釜山で見た韓国インディゲーム大躍進の未来「BIC 2018」レポート
釜山の海雲台(ヘウンデ)区は,近年再開発が大きく進み,巨大な商業ビルやショッピングセンター,コンベンションセンターなどが多数建設されている海沿いの地区である。日本でいうと,ちょうどお台場のような雰囲気だ。この区域を管轄する釜山広域市はIT産業活性化に力を入れており,ゲーム産業もその地域振興の一つとして支援機構が発足している(詳しくは後述)。
Busan Indie Connectとは
「Busan Indie Connect」は,韓国に在住しているインディゲーム開発者Marc Flury氏(代表作:Thumper)を中心に,韓国の有志によって立ち上げられたイベントだ。他国のさまざまなインディゲームイベントを見た開発者たちが,自分たちの地元でもイベントを開催しようと発起し2015年にスタートし,今回で4回めを迎える。
現場に到着して驚くのが,巨大な屋根付き野外会場と垂れ幕である。会場は映画産業振興のために建てられた「Busan Cinema Center」と呼ばれる建物だ。巨大な野外スクリーンと映画館を備えた新しい施設だ。
BICでは,野外スクリーンをプレゼン会場と懇親会場,その隣のスペースに複数のテントを立てて展示ブースとする配置になっていた。
テントは回廊のようにつながっており,その内部では大小さまざまな100タイトルほどが出展されていた。ブースは箱型でゆったりした広さがとられており,出展者数の規模としてはTOKYO INDIE FEST (TOKYO SANDBOX)に近い。
まずは,その中でもとくに目を引いた韓国産タイトルについて紹介しよう。
音の反射を見て戦う「Blindia」
「Blindia」は,見下ろし視点の2Dハードアクションと,最近インディではちょっとしたはやりの「音の視覚化」ギミックを用いた作品だ。
グラフィックスはシンプルな線で構成され,画面上は基本的にプレイヤーの位置と敵の位置しか分からない。「壁」がどこにあるかは平時は見えないのだが,移動時に足音を立てることで音波が発生し,その形を手掛かりに壁や道を認識して進んでいくルールだ。
こう聞くとステルス系のゲームのようにも思えるが,チュートリアルが終わったあとは,意外とアグレッシブに敵を倒していくプレイスタイルに変化した。敵はどんどん出てきて,ナイフや銃などの戦闘手段もそこそこ用意されている。おそらく完全ステルスもできそうだったのだが,筆者の腕前ではあっけなくやられてしまった。
本作は「GameMaker Studio 2」で制作されているそうで,Steamですでに発売中である。近年GMS2はNintendo Switchの対応も果たし,2D特化の開発環境として開発者の注目を浴びている。
一人の開発者がこだわり抜いたキュートなメカ娘アクション「Metallic Child」
シンプルなアイデア勝負タイトルだけではなく,ビジュアルの緻密さとフェチで勝負しているタイトルもある。「Metallic Child」は斜め見下ろし視点の3Dアクションゲームだ。
SDポリゴンのメカ娘を操作して,四方から迫りくるロボットを蹴散らしていく爽快アクションゲームである。
ゲームエンジンにはUnityを使用している。そしてなんとこのタイトル,グラフィックスからプログラムに至るまで,すべて一人で開発しているそうだ。実は開発のSTUDIO HGは,開発実況動画などで以前からUnity利用者の中ではクオリティの高さから注目されていた。前作の「SMASHING THE BATTLE」は等身の高い美少女アクションゲームであったが,今回はコロッとした体形のメカ娘に趣向を変えてきたというわけだ。前作は日本ではDMM Gamesから日本版が発売されていたため,「Metallic Child」の国内展開にも期待したいところだ。
シェルターゲームを発展させた「Under World」
「Under World」は韓国のTouchholicが開発したポストアポカリプスゲームだ。同社はこれまでパズルゲームやランゲームをリリースしてきた小規模モバイルゲーム開発会社だが,今作はカジュアル路線から少し離れて世界観を作り込んだ作風となっている。2Dのサイドビュースタイルで,基地を拡充していくことがプレイの中心となる。
ポストアポカリプスとシェルターというと,名作「Fallout Shelter」が重なるが,本作には住人は自動ではやって来ず,自らダンジョンに出向いて探し出す必要がある。
ダンジョンでは見下ろし視点になる。オート戦闘ながらキャラクターを主体的に操作して捜索し,ここで見つけたゾンビを人間へ蘇生することが,キャラクターガチャの代わりとなっているようだ。本作はスマートフォン向けタイトルだが,現在は韓国国内のみでの配信なのだそうだ。海外配信にも意欲を見せていたので,期待したい。
学生7人で開発した色アクション「Pepo」
ほかのインディイベント同様,学生チームみよる展示もあった。チームBUDによる「Pepo」は,青江文化産業大学(Chungkang College)の学生7人によって開発された横スクロールアクションだ。
プレイヤーは3色のインクを吐くスライムのような物体になって,同じく敵が吐いてくるインクと色を合わせながら戦う。現在はキーボードのみの操作であり,まだキーアサインの甘い部分はあったものの,分かりやすい世界観と今後拡張性がありそうな「色」のギミックが期待できるでき栄えだった。
青江文化産業大学にはメディア学科のような部門があり,そこではゲームの専攻コースがあるのだそうだ。本作はその卒業制作であり,販売予定はとくに決まっていないとのこと。
韓国でも広がるツクールゲーム「The Starry Night / 별 헤는 밤」
日本でも人気の「RPGツクール」シリーズだが,実は現在販売されている「RPGツクールMV」は韓国語インタフェースにも対応している。「The Starry Night」は,RPGツクールMVを使って作られたアドベンチャーゲームだ。
写真の通り,キュートなキャラクターが特徴的だ。RPGツクールの標準機能だけではなく,モバイルでより快適に操作できるような機能拡張にこだわったそうだ。カメラアプリ風のカットシーンや,SNS風のメニュー画面なども,モバイルを強く意識した演出になっていた。
今のところ,韓国ではRPGツクールMVの利用者はさほど多くないそうだが,モバイルに対応したおかげで,アジアでも広がっていく可能性があると感じた。
日本から参戦したインディゲーム開発者たち
日本からも海外招待枠としてインディゲーム開発者が参戦していた。「Gesuido」は三原亮介氏が開発しているローグライクで,Xcodeでゴリゴリ作られたiOS専用ゲームだ。長らく開発が続いている本作だが,現在年内リリースに向けて調整中だという。
オーストラリア出身で日本に在住するStudio Stobieによる「Rising Dusk」は,スーパーファミコンスタイルの絵柄が愛らしい横スクロールアクションだ。
開発者は本作を「Anti-Coin-Collection」と呼んでおり,コインを集めてしまうと先にある障害物を越えられなくなるなど,横スクロールの定番である「コイン収集」にスパイスを加えたゲームシステムとなっていた。こちらは,すでにSteamで配信中だ。
そのほか,先日めでたくリリースを迎えた「La-Mulana 2」や,長く開発を続けている「Jump Gun」も出展していた。ちなみに,海外からの招待者(選考を通過したチーム)は釜山のIT支援機構が協賛としてブースとホテルを無償で提供しているそうだ。
支援機構が運営するインディゲーム開発者向けインキュベーションセンター
釜山のIT産業がもっとも力を入れているのが,当たり前だが地元韓国の開発者への支援である。釜山情報産業振興院(Busan IT Industry Promotion Agency)が運営する「Busan Global Game Center」は,インディゲーム開発者に特化した支援サービスである。
ここ数年で急増した韓国インディゲームを支えているのが,同組織が運営しているインキュベーションセンターだ。Busan Cultural Content Complexという建物内に位置しており,このうち2フロアがゲーム開発者専用のスペースで,現在40名ほどのゲーム開発者を受け入れているそうだ。
このテナントを無償で提供し,定期的なトレーニングセミナーの開催,インキュベーターとのミートアップ,メンター制度など,開発者に対する直接の支援を多く行っている。テナントは30~50m2程度の部屋で,入居には5人より少ないチームかつ設立3年以下というルールがある。
注目すべき点は,さらに中段階の支援があることだ。別のフロアにある倍ほどの面積のオフィスについては,より大きくなったチームに安価で貸し出す仕組みが提供されている。プロジェクトに投資が付き,スケールが大きくなってきた段階にも対応しているというわけだ。最初だけ手助けするのではなく,スタートアップが苦労しがちな成長段階もきちんと見越した取り組みといえる。
Busan Global Game Center公式サイト
建物の共通設備としては,カフェ,レストラン,フィットネスセンターまで備える。開発者同士の交流促進もしているのだが,とくに筆者がうらやましかったのは開発者同士のテストプレイ&フィードバック大会だ。
オフィスを持たないこともある小規模なゲーム開発者にとって,相互レビューは場所,時間,準備面においておいそれとできるものではない。兼業作家ならなおさらだ。韓国では無償のオフィス提供とセミナー実施,開発者コミュニティーの運営に支援機構がスタッフを割いており,こうした悩みの解決につながっている。
出展ブースにおいてさまざまな開発者にインタビューしたところ,出展タイトルは「1人で作っている」ものと「5人以上のチームで作っている」ものの2手に分かれたが,いずれもゲーム開発に専念し,ほかの仕事をしていない専業スタイルがほとんどであった。韓国ではこうしたインキュベーションセンターや支援の充実によって,作品に集中できる環境が整っているというわけだ。
アジアゲーム産業に切り込む韓国インディゲーム
筆者は日程の都合で参加できなかったが,BICの初日はゲームの展示はなく,セッション形式のカンファレンスがあったそうだ。パブリッシャやゲームデザイナーの話,成功したタイトルのポストモーテムなど,開発に役立つ情報のセミナーだったという。
また,イベントスポンサーとしてはEpic GamesやAmazon Web Serviceが参加し,ブースの出展も行っていた。韓国ではUnreal Engine4利用者のコミュニティが強いそうで,マニュアルをハングル翻訳する有志のチームがいると聞いた。Epicブースでは韓国Next-Stageが開発中のPS4タイトル「ULTLA-Age」を展示していた。
AWSは「Gaming On AWS」と銘打ち,IaaSのゲーム向け活用についてアピールしていた。
BICにはインドネシア,チリ,台北などの海外からの出展ブースもあったが,やはり地元韓国が生んだ新進気鋭の開発者の作品が主役のイベントであったと感じた。作風は,はやりのハードコアアクションから,欧米を意識したパステルカラーのパズルゲーム,美麗なFPS,そしてkawaii系キャラクターのRPGなど,バラエティに富んでいる。このあたりの幅の広さは日本とよく似ているが,それらの多様性をBICではまんべんなく見ることができた。
韓国ではPCゲームの市場が大きいとはいえ,ゲーム産業としては大規模なMMOタイトルがほとんどで,以前はインディ開発者が集まる場はなかったのだという。Marc Flury氏がBICを立ち上げたのは,そうした背景からだ。しかし,BICが発足してわずか3年でここまでの規模になったのは,開発者同士のコミュニティの強さと,前述の支援機構による直接的なバックアップ,多様性を受け入れるBICの姿勢が背景にあるのだろう。韓国からヒット作が多数配信される未来はもうすぐだと感じた。