ゲームクリエイター特化の人材サービス「シリコンスタジオエージェント」。その概要と利用者のメリットとは

 さて,GamesIndustry Japan Editionが立ち上がって1か月半が経過した。このサイトのメニューに「求人」という文字があるのを不思議に思っている人もいるのではないだろうか。「GamesIndustry Agent」というサービスを見ても,4Gamer.netなどをやっていたAetasが人材ビジネスに参入するというのも,普通では考えにくいだろう。このメニュー自体は,本家のGamesIndustry.bizに倣うものではあるのだが,サービスの内容そのものは,日本のゲーム業界で人材サービスを展開しているシリコンスタジオとの協業で行うものとなっている。

 ではシリコンスタジオが行っている「シリコンスタジオエージェント」とはどんなものなのか。
 シリコンスタジオエージェントは,ゲームコンテンツ向けミドルウェアの開発を中心にゲームに関する事業を展開するシリコンスタジオの手がける求人紹介・転職支援サービスである。このサービスにて取り扱うのは,ゲーム開発および映像制作に関するクリエイターの求人・転職で,具体的な職種はデザイナー(アーティスト),プログラマー,エンジニア,プランナー(ゲームデザイナー)などだ。GamesIndustry Agentは,そのサービスを利用した,別の窓口を設けている形だ。

 今回は,シリコンスタジオエージェントの概要や活用事例について,サービスの責任者であるシリコンスタジオの加藤啓介氏にあらためて話を聞いた。


ほかの求人・転職サイトにはないシリコンスタジオエージェントの強みとは


 繰り返しとなるが,シリコンスタジオエージェントは,ゲーム開発および映像制作にまつわるクリエイターの求人・転職を扱っている。その業務は大きく2つに分かれ,「人材紹介」「人材派遣」の2種類がある。

 人材紹介というのは,転職のお手伝いのことではあるが,単に企業の求人と求職者をマッチングさせるさせるだけではなく,その人のキャリアプランを一緒に作っていくといったサービスだ。とりあえず,ゲーム業界に通じた人にいろいろと相談できると考えておけばいいだろうか。
 そうしたサービスが扱うのは,企業側の求人に対して正社員,契約社員として就職する過程をサポートすることである。

 もう一つの人材派遣はシリコンスタジオエージェントに登録して,派遣社員としてゲーム開発の現場に出向く形である。
 日本のゲーム開発現場でも,すべての作業を社内で完結させることは少なくなってきている。外注を使ったり,プロジェクトに応じて臨時のスタッフを募ることが増えているのだ。シリコンスタジオエージェントで普通に検索しても出てこない非公開案件は非常に多く,新作の開発がスタートするたびに求人が行われている実情があるようだ。

 勤務形態としてはシリコンスタジオの社員として雇用され,各社のプロジェクトに派遣されることになる。
 ここで“派遣”と聞くと,昨今の風評からあまり良い印象を抱かない人も多いかもしれないが,シリコンスタジオエージェントにおける派遣社員は少々意味合いが異なるという。

 「日本で一般的に言われる派遣社員というと,何かと良くないイメージがあるかもしれません。しかし海外で派遣と言えば,もっと幅広く高いスキルを持った専門職まで斡旋するものだと聞いていますので,日本とはかなりイメージが異なるようです。弊社でも,そのように派遣社員も地に足の付いた仕事であると捉えており,転職を希望する皆さんの仕事観に寄り添って,キャリア形成に役立つ雇用形態として提案させていただいています。直接雇用より自由度の高い,働き方の一つと捉えていただければと思います」(加藤氏)

 人材紹介がクリエイターと「企業」をマッチさせるものだとすると,人材派遣はクリエイターと具体的な「プロジェクト」を結びつけるものとなる。考えてみればすぐ分かることだと思うが,望みの会社に入れても希望するタイトルに関われるとは限らない。人材派遣では,プロジェクト単位で求人されることが多いので,より安心して新しいプロジェクトに参加できる雇用形態であるとも言えるのだ。

「『このタイトルに携わりたい』といったピンポイントのリクエストがあった場合に,先方に該当する求人がないかどうか即確認できるという大きなメリットがあります」

 とくに,あまりゲームに関心がない人でも名前を知っているような大手ゲーム企業では,新卒や中途で入社するとなると,相当に狭き門をくぐり抜けなければならないが,前述のようにプロジェクトが始まるたびに臨時スタッフは求められており,派遣社員なら実績と求人のタイミング次第で入社のチャンスを掴めるのだ。
 そして首尾よく採用されれば,大型プロジェクトに関わったという事実だけその後のキャリア形成を有利に導くことができるというわけである。プロジェクトでの働きがよければ,開発チームに引っ張られるということもありえないわけではない。

