[CEDEC 2017]HTCによるViveの業者向け(?)Tipsと今後の展開
回答は2つあり,周囲の確認に使われるというものと,MRやARで使われるというものだった。ヘッドセットを装着したまま周囲を確認したいといったときにフロントカメラは便利だろう。単眼かつ位置的にも苦しいのだが,MRなどに使えなくもない。
国内で最もフロントカメラを活用した例としては,アトラクションの「MAGIC-REALITY CORRIDOR」が紹介された。これはグリーンバックの部屋に2人のプレイヤーがおり,お互いのカメラで撮影したパートナーの映像がクロマキー合成されて,お互いのゲーム画面に実写として登場する仕組みになっているという。
個人的にはバーチャルデスクトップ系のアプリで,キーボードを使うときに視野の下部分だけをカメラ映像にするといった活用例に感心したことがある。
また西川氏は,カメラと同様にあまり存在を知られていない内蔵マイクも音声認識などで非常に使えることをアピールしていた。
Viveコントローラのリング部分だけを抜き出したような形状のTrackerは,いろいろなものに取り付けてモーションコントローラにすることができる周辺機器だ。一般のユーザーや普通のVR開発者にはほとんど関係ない代物だが,Tracker関連の話題は非常に多かった。業務で使う超ヘビーユーザー向けの情報だ。
Trackerは2.5GHz帯のBluetoothで通信しているため,一度にたくさん使うことはできない。HTCでは,7台までなら安定動作を確認しているという。また通信用のUSBドングルをUSBハブなどで並べて接続していると混信の原因になるので,必ず付属のUSBケーブルを使い,ある程度離して設置するように指導していた。
新宿に開設されたVR施設には,手足などに5個のトラッカーを装着してかめはめ波を放ったりするアトラクションがあるのだが,5個を2セットで運用している場合などに,使っていないほうのセットはドングルの電源を切ると安定するといった知見が紹介された。そのほか,密接して使用する場合は仕切りにアルミホイルを入れろとか,表面にアルミホイルを付けると赤外線レーザーが反射するので,表面にしてはいけないといったTipsが紹介されている。
また,3台めのコントローラを使いたい場合は,Tracker用のドングルを使えば利用可能であるとのことだった。
海外では新型ハンドコントローラKnucklesの使用レポートなども上がっており,Knucklesを使いたいという要望も多く寄せられているという。
西川氏は,まずValveとHTCの関係をSteamVRの座組みから説明していた。いわく,Androidというプラットフォームについては,プラットフォームの開発と運営はGoogleが行っており,コンテンツ配信はGoogle Playで行われ,デバイスとしてHTCのスマホなどがある。一方,SteamVRというプラットフォームでは,プラットフォームの開発と運営をValveが行い,コンテンツの配信はSteamで,そしてデバイスとしてはHTCがViveを作っているという図式になる。Knucklesについては,Valveが開発しているものであり,HTCが製造を行うかどうかも分からない段階であるらしい。したがって,「Valveに問い合わせてください」という回答になる。
「ベースステーションの最適な設置場所は」という問いに対しては,ベースステーションの仕組みから解説が行われた。
ベースステーションは「ライトハウス」(灯台)とも呼ばれるとおり,赤外線レーザーを発し,120度の範囲で空間をスキャンするデバイスだ。ベースステーションには日本電産製のモーター2基が内蔵されており,縦方向と横方向にスキャンを行う。
したがって,スキャン対象範囲が120度に収まり,なおかつ発したレーザーが反射してセンサーに当たりにくい角度がよいということになる。2mほどの高さから見下ろし気味に設置されるのはそのためだ。
床面がレーザーを反射しやすい環境では,シンクケーブルを使うことが推奨されていた。これにより誤動作をかなり抑えられるとのことだ。
なお,設置方法としては下から見上げる角度で設置されている例もある。通常は腕の動きなどがレーザーを妨げないよう,上からの照射が推奨されているのだが,ハンググライダー系のコンテンツ専用で,腕がヘッドセットを隠す心配がないためそのようなレイアウトが採用されたという。
複数のベースステーションを密集して設置する場合には,互いに干渉しないように仕切りを設けることが望ましい。もしくは,複数の機器を2台のベースステーションで認識させるのがよいという。ベースステーション間の設置距離は最大5mとされているが,実際には10m近くで運用されている例があるなど,かなり遠くまで届く。2台のベースステーションで10台のViveを制御しているケースもあるそうだ。
さらに「3台以上のベースステーションで移動範囲を広げられないか」という質問も多いという。業務用で使っていると「対角5m」はかなり狭く感じられるらしい。これは,今のところムリというのが回答だったが,Valveは現在SteamVR 2.0の仕様を策定しており,そちらでは多数のベースステーションを使うことが可能になるという。
SteamVR 2.0ではベースステーション内のモーターが1基になり,小型化・低価格化も行われるという。初期のViveのベースステーションでは制御機器がディスクリートで実装されていたが,あるタイミングでASIC化され(TS3633),最近ではさらにバージョンアップされたもの(TS4231)が使われているようだ。SteamVR 2.0ではTS4231が使われ,後方互換性もあるという。
「ケーブルが邪魔です」という話に対しては,ワイヤレスキットが2種紹介されたが,いずれも日本での販売はされていない。いますぐ大規模なハイエンドコンテンツを作りたいという人には,西麻布のLP Researchが紹介されていた。
ここは,Viveにツノなどのマーカーと慣性センサーを取り付け,ベースステーションの代わりにモーションキャプチャでおなじみのOptiTrack製品を使って,ポジショントラッキングできるシステムを作っているところだ。
最後に西川氏は,HTCがイメージするVR/ARの未来を示したビデオを流し,同社の目指す世界をアピールして講演を締めくくった。