【Indie Dev Interview Vol.2】「自分の"濃さ"を大事にしたい」Unreal Engine 4で独自の世界を演出するReminisce

【Indie Dev Interview Vol.2】「自分の"濃さ"を大事にしたい」Unreal Engine 4で独自の世界を演出するReminisce
【Indie Dev Interview Vol.2】「自分の"濃さ"を大事にしたい」Unreal Engine 4で独自の世界を演出するReminisce
不定期連連載「Indie Dev Interview」は,日本国内で活躍するインディゲーム開発者のインタビューシリーズだ。作品が世に出るまでのいきさつや,作者が込めた思い,技術的なチャレンジ,そして日本からインディーズゲームを開発・配信していくためのノウハウや難しさについてヒアリングし,知見を共有するものである。
Vol.2では,TGS 2017での出展も発表された「空棲精神性 レゾナンス / コンフリクタ」開発者,ReminisceのSig氏にインタビューを行った。



Sig氏の代表2作品について


――本日はよろしくお願いいたします。まずは,Reminisce作品の概要について教えてください。

Sig氏:
 私はこれまで2つの作品を発表しています。「Link: The Unleashed Nexus」と「空棲精神性 レゾナンス / コンフリクタ」です。


 「Link: The Unleashed Nexus」は「Project_Link」というシリーズの一部となるもので,このシリーズは「近未来でのSF要素」や「情報技術が発展したデジタル時代の精神文化」などがのテーマとなっています。
 シリーズの1作品めとなる「Link: The Unleashed Nexus」はハイテンポ,ハイスピードな3Dアクションを基本としており,3年前にSteamでリリース済みです。現在はこちらのフルリメイク版と,さらにはPlayStation 4版の開発を進めています。

Steam:「Link: The Unleashed Nexus」


 もう一つ並行で進めているのが,去年(2016年)から開発を始めて,年末に最初のバージョンを発表した「空棲精神性 レゾナンス / コンフリクタ」です。そちらの作品は,ヒストリアさん主催の「UE4ぷちコン」というコンテストで最優秀賞をいただきました。そこからイベント出展やSteamでのリリースなどに手を広げてみようということで開発を続けています。

UE4ぷちコン


――こちらはどんなゲームですか。

 こちらもハイテンポなアクションゲームなのですが,一番の特徴として挙げられるのは,「音楽とシンクロする」という点です。私はゲームの凝った演出が大好きで,2Dの縦スクロールのシューティングゲームにハマっていた頃は,それらの作品の演出にシビれていました。その経験から,自分の作品でも演出を重視しています。自分の取った行動に直接「音」というフィードバックが返ってきたらとても気持ちいいんじゃないか,といった発想から開発をスタートしています。

――2本同時開発というのは大変ではないですか?

 現在,プロジェクトを二つ同時に進めている状況ですが,自分の好きなものと好きなものを合わせてやっているので,とくに苦にはならないです。


作品の開発体制


――メインの開発環境と,使用しているツールやミドルウェアを教えてください。

Sig氏:
 使用しているゲームエンジンは2作ともUnreal Engine 4です。モデリングとアニメーションはBlenderを,音楽の制作はReaperというDAWを使っています。最近はテクスチャやマテリアルを作るのにSubstance Painterを導入して,とても高クオリティなものが作れるようになってきました。

――購入したアセットなどは使っていますか?

Sig氏:
 自分の作品ですので自分の"濃さ"を大事にしたいと思っていて,極力外部のアセットは使わないポリシーでやっています。SkySphere(天球データ)や効果音などはアセットを購入して使用していますが,それ以外は基本的にモデリング,アニメーション,音楽,システムなどすべて自家製です。

――作曲までやるゲーム作家は珍しいと思います。

 音楽を自作して良かった点は,ステージの特色に雰囲気を合わせられることと,特殊な音楽の演出ができるところですね。例えば,波形データを4小節ごとに細切れにしておいてステージの進行に合わせてだんだん音楽を変化させるような演出や,特定の場所に来たら突然ドラムパートが加わるなどの特殊な演出も,自分で音楽とシステムを両方作っているからこそ盛り込むことができています。

――音にこだわっているという話ですが,サウンドミドルウェアは使用していますか?

Sig氏:
 現在は使用していません。最初はサウンドミドルウェアを試していたのですが,このサウンドシステムをさまざまなプラットフォームで使えるようにしておきたいという考えから,現在はすべてブループリント(※UE4に搭載されたビジュアルスクリプティング機能)で組んでいます。サウンドミドルウェアは便利ですが,個人開発者として使用できるエディションではプラットフォームが縛られてしまうことがありますので……。

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UE4のブループリントがクリエイター人生を変えた


――技術的な面で苦労したことはなんでしょうか?

Sig氏:
 ゲームを作り始めたころが,一番苦労していたと思います。私はインディゲームクリエイターとして活動を始めたとき,プログラミング技術などの下地がとくにない状態から突然始めてしまったのですが,最初はUnreal Engine 4以前にEpic Gamesが公開していたUnreal Development Kitを使っていました。それは,プログラムをUnreal Scriptという言語で組まなければいけませんでした。
 中学生の頃からプログラミングには興味があったのですが,高校生の頃のとてもつまらないプログラムの授業でやる気を削がれて,Unreal Scriptでもプログラムが書けず,くすぶっていました。
 しかし,Unreal Engine 4がリリースされると「ブループリント」の搭載によってコーディング環境が一変しました。ノードベースのビジュアルスクリプティングは,本質的にやっていることは変わらないと思うのですが,視覚的に分かりやすく,サポート機能もあって,そこから途端に書けるようなりました。とても不思議なのですが,自分が次に何をすればいいのかというのが降りてくる! といった感覚をある日突然覚えていました。神が降りたみたいな(笑)。

――それはすごい。ブループリントとの出会いで自分のやるべきことが分かるようになったということですね。

Sig氏:
 はい。私は常に「どんな演出があればよいだろうか」ということを四六時中考えているタイプなのですが,以前はその考えがプログラムとは乖離している状態でした。しかし,ブループリントでより感覚的にプログラムを組めるようになったおかげで,演出とプログラムが同時に噛み合った状態で頭の中に湧いてくるようになりました。本当に楽に実装できるようになったなと思います。

――作曲も独学だったのでしょうか?

Sig氏:
 はい,そうです。電車で移動中にスマホで作曲の練習をしたり,DTMマガジンを買ったりして学びました。結局音楽理論などもあまり分からないままここまで来てしまって,これでいいのかな……とたまに思いつつも,感覚的に自分にとって気持ちいい音を大事にしています。

――技術以外で苦労した点はありますか?

Sig氏:
 最大の点は自分のサボり癖ですかね(笑)。1日なにも進捗がない日というのがザラにあって,そういう日はベッドに潜り込んで死んだ目をした状態に……。それでも,自分の持つビジョンが明確にありますので,ここまでブレずに開発を続けられています。あとは,ゲームの展示イベントに積極的に参加していますので,強制的にやらなくてはならない期限を定めることができてなんとかなっています。

 私が初めて参加したイベントは「デジゲー博2014」だったのですが,その締め切りのおかげで半泣きになりながらも開発が進みました。このように,イベントにコンスタントに参加することでサイクルを回し,開発を進めることができています。「空棲精神性 レゾナンス / コンフリクタ」も開発開始から4か月でバージョン1を出したのですが,それも「UE4ぷちコン」「デジゲー博」「コミケ」という期限を設定していたことによって可能になったことでした。


個人ゲーム開発とお仕事のバランス


――個人開発のほかにお仕事はやっていますか?

