ウェアラブルEXPO開催,人間に密着した電子技術の最先端を探る

 2018年1月17日,東京ビッグサイトで「第4回ウェアラブルEXPO」が開始された。ウェアラブルデバイスや基礎技術の展示が行われていた。気になる技術をピックアップして紹介してみたい。
 これまで3回このイベントを見てきているが,今年は本当に規模が大きくなったと感じる。1日で回りきれてないくらいだ。ウェアラブルEXPOは1月19日まで開催されているので,興味のある人はぜひ出かけてみよう。
 なお,衣類へのセンサーの埋め込みなどはすでに実用域でさまざまな展開が行われている。半面,あまり新しい展開もないので今回はスルーしておく。

昨年の模様はこちら


●薄型VRヘッドセット用光学モジュール
 カラーリンク・ジャパンは,興味深い各種光学モジュールを出展していたのだが,VRヘッドセット用のレンズモジュールがとくに印象に残った。

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レンズと有機ELパネルを一体化したモジュール。この大きさ・厚みでも大画面VRが実現できる
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 写真を見ても分かりにくいかもしれないが,メガネ部分を覗き込むと大画面映像が表示される。主流のVRヘッドセットほどの視野角ではなかったものの,視野角は70度で1920×1080の映像が0.7インチ有機ELディスプレイから表示される。
 ポイントは薄さだ。一般的なVRヘッドセットはフロントヘビーな構造で,それなりの大きさのELパネルの映像をそれなりの大きさのレンズで拡大しているが,かなり極端なレンズを使っても奥行きはそれなりに必要になっているのだ。それがこのユニットだと,ディスプレイとレンズを入れて奥行き2cmくらい(?)に収まっているのだ。
 その秘密は,光路を折り畳んでいることにある。本来,光はこの奥行きの3倍分の距離を進んでいるのだ。つまり,有機ELパネルから出た光は接眼レンズ側のハーフミラーで反射し,その光がまたパネル手前のハーフミラーで反射して今度は素通しで目に入る。もしかしたらボケボケの絵もうっすら見えているのかもしれないが,見た目にはくっきりとした映像のみが表示されている。
 フィルタやハーフミラーを通す分,明るさが犠牲になるものの,しっかりと光漏れを防ぐVRヘッドセットでなら使えるだろうとのことだ。

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同社によるプロジェクタとハーフミラーによる立体映像。それほど珍しい技術ではないのだが,なんでこんなにくっきり画面が浮いてるの?
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こちらはARデバイス用の光学系の例

●RETISSA Display
 人だかりの多かったQDレーザによる網膜照射型ディスプレイ。レーザーによる網膜照射(走査)型ディスプレイは,フォーカス調整が必要ないのでアイウェア用の表示手法として期待されている。以前のウェアラブルEXPOにも同手法のものが出展されていて試用レポを行ったこともあるのだが,今回のRETISSA Displayは製品化されたものである。

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 メガネのフレームの部分にレーザー発信機とMEMS(DMD)ミラーが装着されており,それをメガネレンズの手前に取り付けられた反射板に当てて網膜に映像を照射する方式だ。
 解像度は1024×600ピクセルで視野角は26度なので,だいたい1m先に21型ディスプレイがあるという感じだ。10インチくらいのタブレットを50cmの位置に持ってきた視野角ともいえる(たぶん縦横比は異なるが)。

 製品はメガネとコントローラ部に分かれており,ケーブルで接続されている。ポータブルで2時間程度の連続使用が可能となっている。映像自体は外部からHDMI経由での入力となる。スマホと接続するなどの応用が期待できそうだ。

●超小型光学エンジン
 昨年も紹介した福井大学とケイ・エス・ティ・ワールドが開発中のレーザー照射型の光学エンジン。上記と同じくレーザーとDMDによる網膜照射型だ。残念ながら今回の出展にチップ化が間に合わなかったそうで,出展内容は昨年とほぼ変わらず。
 現在でも世界最小ではあるが,目標とするところは普通のメガネフレームにそのまま収まるサイズだそうだ。小型化で明るさに影響は出るかと聞いてみると「網膜に直接当てるレーザーなので出力は小さいほうがいい」だそうで。なるほど。

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●b.g.
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 メガネスーパーによるウェアラブルディスプレイ。写真だけではよく分からないが,鼻の上から横に飛び出した部分に映像が表示されるタイプのディスプレイである。昨年まではメガネフレームの両側からディスプレイがかぶさる感じのちょっと大仰なデザインだったのだが,ディスプレイ部を中央にまとめた形で再構成された。この手のものでは珍しく非透過型となっている。

 映像の品質にこだわったとのことで,非透過かつ両眼式だ。両眼で同じ絵が出るので立体視対応ではないが,両眼式のほうが疲れにくいとのこと。当然ながらメガネをかけたまま着用でき,視界にはちょっとジャマなディスプレイ部分は跳ね上げて避けることもできる。使う人に合わせていろいろ調整できるのもこのタイプでは珍しい。
 画面は有機ELで1280×960ピクセルで4:3のアスペクト比となる。
 非透過ながら,使い方はAR的なものが想定されているようで,医療用や博物館などでの応用が提案されていた。

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●イヤフォンで心拍数計測
 サルーテックの出展は,スマホのイヤフォンから心拍数を計測する技術に関するものだった。
 具体的には,スマホとイヤフォンの間に挟む機器があるだけで,イヤフォンには普通の市販製品がそのまま使われている。それで音楽を聴いたりイヤフォンをつけていると心拍数が取れるのである。
 原理はというと,スピーカーとマイクは同じ構造であり,耳からの心音を途中に挟んだ機器で計測しているのだという。耳は頚動脈に近くそれなりに音(圧力差)が取れるようだ。音楽で再生されるのは20Hz〜20kHzの範囲であるのに対し,心拍は1Hzとか2Hzの世界であり,周波数帯で簡単に分離できるとのこと。確かにアイデア賞モノである。
 現在はデバイス部の小型化が進められており,イヤフォン部分に一体化させることや,Bluetoothでのワイヤレス受信機としての位置付けるデバイスの開発が進められている。

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●匂いセンサ
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 第一精工が開発中の匂いセンサは,化学物質に反応する感応膜を複数備えたチップで,展示されていたものは7種類の感応膜が使用されていた。

 感応膜によって化学物質を検地できるとはいっても,単一の物質に対して単一の感応膜が対応しているわけではないようで,サンプルで示されていたグラフだと,単一物質のはずのアンモニアに対しても複数の感応膜が反応していることが分かる。こういった各感応膜の検出パターンを蓄積し,さまざまな物質での固有パターンを学習して匂いを識別していくのだという。

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 匂いといってもいろいろあるが,なんにでも対応できるのかと聞いてみると,一応,匂いのするものであれば何でも識別可能で,人間の鼻では感知できない匂いにも対応できるとのことだった。ただし,識別できる匂いを増やすには感応膜の数も増やす必要はある。ぱっと見るとアンモニアと青リンゴのパターンは結構似ており,用意されている感応膜だけでは足りそうにないのはなんとなく分かる。
 しかし,複数の匂いが混ざったりするとかなり複雑なことになるのだが,人間の鼻というのは凄いものだなと改めて感じる。

●パッチ型脳波センサー
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 大阪大学COI研究推進機構が出展していたパッチ型脳波センサーは,柔らかい電極と基板を使ったもので,額の部分に貼り付けて長時間安定してデータが取れるものだという。しかも医療機器の精度を兼ね備えている。
 展示ではテニスプレイ中の脳波の変化を示したグラフなどが示されていた。柔らかいのでスポーツ中のように身体を激しく動かしている状態や睡眠中などのデータ測定に適しているという。通常のセンサーでは長時間の使用はちょっとつらいそうだ。このセンサーなら,「冷えピタ程度」の使用感で装着できるので長時間のデータ計測が可能となる。日常的に脳波を取ることができれば,また違った応用が可能になるかもしれない。

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●ヘッドバンド型活動量計
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 リストバンド型活動量計はすでに商品化されて久しく,ウェアラブルEXPOの会場にもさまざまなものを見ることができたが,機能的にもだいたい飽和しつつあるのでここでは割愛する。
 リアルデザインの活動量計はヘッドバンド型だ。なぜ頭なのかと効いてみると,位置情報を取ることを重視した結果だという。腕に付けていたのでは外乱が大きく,GPSと連動しても精度が出ない。また,地磁気の影響などを避ける意味でも頭への装着がベストだったとのこと。
 現状のものであればトラックの周回くらいであれば,加速度などを中心としたデータだけで位置情報を取れるという(周回ごとにキャリブレーションは必要とのことだが)。

●FISH PASS
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 ウェアラブルかと言われるとやや微妙なのだが,フィッシュ・パスではその名の通り「Fish Pass」関連の展示を行っていた。
 渓流などでの釣りには地元管理漁協(内水面漁業協同組合)が発行する遊魚券が必要だ。本来は物理的な「券」として販売されているものなのだが,これを電子化したものがFish Passとなる。これは福井県で行われていたものだが,釣り人には県外からの来訪者も多く,どこで遊魚券が売られているのかが分からず,また早朝には販売店が機能していないなどの問題があり,24時間オンラインで遊魚券販売は歓迎されているという。全国的に遊魚券の販売は下り坂なのだそうだが,Fish Passの導入で福井県は増加に反転しており,他県での導入も進んでいる。
 Fish Passはスマホアプリで購入できるものだが,最近ではアプリに機能が追加されて災害情報などを表示するようになったり,カシオと共同でG-SHOCKに組み込まれたりしている。
 また管理用にも使われており,購入者の位置をマップ上で確認できるようになっているという。もちろん,これだと「持っていない人」が分かるわけではないのだが,谷底に降りている人が「持っている人」だと分かるだけでかなりチェックの手間が省けるのだそうだ。

●Sleep Bank
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 なぜウェアラブルEXPOに出展されているのかよく分からないが,Sleep Bankは睡眠の質を高めるためのデバイスである。
 デバイスそのものは低周波の磁場を発生させるものらしい。枕の裏あたりに置いておくと,これが周囲の高周波ノイズを低減させるのだそうだ。
 さらにこれが脳波のβ波に干渉して云々といった説明を受けたが,なんやかんやで安眠ができるという。全体に「なぜ?」「どうやって?」といった疑問は尽きないのだが,一応,あちこちで賞を取っているらしい(2018台湾精品賞のページ)。ドクター中松が議長を務める世界天才会議でも受賞しているそうだ。そこまでオカルトなモノでもなさそうだが,効くんだろうか?
 なお,現在国内代理店募集中とのこと。ちなみに値段は5万5000円くらいになるとのこと。

ウェアラブルEXPO公式サイト