カスタマーサポートの対応がユーザー離脱の要因となる。GTMF 2017のセッション「課金ユーザーを逃さない!継続率を高めるカスタマーサポート運用セミナー」聴講レポート

 2017年7月14日,アプリ・ゲーム業界向け開発&運営ソリューションの総合イベント「Game Tools & Middleware Forum 2017」(以下,GTMF 2017)が,東京都内で開催された。本稿では,“課金ユーザーの継続率を高めるため”をテーマに,カスタマーサポートのノウハウや事例が紹介されたセッション「課金ユーザーを逃さない!継続率を高めるカスタマーサポート運用セミナー」の模様をお伝えしよう。

カスタマーサポートの対応がユーザー離脱の要因となる。GTMF 2017のセッション「課金ユーザーを逃さない!継続率を高めるカスタマーサポート運用セミナー」聴講レポート

ラクス クラウド事業本部 カスタマーサービス・クラウド事業部 西山和人氏
 セッションの冒頭では,ラクス クラウド事業本部 カスタマーサービス・クラウド事業部 西山和人氏より,スマートフォンゲームにおけるユーザー離脱の実態を示すアンケート結果が紹介された。

 それによると,まずユーザーがゲームを止める外的要因としては,「クライアントが落ちる,進行不可能になるといったトラブルが多い」が全体の3割以上を占めるという。続いて「評価やレビューがマイナスコメントばかりだった」や,トラブルなどが発生した際に「運営側の対応が遅い」「運営側の対応が悪い(不親切)」などが挙げられている。

 もし,離脱要因のNo.1である進行不能状態のトラブルが発生したとき,ユーザーはゲームのサービス提供者に何を求めるのか。最も多いのは「初期対応の早さ」だ。続いて「障害復旧の早さ」となり,ユーザーはサービス提供者に何かしらの早い対応を求めていることが読み取れる。

カスタマーサポートの対応がユーザー離脱の要因となる。GTMF 2017のセッション「課金ユーザーを逃さない!継続率を高めるカスタマーサポート運用セミナー」聴講レポート カスタマーサポートの対応がユーザー離脱の要因となる。GTMF 2017のセッション「課金ユーザーを逃さない!継続率を高めるカスタマーサポート運用セミナー」聴講レポート

 離脱要因のNo.2として“他人の評価”が挙がっているが,「ゲームをダウンロードする前にユーザーレビューを参照するかどうか」という質問には,74%が「参照する」と回答しているという。さらに,「それらレビューの内容を気にするか」という質問には,70%が「気にする」と答えている。

カスタマーサポートの対応がユーザー離脱の要因となる。GTMF 2017のセッション「課金ユーザーを逃さない!継続率を高めるカスタマーサポート運用セミナー」聴講レポート カスタマーサポートの対応がユーザー離脱の要因となる。GTMF 2017のセッション「課金ユーザーを逃さない!継続率を高めるカスタマーサポート運用セミナー」聴講レポート

 以上をまとめて西山氏は,ゲームのユーザー離脱や継続率低下を招く要因として,「クライアントが落ちる,ゲーム進行が止まるといったシステム上のトラブルが多い」「トラブルが起きた際のカスタマーサポートの対応が遅い,不親切」「トラブル解決までに時間がかかってしまう」という3点を改めて強調した。
 さらにユーザーは口コミを重視しているため,サービス提供者の対応の悪さが口コミで広がって,ダウンロード数の低下や離脱率に影響を与えるとした。

 それでは,サービス提供者はどのようなカスタマーサポートを行えばいいのだろうか。会場では,カスタマーサポート代行事業などを手がけるマーケティングアソシエーションのアウトソーシング部 営業課 課長 飯塚慶太氏より,同社のノウハウや事例が紹介された。

マーケティングアソシエーション アウトソーシング部 営業課 課長 飯塚慶太氏
 飯塚氏によると,同社が掲げるカスタマーサポートの目的は,「ゲームのリリース後におけるユーザー離脱の防止」であり,それを「ユーザー視点で行うこと」を重視しているという。
 それを実現するためには,「安定したカスタマーサポート運用体制の構築」「ユーザートラブルを早期解決するための業務効率の仕組み」「不具合減少に向けた品質向上の取り組み」「カスタマーサポートの利用促進に向けた仕掛け(ユーザーの声を収集・可視化してサービス改善につなげる)」の4つが重要だという。

 安定したカスタマーサポート運用体制を構築するためには,基本的なポイントを押さえる必要がある。
 具体的には,まず「対応方針の明確化」をしなければならない。例えば,発生したトラブルへの問い合わせに対する返信について考えると,ユーザー満足度を高めるのか,問い合わせの削減を目指すのか,あるいはサービス改善を踏まえた内容にするのかといった方針を,コストを勘案して明確にするわけだ。

 また,よくある問い合わせには,テンプレートを作成して回答することも必要になり,合わせて,状況に応じて内容を適宜更新していくことも重要になる。
 さらに,問い合わせに対する返信期限の設定や過去の対応事例の管理,「お知らせ」として全ユーザーに開示する情報の範囲の明確化,そして問い合わせの傾向やユーザーの声の分析,開発へのフィードバックによるサービス改善といったフローの構築も重要なポイントだ。
 また,ゲームの公式サイトにFAQを設置することも有効であり,飯塚氏によれば,FAQを設けることにより,ユーザーからの問い合わせが8〜10%削減するという。

 もちろん,緊急時の対応フローを構築しておくことも大切だ。とくに,複数のユーザーに影響する事象の発生や課金トラブルの問い合わせ,データトラブルなどのクリティカルな問題が発生したときに備えて,「同一事象の問い合わせに対する対応メールの一斉送信」により,「公式サイトのお知らせへの誘導」などができるシステムを構築しておかなければならない。

 トラブルの早期解決においては,「対応速度向上に向けた業務効率化」が必要となる。まず,よくある問い合わせに回答するテンプレートは,マーケティングアソシエーションの場合,1タイトルあたり平均して200以上用意するという。

 さらに問い合わせメールは,共有管理システムを利用して「返信期限」「進捗」「対応履歴」「問い合わせ傾向分析」「同じ問い合わせのあった複数ユーザーに対するメールの一斉送信」といった観点から徹底管理している。

 また,問い合わせに基づくログの調査およびトラブルに対する補填についてのフローの速度を高めるために,開発チームとの連携体制をあらかじめ構築しておくことが必要になる。もちろん,問い合わせのあった状況を再現し確認するためのテスト環境の用意も欠かせない。
 なお,マーケティングアソシエーションでは,カスタマーサポートとデバッグチームが1セットになっており,これらの状況に対する早い対応が可能になっているという。

マーケティングアソシエーションがカスタマーサポート事業で実際に利用しているシステムが紹介された
カスタマーサポートの対応がユーザー離脱の要因となる。GTMF 2017のセッション「課金ユーザーを逃さない!継続率を高めるカスタマーサポート運用セミナー」聴講レポート

 不具合減少に向けた取り組みについては,「ユーザーの声を分析し,サービスに反映する」ことが必要になる。具体的には,問い合わせの傾向分析,不具合やバグ情報の抽出,ストレスになる仕様や挙動の把握,そして,純粋な意見や要望といったものを定期的に集計・可視化して,チーム全体で共有することだ。

 さらに,問い合わせ以外にユーザーからの意見・要望を募る手法として,ゲーム内に専用窓口を設ける,定期的に意見・要望を集めるイベントを開催する,キャンペーンとしてユーザーにアンケートメールを送付するといった手法が紹介された。

マーケティングアソシエーションが行っているカスタマーサポートサービスの例
カスタマーサポートの対応がユーザー離脱の要因となる。GTMF 2017のセッション「課金ユーザーを逃さない!継続率を高めるカスタマーサポート運用セミナー」聴講レポート

FAQの充実により,ユーザーの自己解決率が上昇し,結果として品質向上につながることも示された
カスタマーサポートの対応がユーザー離脱の要因となる。GTMF 2017のセッション「課金ユーザーを逃さない!継続率を高めるカスタマーサポート運用セミナー」聴講レポート カスタマーサポートの対応がユーザー離脱の要因となる。GTMF 2017のセッション「課金ユーザーを逃さない!継続率を高めるカスタマーサポート運用セミナー」聴講レポート

 最後にカスタマーサポートの利用促進についてだが,まず「お知らせ配信の活用」が挙げられた。具体的には,FAQの更新や,特定の問い合わせが増加した場合,さらにトラブル発生に対する解決策の提示やFAQへの誘導などを,定期的に配信することが重要だ。

 また,アンケートキャンペーンを実施して,ゲームや運営に関するさまざまな意見要望を回収。その結果を精査・分析し,採用した意見要望を公式サイトなどで告知することによって,ユーザーとの連携をアピールすることも有効だという。この場合,ユーザー名を公開することによって,さらなる利用促進効果を得ることができる。

マーケティングアソシエーションでは,「本当にユーザーが求めているのは何なのか」という部分を重視しており,問い合わせ数の多寡だけでなく,掲示板やSNSへの書き込みや問い合わせに対応したオペレーターの所感も参考にしているとのこと
カスタマーサポートの対応がユーザー離脱の要因となる。GTMF 2017のセッション「課金ユーザーを逃さない!継続率を高めるカスタマーサポート運用セミナー」聴講レポート カスタマーサポートの対応がユーザー離脱の要因となる。GTMF 2017のセッション「課金ユーザーを逃さない!継続率を高めるカスタマーサポート運用セミナー」聴講レポート

 レッドオーシャン化し,毎日のように新しいタイトルがリリースされる一方で,長期にわたってサービスされるタイトルはわずかな一握りという状況になっているスマホゲーム市場。このセッションからは,トラブル発生時の対応の早さや,手厚いカスタマーサポートなど,ユーザーの視点を認識できなければ,あっという間にサービス終了に追い込まれてもおかしくないということが,改めて認識できるのではないだろうか。

カスタマーサポートの対応がユーザー離脱の要因となる。GTMF 2017のセッション「課金ユーザーを逃さない!継続率を高めるカスタマーサポート運用セミナー」聴講レポート