Sensible Object:「音声認識は人々の距離を近づける」

英国で開催される「Develop:Brighton 」に先駆けCEOのAlex Fleetwood氏がスマートスピーカーが創り出すまったく新しいタイプのゲームについて語る。

 音声認識とゲームは長年にわたって不安定な関係を築いてきた。両者をつなぐ試みは,任天堂の少々風変わりな「Hey You Pikachu」(※ピカチュウげんきでちゅう)からUbisoftの音声認識によるボイス・コマンド対応ゲーム,「Tom Clancy's EndWar」までさまざまな例があるものの,コンセプトとして本当にうまくいったものはない。

 それでも,音声認識がゲームデザインのまったく新しい形態への道筋であり,ゲームの限界を超えるアイデアになると考えているデベロッパはいる。その一つがSensible Objectで,旅のトリビアをテーマにしたテーブルトップ・ゲーム「When In Rome」(※When in Rome do as Romans do「郷に入れば郷に従え」ということわざが短くなったもの)を来月リリースする。

 先週,我々GamesIndustry.bizは,英国のゲーム・スタートアップである同社が320万ドル(約3.5億円)を調達し(関連英文記事),この資金はデビュー作の「ビーストオブバランス(Beasts of Balance)」の規模拡大だけでなく,When In Romeにかかる研究開発費にも活用されるとレポートした。ちなみに「ビーストオブバランス」はボードゲームとデジタルゲームをつなぐゲームで,テーブルトップで起きることに基づいて,対となるデジタルゲームが進化する。クラウドファンディングサイトの「Kickstarter」で制作費用の調達が行われた。

 When In Romeでは,スマートスピーカー,つまり人気急上昇中のAmazonのAlexaを使うために,モバイル版アプリはナシとされた。このデバイスは,ホストかつスコアキーパーとして機能し,プレイヤーは話し手とのやりとりだけでなく,関連するボードゲームの経験を拡張できる。

Sensible Object Alex Fleetwood氏
Sensible Object:「音声認識は人々の距離を近づける」
 Sensible Object創設者兼CEOのAlex Fleetwood氏は,来月のDevelop:Brightonで,同社がこのプロジェクトから学んだことについて言及し,音声認識の可能性についてディスカッションする予定だ。我々GamesIndustry.bizはイベントに先立って話を聞き,これまで語られることのなかった,同社が資金とリソースの多くを音声認識のエンターテイメントに向けている理由を聞いた。

 「テクノロジーが私たちを分断させてはならないと考えています」とFleetwood氏は語る。「2013年にBeasts of Balanceの制作を開始した当時,音声AIはまだ始まったばかりでした。ところが,2016年末に私たちがロードマップを見直すとAlexaが驚異的な普及率を誇る技術であり,私たちのミッションにぴったりとはまることが明らかとなりました。スマートスピーカーは共有的な環境インタフェースであり,しゃべることができる人は事実上誰でもアクセスできますし,さまざまなスクリーンやら通知などで私たちの注意をさえぎることもありません」

 同社は,2017年に初めてAlexa Acceleratorに参加し,すでに多くのことを学んできた。When In Romeの最終的なデザインを実際に知らせるプログラムとなったわけだ。もちろん,より伝統的なゲーム会社もこのAmazonのデバイスで実験してきたが,結果はさまざまだった。

 例えば,Jagexは人気のあるRuneScape MMOをベースにしたサウンドアドベンチャーゲームを作り,バンダイナムコは今年上半期にインタラクティブ型音声コンテンツ「PAC-MAN STORIES」を発表した。最近ではE3で,Bethesdaが音声で遊ぶ「Skyrim:Very Special Edition」をリリースしたが,これはジョークまじりのもので,Alexaをスピンオフやプロモーションの場としてとらえる業界のスタンスを象徴していると言える。

 だからこそFleetwood氏は,Sensible Objectのような会社が「インタラクティブな音声認識がいかに新しいタイプのゲームを作り出せるか」を定義するもっとも重要なポジションにいると信じているわけだ。「マーケットに新しく入ってきた人たちが業界で浸透していない知恵でもって作る“彼らにとっての良いゲーム"こそが,新しいプラットフォームでうまく行くゲームであるということを過去15年間に何度も見てきて痛感しています。iPhoneで初めて『Flight Control』をプレイしたときのことをはっきり覚えていますよ。タッチスクリーンによるインプットの可能性がクリアになって,頭をガツンとやられたようでした」

 「大手はゲームのプロジェクトではなく,マーケティングのプロジェクトをやっていますし,それは私たちにとって問題ではありません。私たちは新しいメディアに最もうまく機能するプレイパターンを見つけ出すことをコツコツと続けます。ただ,話しかけることできて,50ドルで買えて,クラウドにコネクトされていて,音声AIシステムを搭載していて,飛躍的に改善しているコンピュータがあるということを忘れずにいましょう。もうそれだけでクールだと思うんです」

 Alexa,そして一般的な音声認識の最も魅力的な側面はアクセシビリティだろう。物理的なスキルが要求されることはなく,デベロッパが定義するボタンやスティックの使い方を習得する必要もない。事実上,誰でも遊ぶことができる,まさにそれが同社を魅了しているコンセプトだ。

 「インプットとしての言語はとても,とても面白いものです」とFleetwood氏は力説する。「Scribblenauts(※ヒラメキパズル マックスウェルの不思議なノート)」によって,言語を非常に興味深い方法で使うマスマーケット向けゲームを作れることが分かりました。トリビアゲームであるWhen In Romeはシンプルに作り始めましたが,将来のタイトルはもっと複雑なものをやりたいと考えています」

 「これは,ある特定の種類の反射的なプレイを望むゲーマーのためのプラットフォームではありません。私たちはこれを,より包括的でソーシャルなプレイパターンを促進するためのツールとして考えています。プレイヤーと,その実生活を共有する人々をより近づけるゲームです」

 「私がアクセシビリティについて語ることのできることの一つは,オンボーディングのデザインをデジタルからテーブルトップ・ゲームに持ってこられるということです。複雑さと習得時間の長さは今やテーブルトップで直線的に拡大しています。難しく,面白い戦略的なゲームでは,何時間もかけてルールを読んだり,いろいろ試行錯誤したりして準備しておく方がいいでしょう。はっきり言ってうんざりですが,身につけるためにはゲーム全体を最初から最後までやっておくのがいいかもしれません」

 「そうなるとマスマーケット向けのものではありません。モノポリーのようなゲームが今でも人気があるのは,人々が皆ルールを知っているからだと思うんです! ゲームをするために何かを学ばなければならないということがないのは大きいです。膨大な記録付けやルールマネジメントをAIに荷下ろしできることはここでは大きな利点でしょう」

 Fleetwood氏は,7月12日(木)のセッションに登壇し「Alexa, Let's Play: Creative Tools for Voice AI Development」で,音声認識体験の展望について講演する予定だ。GamesIndustry.bizの読者特典としてクーポンコード「IDCQXO」で入場料が10%割引になる。

GamesIndustry.bizは,Develop:Brighton 2018 (2018/7/10-12)の公式メディアパートナーです。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら