「近頃は,面白いことを簡単にできるようになった。必要なのはコンピュータだけ」

NordeusのCEOであるBranko Milutinović氏が説く楽観主義,才能,そして助け合いについて。

 NordeusのCEO,Branko Milutinović氏は頭のてっぺんからつま先までエンジニアそのものの人物だ。背が高く,肩幅もある大男の彼は,非常に難しいことでもいとも簡単にできるかのように話すクセがあるようで,たった20年前には戦火に包まれていたバルカン半島がどのようにゲーム産業を急速に成長させたかについての質問をぶつけたときには,すでに答えを知っているかのような口ぶりだった。

 「近頃は,面白いことを簡単にできるようになりました。必要なのはコンピュータだけ。そうでしょ?」というBranko Milutinović氏は,「たぶん人類学者がなにかの論文を書いてると思うけど,この地球上のすべての地域には,エンジニアであれ,科学者であれ,何らかのアーティストであれ,それぞれの分野においての才能が均一に散りばめられていると思うんです。そして,その知識が無料化されて誰にでも利用できるようになったのなら,そうした才能がうまく社会に引き出されるわけです。バルカン半島だけでなく,どんな場所であれね」と話す。

 「コンピュータは,世界を変えたと思うのです。とくにこの地域は英語力もあり,コンピュータさえ手に入れば,適応するのは難しくなかったのです。どこにでも才能はあり,おそらくゲームを作ろうという情熱やヤル気も同じでしょう。そうしたところからサクセスストーリーは生まれていくものであり,その周囲の人に可能性があることを悟らせるようになるわけです。今でも,この地域には潜在力が眠っていると思いますね。未来はもっと明るいはずです」

 「近頃は,面白いことを簡単にできるようになりました。必要なのはコンピュータだけ,そうでしょ?」
 こう話すMilutinović氏は,また 「我々が築き上げたようなサクセストーリーは,一つのロールモデルであり,そのノウハウを得る知識的な資源なのです。この地域でゲーム開発ができると証明されたことで,投資も呼び込みやすくなっているかもしれません。まだまだ,新しい成功者が生まれてくるチャンスは多いと思いますし,すでに成功した我々のようなゲーム開発会社にとってもさらに成長を続けていきやすくなると思います。例えば我々の計画は非常に楽観的なものなので,同僚たちの間では常に同じビジョンが開かれていると思います。結局,そうしたことがすべて重なり合っているのが今の状況なんでしょうね。ここ数年は盛り上がっていくと思っています」と予想する。

 「我々の場合,新興地域ではわりと普通な事例だと思うのですが,もう一つの大きな変化は,インターネットによってオープンマーケットがもたらされたことでしょう。CD-ROMをゲーム小売り店に陳列してもらうことが必要なくなり,とくにモバイルゲームではアプリの流通が簡素化されたことの影響が大きいでしょう。バイナリデータをアップロードするだけで,誰もがダウンロードしてプレイ始めることができます。市場の民主化と言えるかもしれませんね」

 さらに,「ゲーム開発者全員が,プレイヤーに直接アプローチする手段があるのです。このことは,我々にとっても大きく重要なことでした。10年前なら,ゼロの状態からNordeusのような企業を作り上げるのは無理だったと思います。Facebook,Apple,そしてGoogleのような企業には本当に感謝してますよ,デベロッパがパブリッシャになれる機会を与えてくれたんですから」と話した。

 Nordeusはセルビアの首都であるベルグレードにあるメーカーだが,ほんの少し前までには半島全域を巻き込んだ紛争で憎しみ合っていたにも関わらず,Milutinović氏は地域のゲーム開発コミュニティには非常に健全な仲間意識と,協力し合おうという気概が生まれているという。

 「ほかの地域と比べて,もっと助け合おうという欲求は強いかも知れません」というMilutinović氏。「協力したり,ノウハウを分かち合おうという非常にオープンな考え方を皆が共有していると思います。問題と言えば,エコシステムが存在しないことで,業界としてまとまり切れていません。ですから,先ごろ開催された業界イベント『Reboot』は非常に良いものだと思うのです。我々自身で能動的にレベルアップして,何かを皆で行っていくという意識を生み出すには,今までこの地域のゲーム業界が行った最高のことだと思います。しかし,それらも全体的に見れば大きな問題とは言えないかもしれません。皆が助け合おうとしているんです。私だって手を差し伸べたいと考えてますし,とても良い雰囲気なんですよ」と続けて語る。

「よその地域と比べて,もっと助け合おうという欲求は強いかもしれません。協力したり,ノウハウを分かち合おうという非常にオープンな考え方を皆が共有していると思います」

 2010年にベオグラード(※セルビアの首都)で起業したNordeusは,アイルランドのダブリンとイギリスのロンドンにオフィスを構えるほど成長しており,今では十分な才能を持つ雇用者を見つけにくくなっているという,大企業病に陥っている。Milutinović氏は,このことについてはNordeus向けの雇用者を雇うだけに留まらない,さらに大きな問題であると考えている。「もちろん,すべてにわたって自信過剰に考えているのではありません。しかし状況は改善しており,時間が経つにつれてネットワークが広がり,ゲーム業界のことが地域に広がって才能のプールも増えて,必要な人材を集めやすくなっていくはずだと思っています。早ければ5年後には人事雇用に関しては満足しているとよいのですが,より重要なのは地域内ですべての人材が集められるということであり,長い目で見るとそれが成功の方程式なはずですね」

