Blizzard: 御社に「赤シャツ男」はいますか?

「デベロッパはコミュニティのスターを探し出して称賛すべき」DevcomでBlizzardのSaralyn Smith女史が語ったアドバイス。

 2012年5月15日。それは悪名高き日となった。少なくともDiabloのディープなファンにとっては。

 その日,12年もの間シリーズ最新作を待ちわびた何百万人ものDiabloプレイヤーはこぞって新作をプレイしようとしたが叶うことはなく,それどころか,あざ笑うかのような「Error 37」のメッセージを画面から突きつけられることとなった。このエラーメッセージは順風満帆なBlizzardの10年のうちのもっとも過酷といえる時期をそのまま表す合言葉となっている。

 「Diablo IIIのローンチから24時間,多くのプレイヤーがゲームにログインできないという問題が発生し,当社は80ものアップデートを行いました」とSaralyn Smith女史は今週開催されたDevcomの壇上で振り返った。「それも英語版だけでです。ローカライズも含めればその何倍もの数字になります」

 「冗談であってほしいですが,チームのメンバーが疲れ果てて叫び出したり,泥酔するまで飲むことがないようにするためにはそれしかできませんでした」

「ソーシャルメディア上のある人物が,ネット上でするお勧めや口コミがあっという間に広がる特性を生かして,ゲームのブランドを永遠に変えることができてしまいます」

 当時のBlizzardの比較的新しいスタッフとして,そしてなによりDiabloの一ファンとして,Smith女史はあの日のことを克明に覚えている。この一件はゲームのコアなコミュニティを傷つけた。状況が改善したのは,何か月にも及ぶ大変な作業と,ようやく2年後に「ほぼ完璧な」拡張パック「Reaper of Souls」をローンチしてからだった。

 その後,Smith女史は全世界におけるコミュニティ開発をリードする立場になったが,その経験は次のように語った。「フロント・ロウ(最前列の席)に座って,Blizzardがどのようにプレイヤーへの関心を高め,ゲーム開発のあらゆる面でコミュニティを中心に据えてきたかを見てきました。これはDiabloチームに限ったことではありません。当社全体として不可欠になったと言えます」

 Blizzardはその影響力やリソースなど,さまざまな意味でユニークな会社であり,同社のアプローチを小規模なデベロッパにそのまま適用するのは難しい。しかし,スミス女史によれば,同社のコミュニティへのアプローチは,より複雑に成長しコントロールが難しくなっているこの業界をよりよくナビゲートするための原則をベースにしたもので,あらゆるゲームスタジオが取り入れられるものだという。

Blizzard: 御社に「赤シャツ男」はいますか?

 「専門的であるがゆえに複雑さが増しています」とSmith女史はDevcomの観客に語った。「10年前,コミュニティを管理するということは,各ゲームごとのフォーラムでプレイヤーに話しかけることでしたが,今はRedditやYouTube,TwitchやTwitter,Facebook,Instagram,Snapchat,Imgur,ありとあらゆるところにフォーラムがあります」

 「パワーシフトが起きました。かつて私たちはブランドやブランドのメッセージをコントロールしていましたが,今や,ソーシャルメディア上のある人物が,ネット上でするお勧めや口コミがあっという間に広がる特性を生かして,ゲームのブランドを永遠に変えることができてしまいます」

 「インフルエンサーが力を持っています。皆さんご存じの通り,インフルエンサーの時代です」

 Smith女史は,Blizzardのゲームは実際,それらの大きな変化の中で強くなってきたと考えている。その理由は同社の根底にある信念だ。「ゲームを作ることはコミュニティを作ること,私たちはこれを中核戦略としています」

 カリフォルニア州にある同社のキャンパス(施設)では定期的に「サミット」が開催されている。ここに秘密保持契約を結んだプロのプレイヤーやインフルエンサーが集まり,新しいゲームやアップデートのプレイテストに参加する。数人程度のものからはるかに大きい規模のものもあるが,このテストは同社のゲーム開発において極めて貴重なものになっている。

 「Blizzardにとってインフルエンサーは単にマーケティングのパートナーではありません。ゲーム開発やコミュニティを作るパートナーでもあります」

 Smith女史はまた,Blizzardがゲームコミュニティに新パックのカードを紹介するのに役立てるために接触したHearthstoneのストリーマーであるAlliestraszaの例を挙げた。

 「初めて彼女を見つけたき,すでにTwitchで70〜80人のフォロワーがいました。我々は彼女のゲームへの姿勢がとても気に入りました。彼女には強いカリスマと素晴らしい価値があったのです。当時はまだ世間に知られていませんでしたが,私たちは彼女にスポットライトを当てることにしたんです」

 AlliestraszaはBattlenetとBlizzardのソーシャルチャンネルで紹介され,ますます多くの注目を集めるようになった。今では彼女のTwitchには10万人以上のフォロワーがおり,Smith女史は彼女をHearthstoneのエコシステムの「重要な」一部だと表現する。このように「有望なコンテンツクリエイター」を増やすことで,単に有名なタイトルと肩を並べて注目を得ようと競うだけでなく,デベロッパにゲームに関連したコミュニティを形作ることを可能とさせた。

 「これはお勧めです。すでに有名でメインストリームな人物である必要はありません。新進気鋭の有望な人材を見つけて投資することが大切です」

Blizzardとそのコミュニティに賞賛されるイアン・ベイツ氏は,「きわめて詳細なことを覚えられる特別な能力」を持っていた
Blizzard: 御社に「赤シャツ男」はいますか?

 EverSpaceを制作したRockfishのようなスタジオもストリーマーについて同様のアプローチを取っているが,Blizzardはコミュニティの優れたメンバーが目立てるように頻繁に手助けをする。Smith女史は,BlizzConの場でWorld of Warcraftに関してまるで百科事典のような知識力で開発者を困らせたIan Bates(イワン・ベイツ)氏の例を挙げる。

 「Ianはきわめて詳細なことを覚えられる特別な能力があり,WoW内の矛盾に気づきました。私たちが出していた本と,彼がゲーム内で経験して知っていることと何かが違うとFalstad(Wildhammer)の死を見て気がついたのです。彼は正しかったので舞台に立っていた開発者を困らせ,コミュニティはIanが指摘したことを大歓迎しました」

「御社にとってのIan Batesは誰ですか? のろしを上げてくれるのは誰でしょうか?」

 赤いシャツを着たBates氏は「赤シャツ男(Red Shirt Guy)」と呼ばれコミュニティで褒め称えられただけでなく,「ワイルドハンマーのファクトチェッカー」と呼ばれるキャラクターとしてWoWのゲームそのものに登場することとなった。彼は「Blizzardにとっても有名」だが,レイドでの無鉄砲な奇襲で有名なプレイで,のちにゲームにキャラクターが加えられたLeroy Jenkins氏のケースもこれに当てはまる。

 「ぜひ考えてみてください」とSmith女史は語りかけた。「御社にとってのIan Batesは誰ですか? のろしを上げてくれるのは誰でしょうか? もしかすると特定の個人ではないかもしれません。インターネット上にあって本質を見抜き,接触もできるフォーラムやファンサイトかもしれません」

 もちろん,Bates氏,Leroy Jenkins氏,Alliestraszaが高い名声を得られたのはBlizzardだからであって,ほかのスタジオではまったく同じにはならないかもしれない。だがしかし,規模の大小はあれどのデベロッパもコミュニティのメンバーを認識して称賛するということをやってもいいだろう。

 Smith女史はBlizzardのコミュニティ作り,そしてその強化について,別の方法も紹介した。Overwatchのアップデートに伴うすべての動画は「Jeff Kaplan氏(Blizzard副社長)が背景の前にいるだけ」でほとんどコストがかかっていない。Blizzardはまた,開発チームの一部のメンバーに,個人アカウントと公式アカウントの両方で,Twitterのファンとやり取りする権限を与えている。

 「私たちは厳しい質問から逃げません」と話しながら,Smith女史はファンからの質問とその回答のスライドを見せた。「私には分かりません」「それは申し訳ない」「おっしゃる通りです。これが解決策です」このように回答にも人間性を持たせるのです」

 もし人間のレベルでコミュニティに参加することが明らかであれば,カジュアルゲーマーよりも「ヘビー・ゲーマー」は230%多く支出するという(※参考URL),Fandomのレポートを引用したビジネスケースを強調してSmith女史は締めくくった。ユーザー獲得のコストが上がり続ける中,データ点は無視できないという。

 「直感的に,そして財務的にも,コミュニティを維持し,そこにいる人たちをハッピーにすることは理にかなっています」と認める。「いつもうまくできているわけではありませんが,Blizzardはそうありたいと思っています」

GamesIndustry.bizはDevcomのメディアパートナーであり,主催者の支援で本イベントに参加した。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら