[Unite]Unityによる最新PSVRの事例(前編):「傷物語VR」のVRプロジェクションマッピングとは

 2017年5月9日,都内で開催された「Unite 2017 Tokyo」の2日めに「最新 PSVR コンテンツ制作事例紹介 with Unity」と題して,PSVRのコンテンツの現状を知る講演が行われた。
 昨年10月に発売されいまだ品薄状態が続くPSVR,PS4の現状を振り返りつつ「360度動画」「空間を活用した動画素材利用」「フルCG世界・実在体験(レポート後編で紹介)」をテーマにVRコンテンツの現状を紹介するのが本セッションだ。

 最初に登壇したのは,ソニー・インタラクティブエンタテインメントの秋山賢成氏だ。すでに公開されているとおり,PSVRの出荷台数は全世界で91万台である。秋山氏は,いまはもっと台数が伸びているとしつつ,まだまだ供給が追いついていない現状に「SIEJAとしても頑張っています。いましばらくお待ちください」と申し訳なさそうに弁解していた。その一方で「PS4は5000万台を超える大きな市場があるので,ローカライズして北米や欧州へ出していただければ,より多くの人に遊んでもらえる可能性があるでしょう」と,改めてPS4をアピールしていた。さらにPSVRでもより高品質な体験ができるProも登場しているので,よりよいコンテンツの可能性にもチャレンジしてほしいと語っていた。

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 PS4・PSVRの現状が分かったところで,いよいよ本題のPSVRのコンテンツの紹介へ。まずは,「360度動画」をベースにしたコンテンツについてだ。これは既存の映像技術を使って体験できる新しい映像体験としてずいぶん普及してきたが,「これをVRというかどうか,という問題もあるのですが……」と前置きしつつも「コンテンツがあるなら360度動画にチャレンジして配信してもらえると面白いことができるのでは」と秋山氏はPSVRにおける映像体験をプッシュ。映像コンテンツにも力を入れていく姿勢を見せた。

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 そして,デベロッパがより参入しやすくなるように,360度動画をPSVRのアプリとして簡単に制作できるような環境も用意されているとのこと。PSVR向けにPS4に最適化された4K対応の360度動画再生用のUnityプラグインを現在SIEで制作していて,すでにお試し版もあり,プレイステーションデベロッパであればいつでも360度動画コンテンツを作れるようだ。

PlayStation Storeでリリースされている360度動画のコンテンツたち
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「傷物語VR」のVRプロジェクションマッピングとは?


 次に360度動画を使わない,いわゆる2Dの動画をうまく活用しつつVRで最適化していくというアプローチを行う「空間を活用した動画素材利用」したコンテンツとして紹介されたのが「傷物語VR」だ。昨年のCEDEC2016で発表された「PSVRを使ったVR空間における新しい映像視聴体験」というコンセプトのもと,SIEとカヤックがコラボして開発に取り組んでいたものである。現在,そこにアニプレックスが加わり,劇場版三部作として展開している西尾維新原作の<物語>シリーズ「傷物語」を題材にしたVR作品へと作り上げていったという。その「傷物語VR」の制作に携わっているカヤック クリエイティブ・ディレクターの天野氏が登壇し,「傷物語VR」で使われているVRプロジェクションマッピングについて解説してくれた。

 まずは,VRプロジェクションマッピングとはなにか? ということだが,これは言葉そのままに「現実で感じられるダイナミックなプロジェクションマッビングという映像表現をVR空間内でやる」ことをコンセプトに,さらに実際のプロジェクションマッピングではできない,仮想空間上ならではの演出を加えることで映像視聴体験の拡張を目指したものだという。

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 VRにおいて映像配信といえば,球体モデルに対して映像を貼り付ける方法が一般的だ。しかし,それ以外の切り口で面白い映像表現を見せることができるのではないか,というのが着想の原点になったという。そして,この拡張された映像表現を実現するために開発されたのた技術が三つあるという。

 まず一つめは,「オールラウンド・マルチディスプレイ」。これは,VR空間において自然な方法で映像を表示することを軸として,空間そのものに映像を表示したり,VR空間内に置かれた教室や建物へ演出を含めてプロジェクションをしていく技術だという。雨の場面であれば,水たまりのところに映像を反射させたりさらに空間そのものを変形したり,360度にわたって映像を投影させたモデルを出現させたりして「傷物語VR」の空間を作っていったという。

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 演出に関しては,VR的な演出を段階的に見せていくことを意識したという。最初は,よくあるプロジェクションマッピング的な見せ方をして,そこから段階的にVR空間的な熱を入れていくという具合だ。VR空間でいきなり過剰な演出をやると,視聴しているプレイヤーが自分がどういうシチュエーションに置かれていて,どういうものを体験しているかを理解できずにパニック状態になってしまい,意味が分からないまま演出が終わってしまうことがあるという。さらに映像がよく分からないとか,難しいということだけでなく,過剰な変化が酔いにつながる原因にもなったようだ。

 続いて天野氏が解説してくれたのが「ショートディスタンス・サウンド」で,音響関連の技術だ。ありていに言うと近距離・遠距離の空間配置によって音を出す立体音響的なものを基本として,そこに仮想空間上の演出と音の演出を合わせていくものだという。水たまりの中に映像が投影されている雨のシーンでは,映像の音声と雨音といった環境音を合わせて立体的な演出を仕掛けたり,映像の演出に合わせてモチーフを出現させるときに,風切り音なども加えていくという具合である。ただ空間の音を制御する役割だけでなく,音によってプレイヤーの視線を意図的に誘導し,ナビゲートさせる役割を担っているようだ。

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体験では,最初に忍(キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード)がナビゲーションしていくところから始まるのですが,そういったところにもこの技術が使われています(天野氏)
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 最後は「バーチャルフラット・シェーダ」だ。水たまりに映像を表示したり,霧の空間にスモークスクリーンのように映像を投影するといった,映像を映すためのシェーダだ。とにかくいろいろなものに投影できるように対応しているようで,平面モニター的な演出によくあるディスプレイが割れるといった演出にもチャレンジしている。教室に飛び込んできてガラスが割れるシーンでは,最初3Dモデル教室に映像が投影さえたガラスを割ったようだが,特定の方向のみに置かれた演出ではプレイヤーが見逃すこともあり,最終的には360度ぐるりと映像で囲み,どこを向いても画面が割れている演出にしたという。360度の空間演出としての挑戦もいろいろしているようだ。

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 最後に天野氏は「VRとプロジェクションマッピングという基本的なコシのある技術を組み合わせ,そこに弊社が開発した三つの技術を合わせることによって超立体空間というものを生み出すようにしております」と語り「傷物語VR」の解説を締めくくった。

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