「Tokyo Indies」に見る,日本のインディーズゲーム開発者コミュニティの最新モード

 「インディーズゲーム」――言葉の解釈はさまざまであるが,それは「個人または小規模のチームが,自らの意志でゲームを作る文化」ではないかと筆者は考えている。往々にして個人ゲーム開発者は孤独な戦いを強いられるわけだが,活動を続けるために重要なことがある。それは開発者同士の横のつながり,コミュニティだ。
 日本では以前からゲーム開発者同士のオフ会,即売会,勉強会などの交流機会が多く存在するが,新たなコミュニティもまた生まれつつある。今回はそのうちの一つである「Tokyo Indies」の取材レポートと,主催者へのインタビューをお届けする。

Tokyo Indies公式サイト



Tokyo Indiesとは?


 公式サイト曰く,Tokyo Indiesとは,東京周辺に住んでいるインディーズゲームクリエイターのための「飲み会」だという。

 約2年前から始まり,なんと毎月開催されている。会場は渋谷のアート展示スペースで,お酒とソフトドリンクの販売がある。参加者はおおよそ60〜70人,もちろん全員ゲーム開発者だ。
 「飲み会」というと,日本式には座って卓を囲むイメージがあるが,ここではオールスタンディングで各自が動き回る形になっている(座って話せるスペースもいくつかある)。


 開発者たちはここで,開発途中のゲームを見せ合ったり,活発に情報交換を行う。孤独になりがちな個人ゲーム開発者も,同じ志を持つ開発者と交流することで,新しい情報を仕入れたり,開発の苦労を分かち合ったりするわけだ。筆者も最初期から参加し,昨年は自作ゲームのプレゼンテーションを行ったことがある。
 なんにせよ,独特な熱気があるイベントである。今回は2016年5月10日に行われた本イベントの様子について紹介したい。

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まだ世に出て居ないプロトタイプたち。スマホ,PC,GBASP(!)とハードはさまざまだ
「Tokyo Indies」に見る,日本のインディーズゲーム開発者コミュニティの最新モード

 20時を回ったころ,定例のプレゼンタイムが始まる。毎回3〜4組のプレゼンがあるのだが,今回に限っては多めの6組だった。その中から,とくに著者の興味を引いた三つを紹介してみたい。


若手サラブレッドが放つ,古くて新しいゲーム「Rabbian -Rescue Operation-」


 大阪からやってきたクリエイター,なかじま氏が紹介したのは自作のスマートフォンアプリ,「Rabbian -Rescue Operation-」だ。

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 すでにiOS向けに配信済みで,Android版も準備中だという。キャラクターの可愛さとは裏腹な難しさを秘めた,パズル要素ありのアクションゲームだ。
 一見,今風にアレンジされたよくあるスマートフォン向けのドット絵アクションゲームに見えてしまうが,実は彼女の前作![「Working of Rabbian」](https://itunes.apple.com/jp/app/working-of-rabbian/id1024341243)は,1986年に発売されたMSX向けカートリッジ「天才!ラビアン大奮戦」の移植タイトルだ。その原作の開発者はほかでもない,なかじま氏の父だという。

 Tokyo Indiesは学生から40代まで幅広い層のクリエイターが集うイベントだが,MSXというキーワードと,2代にわたっての開発者の登場に,会場は大きくざわめいた。
 こうしたアプリ開発活動と並行して,なかじま氏は今後,Tokyo Indiesと同様のイベントを大阪で仕掛けていくのだという。非常に楽しみだ。


あらたな才能「Tribal Siege -Action Real-time Strategy-」


 筆者は日本国内のインディーズゲーム開発シーンはほとんど把握している自負があったのだが,その思いがまったくの誤りであることを痛感した。

 今回公の場では初めてのプレゼンテーションとなった「Tribal Siege -Action Real-time Strategy-」は,サブタイトルにあるとおり,アクションゲームとRTSの融合を目指して開発中のタイトルだ。現在Steam Greenlight(プレイヤー投票によってSteamでの配信権が得られる仕組み)にチャレンジ中であるという。


 今回は開発チーム3人のうち,代表のUNJIRO氏,副代表のpitan=naoki氏が登壇した。このタイトルを2年ほど作り続けていながら,こういったプレゼンの場に出るのは初なのだそうだ。

