[CEDEC 2018]ゲームが面白くならない理由は「コンテキスト」「コンフリクト」「コントラスト」の不整合にある

O-Planning 大野功二氏
 2018年8月21日〜8月24日に神奈川のパシフィコ横浜で行われた開発者向けカンファレンス「CEDEC 2018」。2日めとなる8月23日には講演「ワンランク上のゲームデザイン・レベルデザイン・UIデザインを考える 『コンテキスト』『コンフリクト』『コントラスト』デザイン」が行われ,ゲームが面白くならない理由や気をつけるべき点が体系立てて語られた。

[CEDEC 2018]ゲームが面白くならない理由は「コンテキスト」「コンフリクト」「コントラスト」の不整合にある
 講演を行ったO-Planningの大野功二氏は「3Dゲームをおもしろくする技術」「2Dゲームをおもしろくする技術」といった,ゲームメカニクスについての書籍を書いた人物だ。
 この講演では,業界歴24年という氏が「コントラスト」「コンテキスト」「コンフリクト」という三つのキーワードを使い,ゲームデザインにおける「ゲームの手応えが感じられない」「ゲームが分かりにくい」「ゲームが面白くない」という問題の原因と対処法について語った。


「手応えが感じられない」=コントラストの不足


 コントラストとは明暗のこと。「ゲームの手応えが感じられない」ということは,すなわち緊張感が出ず,インパクトがなく,盛り上がらず,ドラマティックにもならないということだ。これは,ゲーム内でのコントラストが不足しているという理由で説明できるという。成功と失敗,静と動,盛り上がりと静けさ,キャラクターの明暗といった対比があってこそ,ゲームは手応えを感じられるものがある。

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 ゲーム作りの初心者がやってしまいがちなのが,"プレイ時間に比例して右肩上がりに難度が上がっていく"というレベルデザインだが,これではコントラストが生まれにくい。コントラストとは対比であり,つまりは直前とギャップを作ることであるからだ。
 そこで,"少し難度を上げて,また下げて,下げた状態からまた上げる"と小刻みに上下させれば,上下のたびにコントラスト(=メリハリ)が生まれる。
 こうした技術はハリウッド映画のシナリオ作りでもよく使われているという。最初にショッキングな出来事を配置してインパクトを与え,その後盛り上がりが低くなったところで意外な事実が明かされるなど,話の転換(ツイスト)を配置してまた盛り上げ,最終的にクライマックスへと導くという手法だ。

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 これはゲーム作りにおいても有効だ。例えば「ゴッド・オブ・ウォーIII」において,敵が波状攻撃をかけてくる際などは,単にウェーブを重ねるたびに敵の数が増えるのではなく,ときには減らしたり,別の種類の敵を混ぜるなどしてメリハリをつけているという。
 ただし,右肩上がり式とコントラスト式のどちらが正解であるという問題ではなく,メリハリをつけて手応えを感じさせたいのであれば後者が有効である,と大野氏は語った。

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 なお,GDC 2016では,プラチナゲームズの稲葉敦志氏がメリハリを付けた構成について「ハイレベルデザイン」と名付けて講演している(関連記事)ので併せて読んでほしいとのこと。

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「ゲームが分かりにくい」=コンテキストの不足


 コンテキストとは文脈・脈絡・前後関係・背景のこと。ゲーム開発の現場では,ゲームが全体的に面白くないからといって新たな要素を追加したり,分かりづらいといってUIのデザインを変更,ゲームの面白さが分からないといったアクションやフィードバックを見直す……ということがよく行われるそうだ。
 こうした問題を解決するには,個々のパーツをクオリティアップする「部分最適化」と,ゲームのルックやフィールといった全体像を見直す「全体最適化」(ちゃぶ台返し)といった手法が使われるが,部分最適化ではコンテキストの混乱を招くため,全体最適化を行うほうがいいというのが大野氏の考え方だ。

