国際色を増しつつも国内インディーズ作品は減少した「BitSummit Vol.6」の課題

国際色を増しつつも国内インディーズ作品は減少した「BitSummit Vol.6」の課題
 2018年5月12日から13日にかけて,今年もインディーズゲームの祭典「BitSummit」が京都で開催された。
 「日本のインディーズゲームを世界に発信する」というコンセプトのもと創立された本イベントも,運営が変わりつつ今年で6回めを迎えた。6年の間に,日本国内のインディゲームクリエイターを取り囲む環境は大きく変化している。本イベントは,その変化による新たな日本インディーズの潮流を感じられたイベントだった。
 日本初のタイトルを中心に気になったゲームをピックアップしつつ,全体的なレポートをお届けする。


カジュアルインディタイトルをプッシュする任天堂ブース


国際色を増しつつも国内インディーズ作品は減少した「BitSummit Vol.6」の課題
 京都を地元とする任天堂がBitSummitに参加したのは2年前からである。Nintendo Switchの大ヒットには,インディゲームクリエイターからそのプラットフォーム特性が好意的に受け入れられたことも一因となっているのではないだろうか。今年のブースでも海外のさまざまなインディーズゲームを展示しており,正面に配置されていたのは軟体動物のような人間を操作する「HUMAN fall flat」と,「間違った日本感」を突き詰めた奇天烈ゲーム「Nippon Marathon」だった。

トンチキな日本語と脱力ゲームプレイが魅力の「Nippon Marathon」
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 ブース担当者によれば,まずはカジュアルめなタイトルによってプレイヤーをインディーズゲームの世界に引き込んでいき,徐々にディープなタイトルも知ってもらおう……という意図があるのだそうだ。
 実はBitSummitの開催前日,任天堂はインディ作品の発信チャネルとして「Indie World」の発信を始めたばかりである。


 この動画にも登場するSOEJIMA氏とBOKU氏は,2016年7月にスタートした任天堂の日本向けインディゲームクリエイタープロジェクトの顔役であり,実際にデベロッパのサポートを行っているのも彼らだ。PCやSteamでゲームをリリースしている日本のクリエイターがSwitchでのリリースを目指したいとき,真っ先に相談すべきなのは彼ら二人である。

 しかしながら,展示については,日本からの作品がもの足りなかったことは否めない。プレイアブルはBitSummit運営の一員であるキュー・ゲームスの「PixelJunk モンスターズ2」のみで,ほかにも著名クリエイターの作品が2本あったものの,日本の新興スタジオによる作品は見あたらなかった。
 残念ながらこの状況はSIEブースでも同様で,こちらも展示14作のうち日本タイトルは1本だった。
 プラットフォームブースにおいても,今後はイベントでもぜひ日本のインディクリエイターの作品をフィーチャーしてほしいところだ。


作品ラインナップが充実したUNTIESレーベル


 昨年始まったソニー・ミュージックのインディーズゲームレーベル「UNTIES」のブースでは,BitSummitに合わせて発表した新たな取り扱いタイトルの展示を行っていた。
 UNTIESが新たにパートナーとして迎え入れたのは「BATTLLOON - バトルーン」「マヨナカ・ガラン」「ジラフとアンニカ」「Olija (オリヤ)」の4本で,いずれも日本在住のクリエイターによる作品だ。UNTIESレーベルの開始当初は「TINY METAL」に続くラインナップは少々開発に時間のかかるものが多かったが,新たな4本はプレイアブルの完成度も高く,早期のリリースを期待できるものだった。

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 また,UNTIESは他社インディーズゲームレーベルである「Play, Doujin!」と協力体制を敷いている。そのため,「Play,Doujin!」レーベルからも「吾妻邸くわいだん」「GUNDEMONIUMS」が展示されていた。

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メジャーパブリッシャから『天穂のサクナヒメ』


 同人サークルえーでるわいすの最新作である「天穂のサクナヒメ」は,マーベラスのブースで大きく取り上げられていた。


 マーベラスは特段インディーズゲームパブリッッシング事業を立てているわけではないのだが,「サクナヒメ」を米国子会社であるMarvelous USAの「XSEED Games」ブランドがパブリッシングを担当したため,逆輸入的に日本版がマーベラスの担当となった経緯のようだ。パッケージ発売もされるとのことで,非常に期待できる作品である。

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強烈な個性を放つ「RPGタイム!」


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 メンバーは2人だけの開発チームDESKWORKSが開発する「RPGタイム!」は,見た目からしてかなり際立った作品だ。
 「小学生男子がノートや文房具で構築したアナログなゲーム」をタブレットの中で再現した意欲作で,次々に展開されるギミックが魅力のタイトルである。
DESKWORKSはベースとなるゲームを含めると学生時代から6年をかけて開発してきたのだそうだ。鉛筆書き風のインディーズゲームはこれまでもあったものの,「机」や「文房具」の周辺環境までゲームの中に落とし込んだシステムはおそらく初めてだろう。
 本作はスマートフォン,PC向けに2019年の発売を目指しているそうだ。会場での反響も大きく,BitSummitでは最も注目を集めたタイトルといえる。

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インディゲームパブリッシャのブースが増加


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 今年のBitSummitの特徴として,個人や小規模の作品のパブリッシングをサポートする「インディゲームパブリッシャ」のブース数が大きく増加した点が挙げられる。
 以前から参加している「Degica」「Playism」「Dangen」「GameTomo」と先ほど紹介した「Unties」のほか,「Pikii」「Devolver」「Raw Fury」といった国内外のインディパブリッシャが自社で取り扱う作品を展示していた。

 BitSummitのコンセプトである「日本のゲームを世界へ」を貫いているのは「Playism」と「UNTIES」が中心で,ほかのパブリッシャは基本的に海外の作品の展示になってしまっていたのが少々残念だ。なお「Dangen」は数々の海外タイトルの中で,フリーゲームとして日本で絶大な人気を誇るホラーアドベンチャー「魔女の家」のリマスター版「魔女の家MV」を展示していた。担当者によるとDANGENでは日本の作品の取り扱いも今後は増えていく予定なのだそうだ。

国際色を増しつつも国内インディーズ作品は減少した「BitSummit Vol.6」の課題
Pikii
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Dangenから発売される「魔女の家MV」

 パブリッシャによるブースのいいところは,スポンサードブースとして前面に配置されることもさることながら,パブリッシャが持つ看板タイトルと一緒に,新進気鋭の未知のタイトルもプレイヤーの目の触れる形で並べてくれるところだ。


公募ブースでも多くの新作発表や続報が登場


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 日本インディゲーム開発者の公募ブースでは,「次の一手」の発表を多く見ることができた。まずはアドベンチャーゲーム「Strange Telephone」を作ったyuta氏による横スクロールアクション「Parasite Seed」だ。「種」に寄生された主人公がその力で戦う世界観が特徴だが,開発は初期段階で,ゲームプレイやシステムはまだまだこれから拡張していく予定だそうだ。なお,1日めはPCの展示だけだったものを,2日めには急遽iOS向けにビルドして展示に追加するなど,インディらしい機敏さも見ることができた。

国際色を増しつつも国内インディーズ作品は減少した「BitSummit Vol.6」の課題
 「Missile Man」のGame Or Dieは,完全新作として「Samurai JET」を発表していた。画面固定の2Dアクションで,ジェットを搭載した侍が画面中を高速に飛び回りながら敵を斬り倒す爽快感あふれるゲームだ。独特の色味と世界観,決まると気持ちいい空中コンボなどが印象的だった。

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 「スバラシティ」「みんなの脳内ワールド」で有名なゲームクリエイターkuwaki氏は,新作の浮世絵波乗りゲーム「Ukiyo Wave」を初出展した。縦持ち用スマートフォンゲームで,浮世絵にインスピレーションを受けたグラフィックスが目を引く。
 ゲームシステムは左右のフリックで波に乗りながら下に落ちないようにする,というシンプルなもので,今年の夏に無料広告モデルでの配信を予定しているとのことだ。

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 「ACE OF SEAFOOD」の作者Nussoftによる「カニノケンカ」は,しばらく前から予告していた魚類系アクションの最新作だ。本作はPC向けの2P対戦ゲームとなる。リアルな質感のカニが鉄球やドスを振り回しながら,ときに海中,ときに巨大化して街中で殴り合う。英語タイトルが『Fight Crab』であることもウケるポイントになっていた。前作「ACE OF SEAFOOD」はWii UやPS4,Switchなど,幅広いプラットフォームに展開されており,今作もマルチプラットフォーム展開が期待できそうだ

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 「ひとりぼっち惑星」「あめのふるほし』の作者,ところにょり氏による新作「おわかれのほし」は,BitSummti当日にタイトルが告知され,SNS上でも大きな話題を呼んでいた。ところにょり氏は以前,本作をティザー的に「こんなやつ つくりたい」というタイトルとして出展していたが,正式なタイトルが決まった形だ。
 自分を人間だと思い込んでいる機械が,死んでしまった村人をたちを弔っていく……というストーリーラインになるそうで,ところにょり氏の持つもの悲しい世界観が本作でも堪能できそうだ。

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 本イベントが初出展という「LIBLADE」は,横スクロールタイプの3Dアクションゲームだ。壮快なスラッシュアクションによるスピード感と派手なエフェクト,歯ごたえのあるボスなどが特徴の作品だが,本作をメインで開発している人物は学生時代からこのゲームを作り始め,今春に就職後も作り続けているとのことだ。PC向けに今年の配信を目指しているそうだ。


京都へ各地から集うクリエイターの交流と周辺イベント


アフターパーティでの展示
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 さて,筆者は1日め終了後の有志によるアフターパーティに出席したのだが,そこには小さいながらタイトルの展示コーナーがあった。
 また,BitSummitの会場である「みやこめっせ」の向かい側では,会議室の一室を使って学生が中心となったゲーム展示会「ConnectFest」も開かれていた。

 近年のBitSummitはよりワールドワイドなタイトルラインナップ展示に傾いているため,多くの新作は見られたものの,日本のインディシーンの多様性を網羅できているわけではない。

 大規模な展示会の周辺に,コミュニティによるパーティやプチ展示会,道端でゲリラハンズオンが現れてるのは,GDCやE3では当たり前に見られる光景である。

有志によるアフターパーティ


BitSummit Vol.6の盛況と課題


 BitSummitは6回めとあり,会場やレイアウト,運営や進行どに多くの改善点やスムーズさを感じることができた。しかしながら,開発者にヒアリングすると選考の可否通知が1か月以上遅れたり,まだまだ不足しているリソースは多そうな印象だ。

 やはり目立ったのは,日本産タイトルの減少だ。86の公募ブースのうち,日本のクリエイターの作品は半分程度であった。公式発表があったように応募は252組あったのだが,選出された86組の中には海外のインディーズゲームキャラバンである「Indie Megabooth」に属するタイトルもあったため,実際に選ばれたデベロッパはさらに少なかったものと予想できる。

 BitSummitの選考を受けるには,出展費用3万円とは別に「エントリー費用」として2500円を支払う必要があるが,これは申込者に返却されない。選考に漏れた200組弱のデベロッパが次回もBitSummitを目指してくれるかどうかは疑問だ。今後はBitSummit自体の方針とデベロッパとのミスマッチが起きないよう,コンセプトや選考基準,選考プロセスや「どんなゲームを求めているか」の指標などの情報開示があれば,と願っている。
 日本のインディーズゲームシーン全体を盛り上げるためにも,ぜひ京都を中心とした日本クリエイターの発信場所として初心を思い出してほしいと願うばかりである。

BitSummit公式サイト