BitSummit 4thから見る,大きく変革し始めたゲーム開発文化の最先端
2016年7月9日から10日にかけて,京都京都市勧業館「みやこめっせ」にて,インディーズゲームの祭典「BitSummit 4th」が開催された。名前に「4th」とあるとおり今年で4回めとなる本イベントは,日本国内の同人・インディーズゲーム作品を中心とした数多くのゲームが集まる一大展示会だ。
さまざまな開発中タイトルを遊べるとあって,会場には多くの来場者が詰めかけ,例年に勝る大盛況ぶりとなった。
新進気鋭のクリエイターが放つ魅力的なゲームの数々を紹介をしていきたいところだが,本レポートでは日本国内のインディーズゲーム開発の状況を視点にレポートをお届けする。
今回はなんといっても任天堂株式会社がスポンサーとして名乗りをあげ,入口すぐのエリアにブースを構えていたことが一番の驚きであった。
ブースエリアは「Nintendo × Indies “Nindies”」と呼ばれていた。全13タイトルのうち,パブリッシャ販売ではなく個人開発者の名義と思われるタイトルでは,「トルクル(TorqueL)」「ブレイブダンジョン」「ACE OF SEAFOOD」「Back in 1995 64」「摩尼遊戯TOKOYO」などがプレイ可能になっていた。
BitSummit 4th開幕直前の7月7日,任天堂は同社のゲーム開発者向けポータルサイト「Nintendo Developer Portal」を大幅リニューアルしている。最大の変更点は,国内の個人でも開発者として登録が可能になったことだ(編注:海外では個人でも登録可能)。
これまで同社のプラットフォームの参入には法人に属している必要があったが,これからは同人・インディーズゲーム開発者が個人名義でアカウントを取得でき,すぐにWii Uとニンテンドー3DSへ向けてゲーム開発に取り組むことができる。
ポータルではネイティブの開発環境のほか,ゲームエンジンUnityのWii U, 3DS対応版や,HTML5環境で開発が可能なNintendo Web Frameworkが利用可能だ。機材の購入は登録のみで行うことができ,実際にニンテンドーeショップでの販売権を取得する段階になってから,タイトルや開発者の審査がスタートするのだという。
遡ること3年,Unity主催の大型カンファレンス「Unite Japan 2013」にてUnity for Wii Uのβ版スタートが紹介された際は,任天堂の担当者から「日本国内では,個人の方からの受付は行っていません」とアナウンスされていた(参考URL)。
当時,国内に限り個人開発者を拒んだ実情ははっきりとは分からない。この出来事以降,どうしても日本における任天堂はインディーズゲームに冷たいという印象が続いてしまっていた。
しかし今回,その認識は180度変わったといえよう。任天堂はほかの家庭用ゲーム機プラットフォームに先駆けて,個人開発者へ広く門戸を開いた。それは,ここ数年におけるBitSummitを含む国内のインディーズゲームイベントの発展と,「Play,Doujin!」をはじめとするPlayStationプラットフォームの積極的な同人・インディーズゲーム展開など,日本国内のゲームを取り巻く環境の大きな変化を受けての変更なのだろうと想像できる。このプログラムを利用した新星クリエイターの登場に期待したいところだ。
会場内ではVRタイトルも目立っていた。スポンサーのOculus VRは,イスを並べたミニ講演会スタイルでブースを構え,来場者に対してOculus Riftを使ったVRタイトル開発のノウハウについて知見の共有を行った。
スタジオ/サークルとしてVRタイトルを展示するブースも多く見られた。同人ゲームサークルハイドレンジャーの野生の男(ハンドルネーム)が開発している「ガンナーオブドラグーン」は,HMDを被った状態でフィットネス機器「ジョーバ」に跨がり,あたかも自分がドラゴンに乗っているかのような感覚を得られるシューティングゲームだ。
本作は非常に注目度が高く,イベント終盤のアワードでは「BitSummitセレンディピティアワード」を受賞していた。
ほかにもRiftやViveを利用したタイトルの展示は多かったが,全体的に作品クオリティの向上を感じた。
センサーが揃ったHMDが比較的入手しやすくなってきた近況に加え,ゲームエンジン側のVR対応機能の充実,酔いに関するノウハウの周知などによって,より世界に没頭できるコンテンツ群が育ってきていると考えられる。
VRタイトルはインディーズらしい新しい発想を試すにはうってつけだ。販売予定が決まっている完成製品こそ少ないものの,今後はますますVRコンテンツの割合が増えていくことだろう。
「東京ダーク」は日本・鎌倉を拠点とするチーム,CherrymochiがPC向けに開発しているタイトルだ。ポイント&クリックアドベンチャーとビジュアルノベルの融合を目指し,日本的なアニメ調のキャラクターと,近未来の東京と言いつつ,どこかアジア的な装いのあるマップイメージが特徴である。
本タイトルは,スクウェア・エニックスが展開するインディーズゲーム向け支援サービスを受けた“Square Enix Collective”の一員でもある。
この制度にはインディーズゲーム開発者自らが申し込むことができ,資金調達やマーケティングの面でさまざまなサポートを得ることができる。ただし,プログラムに適用されるためには,いくつかの審査をパスする必要がある。
ゲームプロジェクトを申し込むと,Collectiveのオフィシャルサイト上で毎月メンバープレイヤーは4タイトルのプロジェクトを表示され,どのタイトルを応援したいかの投票が行われる。この段階を通過すると,スクウェア・エニックスとのやりとりが始まるという段取りだ。実際のビルドを送って事前のクオリティ審査をしたうえで,支援の対象となるかが決定されるのだそうだ。
「東京ダーク」はプレイヤー投票で94%サポート率を達成するほどの人気ぶりで,Kickstarterでのクラウドファンディングをすることになった。なお,クラウドファンディングにはIndie GOGOを利用することもできる。
最もインディークリエイターの支えになるのは,クラウドファンディングのフェーズでのマーケティングサポートだ。スクウェア・エニックスの持つメールマガジンやSNSのアカウントなど,各種メディアを通して多数のゲームファンにタイトルの情報を届けることができるのだ。今回はKickstarterでプロジェクトが始まるときと,終わる直前の2回にわたって紹介があったのだそうだ。
こうした支援もあって見事クラウドファンディングを成功させた「東京ダーク」。しかし,スクウェア・エニックスをパブリッシャとするかどうかは,別途選べるのだという。Collectiveはなにも独占パブリッシングの条件で始められるものではないそうだ。そしてなにより,IPは100%ゲームスタジオ側が持っており,なんら縛られることはないという。純粋なマーケティングサポートに徹した素晴らしいサービスだ。
Square Enix Collectiveはスクウェア・エニックスの北米・ヨーロッパ地域で運営されているようで,日本語のサービスは行われていない。だが,英語でのコミュニケーションが可能であれば,日本から申し込むことが可能だ。実際に「東京ダーク」は実際,そうしてこのプログラムに乗ることができたタイトルだ。日本発のタイトルで成功事例ができたことで,今後は日本語での応募対応にも期待したいところである。
なお,「東京ダーク」は英SCIRRAが提供するHTML5環境向けの2Dゲームオーサリングツール「Construct2」で作られている。開発スタッフ曰く,さまざまなエンジンを試したが,自分たちがやりたい表現を軽量に実現できるためこのエンジンに決めたのだという。2Dゲームの開発環境を探している人は,調べてみてはいかがだろうか。
日本マイクロソフトは,BitSummit会場内にて同社のインディーズゲーム向けプログラムであるID@Xboxの窓口ブースを構えていた。
ID@Xboxプロセスは,現在登録会社数が100を超えているそうだ。しかしながら,日本国内では法人からの申込みに限られている。実際にID@Xboxを通じてリリースされた日本からのタイトルとしては,同人サークルZENITH BLUEが法人名義でID@Xboxに参入し,「巫剣神威控」(参考URL) を昨年11月に配信している。
ID@Xboxの特徴は全世界で統一されたグローバルなプログラムであることだ。この制度を使ったタイトルは,Xboxのストアを通じて基本的に全世界に配信される。配信の契約はマイクロソフトのアメリカ法人と交わすこととなり,企画書の審査段階から米国主導なのだという。プロジェクトの承認が本社で行われるため,グローバルリリースが1回の審査で済むところがインディーズゲームの開発者にとっては嬉しいポイントだ。
会場内のID@Xboxタイトルとしては,Ninja Eggの「Kyub」,ArtPlayの「Bloodstained: Ritual of the Night」,ピグミースタジオ「ボコスカウォーズII」が展示されていた。
ところで,Xbox One向けのゲームをリリースする道はもう一つある。UWP(Universal Windows Platform)の仕組みを使った開発だ。
UWPはWindows 10で提供される,新しいアプリケーション実行環境である。これを使えば,Windows 10を搭載したPC,モバイルデバイス,そしてXbox Oneでゲームを動作させることができる。
UWPの上でXbox One向けにゲームを開発したい場合は,市販のXbox One本体の開発者モードをアクティベーション(Dev Mode Activation)することで開発機として利用できる。しかしUWPでは,CPUとGPUがほかのシステムと共有されることや, 使用できるメモリが448MBまで(将来的には1GBの予定)であることなど,ネイティブ開発と比較していくつかの制限がある(参考URL)。
現在はプレビュー版のWindows 10と共にXbox One向けの開発を行うことができるが,8月に予定されているWindows 10の次期大型アップデート「アニバーサリーアップデート(RS1)」のタイミングですべてのプレイヤーに開放される見込みだ。UWPはPC,モバイルでも動作する環境なのだが,「モバイルのタッチ操作に対応しない」など。対応デバイスを限って配信することも可能なのだそうだ。
Xbox Oneはまず個人ゲーム開発者に向けてはUWPが門戸を開いており,簡単にXbox One向けにタイトルを開発・リリースできる環境を担っている。ID@Xboxは法人契約が必要になるものの,通常のパブリッシャと同じハードウェア環境,サポートのもと開発でき,性能制限はない。日本マイクロソフトは,この2段階で日本国内のインディーズゲームに対応していく構えだ。
2013年ごろから,法人を持たない個人開発のゲームに対して,Steamや家庭用ゲーム機へのパブリッシングサービスを提供する会社が増えてきている。前述の任天堂の新施策や,マイクロソフトのUWPによって徐々にその制限は減りつつあるものの,まだまだ障壁になる事柄は多い。そのためパブリッシャを通じた国内インディーズゲームの配信はより増えていくと予想している。
初期から日本初のインディーズゲーム配信を行ってきたアクティブゲーミングメディアの配信ブランドPlayismでは,日本のインディーズゲームシーンを追ったドキュメンタリー映画「Branching Paths」の発表を行った。この映画はSteamとPlayismストアで7月29日に配信される予定だ。
あまり知られていないが,Steamではゲームのみならず,多くの映像作品が配信されている。ゲーム文化に関するドキュメンタリー作品も多い。
ドキュメンタリー映画の配信は,世界に向けて日本のインディーズゲームシーンを知ってもらおうという啓蒙活動につながる。それはこのBitSummitの存在意義にも近い。Playismは「シルバー事件」など有名ゲームのリマスターも手がけているが,芯は日本のインディーズゲーム文化への支援を目指していることが垣間見えた。
新進のインディーズゲームパブリッシャであるGameTomoは,タイで開発されているロボットアクションゲーム「Project Nimbus」を出展した(参考URL)。
もともと日本のロボットアニメを強く意識したゲーム内容だったが,これに日本版として国内の著名声優によるボイスを追加。大きな話題を呼んだ。同社は今後,日本のタイトルをSteamで世界展開する事業も行う予定があるとのことだ。
その他,任天堂ブースではPikiiから「洞窟物語」,PUMOから「ぐんまのやぼう for ニンテンドー3DS」,フライハイワークスからは「フェアルーン2」,HanajiGamesからは「ブロックレジェンド」などが出展されていた。彼らもまた,インディーズゲームのパブリッシング事業者である。ほかにもコーラス・ワールドワイド リミテッドも自社からリリースしている「De Mambo」を自社ブースで展示していた。
インディーズゲームの開発者は,自分のゲームを世界配信するための手段として,こうしたパブリッシング支援の選択肢がすでに多くあることに気がつくだろう。パブリッシング会社は,それぞれに得意不得意や特色がある。もし,自分のタイトルをSteamやコンシューマ機で配信したいと考えている場合は,複数のパブリッシング会社とコミュニケーションを取ることをおすすめしたい。きっと良いパートナーが見つかるはずだ。
昨年までブースを構えていたソニー・インタラクティブエンタテインメントは,今回はスポンサードに徹していた。しかし,会場内で何度もSIEの担当者の姿を見かけており,インディーズゲーム開発者と密接なコミュニケーションを取ろうという意気込みがうかがえた。なにより,9月にはSIEが全面的にサポートする東京ゲームショウ2016の「インディーゲームコーナー」が控えており,熱量は衰えていないと考える。
また,いくつか専門学校や大学のサークルからの出展も見かけられた。立命館大学情報理工学部のゲーム制作団体RiG++(参考URL)が開発している3DアクションRPG「ToU -Times of Us-」は,展示しているタイトルの中でもクオリティがとくに高く,来場者の注目を集めていた。
こうした学生団体のタイトルも,プラットフォーマーやパブリッシャから販売・配信について声をかけられることがあるようで,今後はBitSummitの場から就職以外の新たなキャリアを歩む学生クリエイターも現れてくることだろう。
BitSummitは華やかな展示・発表の場であるとともに,開発者同士の交流や,プラットフォーマーやクリエイター支援の会社らとのコラボレーションの起点でもある。海外と唯一異なるのはゲームに興味がある投資家がいないことだが,日本でインディーズゲーム開発者がチャンスをつかむ場が生まれ,続いていることは大きな意義がある。
ほかにもデジゲー博,Tokyo Indie Fes,Indie Stream Fest,コミックマーケット,COMITIAなど,同人・インディーズゲームを頒布・展示できるイベントは多い。BitSummitは「世界に向けて日本のインディーズゲームシーンを発信する」という大本のコンセプトがある。今後もインディーゲームクリエイターの活躍の場として継続していってほしいと切に願う。来年はどんな驚きが待ち構えているか,いまから楽しみだ。
さまざまな開発中タイトルを遊べるとあって,会場には多くの来場者が詰めかけ,例年に勝る大盛況ぶりとなった。
新進気鋭のクリエイターが放つ魅力的なゲームの数々を紹介をしていきたいところだが,本レポートでは日本国内のインディーズゲーム開発の状況を視点にレポートをお届けする。
任天堂「インディーズ」に参戦
ブースエリアは「Nintendo × Indies “Nindies”」と呼ばれていた。全13タイトルのうち,パブリッシャ販売ではなく個人開発者の名義と思われるタイトルでは,「トルクル(TorqueL)」「ブレイブダンジョン」「ACE OF SEAFOOD」「Back in 1995 64」「摩尼遊戯TOKOYO」などがプレイ可能になっていた。
BitSummit 4th開幕直前の7月7日,任天堂は同社のゲーム開発者向けポータルサイト「Nintendo Developer Portal」を大幅リニューアルしている。最大の変更点は,国内の個人でも開発者として登録が可能になったことだ(編注:海外では個人でも登録可能)。
これまで同社のプラットフォームの参入には法人に属している必要があったが,これからは同人・インディーズゲーム開発者が個人名義でアカウントを取得でき,すぐにWii Uとニンテンドー3DSへ向けてゲーム開発に取り組むことができる。
ポータルではネイティブの開発環境のほか,ゲームエンジンUnityのWii U, 3DS対応版や,HTML5環境で開発が可能なNintendo Web Frameworkが利用可能だ。機材の購入は登録のみで行うことができ,実際にニンテンドーeショップでの販売権を取得する段階になってから,タイトルや開発者の審査がスタートするのだという。
任天堂開発者サイト
遡ること3年,Unity主催の大型カンファレンス「Unite Japan 2013」にてUnity for Wii Uのβ版スタートが紹介された際は,任天堂の担当者から「日本国内では,個人の方からの受付は行っていません」とアナウンスされていた(参考URL)。
当時,国内に限り個人開発者を拒んだ実情ははっきりとは分からない。この出来事以降,どうしても日本における任天堂はインディーズゲームに冷たいという印象が続いてしまっていた。
しかし今回,その認識は180度変わったといえよう。任天堂はほかの家庭用ゲーム機プラットフォームに先駆けて,個人開発者へ広く門戸を開いた。それは,ここ数年におけるBitSummitを含む国内のインディーズゲームイベントの発展と,「Play,Doujin!」をはじめとするPlayStationプラットフォームの積極的な同人・インディーズゲーム展開など,日本国内のゲームを取り巻く環境の大きな変化を受けての変更なのだろうと想像できる。このプログラムを利用した新星クリエイターの登場に期待したいところだ。
クオリティアップが目覚ましいVRタイトル
会場内ではVRタイトルも目立っていた。スポンサーのOculus VRは,イスを並べたミニ講演会スタイルでブースを構え,来場者に対してOculus Riftを使ったVRタイトル開発のノウハウについて知見の共有を行った。
本作は非常に注目度が高く,イベント終盤のアワードでは「BitSummitセレンディピティアワード」を受賞していた。
ほかにもRiftやViveを利用したタイトルの展示は多かったが,全体的に作品クオリティの向上を感じた。
センサーが揃ったHMDが比較的入手しやすくなってきた近況に加え,ゲームエンジン側のVR対応機能の充実,酔いに関するノウハウの周知などによって,より世界に没頭できるコンテンツ群が育ってきていると考えられる。
VRタイトルはインディーズらしい新しい発想を試すにはうってつけだ。販売予定が決まっている完成製品こそ少ないものの,今後はますますVRコンテンツの割合が増えていくことだろう。
スクウェア・エニックスから支援を受けたインディーズゲーム「東京ダーク」
本タイトルは,スクウェア・エニックスが展開するインディーズゲーム向け支援サービスを受けた“Square Enix Collective”の一員でもある。
この制度にはインディーズゲーム開発者自らが申し込むことができ,資金調達やマーケティングの面でさまざまなサポートを得ることができる。ただし,プログラムに適用されるためには,いくつかの審査をパスする必要がある。
Square Enix Collective公式サイト
ゲームプロジェクトを申し込むと,Collectiveのオフィシャルサイト上で毎月メンバープレイヤーは4タイトルのプロジェクトを表示され,どのタイトルを応援したいかの投票が行われる。この段階を通過すると,スクウェア・エニックスとのやりとりが始まるという段取りだ。実際のビルドを送って事前のクオリティ審査をしたうえで,支援の対象となるかが決定されるのだそうだ。
「東京ダーク」はプレイヤー投票で94%サポート率を達成するほどの人気ぶりで,Kickstarterでのクラウドファンディングをすることになった。なお,クラウドファンディングにはIndie GOGOを利用することもできる。
最もインディークリエイターの支えになるのは,クラウドファンディングのフェーズでのマーケティングサポートだ。スクウェア・エニックスの持つメールマガジンやSNSのアカウントなど,各種メディアを通して多数のゲームファンにタイトルの情報を届けることができるのだ。今回はKickstarterでプロジェクトが始まるときと,終わる直前の2回にわたって紹介があったのだそうだ。
こうした支援もあって見事クラウドファンディングを成功させた「東京ダーク」。しかし,スクウェア・エニックスをパブリッシャとするかどうかは,別途選べるのだという。Collectiveはなにも独占パブリッシングの条件で始められるものではないそうだ。そしてなにより,IPは100%ゲームスタジオ側が持っており,なんら縛られることはないという。純粋なマーケティングサポートに徹した素晴らしいサービスだ。
Square Enix Collectiveはスクウェア・エニックスの北米・ヨーロッパ地域で運営されているようで,日本語のサービスは行われていない。だが,英語でのコミュニケーションが可能であれば,日本から申し込むことが可能だ。実際に「東京ダーク」は実際,そうしてこのプログラムに乗ることができたタイトルだ。日本発のタイトルで成功事例ができたことで,今後は日本語での応募対応にも期待したいところである。
なお,「東京ダーク」は英SCIRRAが提供するHTML5環境向けの2Dゲームオーサリングツール「Construct2」で作られている。開発スタッフ曰く,さまざまなエンジンを試したが,自分たちがやりたい表現を軽量に実現できるためこのエンジンに決めたのだという。2Dゲームの開発環境を探している人は,調べてみてはいかがだろうか。
Construct2公式サイト
ID@Xboxを通じてインディーズゲームにアプローチする日本マイクロソフト
ID@Xboxプロセスは,現在登録会社数が100を超えているそうだ。しかしながら,日本国内では法人からの申込みに限られている。実際にID@Xboxを通じてリリースされた日本からのタイトルとしては,同人サークルZENITH BLUEが法人名義でID@Xboxに参入し,「巫剣神威控」(参考URL) を昨年11月に配信している。
ID@Xboxの特徴は全世界で統一されたグローバルなプログラムであることだ。この制度を使ったタイトルは,Xboxのストアを通じて基本的に全世界に配信される。配信の契約はマイクロソフトのアメリカ法人と交わすこととなり,企画書の審査段階から米国主導なのだという。プロジェクトの承認が本社で行われるため,グローバルリリースが1回の審査で済むところがインディーズゲームの開発者にとっては嬉しいポイントだ。
ところで,Xbox One向けのゲームをリリースする道はもう一つある。UWP(Universal Windows Platform)の仕組みを使った開発だ。
UWPはWindows 10で提供される,新しいアプリケーション実行環境である。これを使えば,Windows 10を搭載したPC,モバイルデバイス,そしてXbox Oneでゲームを動作させることができる。
UWPの上でXbox One向けにゲームを開発したい場合は,市販のXbox One本体の開発者モードをアクティベーション(Dev Mode Activation)することで開発機として利用できる。しかしUWPでは,CPUとGPUがほかのシステムと共有されることや, 使用できるメモリが448MBまで(将来的には1GBの予定)であることなど,ネイティブ開発と比較していくつかの制限がある(参考URL)。
