[TGS 2018]過去最大の規模に成長したインディーゲームコーナーをレポート

 2018年9月20日から23日にかけて,日本最大のゲームイベント「東京ゲームショウ2018」が今年も開催された。新作の大型タイトル展示に加えて,PUBGの大躍進やVRコーナーのさらなる拡大など多くの目玉があったが,なんといっても「インディーゲームコーナー」の拡大には目を見張るものがあった。

インディーコーナー全景
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 出展ブース数は昨年の121から154小間となり,体感の床面積サイズは1.3~5倍程度まで大きくなった。毎度のことながら日本発のインディゲームクリエイターに注目して取材を行ったので,順番に紹介していきたい。


物憂げで朧げな世界を少女が一人さまようノベルゲーム「ghostpia」


 「ghostpia」は超水道が手掛けるノベルゲームだ。主人公は幽霊「のようなもの」として世界に生きる謎のキャラクターであり,「幽霊の町」と呼ばれる場所に住んでいる。町中には謎の弾頭が落ちていたり,人々は朝日を浴びると溶けてしまったりなど,不穏気な描写から始まる。

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 淡い色合いのグラフィックスとモノローグ中心のテキスト,うら寂しげな世界観,少しノイジーで幻想的な音楽,画面をときおり引き立てるグリッチエフェクトがなんとも心地よいゲームだ。
 本作は2014年にiPhone用ゲームとして配信が開始され,以降,エピソードを追加していく形で展開してきた。今回は初の家庭用ゲーム機展開としてNintendo Switch版が展示された。

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 さて,Switch版の開発はroom6が担当している。彼らが手掛けた「サリーの法則」と同じく,モバイルで展開していたゲームを家庭用ゲーム機に移植するサポートというわけだ。
 インディゲームクリエイターは自分で一番使いやすいもの,アイデアを表現しやすいもので作るのが一番だが,こと家庭用展開においては,こうした移植協力会社の力をかりるパターンが増えていくものと筆者は見ている。

 「ghostpia」のオリジナル版は独自のフレームワークで作っていたそうだが,Switch移植にあたってはUnityを使用しているという。
 実は,このようにPCやモバイル向けに開発されたゲームをSwitch移植する際に,新たにUnityを利用するというケースが非常に多くなっている。こうした独自フレームワークの作品や,ゲーム機に対応していないエンジンを利用したタイトルの移植をする際,Unityの上に乗せ換える手法だ。これは任天堂がUnity for SwitchをSwitch開発者に無償提供していることの影響が大きい。

公式サイト:http://ghostpia.xyz/


繰り返し遊びながら世界の謎を解く人狼ベースアドベンチャー「グノーシア」


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 プチデポットの最新作「グノーシア」は,PS Vita向けのクローズドサークルアドベンチャーゲームだ。閉鎖された宇宙船の中で,プレイヤーは14人の乗務員に紛れ込んだ寄生生物「グノーシア」感染者を,自らが殺される前に見つけ出さなくてはならない。
 同チームの前作「メゾン・ド・魔王」はかわいらしいキャラクターのマンション経営ゲームだったのだが,今作はジャンルからイラストから180度異なる。

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 本作の注目ポイントはゲームシステムだ。キャラクターの中に寄生生物に意識を乗っ取られたものが複数隠れているのだが,これらを追い詰める手法はテーブルゲームの「人狼」がベースになっている。
 お互いの証言や行動の指摘などから,怪しい人物を特定し,ターンごとに一人コールドスリープ送りを決めるという筋書きだ。なぜ人狼ベースのシステムで寄生生物探しをしなくてはならないかは,ストーリーとしてきちんと説明されているのでご安心を。

 ワンプレイはわずか10分程度で終わるのだが,プレイするたびに誰が寄生されているのかが変化する。プレイヤーはグノーシア感染者の人数や,状況をサポートする特殊能力を持つ者の数などを自由に設定することができる。だが,どのキャラクターが感染者になるかはランダムに決定される。

本記事では人狼の詳しい設定は省略するが,「占い師」「狂人」などのオリジナルの人狼に近い役職が存在する
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 何回もプレイを繰り返すことによって,特定の生存者から聞けるストーリーなどから少しずつゲーム全体の謎が明らかになっていく……というシナリオ構成になっているそうだ。生き残らせたキャラクターが感染者であった……ということも十分ありえる。

 本作はPS Vita向けに今冬配信予定である。既報の通りPS Vitaは2019年に出荷を終えるため,ほかのプラットフォームへの展開も模索中なのだそうだ。

公式サイト:http://d-mebius.com/gnosias/


ダンジョン攻略+塗りアクション!「地獄調査官 樹神妖子」


 ノーマナ・インタラクティブブースでは,新作である「地獄調査官 樹神妖子(コダマヨーコ)」を出展していた。

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 昨年展示していた「NOAH:the gunslinger witch」と同タイプの,ダンジョン探索型見下ろし型シューターだ。小部屋に分かれたステージを次々移動していくツインスティックシューター(左スティックでプレイヤーキャラを操作し,右スティックで360度方向に標準を向けられるシステム)が基本システムである。

 本作の特徴は,プレイヤーや敵が床を塗ることでお互いに行動に縛りが出るというものだ。敵がプレイヤーの塗った色の床にいる場合は能力にデバフがかかり,戦いを有利に進めることができる。しかし,プレイヤーが敵の塗った色の床の上にいる場合は,「呪い」ゲージが徐々に上昇していき,上限まで達すると死んでしまう。


 本作はまだまだ開発中とのことだが,(開発者曰く3%)今後はバフアイテムをガンガン使いながらダンジョンを進んでいくスタイルに調整中とのことだった。

 なお,ゲーム内容とは別に注目を引いたのが操作説明パネルのユニークさだ。ツインスティック操作に不慣れな人に向けて,コントローラと手元を映した動画で説明というわけだ。これなら海外からの来場者向けにも伝わりやすそうだった
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 さて,本ブースは,別チームである//commentoutが開発中の「常世ノ塔」との合同出展となっている。コチラの作品については昨年のTGS2017レポート(関連記事)でもご紹介している。今年版では新たにボス戦を実装し,さらに完成に向けての練度を上げてきていた。

樹神妖子と常世ノ塔の合体ブース
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 こうした合同ブーススタイルはほかにも少しあった(筆者も2016年の出展では同じスタイルをとっていた)。
 実は,TGSインディーゲームコーナーには,「タイプA」と「タイプB」という種類が存在する。「タイプA」は最も小型のブースで,選考に通過した作品に対してスポンサーにより無償で提供されている。「タイプB」は有償のスペースだが,出展申し込みは先着順であり,選考はない。価格は4日間で約20万円とインディゲームクリエイターにとっては決して安くはないが,必ずタイトルを展示したい! という場合はこのブースを押さえてしまうのも一つの手だ。

「地獄調査官 樹神妖子(コダマヨーコ)」公式サイト:https://nomana.itch.io/yoko

「常世ノ塔」公式サイト:https://commentout.info/tokoyo/


高クオリティなハイスピードアクション「Faye/Sleepwalker」


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 PhantomIslandが開発するオープンフィールドハイスピードアクション「Faye/Sleepwalker」は,広いフィールドを自由に移動しながらコンボをつないで敵を倒していく爽快感あふれるゲームだ。

 プレイヤーの操作モードには2種類が存在する。通常攻撃かつ,体力が徐々に回復する「ノーマルモード」と,高速かつ強力な攻撃が出せるが,受けるダメージが大きくなってしまう「スリーブウォークモード」だ。この二つのモードを任意に切り替えることができ,敵と戦う戦略性が醍醐味のタイトルになっている。

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 TGSビルドでは,ストーリーカットシーンが新たに追加された。現在はゲームシステムの基盤開発がおおむね終わり,60%程度の完成度とのことだ。これからステージなどのコンテンツ量産に集中するという。

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公式サイト:https://www.studiophantomisland.com/


日本の片田舎をチャリで駆け抜ける剣と魔法のファンタジー,「虚無と物質の彼女」


 Hojo Gamesが開発する「虚無と物質の彼女」は,「道徳的に悪質な3DアクションRPG」と銘打たれている。「どこかにあるような日本の片田舎」のなかで,異形の生物に対してジャージ姿の少年少女が剣と魔法で立ち向かうアクションゲームだ。

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 TGS展示バージョンでは,マップ上のポイントからランダムで強化アイテムが取得でき,それを使って技をグレードアップできる仕組みができたそうで,デモを見せてもらった。

校門は強化素材になる
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 幸運にも(?)学校の校門を手に入れたのだが,こういったアイテムを収集して,強化素材として能力アップをしていくことが重要なのだそうだ。
 本作は2019年の春発売を目指して開発中とのことだ。

公式サイト:http://www.nishikinohojo.com/


弾を撃ちまくり,大量の敵を掃射せよ! 「有翼のフロイライン」


 P.Exabilitiesが開発中の「有翼のフロイライン」は,美麗なハイスピードフライトシューティングゲームだ。飛行型のメカに搭乗した少女が,大量に弾を撃ちまくる爽快感にフォーカスしたゲームプレイが特徴だ。

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 基本的にはTPSに分類できるゲームだが,敵のミサイルを避けつつ,ロックオンしてミサイルを放っていく空中戦の楽しさに特化している。お約束の巨大な敵も登場する。


 昨年制作が発表され,以降コミックマーケットなどでアップデートをしながら開発を続けてきた。美しい映像を実現するために,Unreal Engine 4とスカイボックスミドルウェアTrue Skyを採用しているそうだ。

公式サイト:https://www.exabilities.com/


2人協力,途中からバトル!「COSMOS DEFENDERS」


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 「COSMOS DEFENDERS」は,円形の足場を舞台に四方から迫りくる敵を撃つディフェンスタイプのアクションゲームだ。シングルプレイ,マルチプレイに対応している。
 デモで見せてもらった惑星が2個あるステージでは,チュートリアルフェーズまでは協力プレイで,それが終わると相手の拠点を破壊しに行く対戦モードに切り替わった。本作は,オンラインゲームジャムイベントである「Ludum Dare」上で発表したタイトル”SORLD”を,家庭用ゲーム機向けに本格的に作り直したものである。

 開発元のFiery Squirrelを立ち上げたヘンリーさんは,ベネズエラから日本にやってきた八王子在住のゲームクリエイターだ。実は,月に一度のインディゲーム開発者用パーティ「東京インディーズ」で2月にアルファ版を見せてもらっていたのだが,TGS版ではステージやゲームルールが追加され,よりゲームとして洗練されていた。

 本作は,個人事業主として任天堂と契約したうえでSwitch向けに開発を行っている。既報のように,任天堂は個人事業主によるゲーム開発・販売を許可している。問い合わせたうえで実績やPC用β版などのデキが認められれば,開発機を購入し,販売まで行うことができる。同様に配信まで完了したタイトルとしては,ぬっそ氏による「ACE OF SEAFOOD」がある。

公式サイト:http://fierysquirrel.com/


別会場でも広がるインディゲーム展示


 以上が「インディーゲームコーナー」で見つけたタイトルの紹介になるが,このコーナーの外でも多くのインディゲームを遊ぶことができた。フライハイワークスやPiKiiなどのインディゲームパブリッシャがブースを展開しているからだ。

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フライハイワークス
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Pikii

 SwitchやPS4への展開を支援するパブリッシング事業者は飽和状態といえるほど充実しており,この数年で家庭用ゲーム機展開のハードルは大きく様変わりしたといえるだろう。

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Tap Tap
 モバイル方面では,ゲーム専門のAndroidストアを有する中国市場向けアプリパブリッシャ「Tap Tap」が配信を手掛けるインディゲームが展示されていた。

 中国ではGoogle Playがサービスされていないうえ,配信には「版号(ISBN)」と呼ばれる政府の認定番号取得が必要である。これには40〜80万円もの手数料がかかり,個人や小規模のゲーム開発者が乗り込むにはハードルが高い。Tap Tapはゲームに特化したストアを提供しつつ,海外のタイトルのパブリッシング支援を行っている。
 注目は,展示されているタイトルが「買い切りアプリ」であったということだ。

 「魔法の女子高生」は,日本国内では300円で販売されている。中国ゲームアプリといえばアイテム課金の運営型が必須のように筆者は思っていたのだが,中国市場ではモバイルアプリ上のインディゲーム需要が立ち上がりつつあるようだ。
 TapTapの担当者からは,最近のタイトルである「ICEY」の成功事例もあり,買い切りアプリのパブリッシングも積極的に支援しているとのことだった。

魔法の女子高生
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規模を拡大しつつ,新たな問題も


 実は昨年まで,インディーゲームコーナーのスポンサーはSIEが協賛していたのだが,今年から任天堂も加わって両社ダブル協賛となっている。

 プラットフォームの縛りはこれまでも一切なかったのだが,Switchを展示する出展者の心境としてはありがたいところだ。

 しかしながら,相変わらず日本のインディゲームの採択数が半分以下であることに対しては不満も残る。データ上は日本のブースのほうが多いのだが,日本のパブリッシャが海外のゲームを出展しているケースがあることと,そもそもインディゲームではない規模の企業がブースを使っているケースが今年はとくに目立ったためだ。

 「タイプB」の出展料金20万円はインディ開発者にとっては高額であるが,通常ブースに比較するとはるかに安い。そのため,運営型モバイルゲームの開発会社や,歴史ある著名な会社までもが乗り込んできてしまい,ちょっとした混沌状態となってしまっている。インディが何なのかの基準は人それぞれだが,あおりで日本の小規模ゲーム開発者が場所を奪われてしまってはコーナーの意味がない。このあたりは,審査制の「タイプA」同様に,年商などの上限基準を設けてほしいところだ。

まだ穏やかなビジネスデイのブース風景

 少しばかり困った事態も起きてはいるのだが,それはゲームファンからのインディゲームに対する注目が大きくなっていることも意味する。筆者はビジネスデイに取材したのだが,土日の一般日には人が歩けないほどの大混雑であったそうだ。近年数多くのインディゲーム開発者が作品を発表し続けてきたことに加え,SIEや任天堂がストアや動画コンテンツでインディ特集を作り,紹介の場を提供してきたことが追い風になっていると考えている。このコーナーから大きく成長するスターが表れる日が楽しみである。