 また,シリコンスタジオエージェントに転職を相談するクリエイターの中には,数年間正社員として勤務したのち,フリーランスとして独立したいと考えている人も多いという。
 しかし加藤氏は,そうしたキャリア形成を考えるのであれば,会社の規則に縛られて一定期間働くよりも,自分の強みをピンポイントで発揮でき,同時に必要なスキルを磨くことができる派遣社員のほうが都合が良いケースがあることを指摘する。実際,「自分には,このスタイルが合っている」として派遣社員を選択するクリエイターもいるとのこと。

 このようなサービスを行う会社はいくつもあるのだが,シリコンスタジオエージェントが他社の求人紹介・転職支援サービスと異なるもっとも大きな強みは,母体となるシリコンスタジオが大手から中小に至るまで,さまざまなゲーム企業とのつながりを持っているところだ。

 「弊社では,3Dグラフィックスやゲーム開発の受託などで,長年にわたって多くのゲーム企業様とつながっています。そのため,たとえばクリエイターの皆さんから『この企業で働きたい』『このタイトルに携わりたい』といったピンポイントのリクエストがあった場合に,先方に該当する求人がないかどうか即確認できるという大きなメリットがあります」(加藤氏)

 さらに,そうした各ゲーム企業とのつながりは,転職希望者の条件交渉にも力を発揮する。たとえば,どうしてもある企業との条件が折り合わなければ,転職希望者にほかの企業を紹介できるというメリットがあるのだ。また,就業開始後の勤務時間や残業時間の短縮といった交渉の相談にも,適切に対応する体制が用意されている。
 ぶっちゃけて言えば,働いてみてから「あれ? 給料の割に内容きつくない?」とか「こんな契約条件だっけ?」といったようなことがあっても,働いている身ではなかなか言い出しにくいことが多いのだが,そういったものを代わりに交渉してくれるわけだ。

 加えてシリコンスタジオエージェントでは,派遣社員に対して「レジリエンス研修」などを実施している。「レジリエンス」とは,逆境や困難など強いストレスに直面したときに適応する精神力を指しており,この研修では何かに挑戦して失敗したとしても,落ち込んだ気持ちから抜け出し,再び目標に向かって前進する力を科学的に養う知識を習得できる。

 これは,昨今のゲーム企業の多くが社員の勤怠を重視する傾向にあることを踏まえたもので,日々のストレスにうまく対応することで,毎日規則正しく出勤し仕事をこなすことを狙っている。
 通常,こうした派遣社員への研修は技術の習得にまつわる内容が多いのだが,このサービスで転職を希望するクリエイターはすでに一定以上のスキルを備えているケースが多いため,こうした形式にしているそうだ。

 「勤怠がきちんとしている人材は,雇用形態を問わず広く求められています。ゲーム業界というと自由な気風で,前日夜遅くまで作業していれば次の日は午後出社でいいといった昔からのイメージがあるかもしれませんが,今は変わってきているようです。先日,『スキルがそれなりだけれども規則正しく仕事ができる人と,優れたスキルを持っているけれども急に休んだりする人ではどちらがいいか』というアンケートを,弊社の取引先を対象に取ったところ,11:1くらいの割合で前者がいいという結果が出ました」(加藤氏)


自分が持つスキルの需要と,それに見合った報酬の相場を知ることができる


「周囲も年収300万円程度だったら,それが普通だと思ってしまいがちです。でもスキルを持っている方であれば,転職すれば年収が100万円も200万円もアップするという事例もあるんです」

 加藤氏によると,転職を希望するクリエイターの多くは,特定のタイトルに携わりたい,職種を変えたい──たとえば同じグラフィックスデザイナーでも,背景ではなくキャラクターを作りたいといったような──という要望を持っているという。
 その一方で,まがりなりにも自分の好きなゲームの仕事に携われると,周囲の人間関係も悪くないからとった理由で,現状に充足してしまう人も少なくないそうだ。

 「そうした現状に満足している方の話を詳しく聞いてみると,残業が多いにも関わらず給与が決していいわけでないといった劣悪な環境であるケースも結構見受けられます。やはりネットで集められる情報だけでは,給与の相場など実情はなかなか見えてきません。
 実際,周囲も年収300万円程度だったら,それが普通だと思ってしまいがちです。でもスキルを持っている方であれば,転職すれば年収が100万円も200万円もアップするという事例もあるんです。何か疑問を抱いたら弊社のサービスにご相談いただけるとよろしいかと思います」
(加藤氏)

 全般に転職に対して腰が重くなりがちな業界ということもあってか,加藤氏によると転職の相談に来るにあたり,事前にいろいろ調査したり検討したりする人は他業種と比較して少ない傾向にあるという。
 もちろんシリコンスタジオエージェントでは,あまり準備の整っていない人達をきちんとフォローする体制を整えているが,やはり事前にある程度知識を持っていると,話がスムーズに進んだり,より知識が深まったりしやすいそうである。

 一方,求人をする企業側が転職希望者のどこを見ているかというと,主に成果物や実績とのこと。たとえばデザイナー志望であれば自分で作った作品,プログラマ志望であれば自分で書いたプログラムのコードである。
 またプランナー志望であれば,独創性があり,かつ他人が読んで狙いが分かりやすい企画書や仕様書を作成できるのはもちろんのこと,自分がプランニングにおいて何を専門としているか自己分析できているかなども試される。さらにチームによっては,プランナーに“何でも屋”的な部分を求めるところもあるので,フットワークの軽さが重視されることもある。

 「あとは,『こういうゲームを作る』という全体の方針に沿って仕事ができるかどうかを重視する企業が多いですね。自分ならではの表現にこだわるのではなく,方針や指示を汲み取って,そのうえで,要求される以上のクオリティを実現できる人が求められています」(加藤氏)


 これまでの話からもだいたい分かるだろうが,本サービスが前提としているのは,即戦力で使える「ゲーム業界で働く人」である。
 それではゲーム業界未経験という人が,ゲーム関連企業に就職・転職することはできるのだろうか。加藤氏によると,デザイナーやプログラマであれば,自分の特徴や長所が分かるよう成果物や実績をきちんとまとめて提示することで,他業種からの転職に成功した事例も少なくないという。
 プランナー志望者に関しては,何を提示すればいいのかなかなか難しいところではあるが,加藤氏によると「まずはコミュニケーション能力が必要」とのこと。また自分が携わるゲームへの理解も重要だ。

 「弊社で扱っているセガゲームスさんの『ファンタシースターオンライン2』の求人では,派遣社員のプランナー募集にあたって,実際にゲームのプレイ経験があり,いずれか1クラスでもレベル75以上にしていれば未経験歓迎と謳っており,現在10名ほどの業界未経験者が採用されています。これは,そこまでプレイしていれば,このゲームがどんな内容なのか,プレイヤーから何を求められるかを理解していると期待できるからです。また,こうしたゲーム業界未経験者の中には,派遣雇用で業界経験を積んだ実績を買われ,ほかの企業への転職に成功された方もいらっしゃいます」(加藤氏)

 そのほか,ゲーム業界以外でも最近ではサーバーやDB系の分かるIT技術者は広く求められており,実際に他業種からの転職例も少なくないという。


求人企業とのスケジュール調整や条件交渉はエージェントにお任せ


 シリコンスタジオエージェントの具体的な利用方法の手順は,まず本サービスの公式サイトにてオンライン登録を行う。これは仮登録なので,氏名と生年月日,連絡先として携帯電話番号とメールアドレスを記入し,いくつかの質問に選択肢で答えるだけでOKだ。

 仮登録を終えると,追ってシリコンスタジオエージェントから電話連絡があり,さらに内容を詰めたり,本登録のための来社日を決めたりという流れになる。なお転職希望者の在住地が遠方であるためにシリコンスタジオに出向くことが難しいという場合は,電話で本登録することも可能だ。
 本登録時には面談も行われ,詳しい話や将来的な展望を話す機会が設けられるほか,それらに沿った求人の紹介や雇用形態の提案がなされる。


 転職に必要な書類に関しては,一度シリコンスタジオエージェントに提出すれば,それが企業側に送付される。
 企業側との面接日や就業開始日は,転職希望者の都合に合わせて調整する。たとえば,現在進行中のプロジェクトが数か月後に一区切り付くので,そこで転職したいという相談に対して,柔軟に応じたケースもあったという。

 さらに内定後の返事の猶予期間などの日程は,転職希望者の第1志望に合わせてシリコンスタジオエージェントがスケジュールを調整するとのこと。そのため複数の企業の面接を受けている場合に,内定の返事を急がされてベストではない入社が決まってしまうということはない。

 また,個人で契約するとなると,契約書類の細かい部分で何か引っかかるところがあっても,「これを問いただしたら内定を取り消されるかも……」と思って聞けなかったりすることがあるかもしれないが,そうした場合にもシリコンスタジオエージェントが間に入ってきちんと確認するとのこと。

 転職希望者の入社が決まったあとも,派遣社員であればシリコンスタジオエージェントがアフターケアをしていく。また正社員や契約社員であっても,イベントに招待するなど,末永く付き合って行きたいとのこと。
 加藤氏は,シリコンスタジオエージェントとして,さまざまな人のキャリア形成に長く携わっていきたいとし,一度転職したあとも,さらなるキャリアアップを目指すのであれば,遠慮なく相談してほしいと話していた。

 記事冒頭で記したとおり,シリコンスタジオエージェントの窓口は,GamesIndustry.biz Japan Editionにも設けられている。「あのタイトルに関わってみたい」「職場を変えてキャリアアップを図りたい」と考えているゲームクリエイターは,一度相談してみてはどうだろうか。

GamesIndustry Agentはこちら