[TGS 2017]TGS「インディーゲームコーナー」で見た,日本の個人・小規模クリエイターを取り巻く現状とその未来
2017年9月21日〜9月24日,千葉県・幕張メッセで日本最大のゲームイベント「東京ゲームショウ2017」(TGS 2017)が開催されている。このTGSに「インディーゲームコーナー」が設けられたのは2013年のことなので,すでに4年が経過している。
今年のインディーゲームコーナーはホール9の広いエリアを占め,ブースの数は120ほどに達した。過半数は海外からの出展だが,日本のクリエイターが制作したタイトルも数多く展示されている。というわけで本稿では,日本生まれのタイトルを中心に会場の模様を紹介したい。
まずは,HZ3 Softwareが2017年初めにリリースしたスマートフォン向けアドベンチャー,「Strange Telephone」だ。PC版がPlayismで配信されることが発表され,ブースでは開発中のPC版の試遊が可能だった。
本作はもともと「LÖVE」 (Love2D)で開発されていたが,後継バージョンには「Unity」が使われている。ブースで試遊できるのも「Unity」を使用して,さらに,演出や操作性などがパワーアップした「Version 2.0」だった。
開発者のyuta氏に話を聞いたところ,リリースから時間が経過したことで自分のゲームを客観的に見直せるようになり,現在は足りないと感じられた部分を中心に,追加要素を制作しているとのことだった。
ちなみに,iOS/Android版は今後,開発環境が一新されることからセーブデータの互換性がなくなる。そのため,古いバージョンで遊んでくれたプレイヤーに対して,特別なアイテムを贈るなどのリワードを検討中だそうだ。
「Strange Telephone」のVersion 2.0は,2017年内のリリースが目標だが,これまでのセルフパブリッシングに代わり,もはや老舗といえるPlayismがサポートについた。これにより,yuta氏の作品は海外に向けても大きな広がりを見せるかもしれない。
Nussoftの魚介類TPS,「Ace of Seafood」は,Nintendo Switch版がプレイアブル展示されており,PC版に比べて遜色のない,美しい海中でのビームの撃ち合いが堪能できる。
Switch版では,画面分割による2人プレイが可能だが,ただし,Joy-Conを2人で使う「おすそわけプレイ」には対応しておらず,Joy-Conをもう1セットかProコントローラが別途必要になる。
また,画面分割のままでオンラインマルチプレイも楽しめ,「海産物になりたい」という,人類なら誰しもが抱く欲望を最大4人のプレイヤーで一緒に叶えられる。
//commentout.infoが開発中の2Dアクション「常世ノ塔」は,プレイアブルキャラクターが追加され,さらに生物っぽい新しいステージやトラップギミックなどが新たに加えられた最新版の試遊が可能だった。
ハードな横スクロールアクションで,かつ24時間ごとにステージを自動生成するユニークなゲームとして海外でも人気が高く,試遊台では海外からの来場者が楽しんでいる姿が多く見られた。開発者のさえばし氏によれば,とくにリリースについての目標などは決めておらず,完成度を高めつつパブリッシャを募集中とのことだった。
なお,//commentout.infoは,8月に開催された日本一ソフトウェア主催のゲームイベント,「ぜんため―全国エンタメまつり」でも,インディーズゲーム開発者のためのブース「インディー通り」に出展していた。
さえばし氏によれば,「ぜんため」はサポートが篤く,大変快適だったとのこと。また,普通のゲームイベントではリーチしにくい親子連れにも触ってもらえたそうで,こうした地域密着型のイベントは今後,さらに広がっていけばインディーズゲームの開発者にとっても嬉しい話になる。
Epic Gamesがインディーズゲーム開発者に対して行っているサポートプログラム,「Unreal Dev Grants」の対象となった日本のタイトルが2本ある。1つが「Tiny Metal」,そしてもう1つが「ジラフとアンニカ」だ。美しくキュートなグラフィクスと,マンガ風のカットシーンが魅力の3Dアドベンチャーとなる本作。「Unreal Dev Grants」の対象となったことで,さらにワールドワイドで注目を集めているようだ。
展示されていたバージョンの新要素には,新しいボス戦(具体的には音ゲー)の「かに大王」があり,開発者の紙パレット氏に話を聞いたところ,現在の完成度50%ぐらい。ゆっくり作っているため,完成にはあと1年半ぐらいかかるとのことだった。
このボス戦には女の子のキャラクターも登場するのだが,アニメーションにはモーションキャプチャを利用しているとのことだ。収録は,リクルートテクノロジーズが今年6月から提供している,「Advanced Technology Lab」で行っており,なんとモーションキャプチャの機材を無料で借りられる驚きの施設だという。
ただし,機材の使い方は教えてもらえず,操作スタッフやアクターもいないので,それらは自前で用意する必要がある。そうはいっても,こうした施設がインディーズゲームクリエイターでも使えるというのは大変魅力的な話だ。
ニカイドウレンジ氏の「EARTH DEFENSE SATELLITE」は,itch.ioで配信されている(シンプルなシューティングゲームだ。
地球を操作し月を振り回して戦うという設定が,なんとも独創的なのだが,配信を行っているitch.ioは,簡単な手続きですぐに自分のゲームが配信できるという,インディーズゲーム開発者にもってこいのプラットフォームだ。PC,Macなどの実行ファイルを配布できるほか,WebGLゲームの配信も可能となっている。
自分のゲームの価格について,「最低金額」と「推奨金額」を設定できることが大きな特徴で,「EARTH DEFENSE SATELLITE」の場合,最低金額が2.8ドルで,推奨金額は4.8ドルだ。そして,2.8ドル以上なら,プレイヤーは自由に支払う金額を決められる。
これだけではピンとこないが,ニカイドウレンジ氏はこれまで複数のゲームをitch.ioで配信しており,興味深いことに,「SHINKENDO」というタイトルを最低金額ゼロ(つまり無料)でリリースしたところ,お金を上乗せして払ってくれる購入者が何人も現れたという。
同様なデジタル配信サービスにSteamがあり,より簡易な手続きでゲームがリリースできる「Steam Direct」も始まっているが,SteamSDKの導入(必須ではないが)や各種手続きなど,個人や小規模なチームにとって,ハードルはまだまだ高い。
一方のitch.ioは,筆者も自分のゲームを配信したことがあるのだが,簡単な情報入力だけですぐにゲームを公開できる。日本ではまだ知名度が低いが,今後浸透していく可能性があると思われる。
いわゆるツインスティックシューターの「NOAH:the gunslinger witch」は,わずか3か月前に開発が始まったフレッシュなタイトルだ。2人のクリエイターが「GameMaker」を使って制作を進めており,とくに操作の爽快感にこだわっているという。ステージの地形はランダムで,このへんはローグライクなゲームのイメージが入っているようだ。
BitSummitやデジゲー博などでインディーズタイトルに触れているうち,自分達もゲームを作ろう! と思ってスタートしたプロジェクトだそうで,インディーズゲームの新たな世代が生まれつつあることが感じられる。2018の早期にSteamで配信することを予定しており,今後も注目していきたい作品の1つだ。
以上,「インディーゲームコーナー」の見どころを紹介したが,いかがだったろうか。ここ数年,東京ゲームショウのこのエリアは独創的な作品であふれる刺激的な空間なのだが,今年はとくに個人や小規模クリエイターの「選択肢の充実」を実感した。
ゲームエンジンやツールの無料化,一般化がゲーム開発大衆化の第1弾とするなら,配信プラットフォームや,クリエイター支援プログラム,無料で使える設備などのサポートは第2弾に相当する。
上記のように,クリエイターに資金を提供する「Dev Grants」の対象として日本人開発者が選ばれたり,モーションキャプチャの機材を無償で利用できる施設が出てきたりなど,個人や小規模開発者が採れる第2弾の選択肢は確実に広がっていると思う。
大手メーカーに関しても,任天堂は2016年に引き続きSwitchのインディーズ展開を支援しており,そのためかSwitch版を展示しているタイトルが多く見られ,またソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジアは,この「インディーゲームコーナー」に無償で出展できるプログラムのサポートを行っている。
さらに,TGSの直前にはGoogleがこれまで海外で開催していた「Indie Games Festival」を日本でも開くことが告知された。
