第3回ウェアラブルEXPO開催,リストバンドのバイタルデータ取得は新次元に
ウェアラブル機器というとARタイプのHMDなどを連想する人が多いと思うが,情報表示型のメガネ端末はすでに産業用では実用段階に入っている感じだ。ゲームで本格的に使えたり,電脳メガネ的な展開を期待するにはHoloLenzやGoogle Glassを待たなければならないかもしれないが,さまざまな基礎技術はできあがりつつある。
普通のメガネと変わらないデザインのHMD実現か
アイウェア系の展示は会場のあちこちで見られるが,あまり新しい展開はない。すでに実用化が進んでいて,ソリューションが紹介されているような段階だ。そんななかで福井大学の超小型光学エンジンは今後の展開が楽しみな研究だった。
照射型のメガネ型ディスプレイを普通のメガネと変わらないサイズ,デザインで実現しようという試みだ。照射型のシステムでは光源の光をMEMS(DMD)に照射してメガネレンズに反射させ,網膜まで届けるわけだが,その光学エンジンを超小型化している。三方から照射される小型のRGB半導体レーザーの光路を1本にしてDMDに当て,DMD表面のミラー制御で画像を作り出す。ここまでの部分が,下の写真のように従来品と比べて格段に小さくなっていることが分かる。今後制作予定のモノはさらに小さくなる。
なお,小型化しても画像の解像度などに変化はないという。小さい分,省電力化は図られるが,画像の明るさ自体は変わらず,目への負担は減ると,いいことずくめの内容だ。
まだ試作機も展示されていない状況だが,光学エンジンだけなら1,2年で実用化,メガネに組み込んで製品化までだと4年くらいかかりそうとのことだった。今後の展開に期待しよう。
身体の状態を計測する衣服
銀を使った繊維を軸に製品を展開していたミツフジの場合だと,洗濯などで劣化は発生し,連続使用は3か月くらいが目安になるとのこと。医療用などでの利用なら十分実用段階といえるだろう。
トレーニングウェアに心拍計を組み込むような製品はあちこちにあり,もはや目新しいところはない。精度や使い勝手,付加機能などでの差別化が望まれる。
同様の紐を使った別の応用例として紹介されていたチョーカーでは,首に巻きつけることで脈拍や食事の際の嚥下などが検知できるとのこと。
チョーカーもそうだが,そういう繊維を「組み紐」の形で使うことで,類似のセンサーとは違った特性を与えられるというのも興味深い。紐の組み方で縦方向や横方向に指向性を持たせた感圧≒動きの検出ができるのだ。
運動量計,そして心拍計のさらに先へ
スマホのおかげで加速度センサーなどが小型・低価格化したために,それらを使った活動量計を仕込んだリストバンドなどが一時海外で多く出ていたのを覚えている人もいるだろう。ただ,それは何年か前に流行った潮流だ。最近では,皮膚に光を当てて,透過光の変化で血液の流れ=脈動を計る技術が一般化したことで,腕に取り付けるタイプの活動量刑はほとんどが脈拍や心電図の計測に対応してきている。今回はそこからさらに一歩先に踏み込んでいる例をいくつか紹介したい。
まずは基本となるところでMIO SLICEからだ。これは活動量計と心拍数を組み合わせてPAI(Personal Activity Inteligence)という独自の指標を使った健康管理を行うリストバンドだ。心拍数を主な基準として運動負荷を計測し,PAIという単位で数値化してくれる。を1日に必要な運動量は100PAIとされている。激しい運動時でも,心電計と比べて95%の精度を誇るという。ソフトウェア的な部分が主眼となるシステムだが,ハード的な部分で言えば現状の技術動向では現時点のベースラインといった感じの製品だ。
米NANOVIVOのブースでは,白色光を皮膚に照射して透過光から体組成を割り出し,水分量,脂肪,コラーゲン,抗酸化物質,蛋白質などの割合を表示し,体調の管理ができる製品が展示されていた。
このように,さまざまなバイタルデータが取れるようになると,ゲームの入力情報としての活用も期待できるかもしれない。
無電源で動くウェアラブル機器
まず,発電菌を利用したソリューションである。発電菌とは見たまんまだが発電を行う細菌だ。とくに珍しいものではなく,田んぼなどに普通にいるものらしい。それらが作っている電気を地中から取り出して使ってやろうというのが,デモの内容である。茨城の田んぼから直送されたという泥の中に金属棒が立っているのが分かるだろう。水槽の下部には電極が入っており,発電菌による電力を集めて,ある程度電力が溜まるとセンサーの情報を無線で発信するシステムになっている。デモでは手袋にもう一つの電極が取り付けられているが,どちらかというと固定設置で使われそうなシステムだろう。
一般ゲーマーにももう少し馴染みがありそうなのが,手の温度とクリックの振動で動作するというマウスだ。
このマウス,持ってみると非常に重い。手のひら部分にペルチェ素子(熱伝対)がびっしりと入っており,マウス状の鉄塊かと思うくらいの重さで驚いた。一応,振動発電も行われているが,大半はペルチェ素子で発電されるとのこと。
ただ,ペルチェ素子を詰め込んでみたものの,必要電力の10分の1くらいしか発電できていないとのことだった。ローラーなどでマウス自体の動きも拾えばよいのだろうが,現状ではしばらく握って電気を溜めておいても10秒くらいでマウスの動きが止まる。まあ,本気で無電源のワイヤレスマウスを作ろうとしているわけではないが,作り込みはかなりガチな感じではあった。
超を付けてよいほどの微弱電力を集めるシステムであり,用途は限られるが,無電源への挑戦はウェアラブル機器にとっての新しいテーマとなるかもしれない。