「Tokyo Indies」に見る,日本のインディーズゲーム開発者コミュニティの最新モード

 本作のグラフィックスは,あまり日本ゲームではなかなかお目にかかれない,影の濃い西洋ファンタジーのテイストで(本人たちもそう言っていた),システム面も含めて野心的なプロジェクトである。
 代表は長いこと「Age of Empire」シリーズをやり込んでいるとのことで,その趣味を前面に押し出した形で開発が進められている。
 デモムービーなどを見ると,すでにかなり動いている段階であり,実のところマルチプレイ可能なデモ版が近日公開だという。イベントの終盤だったこともあり,プレゼンテーションは少々聞き取りにくかったが,彼らの熱いこだわりはビンビン伝わってきた。

 東京ゲームショウにインディーズゲームコーナーができたり,BitSummitというインディーズゲーム開発者専用のイベントが登場して3年経つが,実はそういったイベントでは日本の出展者の顔ぶれにマンネリ感が見えてきている。そんな中,こうして新人が現れたことは素直にうれしい。今後が非常に楽しみである。


スマイルブームが仕掛ける新・RPG開発環境 「Smile Game Builder」


 スマイルブームの杉内賢次氏は,ゲーム開発ツールである「Smile Game Builder」を紹介した。今年3月に発表されたばかりのツールで,GDC 2016にも出展されていたものだ。

「Tokyo Indies」に見る,日本のインディーズゲーム開発者コミュニティの最新モード

 このゲーム開発ツールの一番の分かりやすい特徴は,「3DマップのRPGを作ることができる」ということだ。
 プレゼンでは実際のツールを使った実演も行われていた。色を塗るような感覚で立体的な地形を作り,メニューから家や木などのオブジェクトを配置する……といったように,マップ作りをかなりの速度で行うことができる。

 キャラクターは3D・2Dどちらでも選べる仕様で,両方が混ざったスタイルも可能だ。
 パッケージには初めから豊富な素材が同梱されているが,追加DLCとして素材を配信する計画もあるという。

 日本国内では長らく「RPGツクール」シリーズがゲーム開発ツールの王者として根付いている。最新バージョン「RPGツクールMV」では,スマートフォンへの対応も果たした。
 また,PRGツクールシリーズから着想を得たフリーのゲーム作成ツール「WOLF RPGエディター」にも多くの利用者がおり,ノンコーディングな開発環境においては1,2を争う人気だ。
 そういったところに新風を巻き起こそうとしている「Smile Game Builder」は,Steamでの配信を目指して,現在[Green Lightキャンペーン](関連URL)を行っている。


Tokyo Indies運営人,Alvin Phu氏ミニインタビュー


 続いて,このイベントを企画したAlvin Phu氏のミニインタビューをお届けしよう。
 彼もまたインディーズゲームクリエイターで,日本のソーシャルゲーム会社で働いたのち退職。その前後でリリースした「Block Legend」はAppStoreでEssentials(スタッフのオススメ)に掲載されるなど,大きな成功を収めている。

 現在Alvin氏は,次回作「Dot Matrix Hero」を開発中で,先日「Hanaji Games」というパブリッシング会社を立ち上げた。
 同社は,日本のインディーズゲームや同人ゲームを海外へ向けてリリースする事業を行っており,最近では「Mecha Ritz: Steel Rondo」というタイトルの世界展開をサポートしている。



―― Tokyo Indiesについて教えてください。

Alvin氏:
Alvin Phu氏
 Tokyo Indiesは2014年7月に始まり,もうすぐ2周年となります。約半年間は自分1人でオーガナイズしておりましたが,途中で,「DownWell」を開発したMoppinさんに運営を手伝ってもらうようになりました。

 今では,日本語から英語へのゲームローカライザーのGavin Greenさん,ゲーム業界ベンチャーキャピタリストであり,Tokyo Indie Festの創設者のAlexander de Giorgioさん,および「Gesuido」開発者である三原亮介さんのチームで運営しています。
 Tokyo Indies初期の参加者は20人程度でしたが,今ではだいたい80〜100人くらいの方々に来ていただいています。

――Tokyo Indies開催の理由は何ですか?

Alvin氏:
 私の故郷はアメリカのボストンです。ボストンには非常にアクティブなインディーズゲーム開発コミュニティがあります。私はゲーム業界に入って以来,頻繁にそういったコミュニティの集りに行っていました。
 東京に引っ越してきたあと,私は東京にボストンのようなインディーズゲーム開発者のためのイベントがないことに気がつきました。
 東京には,同人ゲームやゲームエンジン利用者などを対象とした,非常に具体的な交流会やワークショップがたくさんありますが,「東京にいて,個人でゲームを作っている人たちで,飲みながら開発についてお話ししましょう」的なオフ会に巡り合えなかったんです。なので「じゃあ私が作ろう!」と思って始めました。
 第1回は,人がくるのかさえ分からなかったのですが,何人かきていただいたので,むしろ驚きましたね。

――Tokyo Indiesの今後の目標はなんですか?

Alvin氏:
 TokyoIndiesの目標は,日本のインディーズゲーム開発者に「共同体であることの意識」(sense of community)を持ってもらうことです。
 世界中,とくに英語圏の国では,インディーズ開発者のためのイベントがたくさんあります。私たちは開発者同士が一緒に集まってお互いを助け合いながら,世界中でヒットするような素晴らしいゲームを世に出せるように,全力を尽くしたいと思っています。とくに,フルタイムのインディーズ開発者になろうとしている人たちを助けたいと考えています。

プレゼンを待つ参加者たち

――最近は日本人の参加者がとても増えました。もっとたくさんの日本人開発者に来てほしいと思いますか?

Alvin氏:
 それは間違いないです。たまに,英語を話せないからという理由で来ることを躊躇する方々がおられるようですが,プレゼンは日本語のものが多いですし,参加者の外国人は基本的に日本語ペラペラですので怖がることはありません(笑)。
(※著者注:プレゼンは通訳による翻訳も入ります。また,外国人も多いとはいえ,東京に住んでいて皆ゲームが好きな人なので,なんら困ることはありません。)

――毎回,参加者が増えています。会場が狭いと大変なのでは? 

Alvin氏:
 最近はより多くの人が入ることができるよう,新しい会場探しを始めています。
 通常の会社員の方などが来てもらうのはまったく問題ないのですが,少なくとも自分のゲームを作っているか,ゲームを作ることに興味がある人であってほしいです。申し訳ないのですが,できれば,ゲーム開発者でない方や,ゲーム開発会社のリクルーターの方などは参加を控えていただきたいですね。

――これからTokyo Indiesをどうしていきたいですか?

Alvin氏:
 日本には優れたゲーム開発の才能と,たくさんのアイデアがまだまだあると考えていますので,我々はTokyo Indiesの開催を続けていきます。
 ゲームをリリースすることは大変なことですが,個人や小規模なチームの開発であれば,なおさら困難です。落ち込んでしまうこともあると思いますが,そんなときにコミュニティは心の支えになります。
 将来的には,ワークショップやゲームジャム(ゲームを作るイベント)を開催してみたいという希望があります。そして,展示イベントとして「Tokyo Indie Fest」もいつかまた開催したいですね。
 実は今,わりと業務で忙しいのですが,最善を尽くしています!

――応援しています。ありがとうございました。


何か作っているゲームがあれば,ぜひ参加を


 日本には昔から,二次創作も含んだ「同人ゲーム」という文脈があり,その中でゲーム作りを楽しむ人たちのコミュニティが数多く存在している。
 なのだが,Alvin氏の言っていた「フルタイムのインディーズゲーム開発者」という立ち位置は,同人ゲームやフリーゲーム,あるいは“商業”と呼ばれる会社でのゲーム開発の,どれとも異なるように感じた。
 同人ゲーム,フリーゲームの成熟された文化やコミュニティがあるからこそ,それらと少し異なるスタンスのゲームクリエイターには居場所があまりなかったのかもしれない。Tokyo Indiesはそうしたクリエイター同士のつながりを生みながら,あらたな文化発信の場所になっていくだろう。記事を読んだ方で,個人・小規模でゲームを作っている人は一度覗いてみてはどうだろうか。
 毎月第二火曜日が開催の目安なので,次回は6/8ではないかと思われる。気になる人は公式ツイッターアカウントをフォローしておこう。