Sig氏:
 開発時間の全体の3割程度ですが,Unreal Engine 4を使ったノンゲームプロジェクトの受託業務や,ガイド書籍の執筆などをしています。個人での開発を最優先でやっていて,このバランスで今のところ生活的には大丈夫ですが,お財布的には寂しいですね。しかし,いずれはゲームの開発で不自由なく暮らせればと思っています。


――作品のプロモーション活動はどういったことを行っていますか?

Sig氏:
 ネットでの情報公開や,Twitterでの地道な制作報告などが中心です。Steam版「Link: The Unleashed Nexus」はSteam Greenlight(投票制のセルフパブリッシングシステム。現在はより簡便なSteam Directに移行)経由でパブリッシングしましたが,そのときにしっかりプロモーションをしないと作品は売れないということを実感しました。
 最近ではEntyやValuなどもプロモーションとしてアリなのかなと考えています。Valuで「VAが公開されました」というお知らせを作品の動画付きでツイートしたらかなり反響があって,普段からゲームを作ったり遊んだりしているような層の方以外とうまくつながれる場所かもしれないな,と実感しました。

https://valu.is/sigrecollect

――作品の販売スタイル,価格設定について教えてください。

Sig氏:
 「Link: The Unleashed Nexus」は980円で販売しています。アイテム課金などのほかの販売モデルにも興味はありますが,自分の作品には,ゆっくりと腰を据えてやるようなプレイスタイルが合っていると思って売り切りにしました。
 価格設定は「このボリュームならこれくらいかな」という感覚で決めています。PlayStation 4版がリリースされるときは,Steamでのリメイク版と合わせて価格が少し上がると思います。リメイク版ではボリュームを増やしているので,1500円〜2000円くらいの価格帯を考えています。


PS4でのリリースが決まった経緯


――「Link: The Unleashed Nexus」のPlayStation 4版がリリースされます。そのいきさつについてお教えください。

Sig氏:
 2年前に最初の作品をSteamでリリースしたときから,いつかはコンシューマゲーム化したい,気軽に遊べるゲームにしたいと思っていました。その後,家庭用ゲーム機に同人・インディーズゲームをリリースする「Play, Doujin!」プロジェクトへ参加させていただき,まずPlayStation 4への移植がスタートしました。
 せっかく憧れの媒体でリリースすることができるのだから,開発力も上がった今の力でゲームを改善したいと思い,プロジェクト自体を1から作り直しています。もともと家庭用機のプラットフォーマータイプのアクションゲームを強く意識していたので,ようやく私が見たかった「Link」が世に出るんだと我ながらワクワクしています。
 PlayStation 4のあとは,何らかの形でNintendo Switch向けの展開は必ずやりたいと思っています。

――日本におけるインディーズゲームをとりまく環境についてはどう思っていますか?

Sig氏:
 最近になって出展できるイベントが増えたのがとてもありがたいですね。自分の進捗も進めますし,プロモーションの機会も得られますし。ほかにも,技術系のカンファレンスや勉強会も盛んです。私は「Unreal Fest」に参加したり,「UE4なんでも勉強会」に登壇させてもらったりなどしました。
 展示の機会は増えたので,いまはもっとじっくり遊べる場所や機会があればと思っています。ゲームのプレイヤーの方もクリエイターの方も,気軽に集まることができるイベントがあればとてもいいなと思っています。

――今後のイベントの出展予定について教えてください。

Sig氏:
【Indie Dev Interview Vol.2】「自分の"濃さ"を大事にしたい」Unreal Engine 4で独自の世界を演出するReminisce
 まず9月の「東京ゲームショウ2017」に「空棲精神性 レゾナンス / コンフリクタ」を出展します。同様に,11月の「デジゲー博2017 http://digigame-expo.org/ 」にも出展予定です。あとは12月の冬コミなど,出られるイベントにはすべて出たいと思っています。また,ほかのクリエイターさんとの合体出展や,グッズの販売なども考えています。

――オリジナルグッズは国内のインディゲームクリエイターも力を入れて展開する例が増えてきているように感じます。具体的にはどういったものを考えているのでしょうか?

Sig氏:
 いまはバッジやアクリルフィギュアにとても興味があります。アクリルフィギュアは,ほかの作品のアクリルフィギュアと組み合わせると一つの画になる!という形式の企画を個人的にやってみたいです。まず「私がほしい」と思えること根幹にあるものをやっていきたいですね(笑)。


個人開発で頑張るクリエイターを取り巻く環境


――インディゲームクリエイターの方で,ほかにUnreal Engine 4を使って頑張っている方がいたら教えてください。

Sig氏:
 一人称視点の独特な雰囲気のパルクールゲームを作っていらっしゃったDeadFactoryさんや,リズムゲームを開発している大福未来研究所さんですかね。なによりも自分のゲーム観という独自の観点を打ち出しているのがとても好きです。

――今後の作品の展開について,やりたいことなどはありますか?

Sig氏:
 いまのところ新規作品などの予定はありませんが,この先は音を使った演出をもっと展開していきたいと考えています。モバイルやVRなどにとても興味があります。

――最後に,このインタビューを読んでいる個人・小規模開発者の皆様にメッセージがあればお願いします。

 個人開発は孤独だと思います。終わりの見えない開発の中で,間違った道を進んでいるのではないかと不安に思うこともあります。しかし,そうして完成した作品こそ唯一無二であり,プレイヤーやほかの開発者の方々に活力や感動,驚きやひらめきを与えると考えています。
 また,最近は個人・小規模開発ゲームに焦点を当てたイベントも増えてきました。そこでは作品の出展だけではなく,コミュニティの広がりも大切な要素だと思っています。もし自分の作品が日の目を見ないのであれば,そうしたイベントを機会に世に出してほしいです。きっと自分にも,見てくれた方々にも良い影響があるはずです。
 そして,素晴らしい作品をリリースしている開発者の方々には尊敬の念と,嫉妬の念を抱いています(笑)。ほかの方の作品には絶対に自分が持っていない要素があるからです。
 これからも自分の哲学を開発に込めつつ,インディーズゲーム・オリジナルゲームの開発やコミュニティの盛り上がりを切に願っています。

【Indie Dev Interview Vol.2】「自分の"濃さ"を大事にしたい」Unreal Engine 4で独自の世界を演出するReminisce
(収録日:2017/8/14 インタビュアー:一條貴彰,構成:河野 渓)

TGS出展情報

 今回紹介したsig氏の作品『空棲精神性 レゾナンス / コンフリクタ』は,来週から開催される「東京ゲームショウ2017」に出展される予定だ。興味を持った人は,ぜひホール9のインディーゲームコーナーに立ち寄ってほしい。

■『空棲精神性 レゾナンス / コンフリクタ』概要
ジャンル:インタラクティブミュージック×ハイスピード3Dアクション
プレイ人数:1人
価格:未定
配信日:未定
開発:Reminisce
プラットフォーム:Windows PC, Steam
公式ウェブサイト:https://mindeity-resonance.tumblr.com

■東京ゲームショウ2017(TOKYO GAME SHOW 2017)
日程:ビジネスデイ:2017年9月21日(木)〜22日(金)
一般デイ:2017年9月23日(土)〜24日(日)
会場:幕張メッセ
出展位置:ホール9 A-52
公式ウェブサイト:http://expo.nikkeibp.co.jp/tgs/2017/

Reminisce公式サイト
http://reminiscedev.tumblr.com/
インタビュアー:一條貴彰
 インディゲームクリエイター。代表作「Back in 1995」の開発を続けながら,ゲームツールのコンサル仕事も請け負う。
 GIJEでは小規模ゲーム開発当事者の視点から,日本国内のゲーム開発者向けイベントの取材を行う。「より多くのゲームクリエイターが創作活動を継続できる世の中に」がモットー。

構成:河野 渓
 インディゲームクリエイター。GameMaker:Studio2製のアクションアドベンチャー「SOULLOGUE」を開発中。