2016ゲーム業界動向まとめ:「VR元年」は実現したのだろうか?

この記事はGamesIndustry.bizの年末年始企画の一環であり,年間を通して最も注目すべき話題を分析しています。
新しいメディアの12か月にわたる栄枯盛衰。

 読者諸君,我々はついにたどり着いた。20何年か前,ロンドンのトロカデロ・センターでVRとしてはかなり見劣りするゲーム「Dactyl Nightmare」(参考URL)をプレイするのに10ポンドと5分を費やして以来,ずっと私が夢見てきた世界に。私は家にバーチャルリアリティマシンを持っている。それはもう,素晴らしいマシンなのだ。私はいつでもバイザーをかぶって,パルテノン神殿,深海の底,宇宙,または奇妙なフットボールベースの強制収容所にトランスポートすることができる。すべてのホラー作品で,2016年はちょっとしたVRの魔法が実現した。

 だが,ゲームができる時間を見つけても,私の手がHMDに伸びることはなく,正直なところそれがなぜかも分からない。私が没頭していた時間を占有するAAAタイトルではないとしても,楽しいと思うゲームはたくさんあり,彼女が家に来たときに自分が何かの「道具」みたいに見えるのではないかという泣きたくなるような現実もあらかた乗り越えた。だがやはり,Dactylの魔法はいくぶんか消えてしまった。たぶん私は目に見えない地平線を越えて,「何かに思い切り興奮するには歳を取り過ぎた」という領域に入ったのだろう。しかしこの年末にはVRについてもっと熱心になってみたいと思う。

 おそらくそれは避けられない類のド派手な宣伝に対する反動としての失望なのだろう。今年の1月以来,VRはGamesIndustry.bizのほかのどの話題よりも多くヘッドラインを飾っていた(関連URL)。この何年かの間で最も話題になった,ゲームにおけるイノベーションについて我々が書いてきた楽観,皮肉,ワイルドな思索まで,実に幅広い記事は,誰もが経験するような青年期の苦しみにある,その媒体とエコシステムについて多くを明らかにした。スペリシャストによる記事だけではない。真のコンシューマVRの幕開けをほぼすべての主要メディア各社がさまざまなやり方でカバーし,医療,観光,社会交流,不動産代理店およびプロダクト・デザインに関する議論を展開した。

 しかし,VRを採用する主要なフォーマットはゲームであった。「ゲーマーに何を提供できるか?」という観点を持たないまま市場に出ようと思ったVRはない。またVR初期の投資や露出のほとんどはゲームのデベロッパと同じ道を辿っている。それだけでなく,ViveとRiftはほぼすべて,そしてPSVRに至っては100%,その売上高は,新しい遊び方を模索している人々によるものだ。もう一度言うが,我々の業界は新技術の先駆けなのだ。


ビッグリリース


 VRに関する今年最大のニュース記事はハードウェアのリリースであると言えるだろう。RiftとViveの両社とも,昨春に一週間ちょっとのタイミングの違いでコンシューマ向けの出荷を始めたが,いずれもすぐに需要に追いつかなくなった。PSVRは秋に発売になったが,すぐに同様の在庫不足がレポートされた。家庭用VRが登場し,消費者が熱狂的に受け入れているのは明らかだった。

 もちろん,新しいハードウェア完売のニュースを鵜呑みにしてはいけないと我々はよく知っている。需要を喚起するために供給を制限し,小売チャネルの流れを制御することは,VRでのケースを除けば,電気が発明されるよりも昔からあるマーケティングの基本だからだ。しかしながら,あるテクノロジーが魔法かと思われるほど早く一般に受け入れられたとレポートできるのは業界を元気づけることになりそうだ。

PSVRは有線接続のヘッドセットの中で最も成功しているが,期待されたほどには売れていない

 これらのハイスペックな強打者が,市場に出てきた初めてのものではなかったということは注目すべきだろう。何千もの人々がすでにSamsungのGalaxy Gear VR(店頭でOculusと非常に賢く提携していた)とGoogleのCardboard(RiftとViveに沿った,しかし比較すると使い捨てにも見えるヘッドセットだが)でVRを初体験していたからだ。今年はいくつのも小さな企業から何十ものモバイルのHMDが発売された。そして11月,GoogleのCardboardがスタイリッシュさに磨きをかけつつ,非常に手頃な価格のDaydreamに進路を開き(関連英文記事),モバイルVRはさらなる大きな前進を見せた

 ほぼ余談だが,Microsoftもまた拡張現実の競争に参入した。HoloLensでもって価格を適正化しMS自身のケースシナリオを想定し,ほぼ完全にゲームから遠ざかっているようだが,ScorpioでVRへのさらなるコミットメントを示唆し(関連英文記事),また,PCと家庭用ゲーム機両方のためにVRのヘッドセットを低コストで作るためメジャーなメーカーをラインナップしている。

 しかし,年末が近づくにつれて,あたかも多くのメジャープレイヤーがメインイベントを始めるためにステージ上にスタンバイしているかのように感じる。まだ我々が何に注目していくかはまだはっきりしていないが,少なくともVRハードウェアの近未来で誰が登場人物になるかについては自信を持っている。


オーディエンス


 さて,誰がこの新しいものを扱うエキサイティングな劇場に座っているだろうか? どのくらい多くの人がチケットを買ったのだろうか。プレミアムシートと一般席,どのように分かれているだろうか。

 いら立たしいほど誰も言い出さない。現在実際に使用されているVive,Rift,PSVRの台数の最新の予想数字は,ほぼ毎日私のデスクを横切るが,まだ今のところそれらいずれも大きなプラットフォームのオフィシャルな数字ではない。より説得力のある記事の一つとしては,PSVRがしょっぱなから最も早くVRヘッドセットの売上見込みを達成し,RiftとViveを合わせたのとほぼ同じくらい売れている。結果,PlayStationのヘッドセットの売上個数はおよそ75万台になりそうということだ。しかし,それもオフィシャルな数字からはほど遠い。

 アナリストたちは,VR市場の売上高や販売台数についての当初の高すぎる期待を確実に冷やしているか,少なくとも時間軸を大幅に押し戻している。SuperDataは,VRのマーケットサイズ予測を継続的に下方修正している。1月の51億ドルから3月の36億ドル,そしてわずか1か月後には29億ドルまで下げ,VRはブラック・フライデー(米国の年末商戦の開始日,1年で最も売上を見込める日とされる)の調査で「最大の負け組」と呼ばれるに至った。

これは,スエットパンツのように見えるかもしれないが,DaydreamはGoogleがモバイルVRにコミットしていることを示している

 GamesIndustry.bizのフェロー・アナリストであるNewzooも,VRゲームに対する熱狂を落ち着かせているが,消費者向け技術でのビッグプレイヤーたちが気に留めようが留めまいが,ほかの場所で大きな市場が出現すると見る。

 「VR市場は巨大になると期待していますが,マスにアピールするのはハイエンドなモバイルVRデバイスを用いるVRビデオでしょう」と,同社創業者兼CEOのPeter Warman氏は語る。「Appleは,ハイエンドのVRソリューションを市場に出さないことでリスクを冒しています。米国の男子プロバスケットボールリーグであるNBAは,SamsungのGalaxy Gearの画像でVRサービスを広告しています。iOSデバイスを持っていて,NBAの試合(またはほかのエンターテイメントコンテンツ)のライブVRに興味がある人は,Samsungの製品などの最適化されたデバイスと比較して,非常に貧弱な経験しか提供しない安価なソリューションを試すことを余儀なくされます。

 これは,VRの初期の導入だけでなく,同社の携帯電話のプレイヤーをSamsungに奪われるリスクになりますし,加えてAppleのブランドイメージにも害を及ぼす可能性があります。中国のメーカーであるXiaomとHuaweiは,日本市場に似てVRの普及率が高い中国国内で最近ハイエンドなソリューションをローンチしました。

 VRゲームはクールで,熱狂的なファンを十分に楽しませるものですが,部分的にビジネスモデルが一致していない(業界全体がGaaSに移行したばかりだが,エンターテイメントのためにはアップフロントで全額支払う)ために,初期の収入が限られます。現在のVRビデオスペースに私たちをもっと引きつけるマス・アピールを組み合わせれば,ビジネスモデルの観点からは,コンサートからスポーツまで無理なくマッチします。NBAのゲームをVRで観るために世界で1万人が10ドルを払うとすると,NBAにとって,年間1億ドル以上の収入源が開けることになります」


ビジネスとしてのVR


 VRゲームに冷たいのはアナリストだけではない。VRタイトルを開発した勢いのあるスタジオのオーナーであるDean Hall氏が最近「VRにはお金がない」と主張しているように,いくつかのデベロッパはVRが健全なエコシステムを支えるかどうか確信できなくなっている。幸いにも,ほかのスタジオはもう少し楽観的だ。Make RealのSam Watts氏は,VRの成長の時間軸とほかのプラットフォームのそれの間には大きな違いはないと言う。

 「VRの開発がその他すべてのプラットフォームと違う点は何でしょうか?」と彼は問う。「VR開発はこれまで,持続可能性,現在のゲームを生き延びること,パブリッシャの気まぐれで何百ものデベロッパが重複してしまう,激しすぎるブームと破綻のサイクルなどに関する問題を提示してきました。この段階では,もしコストが低い5人以下の小さなチームであれば,次のタイトルを開発しながらも事業を続けていくことができるでしょう。しかし,VRで何を楽しみたいか,VRから何を得たいかまだ模索しているような現在の小規模なユーザーベースでは,座ってフルコースの食事を楽しむのではなく,うろちょろしながらビュッフェで食べているようなものです」

 「これは多少なりとも価格に反映されています。多くの技術デモの経験は極めて安価か無料ですし,VRでないPCゲームやフリーミアム(F2P)/アプリ内課金(IAP)のないモバイルゲームで見られるようなインディーズの徹底的な価格競争がすでに始まっています。ゲームを作るために必要な労力に対する理解と認識の欠如が続いていること,ましてやVRゲームではまったく新しいデザインルールを考え出さなければならないことが組み合わさり,さらにいえばUnityやUnreal(Engine)のブループリントによるVRの中で動作する3Dシーンを作成することが比較的シンプルであるということも一因として,ゲームを作るのは容易だと思われていることにより,VRは被害を受けています。Unrealのブループリントを使い,手持ちの3Dモデルの恐竜やゾンビなどを投げ込んで,いかにも成功しそうなVRゲームを作ることはできます。そしてゲーマーはそのVR経験を楽しむでしょう。でもそれは果たしてVRが実現するとされた新境地を開くことになるでしょうか?」

 「そこでリスクと報酬の話になります。以前は不可能だったVRの新しいジャンルを作るのに多くの時間と労力を費やしますか? あるいはリスクを抑えて現在の人気投票に従い,(すでに)模倣であるジェットコースター,飛び降り系,ゾンビシューティング,防衛系のゲームを作りますか? もしそれで儲けて,何かもっと画期的なものに投資するのなら何も問題はありません。しかし,小売店が同じようなモノを大量に仕入れてしまうのと同様の危険があります。VRゲームの開発は非VRゲーム開発と同じ問題を抱えています。人々は新鮮で目新しいものを切に求めて声を大にしますが,それが存在すると否定し,結局は元に戻ってオリジナルなゲームアイデアがないと文句を言いながら「FPS MDK Sportsball GAME V1000」(編注:おそらく定番ゲームの意)を何百万本も購入するのです」

Unseen Diplomacyは,VRでしか機能しない素晴らしい身体的な経験をできるが,子供を寝かせつけたあとにプレイするようなものではない

 Triangular PixelのKatie Goode女史は,小さなチームをどこにも所属させないことで,VRの強みを取り巻くイノベーションが成功とオーディエンスを築く鍵となることに同意する。

 「初期のVRはインディーズにとって素晴らしいものでした。そして,それは必ずしも売上や利益に限ったものではありません」と高い評価を受けたVRタイトルUnseen Diplomacyを開発したGoode女史は話す。「新しいインディースタジオにとって,一般,そしてビジネス的に認知される機会は極めて有益です。早期に何かをリリースし業界内でのプレゼンスをキックスタートしたインディーズにとっては,もし将来の投資が一巡したとしてもその後の機会につながります。

 「時が経つにつれて,リリースされるゲームの数が増えれば,まったく新しいインディースタジオが出てきて認知されるのはもっと難しくなるでしょう。市場への参入障壁は一層高まります。とはいえ,古い型を破るものは目立ちます。新しいインディーズはゲーム業界に留まるために革新を続けなければならないでしょう」

 「もし十分に小さいチームであれば,VRゲームの開発は発展しうるビジネスである可能性があります。ベーシックな物事にお金を払えるようにしている限り,VRの位置付けや私たちの進捗状況に非常に満足しています。私たちからすれば,人々に印象づけることは比較的容易に感じていますし,ほかの多くのゲーム分野よりも創造的な機会が増えているように感じます」

 IHS MarkitのアナリストPiers Harding Rolls氏は,VR投資のROI(投資利益率)が比較的低いことについて驚いたり,落胆したりすべきではないとし,むしろマーケットが確立していく途上にあると考えているそうだ。

 「初期のVRゲームやVR経験の利益率の低さに驚くべきではないと思います。IHS Markitは,ハイエンドVRヘッドセットの採用とモバイルVRの収益化について常に“ニュートラル(中立)”という格付けをし,現実的な見解を維持してきました。独占権や職務著作契約を確立していない第三者デベロッパの大多数は,2016年中は投資のリターンを得られないでしょう。これは,VRに限ったことではありません。小規模な導入台数のマーケットで構成されるまったく新しいプラットフォームであれば同じ状況になります。ゲーム会社の投資計画立案に役立たない,誇張された素晴らしい数字により,いくつかのデベロッパは正しく判断されないかもしれません。


ほかの場所ではVR開発者はより良い状態なのか?


 私が話しているフルタイムのVR開発者の多くから聞いたところによると,彼らのゲームは大企業がブランドを広めるための一度きりのものか,VRを統合しようと考えるビジネスへの長期的なコンサルティングかに関わらず,ほかの分野のプロジェクトと連携している。何人かの開発者は少なくとも当面はこういう新しいマーケットに完全に移行する。ほかの業界が目の前に金銭的に良いニンジンをぶら下げることにより,我々はVRからの優秀な頭脳流出の危機に面しているのだろうか?

 「直接マネタイズを行う消費者マーケットではゲームが原動力になるでしょうが,予想は現実的でなければなりません」とHarding Rolls氏は言う。「市場が確立するには時間が掛かります。雇用機会を考えると―ゲーム業界であれ,ほかのブランドや産業であれ―,現在の市場ではインディーズのVRデベロッパはおそらくもっとも有利な立場にあり,安定した収入を得ています。これは頭脳の流出ではなく,むしろ開発者が市場機会を広げ,彼らのスキルを新しい産業に活用する機会です」

世界中の不動産業者や不動産仲介業者がすでにVR経由で家を売っている

 「VR開発者は,複数の業界との取引を確保できますが,現在と同じスキルと開発ツールを使用している限り,必ずしもゲーム業界からの脱出を意味するとは思いません。収益性の欠如のためにほかの場所でチャンスを探さねばならない開発者も出てきそうですが,それはゲーム市場のあらゆる分野で起こります。現時点では,VRは多くのデベロッパにとってプロフィットセンター(利益の中心)ではありません。実際に使用されている台数が伸びれば,コンテンツマーケットも成長するでしょう」

 インタラクティブなコンテンツ開発の専門知識の需要とVRの立ち上がりが遅れていることは,ゲーム開発のスキルと専門知識がより多く求められるようになることを示している。一般的に言えば,それによりVRの専門知識を有する既存のデベロッパの総合的な価値が高まるでしょう。ポジティブなことだと思います」

 多くのスタジオは,VRの専門知識を,お金を支払ってくれるマーケットに方向転換してくれる無料のビジネスモデルを模索している。ワッツ氏は,結果として優秀な人材が業界に流入してくるかもしれないと考えている。

 彼はまた次のように述べている。「私たちは,公共性があるものと事業性があるもの,両方のビジネスを運営しており,両者は互いに役立ち,補足し合っています。一つのチームは,メディア,ゲーマー,VR愛好家,ハードウェアメーカーの注目を集める公共的なVRゲーム製品に携わります。これがプロトタイプと当社のR&Dチームにコネクションを提供し,最新かつ最大の未リリース技術にアクセスさせ,さらにそれが,当社の企業向け製品と次のゲームタイトルを展開させることで,常に開発の最前線に立ち,最初にリリースすることができます(ほとんどの場合)。

 「実際,頭脳流出は反対方向になると思います。なぜなら私たちは,3Dシミュレータ,仮想環境,および数十年前から利用されてきた非公開のVRハードウェアの経験を持つ開発者とだけ働こうとしているからです。ゲーム業界の長時間労働,一部のスタジオでのプロフェッショナリズムの欠如,開発者の疲弊などはゲーム業界自体の頭脳流出の危険な兆候だと思います。これは新しいものではなく,また,VRスタジオの増加による特有のものでもありません」

 つまるところ,2016年はVRの年ではなく,VRが「建築許可」を得る年だったのだろう。2017年のほうが良いかもしれないが,ゲーマーとデベロッパの両方として,我々は期待値をコントロールし,視野を広げられるようにしておかなければならない。「Dactyl Nightmare」の魔法を消さないように。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら