Amplify:中国メーカーDroidhangが生々しく語る中国市場攻略法

 2018年11月2日,AppLovinは都内でセミナー「AMPLIFY TOKYO」を開催した。モバイル広告大手の同社は,業界向けに情報共有と交流を図るイベントを開催している。

 さて,テーマは中国市場だ。
 現時点で中国のゲーム市場規模は世界最大である。加えて伸びしろもある。モバイルユーザーは14億人で,モバイルゲームプレイヤーは6億人だ。
 そして中国では,急速にデジタル広告のモバイルへの移行が進みつつあるという。さらに中国ではモバイル広告のクリック傾向が高いようで,モバイルゲーム自体が広告プラットフォームとして急成長する可能性がある。モバイルゲームを中国で展開することで,ゲーム自体での収益に加えてモバイル広告でも大きな収益の機会が期待できる。モバイル広告を手がけるAppLovinとしては,「中国でビジネスを拡大しましょう」ということで今回のセミナーが開かれたわけだ。

 しかしながら,中国での新規ゲームライセンスが停止されて半年以上が経過し,さらに少なくとも半年は改善される見込みがないというのが大方の意見だ。正直,現時点で「中国市場を目指そう」というのはなかなか難しいところがあり,それはだいたい分かっているのだろうが,それでもなお今回のセミナーへの参加企業は51社にのぼっており,中国市場への関心の高さがうかがわれた。

 当然ながら,会場からの質問では,新規ゲームの認証はいつ解禁されるのかといったものも出ていた。しかし,政府のことは分からないといった回答が行われていたので,本当に分からないのであろう。こういったものも含めてのChina Riskなのだろうが,いつまでも異常な規制が続くことはありえないので,そのときに備える意味で,最新の中国モバイルゲーム事情を見ていきたい。


Droidhang Product Owner (Marketing) Panlong Xiong氏
 当日は中国から2社のゲーム企業が登壇して中国市場に向けたさまざまなアドバイスが行われていた。ここではDroidhangのPanlong Xiong氏による講演を紹介しよう。「Droidhangが見る中国のアプリマーケット」と題して中国流のモバイルゲーム,中国人に好まれるモバイルゲーム,中国で成功するゲームとはどのようなものかが語られた。
 Droidhangは「Idle Heroes」などで知られるゲーム会社だ。なおIdle Heroesはいわゆる放置ゲーであり,タイトルは「アイドルの英雄」ではなく,「怠惰な英雄」なので念のため。

 まず,中国のモバイルゲームはどんなものか? 例として挙げられたのは同社の代表作であるIdle Heroesの画面だ。Xiong氏は,日本のゲームとの違いなどインタフェースについて説明してくれた。

Idle Heroes(日本版)の画面
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 左上にあるのが中国では欠かせないという「VIP」用のボタンだ。中国ではPay to Winに対する抵抗は少なく,たくさんお金を払っているのだから優待されて当たり前といった考え方が一般的で,VIPプログラムがほぼ必ず存在する。
 VIP待遇になると,お金を使うほどランクが上がり,さまざまな特典を与えられる。特別感を出すことで定着率を上げる手法だ。日本のゲームでも近いことは言えるのだろうが,基本無料のゲームの場合,収益の多くを大口ユーザーに依存するというのはよくある話だ。中国の富裕層は,それはそれは盛大にお金を使う傾向にあるようで,大事な顧客へのサービスは当然のことと思われている。

とにかくアイコンが多い
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 画面の右上あたりには課金関係のボタンが並んでおり,しっかりと課金誘導が行われる。そのほか別のゲームの画面も紹介されていたが,とにかく画面にアイコンが多いのが一つの特徴となっているようだ。
 戦闘画面で強調されていたのは,とにかくド派手なエフェクトだ。画面に大きく表示されるダメージ数値もプレイヤーの満足度を上げるのに大きな効果があるという。

戦闘エフェクトはド派手で,ダメージ数値は大きく表示されるものが好まれる
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 アイテム関係も派手なものが好まれる。中国のゲームというと,やたらメタリックだったりトゲトゲしたどこか中華風の原色の装備などを思い浮かべる人も多いと思うが,そういった大げさなデザインのものをクールだと感じるのだそうだ。また,インベントリなどの装備画面では,そういった装備が画面いっぱいにびっしり並ぶことで高い満足度を得るとのことだった。中国人が好む色使いも紹介されていたが,赤と黄色の非常に派手な色調であった。
 また,そんなわけで装備への需要は高く,レアな装備を人民元に変換することはプロゲーマーの主要な収入源であるそうだ。RMTはごく当たり前という状況であるようだ。

中国人の好む色使い,アイテムの意匠は大げさなくらい派手なものがよい
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 ソーシャルな傾向としては,1箇所に大勢で集まるのが好きで,ジャンルとしてはMMOを好むとのことだった。MMOといっても,ゲームの進め方などと直接関係しない場合も多そうだが,大勢が集まる場所があったり,サーバー全体との会話ができるようなシステムが重要であるように思われた。
 日本との違いとして,日本では時間つぶしなどでモバイルゲームが遊ばれることが多いが,中国では実社会でのストレスや不満の解消法,劣等感などのバランスを取る手段としてモバイルゲームが使われているとのことだった。
 関連して紹介されたのがスピーカーのアイテムだ。これはサーバー全体へのチャットツールである。ゲーム内で叫んでストレス解消したり,サーバー全体に発言が目立つことで満足感を得るのだそうだ。
 日本とは少しゲームをする目的が違うので,攻略や対戦なども研究を重ねてかなりガチでやる人が多いという。そうして勝利を得ることで高い満足感を得るのだろう。

スピーカーはサーバー全体へのチャットツールで,チャット文字を飾ることもできる
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 中国のゲーム運営では,まず中国国内のAndroid市場の特殊性が語られた。要するに「Google Playがない」という事実なのだが,代わりに非常に多くのアプリマーケットが乱立している。下のスライドでいうと,各バナーの下の部分に並んでいるのが,配信元の一覧となっている。数多くある配信業者のそれぞれと契約するわけだ。

下に見えるロゴの一覧が配信業者だ。左のidle Heroesで20,右の神無月では35の業者で配信を行っている
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 中国では,Huawei,Xiaomi,Oppoなどのスマホメーカーが独自のアプリマーケットを用意しており,その会社の端末を買った人は必ずそのマーケットが使われるので,非常に重要な配信元となる。そのようなプラットフォーマーをはじめ,TencentやBilibiliといった大手配信業者,Blustacksといったエミュレータなどとも連携していく必要があるという。

効果が高いという月間カード
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 続いて語られたのは中国でのモバイルゲームの収益獲得法だ。日本だとガチャ全盛だが,欧米だとちょっとしたガチャでも「賭博」として社会問題になるレベルの問題になるのでマネタイズ手法はまったく違っており,これは中国や韓国でもさほど変わらない。Xiong氏からは中国ではどのようにマネタイズをしてるのかが具体的に紹介された。
 ストアではキャンペーンが多く展開され,ゲームで役立つボーナスパックが人気となっているという。また,大きな収入源として挙げられたのが「月間カード」だ。これは1か月の期間アイテムで,ゲーム内で有用なダイアモンドなどが多く手に入るものだという。
 続いて非常に特徴的な手法として紹介されたのが,初心者用の初回チャージ限定のボーナスだ。非常に安く設定されていながら,ボーナスはポイント2倍,3倍などの非常に効果の高いものが多く揃えられているという。こういったゲームの課金では,最初の課金までのハードルが高いので,そこを越えさせるための手法であろう。1円でも使う人とそうでない人には歴然とした差があるのは言うまでもない。

金額を問わず,初チャージで豪華なボーナスを出しているゲームもあるようだ
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 日本ではゲームがある程度分かってから課金する人が多いが,中国では最初から課金する人が多いとのことでプレイヤーの傾向が異なるそうだ。
 初心者には,超お得な初心者パック,そして一般プレイヤーには普通にお得な月間カード,キャンペーンでかなりお得なボーナスパックといったもので,ゲームプレイを楽に進めさせる方向でどんどん課金していくのが中国流ということだ。

 最後に紹介されたのが,ライブ配信についてだ。中国ではYouTubeもTwitchも使えないので,ゲームに限らず多くのライブ配信サービスが並立している。とくに若い人はそういったサービスで時間をつぶすことが多いという。

中国での動画配信サービスの一覧。左下のグループがゲーム動画専門のサービス群だ
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 そうした背景の中,中国でもYouTuberのようなライブ配信者も出てきており,数100万から数千万ビューという非常に強い影響力を持っているとのことで,中国でのゲーム展開ではそういった人を使うのも非常に有効であると語っていた。
 最後にXiong氏は,日本のゲームを中国で展開するのは中国のゲームを日本で展開するのと同じくらい大変だと語り,ローカライズの重要性を強調して講演を締めくくっていた。

ゲーム実況配信の模様。画面はゲーム画面,実況者,バナー広告,チャットログで構成されている
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