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●コンテキストの相性問題
 例えば"モバイルゲームを家庭用ゲーム機に移植することが決まり,オマケを付けたがあまり売れなかった"ような場合,短時間で遊ぶモバイルゲームのコンテキストで作られたゲームを,ある程度集中して遊ぶ家庭用に移植したうえで同じ考えのオマケを付けたことから,コンテキストの相性問題が発生しているという。
 プレイ環境やプレイ時間によって適したコンテキストは違ってくる。とくにモバイルゲームと家庭用ゲームでは違いが大きいのに,両者の異なるコンテキストをつぎはぎした形になる。相性の悪いコンテキストに対し,相性の良いコンテキストを追加する,部分最適化的な考え方では解決にはならない。こうした問題は企画書の時点で良く起こる上,売上にも影響しやすいため致命的な結果を招きやすいという。

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●コンテキストの統一問題
 "UIを作るためにスタッフを増員したうえで,分かりやすくするためにチュートリアルを追加した"……はずが,実際にはより分かりづらいUIができてしまった……。
 これはコンテキストの統一がされていないためだ。例えば,タブ式のUIを1人で作っていたところに階層式のUIを得意とする人が増員されてしまい,さらに事前の説明が不足していると,タブ式と階層式が混在した分かりづらいUIができてしまう。

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 ゲームデザインにおいてもコンテキストの統一問題が発生することがある。いろいろな遊びを入れることでゲームが分かりづらくなってしまうのだ。例えば,"敵を剣で斬るゲームを作り,サブコンテンツとして縦斬りや横切りを極めるような遊びが入っている"という場合,剣で斬るというコンテキストがゲーム全体を貫いているため,分かりやすく遊びやすい。
 一方,"剣で斬るゲームにカーレースや大食い競争といったサブコンテンツが入っている"場合などは,いろいろな遊びが混在していて分かりにくい。
 開発に携わる人数が増えることにより意思疎通ができず,こうした問題が起こってしまうのだそうだ。また"ゲームデザインの段階で複数のクリエイターからアドバイスを受けたはずが,ゲームはなぜか面白くならない"という不思議な出来事がよく起こるが,これはクリエイターのそれぞれが異なるコンテキストをバックボーンにしているためだという。

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 ただ,コンテキストの統一も絶対の正解ではなく,いろいろな遊びが混ざっていても,実際にテストプレイをして面白ければアリだ。しかし,「面白いと笑えるは違う」と氏は警告する。笑いを取ることを目的とするゲームなら,コンテキストが統一されていないことで笑いが起きてもいいが,そうでない場合は分かりやすい方がいいだろうというわけだ。

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●コンテキストのレベル問題
 "斬新なゲームシステムを考案したが,一般プレイヤーには面白さが分かってもらえない"。こうしたケースではコンテキストのレベル問題が起こっているのだという。
 斬新であるということは理解に時間がかかるニッチな「ハイコンテキスト」であり,一般に受けるのは誰にでも分かるマスな「ローコンテキスト」である。つまりこのケースでは,ハイコンテキストなものを作っておきながら,なぜローコンテキストを求める人々に受け入れられないのだ……と言っているわけである。

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 斬新なシステムの導入は,ゲームの間口を狭める可能性もある。ハイコンテキストについて行けない人がふるい落とされていくからだ。ゲームに新鮮さや驚きを増やすためには,本当に新システムが必要なのか……と大野氏は問題提起する。レベルデザインや演出,キャラクターでもこうした要素は表現できるためだ。

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 それでも新たなシステムを導入したい場合,必ず複数回チャレンジさせつつ,同時に成功させて達成感を得られるようにし,かつ,可能ならば古いコンテキストから誘導し,互いの相性問題についても考えるのが望ましいという。
 ここで大野氏が良い例として挙げたのが「スプラトゥーン」だ。TPSという誰もが知るローコンテキストからスタートし,陣取りというハイコンテキストな独自システムへの誘導がうまくいっていると氏は指摘した。


「ゲームが面白くない」=コンフリクトの不足


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 コンフリクトとは対立のことだ。プレイヤーの行く手を阻む敵やトラップ,対戦相手,メリットの異なる複数の選択肢……これらはすべてゲームにおけるコンフリクトである。"コンフリクトを解決しなければならない明確な目的があること","コンフリクト状態であることが分かる明確なルールがあること","コンフリクトの解決が成功したのが明確であること"を土台とし,危険を冒すと得られるものが大きくなる「リスク&リターン」の考え方を基本とするが,コンフリクトの良し悪しがゲームの質にも影響する。

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コンフリクトには,プレイヤーが自分から複数の目標を達成したくなる「自発的コンフリクト」(左写真)と,目的を達成するためには必ずコンフリクトを解消しなければならない「強制的コンフリクト」(右写真)の2種類が存在する。任天堂は自発的なコンフリクトを作るのが上手であり,「Minecraft」は自発的なコンフリクトが発生しやすいゲームデザインであると大野氏は指摘した
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 挑戦したり,いろいろなことを試す意欲をそそり,練習すればクリアできるものであり,達成感や爽快感,納得感があり,上級者ならさらにうまくプレイできるものが良質なコンフリクトだ。一方,脳が処理できないスピードで判断させたり,記憶・認識できない情報を与えたり,文字を読ませつつアクションさせるなど脳の弱点を突くようなものが悪いコンフリクトである,と大野氏は定義する。こうしたコンフリクトは,プレイヤーや敵,レベルデザインなどさまざまなところに仕込むことができ,プレイを彩っていくという。

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●目的のコンフリクト
 確実なクリアか,リスクを冒したハイスコアか。2種類どちらの武器を使うか……といったプレイヤーの目的そのものにコンフリクトを仕込むことができる。

●手段のコンフリクト
 複数の敵をどれから,どう倒すかといった選択もプレイを彩るコンフリクトとなる。ここで同じ敵ばかりを出してしまうと,攻略法がすべて同じになってしまい,プレイヤーも近い敵しか狙わなくなるため,コンフリクトが成立しない。「ゴッド・オブ・ウォーIII」では,プレイヤーのガードを破壊する魔法を使う敵を用意するなど,複数種類の敵を混ぜることにより,"遠くの厄介な敵から倒すか,それとも近くにいる与しやすい敵にするか"というコンフリクトを生み出している。こうした考え方はゲームデザインの初歩だが,大事なものであるとのこと。

●チャレンジのコンフリクト
 プレイヤーが挑みたくなるチャレンジを用意する。例えば"魔王を倒すには四つのアイテムが必要"(ゲーム全体のチャレンジ),"剣を手に入れようとすると姫が危険にさらされてしまう"(ステージごとのチャレンジ),"ギミックのクリアに時間がかかると,魔王が世界を支配する"(ギミックごとのチャレンジ)といったように,段階的なチャレンジを用意することで,ゲーム内にコンフリクトが生まれるという。

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●選択のコンフリクト
 レベルデザインにもコンフリクトを仕込むことができる。例えば,分かれ道などはレベルデザインにおけるコンフリクトの分かりやすい例だが,道の大きさや扉の有無などちょっとした工夫でプレイヤーにいろいろなコンフリクトを起こさせることができる。ただ,分かれ道の数を増やし過ぎるとプレイヤーのストレスになるため,バランス感覚が重要だ。
 また"ゴールへの近道と,宝が手に入るが敵と戦わなければならない道"といったレベルデザインもコンフリクトの一例だ。

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●消費のコンフリクト
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 HPやMP,お金など,ゲーム内のリソースに絡むコンフリクト。どこでアイテムを使うべきか,お金をどれくらい使うべきか……など,主にRPGなどでお馴染みの要素である。


 最後に大野氏は,"ゲームはプレイヤーの本質を裸にするコンテンツであり,そのためには「コンテキスト」「コンフリクト」「コントラスト」という三つのライトで,いかに全体像を照らし出すかが重要。コンテキストで遊びの土壌を作り,コンフリクトでプレイヤーの行動を評価し,コントラストで明暗を付けて良い体験を与える"と講演の内容を総括した。
 「ゲームは人生に必要なのかどうかと聞かれるが,僕はYESと答えます。ゲームはプレイヤーの本質を自分自身に分からせる最高のメディアだからです」と,ゲームの本質を再確認して講演を締めくくった。

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 「ゲームに手応えが感じられない」「いろいろな人のアドバイスを取り入れたのにゲームが面白くならない」「ヒットしたゲームをほかのプラットフォームへ移植してもなぜ同じようにヒットしないのか」といった,日常的な疑問に明快な説明が付けられており,興味深く聴講することができた。次の機会があれば,一つ一つのテーマをさらに掘り下げた講義を聴いてみたいと感じた講演だった。

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