現在はプレビュー版のWindows 10と共にXbox One向けの開発を行うことができるが,8月に予定されているWindows 10の次期大型アップデート「アニバーサリーアップデート(RS1)」のタイミングですべてのプレイヤーに開放される見込みだ。UWPはPC,モバイルでも動作する環境なのだが,「モバイルのタッチ操作に対応しない」など。対応デバイスを限って配信することも可能なのだそうだ。
Xbox Oneはまず個人ゲーム開発者に向けてはUWPが門戸を開いており,簡単にXbox One向けにタイトルを開発・リリースできる環境を担っている。ID@Xboxは法人契約が必要になるものの,通常のパブリッシャと同じハードウェア環境,サポートのもと開発でき,性能制限はない。日本マイクロソフトは,この2段階で日本国内のインディーズゲームに対応していく構えだ。
国内インディーズゲームパブリッシャの動向
初期から日本初のインディーズゲーム配信を行ってきたアクティブゲーミングメディアの配信ブランドPlayismでは,日本のインディーズゲームシーンを追ったドキュメンタリー映画「Branching Paths」の発表を行った。この映画はSteamとPlayismストアで7月29日に配信される予定だ。
あまり知られていないが,Steamではゲームのみならず,多くの映像作品が配信されている。ゲーム文化に関するドキュメンタリー作品も多い。
ドキュメンタリー映画の配信は,世界に向けて日本のインディーズゲームシーンを知ってもらおうという啓蒙活動につながる。それはこのBitSummitの存在意義にも近い。Playismは「シルバー事件」など有名ゲームのリマスターも手がけているが,芯は日本のインディーズゲーム文化への支援を目指していることが垣間見えた。
もともと日本のロボットアニメを強く意識したゲーム内容だったが,これに日本版として国内の著名声優によるボイスを追加。大きな話題を呼んだ。同社は今後,日本のタイトルをSteamで世界展開する事業も行う予定があるとのことだ。
その他,任天堂ブースではPikiiから「洞窟物語」,PUMOから「ぐんまのやぼう for ニンテンドー3DS」,フライハイワークスからは「フェアルーン2」,HanajiGamesからは「ブロックレジェンド」などが出展されていた。彼らもまた,インディーズゲームのパブリッシング事業者である。ほかにもコーラス・ワールドワイド リミテッドも自社からリリースしている「De Mambo」を自社ブースで展示していた。
インディーズゲームの開発者は,自分のゲームを世界配信するための手段として,こうしたパブリッシング支援の選択肢がすでに多くあることに気がつくだろう。パブリッシング会社は,それぞれに得意不得意や特色がある。もし,自分のタイトルをSteamやコンシューマ機で配信したいと考えている場合は,複数のパブリッシング会社とコミュニケーションを取ることをおすすめしたい。きっと良いパートナーが見つかるはずだ。
インディーズゲームイベントが持つ意味とは
昨年までブースを構えていたソニー・インタラクティブエンタテインメントは,今回はスポンサードに徹していた。しかし,会場内で何度もSIEの担当者の姿を見かけており,インディーズゲーム開発者と密接なコミュニケーションを取ろうという意気込みがうかがえた。なにより,9月にはSIEが全面的にサポートする東京ゲームショウ2016の「インディーゲームコーナー」が控えており,熱量は衰えていないと考える。
また,いくつか専門学校や大学のサークルからの出展も見かけられた。立命館大学情報理工学部のゲーム制作団体RiG++(参考URL)が開発している3DアクションRPG「ToU -Times of Us-」は,展示しているタイトルの中でもクオリティがとくに高く,来場者の注目を集めていた。
こうした学生団体のタイトルも,プラットフォーマーやパブリッシャから販売・配信について声をかけられることがあるようで,今後はBitSummitの場から就職以外の新たなキャリアを歩む学生クリエイターも現れてくることだろう。
ほかにもデジゲー博,Tokyo Indie Fes,Indie Stream Fest,コミックマーケット,COMITIAなど,同人・インディーズゲームを頒布・展示できるイベントは多い。BitSummitは「世界に向けて日本のインディーズゲームシーンを発信する」という大本のコンセプトがある。今後もインディーゲームクリエイターの活躍の場として継続していってほしいと切に願う。来年はどんな驚きが待ち構えているか,いまから楽しみだ。