大のオープンなゲーム配信プラットフォームだからだ。しかし同時にサードパーティの配信システムについても代替の配信手段として扱っていく。自分たちの答えを見つける前に,
答えを見つけにいく前に,最近ではどのようにしてパブリッシングが行われているのかについて批判的に見ていこう,我々は,価格と値下げ,そしてSteamのWish Listがどのような役割を持つのかから始めたいと思う。
ド真ん中から始めよう
そう,ド真ん中。薔薇色に染まったメガネを外して,電卓,算数,そして少しだけ忍耐を装備しよう。我々はあなたのゲームでどれくらいコストがかかるかを算出していく。
答えを出す前に,もう一つ聞いておく必要がある。収支をトントンにするには何本の売り上げが必要なのかだ。
ゲームの開発とマーケティングに10万ドル(約1140万円)かかって,1本20ドルで売ると仮定しよう。これを計算する最も簡単な式は次のとおり。
$100000/$20 = 12000
投資が回収されるのは,1万2000本を売り上げた時点だ(※後半では1万3000本になっている。そちらが正解と思われる)。え? 計算だと5000本になる? それはやり方が間違っている。では,なぜ間違えたのかを見ていこう。
あなたは北米と欧州,ロシア,中国向けにゲームをリリースしようとしているとしよう。 為替レート(※との差額)がかなり大きな地域があるため,あなたは20ドルの代わりに彼らの「平均価格」で取引しなくてはならない。ゲームはあちこちで違った値付けが行われるのだ。
我々が興味を持った国々では,価格は米ドルから直接的にその国の通貨に変換されていない。それはそこだけで通用する仕組みだ。Steamでの20ドルに相当する値札は,中国では70元(約10ドル),ロシアでは465ルーブル(約8ドル)になる。
ゲーム売り上げ本数の50%が北米(20ドル)と欧州(17.2ユーロ)で売れ,25%がロシア(8ドル)で25%,中国(10ドル)で25%だったと仮定しよう。あなたのゲームの平均単価は14.5ドルということになる。収支がトントンになるまでに売らなければならないゲームの本数は6896本増加する。
高価格の地域(北米および欧州)での売り上げが増えるほど,平均価格は当初に想定した金額に近づいていく。
最も大きなデジタル配信プラットフォームであるSteamが払い戻し機能を提供しており,顧客がそれを使うことも考えてみよう。これまで払い戻しがゼロであったゲームなどは存在しない。不満な顧客や技術的問題にぶちあたるユーザーというのは常にいるものなのだ。あなたは2.5〜5%の本数が返品になると考えなければならない。悲観的に5%でやってみよう。そうすると,収支を合わせるために必要な本数は7258本となる。
いまのところ,我々はわざわざ正確な税金を計算してはいない(付加価値税やサービス税など)。これはあなたの会社がどの国で登録しているか,顧客がどこの国出身なのか,あなたの国とストアがある国との間で二重課税を禁止するなんらかの条約があるかどうかなどに大きく依存するため,大変複雑な問題となっている。
私の経験をもとにすると,キプロスで登記した会社は全世界での売り上げから4.5%相当を税金で引かれるので,修正目標は7600本となる。
最終的に,我々は収入がどのように分割されるのかも考慮しなくてはならない。配信プラットフォームは通常30%を持っていく。なので,黒字を保つためには1万875本を売り上げる必要があることになる。
そして,居住国に払う所得税も忘れてはいけない。もしあなたの会shがドイツ出身だとすると,企業収入には15.825%の税金がかかる。これは,あなたは収支を合わせるためには割引なしで1万2919本を売り上げる必要があるという意味になる。
最終的に,
本数 = 予算 / (平均価格 × 配信者の料率 × 払い戻し ×税金)
となる。
しかし,これがすべてではない! 平均価格と言うのは年間を通して一定であるものではない。割引やセール,特別なプロモーションなおで下がっていく。最初の数か月のフルプライスでの販売のあと,年間の平均価格は25〜30%低下する。
割引セール
好むと好まざるとに関わらず,最近のPCゲームの流通は,ほとんどが売り上げ本数に左右されるものだという事実を受け入れなければならない。ここではSteamでの状況を見ていこう。
毎週月曜日に始まる週間セールであるWeeklong Dealsへの参加オプションに加えて,Steamは年に1回の大きなセールを行っている(サマーセールとウィンターセール)。さらにあなたは自身で時期や割引,状況を選んだうえでセールを開くこともできる。
リリースを計画する場合は,夏や冬のセール時期に重ならないように気をつけてなければならない。最初のディスカウントを行う時期は慎重に考えなければならない。それはその後のフルプライスでの販売を低下させる可能性があるからだ。そうなれば,あなたは値引き前の水準に戻すために非常につらい思いをすることになるだろう。
Steam割引があることも忘れてはいけない。もしあなたが金曜日に発売したいと考えているなら,考え直したほうがいい。― たとえばUbisoftのような,旧作の大部分を低価格で売る一流パブリッシャによるWeekend Dealに囲まれる結果になるだろう。私は,7割引で売られるAAAタイトルと顧客の関心を争うようなことは勧めない。
そして,あなたがSteamで個人的なマネージャーと交渉する余地のある特別なプロモーションもある。これらにはDaily Deals,Weekend Deals,Midweek Madnessが含まれている。もしくは,特定のジャンルや特定の国でベストゲームになるといった,年間を通して行われる独占セールもある。
これらの特別なプロモーションといったオプションに参加できるかは,抽選運が大きく関わってくる。これはパブリッシャとの提携を考える際の一つの理由にもなっている。もし彼らがSteamと長い付き合いがあるなら,この手のおいしい話を手にできるチャンスは広がってくるだろう。
それらはWeeklong Dealsだ。しかしSummer Saleについてはどうか? Steamが割引(あなたが設定したもの以外で)を始めると,あなたはしばらくの間,多くのトラフィックを伴った多大な露出を集めるだろう。大きなセールごとに,あなたは収益の上昇とWishlistでのゲームの存在感を大きく拡大しつつ(下のグラフ参照),顧客層の拡大を得るだろう。
多くの人々は,20%の割引は十分な仕事をやっていると考えるだろう。もし50%にしたことがある場合は,もうかつてと同じくらいフルプライスの売り上げが上がることに期待してはいけない。
Weeklong Dealは60日に1回しか開けないことに注意しなさい。すべてのものを考慮しても,あなたは年に5回か6回しかセールに参加できない(おそらくは5回)。なので,発売期間はさておき,あなたには年に5から6回の成長のチャンスがあることになる。あなたのゲームの販売期間が終了すると,ゲームの価格は年間にわたって広がる平均的な割引価格と相関するようになる。我々はFlash Salesでの回復を期待している。これは6,8,10ないし12時間続くセールができるものだ。しかしながら,大きな割引は払い戻しの割合も上げることも心に留めておかなければならない。
Steamには販売関係でもう一つの素晴らしいツールがある。クーポンだ。あなたは,もう一つのゲームを持っている人全員に対して14日間のゲーム割引を提供するクーポンを配ることができる。これらのクーポンは,15〜25%の割引を提供するもので,すでにそれなりの顧客層を抱えている場合にはかなりの効果を発揮する。これらのクーポンは自分たちでは配布できない。― あなたはSteamマネージャーに発行を頼まないといけない。
Steamマネージャーはあまりこのツールが好きではない。なぜなら,クーポンの発行はSteamのエンジニアによるいくらかの手作業が必要になるからだ。もし,あなたのゲームが20万以上のインストールベースを抱えていたとしたら,SteamはGreenlightにしたがるだろう。ところで,これはパブリッシャと協力するもう一つの理由にもなる。― かれらはすでにいくつかのゲームで巨大な顧客層を抱えていたり,クーポンの扱いで経験を積んでいたりするのだ。
Steamバンドルについても考慮すべきだろう。―単にあなたのゲームをDLCとまとめるだけでなく,ほかのゲームとも組み合わせるのだ。ほかのデベロッパ,パブリッシャが出しているゲームとの組み合わせもありうる。セットで売りたいゲームとの協業を考えなさい。そして事前にその可能性について話し合いしてみなさい。
Steam Wishlist
我々はすでに,フルプライスで少なくとも元を取るためには1万3000本を売る必要があることを算出している(割引を始める前に,できれば発売初月に達成することが望ましい)。ここでSteam Wishlistがどんなに役に立つかを見ていこう。もしくは,ズバリ,特定のゲームをWishlistに入れている人の何人が,そのゲームの将来的な売り上げにつながっているのかを見ていこう。
私が知っているすべての会社は,SteamのWishlistの内部作用とどれくらい販売につながるかについて独自の考えを持っている。私は自分の体験とこの問題について話し合った同僚の経験をもとに語っていきたい。
上のグラフから,ゲームの発売日とセールをやった日を見つけられるだろうか? (クリックで拡大) SteamはWishlistについてはかなりの量のデータを提供している。しかし我々が本当にほしいデータというのは一つだけだ。つまりWhistlistから購入へのコンバージョン率である。
このパラメータは常に流動的だ。この原稿を書いている時点で,Steamのパートナーツールは,リリース後の3か月間では5〜7.5%,6か月後で12.5%,最初の1年で15.2%くらいコンバージョンだとOKだと示している。
特定のゲームと会社はコンバージョン率が19〜30%に達しうるが,私は悲観的でいることを勧める。もしあなたがそれを達成できたとしたら,その成功には理由がある。もし達成できなかったとしたら,まあくよくよしてもしかたがない。
Steamでのタダ飯以上のものはなかなかない。上位100本のゲームは純益の90%を生み出しており,これは当分変わりそうにない。―これらのゲームはよく売れ,誰もがお金を使う。ローンチ時に手に入れた広告表示を使い切ってしまったら,Steamエコシステムではあなたには限られた選択肢しか残されていない。実際のところ,意のままになるのは2つだけだ。新規ユーザーを引き付けるための割引とWishlist登録者へのメーリングリストだけである。
あなたは主要なニュースやアップデートに伴う広告表示サイクルをいくつか入手できる。正確に言うと,50万表示の5サイクルだ。これらの広告はすでにゲームを所有している人のみに表示される……もしくはWishlistに載せている人のみだ。コンバージョン率は1.9〜4.2%となり,このツールで多くの売り上げを得ることに期待してはいけない。ゲームが十分よく売れてあなたの発表が高く評価されたたなら,あなたは追加の広告表示サイクルを入手可能だ。
2018年時点での共通認識となっているのは,Steamの売り上げ上位リストに載る続けるためには,少なくとも毎日2000本を売る必要があるということだ。また,広告表示での自然流入を十分な量確保するには最低700〜1000本売っていかなければならない。
ゲームリリースの通知はWishlistにあなたのゲームを入れているすべての人に対して送られる。なので,あなたのゲームをWishlistに入れている人が多いほどよくなる。― 数日で売り上げの急上昇を実現し,売り上げランキングに載ることになる。これはさらなる自然なトラフィックを促し,さらなる売り上げにつながるだろう,などなど。
Steamは,ゲームのリリースに当たって,すぐに100万ビュー分の広告枠を提供してくれる。あなたの売り上げをもとに,Steamはあなたのゲームのコンバージョン率について結論を出し,追加のトラフィックを与える便宜を図る。よい数字はより多いトラフィックとなり,より多いトラフィックはより多い売り上げにつながる。コミュニティを巻き込むことやブランドの宣伝に多くの投資をすることは往々にして報われる ―会社は広範で忠実なファン層を開拓でき,うまくすればベストセラーランキングに数か月,下手をすると数年載り続けることさえできるだろう。彼らの成功は,Steamマネージャーへ賄賂を贈ったからではない。かなりの期間にわたって非常に高い売り上げグラフを維持しているからだ。
アーリーアクセスについて考えよう。これがデベロッパにとってどんなに有用なツールになりうるかを説明する記事は山ほどある。確かに,アーリーアクセスはアーリーマネーではないが,それによってゲームの技術的・デザイン的問題を修正できるまたとない機会となり,マーケティング素材のテストもできる。
Steamはローテーションシステムの内部の仕組みについては口を閉ざしているが,デベロッパとパブリッシャはみんなそれを解明するために経験的・分析的手法を試すしかなかった。ときどき,Redditユーザーは,すべてのものがどのように動いていうるのか,そしてどれほど悪用されうるかを熱心に調べようとする。
我々の信頼できる計算機をもう一度使ってみよう。最初の1か月でのWishlistから売り上げへのコンバージョン率が5%と仮定して,月に2000本を売るには少なくとも4万人のWishlistに載る必要がある。この単純な計算は,その他の博打要素に関わらず,はっきりした売り上げボリュームを予測する際に役立つ。
最初の1年を経た時点で,どのようにWishlistのエントリーを売り上げに変えるかについての意見は,非常にバラバラである。私は少なくとも2つの代表例を知っている。それらは完全に互いに矛盾するものとなっている。一つの見方は,あなたはSteamのセール(季節,個別ともに)を活用することで,2〜3年で最大70%までコンバージョン率を上げることができるというものだ。なので,もしあなたが現時点で4万のWishlistを持っているなら,あなたは約2万8000本の販売に漕ぎ着けるだろう。
別の視点のほうは,販売期間全体を通して,リリース日でのWishlistの数より多くの売り上げは絶対にできないという予測だ。この見方は,より悲観的である。結局のところ,どちらを信じるかはあなた次第だ。
上記のグラフはWishlistの数と最終的な結果(Wishlistの人数−購入−Wishlistから外した数)の関係を示すものだ。多くのゲームで,Wishlistの人数は決して減らないということに注意しよう。
あなた側からのあらゆる行動は,期待に見合った価格であることを予想した多くのユーザーにWishlistに入れさせる結果となりうる。しかし,これらのWishlistを購入者にする際になにができるだろうか? これはあなたが自分自身で解明しなければならない問題だ。
連載の次の記事では,Steamのより多くの局面を細かく見ていくことにしよう。それにはコミュニティとの連動やストアページデザインを改善することのメリットなどが含まれる。
Nikolay Bondarenko氏はProtocol Oneのテクニカルオフィサーであり,Ash of Godsを作ったAurumDustのオーナーでもある。
私のお金はどこに? Part2:戦利品を山分けする
私のお金はどこに? Part3:ハンティングから収穫へ
私のお金はどこに? Part4:ローカライズについて
※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら)