【Indie Dev Interview Vol.1】VRで飛竜に乗る体験を実現「ガンナーオブドラグーン」

【Indie Dev Interview Vol.1】VRで飛竜に乗る体験を実現「ガンナーオブドラグーン」
 これまでGamesIndustry.biz Japan Editionでは,国内のイベントレポートと海外記事の翻訳を中心に展開してきたが,ここで新たに日本オリジナル企画として「Indie Dev Interview」を不定期連載の形でスタートする。
 本連載は,日本国内で活躍するインディゲーム開発者のインタビュー連載だ。開発技術の詳細よりも,作品が世に認められるまでの生い立ちや,ゲームクリエイターとして目指す想いにフォーカスした連載となる予定だ。日本において,個人ゲーム開発者が作品をいかに生み出し,また継続することができるのか,そのヒントを探っていきたい。

 第1回は,サークル ハイドレンジャーの“野生の男”氏(ハンドルネーム)に,代表作「ガンナーオブドラグーン」について聞いてみた。


ガンナーオブドラグーンについて


 本作は,VRヘッドマウントディスプレイ,VRコントローラ,乗馬マシン(乗馬を模した健康器具)を組み合わせてドラゴンに乗って戦うシューティングゲームだ。
 野生の男氏の一人同人ゲームサークルHydrangea(ハイドレンジャー)が,「ドラゴンに乗るという人類の夢を叶えるため」に開発したコンテンツである。
 特徴は改造した乗馬マシンにより,VR空間内のドラゴンの動きと連動したギミックが実現されている点だ。数々の展示会に出展し,「BitSummit 4th」と「Unity VR Expo」では賞を獲得。このインタビューの後にも,「Mogura VR コンテスト」でも賞をとり,現在までに3冠タイトルとなっている。


「ガンナーオブドラグーン」公式サイト



開発の背景


――初めにガンナーオブドラグーンができるまでの経歴を聞かせてください。

野生の男氏:
野生の男氏(顔出しNGにつき後姿で)
 ガンナーオブドラグーンは私個人で開発したVRタイトルとしては二つめになります。このタイトルの前に,「BLAST BUSTER」というタイトルがありました。
 2012年の8月ごろ,ネット記事でOculus RiftのKickstarterキャンペーンが始まったことを知り,すぐに300ドルを投入しました。時を同じくして,手の動きを検出するセンサーであるLeap Motionも,同じようにゲーム開発者の注目を集めていました。こちらはメールで開発者登録を送ったところ審査に通り,2013年の3月ぐらいに先行開発キットを手に入れていました。こうしたゲームに使える新しいデバイスが注目を集める中で,この二つを組み合わせたゲームを作ろうと考え,個人の同人ゲームサークル「ハイドレンジャー」を設立したんです。
 まずは夏コミにゲームを出展することが最初の目的でしたが,Oculus Riftの出荷が当初12月発送予定であったところ2013年3月に延期し,実際に届いたのが2013年の5月末というスケジュールに……。

――夏コミには,かなり時間が足りないですね(笑)。

野生の男氏:
 大変でした。ですが,同人ゲーム開発者同士で大洗の温泉合宿をする機会があったのですが,そのときにDK1を持っていってみんなに見せたところ,かなりの大ウケで。これはいけるぞと一発奮起して頑張りました。そうしてできあがった最初の作品が,BLAST BUSTERです。


BLAST BUSTER公式サイト


 7月末ぐらいにマスターアップして,コミックマーケットで頒布しました。この参加が作品の出展では最初になりますね。

――2013年となると,かなり早い時期ですね。

野生の男氏:
 Oculus RiftとLeap Motionを組み合わせたゲームの展示は,おそらく世界でも例がない時期だったと思います。おかげさまで日本国内のゲームサイトにも取り上げていただきました。
 その後,BLAST BUSTERを「Unite 2014 Tokyo」で展示しました。日本に初めてOculus DK2が来たときに,Oculusから非公開だったSDKを借りて,すぐにDK2に対応させて展示しました。そしてそのとき,「ハシラス」(現:ハシラス社)も展示されていまして,同じようにDK2用のSDKを持ち込んで展示の一部をお手伝いしました。展示の現場でUnityをいじって。

「ハシラス」はVRと乗馬マシンを最初に使ったVRコンテンツだ
 
――2日めからはDK2になったという話ですね。

野生の男氏:
 はい。このハシラスの乗馬マシンを使った体験は,まさに私が作りたかったゲームのイメージにとても近いものでした。
 私は「パンツァードラグーン」シリーズや「クリムゾンドラゴン」などのドラゴンを操作して空を飛ぶシューティングが大好きでした。
 そして,VRで「ドラゴンにまたがって空を飛び,敵を撃つ」ゲームを作りたいと考えるようになりました。「ガンナーオブドラグーン」が始まった瞬間ですね。
 ハシラスのチームが使っていた乗馬マシンはArduinoを使った改造によって,Unityから制御できるようにしたものです。そこで,「デジゲー博 2014」の展示に向けて,ハシラスの安藤さんに乗馬マシンを借りることができないかお願いしたところ,快諾していただけました。

――パンツァードラグーンシリーズが好きだったことと,VRゲームを作ろうとしていたこと,そしてハシラスを体験したことから,ガンナーオブドラグーンの構想ができた,という感じですか。

野生の男氏:
 そうですね。ガンナーオブドラグーンの開発における最初の壁はコントローラでした。当時はHTC ViveもOculus Touchも発表すらされていない時期だったので,VRシューティングゲームを作るための入力装置をどうするか,という悩みがありました。
 当初はモーショントラッキングコントローラの「STEM」を使おうとしてクラウドファンディング経由でお金を出していたのですが……しかしこれ,いまだに発送されていません(笑)。(2016年インタビュー収録時。ちなみに2017年3月現在も発送されていない)

――(笑い)

野生の男氏:
Wiiリモコンを使った初期コントローラ
 代替手段として考えたのが,Leap Motionにあった,棒状のものをトラッキングするモードの利用です(ツールトラッキング機能。現在は利用できない)。
 この機能をもとにWiiリモコンに割り箸をくっつけたモーションコントローラを即席で作って,ガンコントローラの代わりにしました。

 トラッキングロストはありましたが,これでなんとか銃を撃つギミックは達成できました。

――TouchやViveコントローラがなかったから,ほぼ自作したわけですね。

野生の男氏:
 そういうことです。この後,2016年にValveからHTC Viveの前身である「Vive Pre」を借りることができ,これでトラッキングロストの問題も解決しました。
 「Unite Tokyo 2016」では,現在の姿に近いガンナーオブドラグーンが完成していました。
 このVive Pre版をデジカCEOのジャック・モモセさんに遊んでいただき,続く2016年7月のHTC Viveのプレスイベントに展示する話へつながりました。

――求めるテクノロジーが,作品のあとからついてきた感じでしょうか。

野生の男氏:
 そうですね(笑)珍しいパターンだと思います。
 HTC Viveのプレスイベントでは,そこでHTCのバイスプレジデントや,Valveのアジア圏マネージャーの方にも見ていただき,かなり気に入ってもらえました。
 その翌日にすぐ京都に飛んで「BitSummit 4th」に展示した際は,私が憧れていたゲーム開発者さんからも絶賛をいただきました。
 ここでセレンリプティアワード,“予想外発見”の賞を受賞したことも大きなトピックでした。

【Indie Dev Interview Vol.1】VRで飛竜に乗る体験を実現「ガンナーオブドラグーン」

――これが初の受賞となりますね。

野生の男氏:
 はい。翌週さらに「Unity VR expo」が秋葉原でありましたが,こちらでも賞をいただきました。
 実はその年の1月にも渋谷で展示会がありました,そのときは2位でした。なぜかというと,評価の仕組みが単純な得票数カウントだったためです。プレイした人の数が多いほうが有利だっていうつらいシステムですね(笑)。1位取ったのは3台体制だったチームでした。

一同笑い

野生の男氏:
 「Unity VR expo」ではそれを覆すべく,狭いスペースでかなり無理して2台の乗馬マシンを稼働させました。
 そうしたところ,見事プレイヤーチョイスアワードで1位を見事とり,得票率でも2位を取りました。


作品の開発体制


――すべてお一人で作られているのですか?

野生の男氏:
 基本的にほぼ一人で作っています。サークル ハイドレンジャーも一人同人活動の名義です。
 ガンナーオブドラグーンについては,モデルデータなどはUnity Asset Storeのものを活用しているほか,BGMは作曲家の小林早織さんの曲を許諾いただいて使用しています。パンツァードラグーンシリーズの楽曲も手掛けた方です。

――最近は日本のゲームサウンドコンポーザーがインディーゲームへ楽曲を提供するパターンをよく見ます。ただ,そのほとんどが海外案件でした。日本国内のクリエイターからも,この流れが増えるといいですね。

野生の男氏:
 小林早織さんには正面から問い合わせを送って相談をしたのですが,許諾をいただけてとてもうれしく思っています。
 ただ,一作めのBLAST BUSTERはモデリングやBGMも含めて,ほぼ全部自作しました。私が一人でゲーム開発サークルを立ち上げたのは,「東方Project」のZUNさんに憧れていたという面もあります。

――彼もすべて一人で開発しているスタイルですね。

野生の男氏:
 以前は8〜9人体制での同人ゲーム開発にも携わっていました。しかし,ゲームの内容決めは合議制で時間がかかり,さらに作業待ちの時間もあります。期限が決められた同人ゲーム開発には,もどかしいことが結構ありました。
 そうしたジレンマを経て,2013年から1人でゲーム開発をやるようになりました。
 やってみた感想としては,やはり自分の手でなんでもできるっていうのが一番良いなと。ただ,どうしても至らない点はあります。経験を通じて人の手を借りるべきところも正しい判断が行えるようになったと思っています。


有料体験を通して考えていたこと


――続く「デジゲー博」での出展では,「1回1000円」という有料体制でした。いかがでしたか?

野生の男氏:
 有料設定にしたのにはいろいろな理由がありました。一つは,自分がほかのスペースを見る時間の確保です。
 ところが,当初予想していた以上に体験者が列をなして,結局向かいのスペースしか見ることができませんでした。「こちら1回1000円のプレイになります」と言っても,わりとみんな違和感なく「はい」みたいな雰囲気で。「えぇ!?」と驚いた方はほんの数人レベルでした。

――1000円にした理由は何でしょうか。

野生の男氏:
 ざっくりですが,費用からの逆算を意識しました。まず,「デジゲー博 2016」の参加費用として,広いほうのプランの1万5000円。現地に乗馬マシンを運搬するコストがスタッフを含めてだいたい2万円弱ですので,3万5000円が運用コストでした。1000円にすれば,35人程度遊んでもらえば大丈夫かなと。結果は54回でした。
 ほかのイベントでもそうですが,このタイトルはとにかく運搬に費用が掛かるので,1日しかないイベントだと単価を高くしないと赤字になってしまいます。

野生の男氏:
 個人的に,同人ゲームの価格相場って安すぎると思っています。同人誌は20数ページで500円〜1000円ですよね。商業マンガと比べると単話ぐらいのボリュームなわけですが,その値段が相場になっています。それと比較すると同人ゲームの場合は,体験版が100円で,完成版が高くても2000円という世界です。
 正直言って,私は1ステージで1000円とってもいのではないかって思っているぐらいです。

――私も同じように感じることがあります。

野生の男氏:
 同人誌の界隈だと,書き手も買い手もコストの概念がきちんと知れ渡っているイメージがあります。商業誌より値段が高くても全然気にしない人が多くて成り立っていて,売る方は少量印刷なのでとんとん。ところが同人ゲームになると,逆に商業のほうがはるかに高いですからね。
 規模の差があるにしても,作っている手間と,かけた時間が全然比例していない感じがしています。紙の同人誌は書いたことがないのではっきりとは分からないのですが,おそらくゲーム作りのほうがはるかに時間を使うのに,価格が低い感じです。

――VRコンテンツならば,どこかの施設に常設するスタイルもあるかと思います。

野生の男氏:
 具体的な金額は抜きにして,実際にどこかの施設に置きたい気持ちはあります。ただ,現状は乗馬マシンがハシラスさんのものなので,新しくハードを別に作るところからやる必要があり,すぐは難しいです。今の目標としては,コンシューマ展開ですね。
 私は“想像上の生物に乗る”というのは国境のない欲求だと思っているので,Oculus StoreやSteamなどで配信して,世界中の人々に遊んでもらえるタイトルにしたいと思っています。

――配信版の予定はいつごろですか。

野生の男氏:
 それについては2017年中を目標にしています。先ほどお話ししたBLAST BUSTERも配信をする予定で,順番としてはこちらが先になります。

――配信版だと乗馬マシンによる演出ができないのですが,これは大きなネックになりませんか。

野生の男氏:
 おっしゃるとおり,乗馬マシンによる乗り心地の楽しさが,このゲームの一番のアイデンティティなので,そこがネックになっています。
 ただ,最近Amazonを見ていたら,ロデオマシンを1万ぐらいで売っている日本のメーカーさんがありまして。乗馬マシンと異なり座椅子ぐらいの高さなのですが,持ち運びも10キロ未満なので一人でも無理なく設置できそうなので,今後は展示にも使おうかなと。突発的な展示用にも使えそうなので,検討中です(その後,実際にMogura VRコンテストでは実践投入したとのこと)。

――本作のプロモーション活動では,どのようなことを行っていますか?

野生の男氏:
 リリース予定は当分先のことだと考えているので,現在はイベントでの展示しか行ってきませんでした,ただそのときはイメージイラストのポスターを展示したり,スタッフ用のシャツを作成したりといったことを行っています。また,YouTubeに開発過程の動画を不定期にアップロードしています。

――イベント出展を重ねていますが,もしかすると今後は抑え気味になるのでしょうか。

野生の男氏:
 そうですね,来年(2017年)は控えめにするつもりです。
 これまで延べ1000人以上の方に体験してもらいたくさんのフィードバックをもらったのと,尊敬するゲームクリエイターの方にも遊んでいただけたので,完成までは展示を減らしてもいいかなと思っています。

【Indie Dev Interview Vol.1】VRで飛竜に乗る体験を実現「ガンナーオブドラグーン」

――仕事と個人のタイトルの開発は,何対何でやっていますか?

野生の男氏:
 私としては9:1で仕事優先です。基本的に平日の場合は家に帰ってもプロジェクトを触らない日が多くて。ただ,イベント前日ぐらいになってから,それまでに溜めたネタ帳をみてダーッと作る感じです。もらった意見とか,思いついたこととかをスマホのメモ帳に書き溜めて,それを参照して開発するっていうスタイルです。

――今後,個人ゲーム開発を中心とする心づもりはないと。

野生の男氏:
 今のところはそうです。来年(2017年)は製品版に向けて作業日数は増えますが,それでも仕事を優先でやるスタンスです。

――これまで展示や開発を行っていく中で,大変だったことはありましたか。

野生の男氏:
 技術的に行き詰ったところは全然なくて,純粋にPCのスペック不足に悩まされた3年間でした。
 最初はMacbook Proの古いモデルでずっと開発しており,これはVRにはまったく向いていないスペックで,かなり開発が難しかったんです。パフォーマンス調整を重ねて,こうしたPCでも75FPSが出るように調整しました。この時苦労したおかげで,基本的に軽量であるというのはPC環境が改善されても大いにアドバンテージになっています。

 あとは,どうすればイベントの短いプレイ時間で楽しんでもらえるか,といったゲームデザインの部分に力を注いでいます。

――Vive PreはValveから提供してもらったそうですが,ほかにもいろんな方に支援してもらっているのですか?

野生の男氏:
 Oculus Rift関連の機材はすべてKickstarterで自分で投資をして入手しています。PC関連もお借りすることが多いですね。デジゲー2015ではドスパラさんのゲーミングノートPCを借りて展示するようになりました。あのときは本当に助かりました。

――ガンナーオブドラグーンやその次を,もっと進化させるとしたらどんなことをしたいですか?

野生の男氏:
 私としては,今のVRハードウェアにはまったく不満がなく,十分だと思っています。HMDのメガネの入りにくさや解像度などの問題は,そのうち解決されるだろうと思っています。逆に足りていないと思うのはソフト側ですね。ゲームエンジンとか,ライブラリの部分はまだまだ向上の余地があると思っています。
 しばらく前もUnreal Engine 4がVR向けにフォワードレンダリングに対応したり,逆にUnityはシネマティックな絵づくりの機能拡充を行っています。ガンナーオブドラグーンは,unityのバージョンアップでグラフィックスが向上しつつパフォーマンスが改善されています。

【Indie Dev Interview Vol.1】VRで飛竜に乗る体験を実現「ガンナーオブドラグーン」

――それは,例えば描画が速くなったなどの改善点でしょうか。

野生の男氏:
 VRコンテンツは徐々にコストの問題が上がっているため,素早い開発ができないジレンマを抱えています。インストールベースも少ない中で,企業がやっていくにはかなりの冒険です。この状況が解決されるされるまでは,インディゲームクリエイターの方がまだまだ有利ですね。海外では,VCなどから資金調達を行ったスタートアップのソフトメーカーが強くなっていくと思います。Job Simuratorなどはそのパターンですね(Job Simulatorは見事GDCチョイスアワード Best VR/AR Gameを獲得した)。

――スタートアップへの資金調達は,日本のVR関連企業でも少し事例があります。日本国内のインディゲーム開発界隈について,なにか意見がありましたら話してください。

野生の男氏:
 自作ゲームの世界は開かれた場で,ゲームを作るも止めるも自分次第です。BLAST BUSTERもガンナーオブドラグーンも,自分のために作ったゲームでしたが,予想外に多くの方に喜んでいただきいろいろな発見がありました。
 今の国内インディゲームは史上最も作品を出しやすい状態で,海外に向けての配信や,コンシューマゲーム機でリリースする事も可能になっています。GameIndustry.bizはゲーム開発寄りの読者の方が多いと思いますが,ゲーム開発をされている方もそうでない方も,ぜひ一度自分が作りたいゲームを作ってみることをおすすめします。

サークル ハイドレンジャー 公式サイト

インタビュアー:一條貴彰
インディーゲームクリエイター。代表作「Back in 1995」の開発を続けながら,ゲームツールのコンサル仕事も請け負う。
 GIJEでは小規模ゲーム開発当事者の視点から,日本国内のゲーム開発者向けイベントの取材を行う。より多くのゲームクリエイターが創作活動を継続できる世の中に,がモットー。