[Unite 2018]Unite Tokyo 2018基調講演レポート。Unity 2018.1の新機能や次世代エディタ環境を世界初公開
ここでは初日に行われた基調講演の内容をレポートすることにしたい。
Unityの堅調な成長が報告される
基調講演が開幕するやいなや,登壇したのはUnity TechnologiesのVIPではなく,バーチャルYouTuberのキズナアイちゃんだった。バーチャルな存在の彼女を「登壇」と表現していいかは分からないが,基調講演開始時に会場が暗転して,会場の巨大スクリーンにまず映し出されたのは巨大化して町を破壊しまくるキズナアイちゃんだったのである。
その様子は動画でも公開されているので興味のある方はご覧いただきたい。
日本カントリーマネージャの豊田信夫氏 |
日本のゲーム開発シーンにおいてはミスターUnityとして広く知られる大前広樹氏。かつてのUnityのCEO,David Helgason氏よろしく,襟立てスタイルで登壇 |
豊田氏は,Unityが今やゲーム開発だけでなく映像制作業界,自動車業界などを始めた非ゲーム産業にまで活用が広がっていることを報告。大前氏は昨今のゲームエンジンUnityのゲーム業界での実績についての報告を行った。
それによれば,Oculus Rift向けのアプリでの採用率が69%,HTC Viveでは74%,Gear VRでは87%,そしてHoloLensでは91%の高いシェアを誇っているという。とくにHoloLensに関しては,世界的に見ても日本でのHoloLens対応アプリの開発は最も盛んだとのことで,その中でUnityのシェア率がダントツに高いという。
また,もともとUnityは,スマホ向けゲーム開発にフォーカスしたゲームエンジンとして人気を博していたという経緯もあり,競合の多い,この開発シーンにおいては依然とトップを守り続けているという。2017年のシェア率50%だそうである。
興味深いエピソードとしては,ビジネスユーザー向けSNSのLinkedInにおける「北米での最も急成長している職種」トップ10の第7位にランクインしたことが紹介された。
大前氏は「こうしたランキングで唯一,唯一企業名が入っているのはUnityだけ」とアピール。ゲーム開発はもちろんだが,インタラクティブな3Dコンテンツのスピーディな開発が求められる昨今において,Unityがそれだけ大きな存在となってきていることを間接的に証明しているというわけだ。
豊田氏のオープニングトークにもあったように,Unityはゲーム開発以外にも活用される局面が急増していることに再び触れられ,日本だけでも2017年は前年比1.5倍でプロライセンスユーザーが増加したことも報告された。
Unityは10万ドル以下の売り上げの開発者は無償で利用ができるわけだが,そうしたユーザーがいくらいてもUnityの直接的な収益は見込めない。しかし,そうした無償ライセンスユーザーが多くいることはUnityコミュニティを活性化させ,Unityの発展を促進させていることは間違いない。そうした無償ライセンスから育った有能なエンジニア達を雇用することができるのが,有償ライセンス(プロライセンス)を締結している企業達になるわけだが,このプロライセンスユーザー数の増加率が堅調だというのは,Unityのエコシステムが良好に回転していることの証なのだろう。
大前氏は,このパートの最後ではUnite 2015の基調講演で予告しつつもその後続報がほとんどなかった「Unity Editorの日本語版」についての紹介を行った。
現行最新版のUnity 2018.1では多言語対応がなされており,ついにメニューなどの表示言語に日本語が選択できるようになったのだ。このあとは,韓国語,中国語,ロシア語,スペイン語,フランス語などへの対応が行われていく見込みだという。開発優先度は「第2言語として英語が不得意な国を優先していく」という方針だそうで,いうなれば「日本は英語が不得意」な国の代表ということで,さっそく対応がなされたようである。
Unityのレベルデザイン機能がパワーアップ
続いて,最新版Unity2018.1に統合された新機能としてProBuilderとPolyBrushの機能紹介がCarl Callewaert氏(Director Evangelism)とAndy Touch氏(Global Content Evangelist)の両氏によって行われた。
ProBuilderはゲームのステージデザイン(レベルデザイン)を簡易的な操作だけで行える,いわば箱庭制作ツールに相当するものだ。その概要は下の動画を参照するとよく分かるはずだ。
PolyBrushはUnity Editor内の3Dシーンに対して直接テクスチャをブレンド適用したり,あるいは3Dモデルの凹凸整形などが行えるほか,ペイントソフトの筆で線を描くようにして3Dモデルを配置することができるもの。
空けたい穴のサイズの四角柱モデルをグサリと壁に刺し,これをSubtractのブーリン演算を適用することで貫通させる……というデモ |
開いた穴で二つのシーンがつながった。「まるで積み木遊びと粘土細工の要領でシーンが作れます」というようなデモというわけである |
また,Unity 2017より搭載された「FBX Exporter」が,今回紹介されたProBuilderとPolyBrushと連携できる様子もデモされた。
これはUnity Editor上で制作された3Dシーンをジオメトリ情報,テクスチャ,シェーダ情報,アニメーションデータなどをセットにして社外ツールとの相互にやりとりできる支援ツールだ。
ProBuilderでプロトタイプとしてのゲームシーンを制作して,これをFBX ExporterでMayaへ出力。アーティストは,これをMaya上で「本番デザイン」として作り込んで,これを再びFBX ExporterでUnity Editorへ取り込んで,最終的にPolyBrushで微調整……というような制作パイプラインを実演してみせていた。
わずか72KBの小サイズコアランタイムと5億ポリゴンのデータセットが開ける柔軟性
Tiny Unityは,スマートフォンよりもさらに小さいフォームファクタのプラットフォームであるIoTデバイスなどでの動作を想定したUnityのランタイムで,そのコアランタイムサイズはわずか72KBなのだとか。
スマートウォッチのような小さなIoTデバイスで「ゲームをプレイする」のは,その本体物理サイズの面で難しいだろうが,それでも,インタラクティブなコンテンツをそうしたIoTデバイスの画面で動かすことには価値がある。このTiny Unityは,Unityの活躍の幅をさらに広げていくかもしれない。
72KBがいかに小さいデータサイズ化をアピール |
とある同一ゲームのファイルサイズ比較 |
とある同一ゲームのローディング時間比較 |
もう一つ,Schoennagel氏が紹介したのはUnityのPiXYZ Pluginだ。
PiXYZは,CATIAをはじめとしたCADツールなどで制作された産業用の3D設計データをポリゴンベースの3Dモデルへ変換することができるツールで,産業界の3Dデータを,ゲームをはじめとしたリアルタイム3Dグラフィックスの世界への橋渡しを実現する存在と言える。
Unityは,このPiXYZを開発するPiXYZ Softwareと技術提携を結んだことで,UnityでCADデータをより取り扱いやすくなるというわけである。
このCADデータは実際にレクサスから提供されたものだそうで,総パーツ数は3000個。これをUnity Editorで読み込まれたときには約5億ポリゴンからなる3Dモデルデータになるというから凄い。Unityに代表される最新ゲームエンジンが,こうした非ゲーム産業界で応用活用が進んだ理由の一端は,このような大規模データを取り扱えるようになったことと無関係ではないと言われている。
デモでは,実際にエンジン,トランスミッション,ドライブシャフトなどの全パーツを放射状に分離するアニメーションを披露していた。
Entity Component System(ECS)とBurst Compilerとで劇的なパフォーマンス向上を実現
ECSは,開発するゲームに登場するオブジェクトを,
- Entity=オブジェクト(モノ)
- Componet=データ
- System=振る舞い
で管理するUnityの新しいアーキテクチャスタイルだ。ちなみに,ECSというキーワード自体は既存の一般ソフトウェア用語である。
Santos氏のプレゼンテーションでは,Unityでは,このECSアーキテクチャの採用によってデータレイアウトが最適化され,現在のコンピュータアーキテクチャのメモリシステム,そしてCPUのキャッシュシステムなどとの親和性が高まり,パフォーマンス向上に結びつく,といった説明がなされていた。
ステージ上のプレゼンでは,オースティンで開催されたUNITE時に公開した20万オブジェクトを動かすデモ(https://github.com/Unity-Technologies/UniteAustinTechnicalPresentation)において,ECS×Burst Compilerの組み合わせで劇的にパフォーマンスが向上したことを報告していた。
次世代Unity Editorとなるのか〜開発途上版の「Carte Blanche」を世界初公開
基調講演最後のプレゼンテーションパートに登壇したのはVice President Research LabsのSylvio Drouin氏とDirector XR ResearchのTimoni West氏だ。
両氏は,ゲームエンジンUnityの次世代技術を開発するUnity LABSに所属する人物だ。
Vice President Research LabsのSylvio Drouin氏 |
Director XR ResearchのTimoni West氏 |
彼らが発表したのは,世界初公開となる次世代Unityエディタの新スタイルにもなりえるとされるプロジェクト「Carte Blanche」だ。
Carte Blancheはフランス語で「白い紙」だが「白紙委任」の意味がある |
Carte Blancheはフランス語で「白紙委任」の意味があり,つまり「あなた次第で自由にどうぞ」のコンセプトで制作されたツールになる。
使い方としては,Epic GamesがUnreal Engine 4向けに実装したVRエディタ(http://api.unrealengine.com/JPN/Engine/Editor/VR/)とよく似ており,開発者自身がVRヘッドセットを被ってVR世界にダイブし,そのVR世界内でVRコントローラを使って自由にオブジェクト群を配置してレベルデザインができるようなものになる。
エディタに自在なゲーム開発アセットを追加したり組み合わせたりできるシステムはたしかにユニークだし,アセットストアのエコシステムが人気のUnityらしい試みだと言える。
今回の基調講演は,主にUnity 2018.1の機能紹介がメインだったが,どんな機能が追加されたのかを整理理解する意味合いにおいては分かりやすかったように思える。
また,Carte Blancheは,以前のゲーム開発系カンファレンスで予告的なコンセプトの発表はあったが,現状バージョンの公開は世界初公開となったことで,Unite Tokyo 2018の基調講演としての価値が高まっていたと感じる。
ちなみに,基調講演後の質疑応答で「なぜCarte Blancheを日本で初公開としたのか」という質問に対しては「日本がもっともVRコンテンツ開発が盛んで,VRコンテンツ開発の新しいスタイルを受け入れてもらえると信じていたから」とSylvio Drouin氏が答えていたのが印象的だった。
この質疑応答のとき筆者は「DirectX Raytracingへの対応」を聞いてみたのだが,これにもSylvio Drouin氏が回答してくれた。
「現在具体的なスケジュールというものはない。MicrosoftとNVIDIAの出方を見てからより具体的な開発フェーズへ移行すると思う」と述べていたことから,Unreal Engine 4のようにMicrosoft・NVIDIAと現在進行系で進めている印象はなかった。ただ,Unityは,事前計算ベースのライトマップ生成,事前計算ベースの間接光ボリューム生成などにレイトレーシングを早期から導入していた実績もあるので,対応すると決めたあとの実装は早いことだろう。