個人または小規模開発者に対する支援体制が海外に比べて遅れていると感じていた筆者だが,数年間の仕込み時期を経て,いよいよ巻き返しのときにさしかかっているようだ。インディーズゲームのクリエイターの環境は(十分とは言えないかもしれないが)整いつつあり,この「インディーゲームコーナー」からも世界に羽ばたくタイトルが出てくるだろうという印象だった。
なお,「Tiny Metal」については,デベロッパであるArea35の代表,由良氏にショートインタビューを行った。こちらは別の記事として近くお届けする予定だ。また,最近のインディーズゲーム市場については,筆者が行った開発者へのロングインタビューもぜひ合わせてお読みいただきたい。
今年のインディーゲームコーナーはホール9の広いエリアを占め,ブースの数は120ほどに達した。過半数は海外からの出展だが,日本のクリエイターが制作したタイトルも数多く展示されている。というわけで本稿では,日本生まれのタイトルを中心に会場の模様を紹介したい。
■Version 2.0の配信が予定されている,「Strange Telephone」
本作はもともと「LÖVE」 (Love2D)で開発されていたが,後継バージョンには「Unity」が使われている。ブースで試遊できるのも「Unity」を使用して,さらに,演出や操作性などがパワーアップした「Version 2.0」だった。
開発者のyuta氏に話を聞いたところ,リリースから時間が経過したことで自分のゲームを客観的に見直せるようになり,現在は足りないと感じられた部分を中心に,追加要素を制作しているとのことだった。
ちなみに,iOS/Android版は今後,開発環境が一新されることからセーブデータの互換性がなくなる。そのため,古いバージョンで遊んでくれたプレイヤーに対して,特別なアイテムを贈るなどのリワードを検討中だそうだ。
「Strange Telephone」のVersion 2.0は,2017年内のリリースが目標だが,これまでのセルフパブリッシングに代わり,もはや老舗といえるPlayismがサポートについた。これにより,yuta氏の作品は海外に向けても大きな広がりを見せるかもしれない。
■驚異の魚バトルがNintendo Switchに。「ACE OF SEAFOOD」
Nussoftの魚介類TPS,「Ace of Seafood」は,Nintendo Switch版がプレイアブル展示されており,PC版に比べて遜色のない,美しい海中でのビームの撃ち合いが堪能できる。
また,画面分割のままでオンラインマルチプレイも楽しめ,「海産物になりたい」という,人類なら誰しもが抱く欲望を最大4人のプレイヤーで一緒に叶えられる。
■展示を繰り返して完成度が高まる「常世ノ塔」
ハードな横スクロールアクションで,かつ24時間ごとにステージを自動生成するユニークなゲームとして海外でも人気が高く,試遊台では海外からの来場者が楽しんでいる姿が多く見られた。開発者のさえばし氏によれば,とくにリリースについての目標などは決めておらず,完成度を高めつつパブリッシャを募集中とのことだった。
なお,//commentout.infoは,8月に開催された日本一ソフトウェア主催のゲームイベント,「ぜんため―全国エンタメまつり」でも,インディーズゲーム開発者のためのブース「インディー通り」に出展していた。
さえばし氏によれば,「ぜんため」はサポートが篤く,大変快適だったとのこと。また,普通のゲームイベントではリーチしにくい親子連れにも触ってもらえたそうで,こうした地域密着型のイベントは今後,さらに広がっていけばインディーズゲームの開発者にとっても嬉しい話になる。
■「Unreal Dev Grants」獲得で注目を集める「ジラフとアンニカ」
展示されていたバージョンの新要素には,新しいボス戦(具体的には音ゲー)の「かに大王」があり,開発者の紙パレット氏に話を聞いたところ,現在の完成度50%ぐらい。ゆっくり作っているため,完成にはあと1年半ぐらいかかるとのことだった。
ただし,機材の使い方は教えてもらえず,操作スタッフやアクターもいないので,それらは自前で用意する必要がある。そうはいっても,こうした施設がインディーズゲームクリエイターでも使えるというのは大変魅力的な話だ。
■「Pay What You Want」で配信中の「EARTH DEFENSE SATELLITE」
地球を操作し月を振り回して戦うという設定が,なんとも独創的なのだが,配信を行っているitch.ioは,簡単な手続きですぐに自分のゲームが配信できるという,インディーズゲーム開発者にもってこいのプラットフォームだ。PC,Macなどの実行ファイルを配布できるほか,WebGLゲームの配信も可能となっている。
自分のゲームの価格について,「最低金額」と「推奨金額」を設定できることが大きな特徴で,「EARTH DEFENSE SATELLITE」の場合,最低金額が2.8ドルで,推奨金額は4.8ドルだ。そして,2.8ドル以上なら,プレイヤーは自由に支払う金額を決められる。
これだけではピンとこないが,ニカイドウレンジ氏はこれまで複数のゲームをitch.ioで配信しており,興味深いことに,「SHINKENDO」というタイトルを最低金額ゼロ(つまり無料)でリリースしたところ,お金を上乗せして払ってくれる購入者が何人も現れたという。
同様なデジタル配信サービスにSteamがあり,より簡易な手続きでゲームがリリースできる「Steam Direct」も始まっているが,SteamSDKの導入(必須ではないが)や各種手続きなど,個人や小規模なチームにとって,ハードルはまだまだ高い。
一方のitch.ioは,筆者も自分のゲームを配信したことがあるのだが,簡単な情報入力だけですぐにゲームを公開できる。日本ではまだ知名度が低いが,今後浸透していく可能性があると思われる。
■さまざまなクリエイターに触発されて開発開始。「NOAH:the gunslinger witch」
いわゆるツインスティックシューターの「NOAH:the gunslinger witch」は,わずか3か月前に開発が始まったフレッシュなタイトルだ。2人のクリエイターが「GameMaker」を使って制作を進めており,とくに操作の爽快感にこだわっているという。ステージの地形はランダムで,このへんはローグライクなゲームのイメージが入っているようだ。
BitSummitやデジゲー博などでインディーズタイトルに触れているうち,自分達もゲームを作ろう! と思ってスタートしたプロジェクトだそうで,インディーズゲームの新たな世代が生まれつつあることが感じられる。2018の早期にSteamで配信することを予定しており,今後も注目していきたい作品の1つだ。
■クリエイターの選択肢が着実に増加していることを感じたインディーズゲームコーナー
以上,「インディーゲームコーナー」の見どころを紹介したが,いかがだったろうか。ここ数年,東京ゲームショウのこのエリアは独創的な作品であふれる刺激的な空間なのだが,今年はとくに個人や小規模クリエイターの「選択肢の充実」を実感した。
ゲームエンジンやツールの無料化,一般化がゲーム開発大衆化の第1弾とするなら,配信プラットフォームや,クリエイター支援プログラム,無料で使える設備などのサポートは第2弾に相当する。
上記のように,クリエイターに資金を提供する「Dev Grants」の対象として日本人開発者が選ばれたり,モーションキャプチャの機材を無償で利用できる施設が出てきたりなど,個人や小規模開発者が採れる第2弾の選択肢は確実に広がっていると思う。
ソウルローグ |
空棲精神性 レゾナンス/コンフリクタ |
大手メーカーに関しても,任天堂は2016年に引き続きSwitchのインディーズ展開を支援しており,そのためかSwitch版を展示しているタイトルが多く見られ,またソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジアは,この「インディーゲームコーナー」に無償で出展できるプログラムのサポートを行っている。
光と闇で神に近づく「Lord, I'm shining」人体消失ではない。 |
吾妻邸くわいだん |
さらに,TGSの直前にはGoogleがこれまで海外で開催していた「Indie Games Festival」を日本でも開くことが告知された。
個人または小規模開発者に対する支援体制が海外に比べて遅れていると感じていた筆者だが,数年間の仕込み時期を経て,いよいよ巻き返しのときにさしかかっているようだ。インディーズゲームのクリエイターの環境は(十分とは言えないかもしれないが)整いつつあり,この「インディーゲームコーナー」からも世界に羽ばたくタイトルが出てくるだろうという印象だった。
なお,「Tiny Metal」については,デベロッパであるArea35の代表,由良氏にショートインタビューを行った。こちらは別の記事として近くお届けする予定だ。また,最近のインディーズゲーム市場については,筆者が行った開発者へのロングインタビューもぜひ合わせてお読みいただきたい。