 「ロンドンやシリコンバレーと大きく異なることなのですが,我が社の雇用定着率も高く,就職した人材は今のところほどんど離職しておりません。Nordeusでゲーム市場に一石投げてやろうという忠誠心の高い従業員たちですから,彼らに投資し,ハッピーな状態に保つことによってよい状態を保てるわけです。もちろん,それぞれの職種で最高の人材を集められるかが重要ですが,今ある人材で最高の人たちを雇用し,次の世代がさらに素晴らしい人材へと成長していけるよう後見していくことも必要なのです」

 続けてMilutinović氏は,「そういう意味では,この地域は高い競争力を持っていると思います。よそと比べて,まだまだ価値の高い才能が隠されているからですね。彼らが,どうしたら成長していけるのか。すでに5年ほど我々は続けていることですが,5年前に入社した古参から,4年,3年,そして1年ほどしか経っていない従業員たちが,今どういう状態になるのか。そうした彼らの成長を見ているだけで本当にうれしくなってしまうのです。今後は,この中からさらに成長の著しい才能に,どうやってさらにチャンスを与えていけるかということも考えなければなりません」と語る。

 「5年後,10年後になって,我々がそうした社内で才能ある人たちに新しいオプションを与得てあげられるようなエコシステムをまだ完成していないとしたら,それは悲しむべきことかもしれません。どこで働きたいか,何のプロジェクトに関わりたいか,どんな人と一緒に仕事がしたいか,どんな経験や専門職を持ちたいのか。それを叶えるのは不可能ではないでしょう。ベルグレードだけを見ても,5年前と今は比較にもなりません。実務経験の豊富になったエンジニアたちを含める,ソフトウェアプログラマたちが我が社に残り,ここで幸せに働いているというのは素晴らしいことです。今後は,マーケティングやデザインといったほかの職種でも同じことを達成していきたいと思っています」

 こうしたNordeusの躍進はすべて,「Top Eleven」という一つのゲームの成功によるものである。この作品は,Nordeusの処女作であり,唯一リリースしたゲームであり,当初はFacebookゲームとしてリリースされたものの,モバイル向けに難なく移行して大きく成功し,世界中から何百万ものお金を落としてくれるファン層を獲得している。例え,このゲームが明日終了したとしても,Nordeusは相当長期間にわたって生き延びていくことができるそうだ。

「何の失敗もないまま大成功を収めてしまうということは,自分たちが触れるすべてのものが黄金に代わってしまうような奇妙な錯覚を生むものです」

 当然ながら,最初のゲームで大成功を収めたことは,同時に大きな危険も孕んでいることはMilutinović氏らも自覚しているようだ。「何の失敗もないまま大成功を収めてしまうということは,自分たちが触れるすべてのものが黄金に代わってしまうような奇妙な錯覚を生むものです。我々は,幸運だったのだと思っています。データとして集計しているかは私は分からないのですが,それまで何も活動していなかったようなゲーム会社が作ったゲームとしては,過去10年では『Top Eleven』は最も成功したゲームの一つと言えるでしょう。これに加えて,ゲームの寿命も非常に高く,このまま行けば10年も利益を生み出し続ける最初のモバイルゲームになるかも知れません。本当に幸運でしたが,ただ単に幸運だったとも言えます。それは我々の動力となるとともに,今後の問題点でもあるのです。我々はゲーム会社として熟成し始めていますが,ここから何を作り出していくのかという良いシナリオと,現実的な未来展望を描くことに懸命なのです」

 「私はRebootで講演を行った際,“我々の無能具合は改善されている”というようなことを話しました。本当に我々が無能であるとは考えてませんが,世界に誇れるようなゲーム企業を自分の手で築き上げたほど有能だったとは思っていませんし,自分たちを失望させないように努力しています。我々がリリースしたTop Elevenは,我々がゲーマーたちが楽しめるようなゲームを作る能力があるということを知らしめるものであり,このゲームはほかの同ジャンルのサッカーシミュレーションと比べて何か違うものを持っているのなら,それで良いと思うのです。次の作品はさらに大ヒット作品になるかもしれませんし,そうならないかも知れませんよね? 今後,我々はTop Elevenの経験をとおして,ゲーム開発者としていかにレベルアップしたのかをお見せし,そこから進み続けていくしかないのです」

 最後にMilutinović氏は,「私は楽観主義者です。次にリリースする作品も大ヒットになると思っています。しかし,『Top Eleven』ほど成功しなかったからといって,もしくは『Top Eleven』と比較ならないような些細なヒットであったとしても,それが失敗だったとは思わないでしょう。これは,今Nordeusの全員が考えていることもであります。なぜなら,我々は,毎日レベルアップし,さらに学び,ゲーム開発者として成長し,それを続けていくことだけを考えているからで,それがゲーマーの皆さんの期待に添える良いゲーム会社のあるべき姿だと思うのです。それで良いんじゃないでしょうかね。我々がそう考えられる余裕を持てたのも,『Top Eleven』という幸運に巡り合えたからです。ゲーム業界の多くの人は同じポジションではないでしょうし,毎日より良いゲームを作り出すためのプレッシャーと戦っている人も多いでしょう。もちろん,我々はそれを軽視するつもりなどまったくなく,我々もハードに働き,より良いものを生み出そうと願っているだけでのです」と話した。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら