[CEDEC]Oculus Touchが拓くVR操作系の新地平。そこに手があるとしか思えないからこそ必要な注意点

 2016年8月26日,日本最大のゲーム開発者会議「CEDEC 2016」の最終日,VR(仮想現実)関連の話題に沸く今回のCEDECだが,VRブームの発信点ともいえるOculus VRによる2本の講演が行われた。ここでは,Oculus Touch(以下,Touch)の扱い方に関する情報を中心に最新情報をまとめてみたい。

 この講演では,Oculus VRの近藤義仁氏がTouchの概要を改めて紹介し,井口健治氏がTouchを扱う際の注意点をまとめていた。


[CEDEC]Oculus Touchが拓くVR操作系の新地平。そこに手があるとしか思えないからこそ必要な注意点
 Touchの概略については省略するが,仕様として押さえておきたい部分を少し取り上げよう。近藤氏からは,一見スピーカー穴のようにも見える模様の着いた部分についての説明があった。
 ここは「親指置き場」だそうだ。とくにボタンなどはないのだが,触るとザラザラしており,親指のホームポジションとして使うことを推奨されている。ボタンがないとはいえ,タッチセンサーは用意されており,親指がそこにあるかないかの判定はできるようになっている。これでなにができるかというと,サムズアップができる👍……ほかにあまり使い道はないような気がするのだが(サムズダウンもできるが),身振り手振りのコミュニケーションでは重要なことだろう。

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 また,トリガーとして使えるボタンは人差し指用と中指用の2つがあり,人差し指は獣のトリガーなど,さまざまな用途で使われるが,中指はオブジェクトを「持つ/放す」の判定で使われるのがお約束となっているとのこと。手榴弾のピンを抜くといった,人差し指の動作のほうが自然なものについてはそちらも許容で実装されることが多いという。

 なお,Oculus Touchは今年中に発売される見込みだが,2基のTouchコントローラ以外にもう1基の赤外線センサーユニットが付属するという。実は,今年のGDCの時点で動きの大きいスポーツゲームに対応するため,2つのセンサーを使ってセンシングエリアを広げていた例を見たことがあったのだが,その仕様が標準になったようだ。

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 Touchがもたらすものは「ハンドプレゼンス」,すなわち「手がそこにある」という感覚である。ViveコントローラやPS Moveなども両手の動きをある程度伝えるものではあるが,コントローラを握っているという感覚はなくなるものではない。手そのものを使うソリューションを除けば,最も素手感覚に近い入力インタフェースだといえるだろう。

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 手のプレゼンスを維持するためには,まず表示されている手が「自分の手」と認識できる必要がある。あまりに現実とかけ離れれているデザインであるとか,表示位置や動作のズレがあるなどでは,自分の手である感覚が保てなくなる。

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 では手の表示をどうするのか。Oculus VRの提供している最初のTouchデモであるToyBoxでは手首から先だけを半透明で描いている。そして定期的にワイヤーフレーム表示になる。あまりにリアルな手にすると,不気味の谷に引っかかって逆効果になるとのことで,リアルさは打ち消す方向で調整されているようだ。
 Touchによって「手」の部分の位置と角度が分かり,Rift自体で頭の位置と角度が分かる。両者の関係からIK(インバースキネマティクス)を使って,肩から腕も描画してやろう……といった試みはあまりお勧めできないそうだ。手の位置から関節の動きを逆算しようとしても一意に決まるものではないので,実際の肘の位置と一致するかどうかは分からない。違っていると手の実在感を阻害する場合もあるからだ。
 そのほか,手の表示は,少々大きいものでも「手袋」感覚で容認される傾向があるが,小さいものは受け付けられないので,多少大きめにしておくのがよいそうだ。

 さらに,実際の手が1cm動いたら,VR空間内の手も1cm動くような,完全な追従性が要求される。すると,VR空間内で物体を素通りするような表示にするほうがいいのか,物体に接触したところで止める表示にしたほうがいいのかという問題が浮かび上がってくる。
 たとえば,柱があったとして,それに向けて手を当てるとどうなるか。
 手のプレゼンス的には手が素通りするほうがいいのだが,柱のプレゼンス的には接触部分で止まるほうがいい。こういった場合,ハンドプレゼンスを優先することが強く推奨されているようではあるが,どちらを選ぶかは最終的にはゲーム次第ということになるのだろう。
 どっちも実現するということで,素通りする手と止まる手の二つを出すというソリューションも紹介されていた。「Surgeon Simulator VR: Meet The Medic」では,物体に触れると肉体の手は止まるのだが,骨の手が出てきて素通りするのだ。

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 物理的制約によって手の動きとVR空間内の動きが一致しない場合も出てくる。例で挙げられたのは机の引き出しだ。取っ手をつかんでも,実際の手は自由な方向に動かすことができるが,VR空間側にある机の引き出しには一定方向にしか移動しないという制約がある。
 ここでも手の表示に制約を加えることは推奨されない。解決策として手っ取り早いのは「そういうものは置かない」だそうだ。どうしてもそういう表現が必要になったときは,手の表示を消すことがお勧めされていた。引き出しやレバーを掴んだら,手自体の表示は消して,つかんだモノを手の動きで動かすようにする。そういう表示法のほうが不自然さはなくなるという。

 同様に,銃などのモノを持ったりした場合も,手を消すという選択は有効だという。プレイヤーの注意は銃などに移るので,手が表示されていなくても不自然に感じられることはほとんどないとのことだ。
 ちなみに,手に持った小道具が物体をすり抜けるべきか否かについては,ゲーム依存とのことで,ケースバイケースで対応していくことになるのだろう。

 次に手で物をつかんだり投げたりという動作についての注意が語られた。
 まず注意しなければならないのは,Touchのインタフェースでものを持つ動作は実現できても,モノの重さは反映できないということだ。明らかに重いはずのモノを持つと不自然さが感じられる=プレゼンスが損なわれる可能性がある。また,フライパンなどの重心が偏った物体でも不自然さが感じられることがあるため注意が促されていた。

 手でVR空間内のモノに触れるようになると,いろんなものに触りたくなり。ゲームを作る側もそれを承知しているので触れるモノも増えてきて,サンドボックス的なあらゆるものに触れるような環境も多くなった。そうなると,増えるのが意図しない物体に触れてしまうというケースだ。積み上げられたものを崩してしまったり,取ろうと思ったものではないものを意図せず遠くにやってしまったりといったことを経験することになるだろう。
 Toy Boxでは,中指のセンサーが反応しているときだけ手に接触判定が発生するようになっており,手を開いた状態では物体を素通りするようになっているという。サンドボックス的なゲームではこういう工夫も必要だろう。

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 VR空間内では,放っておくと,実際のオブジェクトよりも向こう側まで手を伸ばす傾向があるそうで,どこでつかめるようになるのかをハイライトや振動などで知らせることを推奨していた。

 また,床に落ちているものを拾うといった動作はゲームでも多用されそうなのだが,実際にしゃがんで物体のところに手を伸ばすのは,頻度が上がると結構きつい運動になる。ゲームによってはマジックハンドなどを使っていることもあるが,ただの手でもちょっと遠いものまでつかめるようにしたほうがよい。

本当に投げてしまう人もいるので,ストラップは確実に
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 Epic Gamesの「Bullet Train」の例では,手から判定用の棒を伸ばし,かなり先のものまでつかめるようにしていた。その際に,「手の向いている向きと顔から手へ伸ばしたベクトルの中間のベクトル」という少々込み入ったものが使われているとのこと。

 一方,投げるという動作はかなり難しく,工夫が必要になる。タイミングとしては,放し始めた瞬間,握り始めた瞬間を使うと動作がシャープになるとのこと。

 きちんと動作させるにはさりげないアシストが重要になる。最適なリリースポイントの微調整や,直前に頭が向いていた方向に飛ばすようにするなど,露骨すぎると問題があるもののかなり有効な手法であるという。

 たまに,腕を止めたあとのタイミングでトリガーをリリースする人がいるそうだ。それだと,たとえ強く腕を振っていたとしても,ボールはぼてっと地面に落ちてしまう。できればそういう人も救済するような処理を加えるのが望ましいという。これには腕を振っている途中の速度を保存して移動平均をとるようにするのがよいとのこと。
 また,中指を緩める過程で,全部の指を放してしまうと,当然ながらTouchごと投げる操作になってしまう。非常に危ないので,手首のストラップは必ずつけるようにしたい。

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 ゲーム内に道具を導入する場合は,いきなり複雑なものを使わず最初は簡単なものから導入していくのが基本だという。
 手にモノ持った場合には少し補正も必要になる。銃などでは,銃身がプルプル震えているような状態は望ましくない。ある程度のスムージングを入れることで重みも表現できるため一挙両得となる。この場合,位置の補正は少量に留め,角度の補正を大きめにするのがよいとのこと。

 そのほか,Bullet Trainで使われた銃では,最初の0.1秒だけ弾速を落として弾を視認できるようにしたり,発射時にリコイルを生じさせて,位置をずらすなどの処理が加えられているという。手の位置をずらすというのは本来やってはいけないことだが,短時間だけであることに加え,振動と同時にやると気にならないものなのだそうだ。

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 こうして手や道具が使えるようになってくると,人はあれこれと組み合わせていろいろなことを試してみるのだそうで,テストプレイヤーがやろうとしてできなかったことは,すべてできるようにしてあげるのがよいとしていた。こうした要素を自分で発見することで,他人は話したくなるなどの効果も期待できる。
 そういったことからか,ToyBoxでは,花火から出た火花を指で弾いたり,Bullet Trainでは銃弾を指でつまんだりできるという。Surgeon Simulatorでは患者に薬ビンを投げつけたり往復ビンタをしたりといったプロモムービーも出ており,その自由度の高さが分かる。医療シムとしてはどうかとも思うが。

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手が使えると,UIをゲーム内のオブジェクトに対して直接働きかけるダイエジェティックUIが有効だが,従来型UIに対しては,このようなレーザーポインタ式も使える
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 「手」の動きをそのまま伝えるということで,Touchには単純な入力デバイスとは比べ物にならないくらいの注意点が浮上してきている。それと同時に,ほかの周辺機器では味わえないような楽しみも広がっている。ハンドプレゼンスがここまで強調されているのは,自分の手と完全に同期して動作すると,いつしかコントローラが「溶けてなくなる」ようになり,真の素手感覚でゲームができるからだ。VR空間へのアクセス手段として,Touchが持つ可能性は計り知れない。Touchの発売を待ちつつ,それを最大限に生かせるゲームの登場に思いを馳せたい。