【月間総括】フォトリアルからの脱却? ドット絵やアニメ絵ゲームの世界進出が始まる

 7月13日に発売された「OCTOPATH TRAVELER(オクトパストラベラー)」(スクウェア・エニックス)が国内で初週,11万本の実売となった。それだけではなく,英国でもセールス上位に入ったようである(関連英文記事)。英国は,世界でも珍しい任天堂プラットフォームがあまり強くない地域であり,さらに任天堂プラットフォームでサードパーティのタイトルが上位にくるのはあまり見ない状況である。

 ここ15年ほど,コンシューマ,PCゲームはフォトリアル(実写に近い絵)を追求するゲームが欧米では大変な人気であった。日本では存在感は乏しいが,最近のフォトリアル系タイトル「Detroit: Become Human」が高い評価を受けている。SIEはスタジオごとの特色が強いので一概には語れないが,PlayStation 4の性能を生かしたフォトリアル系タイトルにも力を入れるのも当然であろう。欧米では,フォトリアルタイトルでないと大量に売れないことはもはや常識である。

 ただ,やはり例外が存在する。それは,任天堂タイトルである。「スーパーマリオオデッセイ」「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」「マリオカート8DX」など,同社タイトルは,フォトリアルでなくても大量に売れている。このことを考えると,欧米でも必ずしも「フォトリアルでないと大量に売れない」というわけではないことは分かる。

 OCTOPATH TRAVELERは,AAA並みに売れているわけでないが,注目度は極めて高い。このような状況を想定していた人はほとんどいないだろう。
 では,なぜ注目されたのだろうが,それは画面に一目で分かる違いがあるからだ。OCTOPATH TRAVELERはHD2Dと呼ばれるいわゆるドット絵(陰影の表現にはポリゴン技術も活用されている)を採用している。非常に手間をかけたグラフィックスではあるものの,ヒアリングによるとAAAタイトルほどのコストはかかっていないそうだ。

 PlayStationの登場でゲームはドット絵(2D)からポリゴン(3D)に大きく変化した。初代PSの発売は日本で94年末なので,ポリゴンの時代は間もなく四半世紀を迎える。
 四半世紀ということは,現在社会人を迎えた層は,下手をするとドット絵のゲームを見たことがないか,見たことがあってもドット絵のゲームに,もう古典に近い印象を持っているはずである。むしろ若い人たちにはまったく新しいゲームのように見えても不思議ではないだろう。
 そして,30〜40代にとっては子供のころに遊んだゲームのようであり,ポリゴンゲーム全盛の中で,懐かしいと感じることだろう。このような視覚情報での差別化がOCTOPATH TRAVELERの注目度の高さを醸成していると考えている。国内の初週が10万を超えたことでエース経済研究所が想定していた世界で80万本程度の出荷は大きく上回ることになろう。

【月間総括】フォトリアルからの脱却? ドット絵やアニメ絵ゲームの世界進出が始まる
 そして,米国でも週刊少年ジャンプ創刊50周年記念作品である「JUMP FORCE(ジャンプフォース)」(バンダイナムコエンターテインメント)が発表された。このタイトルはジャンプタイトルのキャラクターが勢ぞろいするゲームだが,ターゲットは最初から全世界である。少し前であれば,日本の漫画・アニメのタイトルがE3で大々的に発表されることは考えられなかったが,このようなタイトルが発表されるようになったのは,米国での潮流の変化がある。
 米国では,ミレニアル世代(徐々に世代定義が広がっており,ここでは90年代後半以降生まれとする)と呼ばれる世代が就職する年齢となり,購買力がついてきている。これらの世代は,日本のアニメに対して抵抗感が少ないようだ。
 エース経済研究所では,大手とは違う非ゲーム業界の方にも話を聞く機会があるのだが,米国ではCATVで日本アニメを放映しているという話を耳にする。また,ワールドカップでも,日本がセネガル戦でオフサイドトラップを仕掛けた際に,「キャプテン翼で見た」と外国人の方々がツイートしており,共通認識となっていることが分かる。時間経過とともに,客層も動的に大きく変わるのである。

 たしかに,現状はフォトリアルゲームが圧倒的な存在感を誇るが,10年後はどうなるか分からない。「ドラゴンボール」「ONE PIECE」「NARUTO」などの漫画・アニメゲームがヒットしていることを考えると,欧米でも日本アニメゲームが受け入れられる素地はできつつあるように見える。

 また,販売のあり方も変わった。先月も触れたようにネットワーク技術の進歩で,ダウンロード販売ができるようになった。かつては,先行費用が掛かるパッケージ生産,在庫リスクを考慮する必要があり,発売から1年経過したタイトルを店頭に置くことは困難だったが,デジタル版であれば,そのような問題はない。

 つまり流通の変革によって予算の小さな会社でもゲームを作りやすくなってきており,さらに先ほどから述べているように,コストのかかるフォトリアルなグラフィックス以外でも広く受け入れられそうな市場が世界的にできあがりつつある。
 むしろ,多額の開発費とプロモーションコストを掛けられるAAAメーカーが生き残りを目指すというビジネスモデルは陳腐化する可能性が高い。
 OCTOPATH TRAVELERは,新しい時代の先駆けかもしれないのである。

※先月の記事中で使用したタイトル名に一部誤字がありました。今後は同様なことが起こらないよう、校正を進めたいと思います。申し訳ございませんでした。

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