匂いが出るVRデバイス「VAQSO VR」に対応したゲーム発表会レポート
このデバイスを開発したVAQSOは,ザーズという会社から新たに派生した会社である。ザーズは,もともと香りを使ったマーケティングを行っている企業で,焼きたてのパンの香りや鰻を焼く匂いを発生させて集客力を高めるなどといったソリューションを持っている。お店に合った香料を気化させて循環させるだけなのだろうが,購買率などが顕著に上がるというから侮れない。
このデバイスに対応したサンプルゲームが完成したのを受けて,新事業をVAQSOとして米国で立ち上げた。なお社名は「爆走」の意だそうだ。資金調達などの点でアメリカでの展開を行うとのことだが,当面の開発拠点は日本となるという。
ではデバイスについて紹介しておこう。VAQSO VRは,既存のVEヘッドセットの下面に取り付けるデバイスである。ヘッドセットの下面に両面テープで台座を貼り付け,本体はマグネットで着脱する。通信方式はBluetoothで,バッテリーで2時間程度の運用が可能なほか,USBによる有線の運用も可能となっている(価格などは未定)。
現在のところは「香りを何秒出す」といったON/OFFの制御しかできないが,製品版では香りの強弱にも対応し,カートリッジ自体も5〜10個を搭載可能にする予定だという。現状ではUnity用のプラグインが用意されており,今後Unreal Engineなどに対応を広げていく。
ザーズ自体はこれまでに300種以上に香りを手がけており,実に多彩な香りの展開ができそうだ。例として挙げられた「湯上りの女の子の匂い」のところだけ場が盛り上がっていた気がする。カートリッジ自体は1日1時間使っても1か月くらいはもつということなので,ゲームとともにカートリッジセットを買っても十分楽しめそうだ。
すでにゲーム会社でのデモなども行っていて,いまのところ反応は賛否両論といったところだそうだ。多くの企業では可能性を感じてもらえているようだが,硝煙の匂いなど,銃を撃ったことがないのでリアルなのか判別がつかず戸惑う声も聞かれたという。まあ,それはそうだろう。マルチモーダルな刺激が有効なのは,その刺激をトリガーとして過去の体験が想起されるからであって,いくらリアルであっても体験したことのない香りではまったくの空振りになるのは明らかだ。
会場で実際に硝煙の匂いというのを体験したが,焼け焦げたような馴染みのない香りであった。多くの日本人が知る火薬の匂いは黒色火薬までであって,あえて悪臭として名高い無煙火薬の匂いを再現する意味は薄いと思われる。海外でなら話は変わってくるのだろうが,文化的な背景も考えればアレンジは必要になるだろう。
現在,匂い関係のVRデバイスは世界で3社が扱っており,VAQSO VRは最小のものとなるという。将来的な市場規模は4兆円だそうで,同社はこの分野でのNo.1を目指して今後展開していくとのことだ。当面はB2Bでの展開だが,2017年冬には民生品の発売も予定されている。興味のある人は開発者サイトでメールマガジン登録をしてみるとよいだろう。