Supercellは「クラッシュ・ロワイヤル」で自縄自縛に陥るのか?

「クラッシュ・ロワイヤル」の成功は「クラッシュ・オブ・クラン」を食いつぶしかねず,長期的に見てSupercellのためにならないのではないかとEEDARのインサイト担当VP Patrick Walker氏は語る。

 何年もの間モバイル収益ランキングの上位の顔ぶれに変化はなかったが,ついに今年3月,ある革新的な携帯ゲームがチャート上位に食い込んだ。タワーディフェンスとMOBAとカードバトルを絶妙に組み合わせたSupercellの「クラッシュ・ロワイヤル」は,リリース直後から大ヒットとなり,発売初月にゲーム収益の世界ランキングで首位に躍り出た。
 モバイルでイノベーションを起こして成功することは難しいことだが,Supercellがこの快挙を成し遂げたこと自体は驚くべきことではない。フィンランドに本拠地を置くモバイル大手の同社には,大規模なユーザー獲得キャンペーンを行うだけの資金があるうえに,才能あふれるチームと,膨大なユーザーデータ,そして思ったような成果が出ないプロトタイプを没にしてもやっていけるだけの継続的な収益もあるからだ。

 「クラッシュ・ロワイヤル」の設計が優れていることは,同ゲームのリリース以来ホットな話題となっているが,EEDARは特に重要な成功の要因として,以下を挙げている。

  • 手を出しやすいのにディープなプレイ感。シンプルなマップレイアウトと直観的な操作により,初心者にも取っつきやすくなっている。ユニットの行動や強みに関する複雑さや,デッキ集めというメタゲームによって,ゲームに奥行きが生まれ,極めるのが難しくなっている(また,勝つために課金するという構図がうまく隠されている)。さらに,縦型画面で設計されたミッドコアゲームであることが,タブレットよりもスマホの利用が増えているというトレンドを捉えた動きだ。
  • 手軽なリアルタイムマルチ対戦。複数のプレイヤーによるリアルタイム対戦ゲームでは,しばしばモバイルの黄金律が破られるが,セッションの長さが数分を超えても許されるのは「Warcraft」で知られるBlizzardぐらいのものである。「クラッシュ・ロワイヤル」は1対戦あたり3分という短さで,最後の1分がとくに白熱するように作られている。さらに,シンプルで洗練されたアセットにより,対戦時の読み込み時間やデータ使用量が抑えられている。
  • 実績あるマネタイズ手法に対する新たな取り組み。単なるカード収集の仕組みではなく,宝箱システムによる,待機時間を利用したマネタイゼーションを行っている。これにより,心理的に課金を促すガチャの要素と,待機時間によるマネタイゼーションの良い部分を合わせたシステムとなっている。プレイヤーは,自然に定期的にゲームをプレイするようになり,開発者が制作するコンテンツへの依存度も低くなる。
  • ゲームの根底部分に統合されたソーシャル要素。クランメンバー間でカードをトレードできる仕組みにより,ゲームを先に進めるうえでソーシャルな要素が重要となっている。短時間のエキサイティングな戦闘構造と,最初から搭載されている視聴チャネルにより,魅力的な観戦モードが生まれている。

 発売直後から非常に好調な「クラッシュ・ロワイヤル」だが,実は「クラッシュ・オブ・クラン」を食いつぶすことにより,Supercellの収益にマイナスの影響を及ぼすリスクがある。「クラッシュ・ロワイヤル」は,数年におよぶ大量のテレビCMによりメインストリームゲームとして浸透した「クラッシュ・オブ・クラン」のカートゥーンライクなIPを利用している。「クラッシュ・オブ・クラン」ブランドという強みが「クラッシュ・ロワイヤル」の成功において大きな役割を果たしているのは間違いないが, それはすなわち,多くのプレイヤーが「クラッシュ・オブ・クラン」から「クラッシュ・ロワイヤル」に移行することをも意味する。長期的に見れば「クラッシュ・ロワイヤル」には,これから獲得できる移行ユーザーが大勢いることになるが,すでに「クラッシュ・ロワイヤル」が「クラッシュ・オブ・クラン」のような長期的に君臨するゲームとなるうえでの障害の兆候は見え始めている。

 まず,「クラッシュ」シリーズの長期的な収益見通しは,必ずしも短期的な成功と一致するものではないという兆しが見られている。「クラッシュ・ロワイヤル」は3月に世界的なチャートの首位に躍り出たが,それは「クラッシュ・オブ・クラン」を踏み台にした結果であり,4月には両タイトルが順位を落としている。とくに「クラッシュ・オブ・クラン」ではその傾向が顕著である。以下のグラフは,米国におけるiOS版「クラッシュ」シリーズ2タイトルと「GoW: Fire Age」の3月および4月の週間業績推移を比較したものである。


 グラフには,3つの期間が示されている。1つめは,何年にもわたって「クラッシュ・オブ・クラン」が首位を独占していた(最近は「GoW:Fire Age」との頻繁な入れ替わりを繰り広げている)期間。2つめは,3月3日に「クラッシュ・ロワイヤル」がリリースされて以降の「クラッシュ」シリーズ2作品がワンツーを飾り,Supercellにとって素晴らしい結果となった1か月だ。しかし,3つめの期間である4月には様相が大きく変化し,「クラッシュ・ロワイヤル」が数週間にわたって堅持した首位の座を明け渡し,「クラッシュ・オブ・クラン」にいたっては,米国のチャートではここ数年のうち初めて順位を大きく下げた。このグラフは,米国のiOS版のデータのみを示したものであるが,欧米で開発されたタイトルの収益において米国市場は大きなウェイトを占めており,ほかの市場の今後のトレンドを先取りしていることも多い。

 4月の売り上げトップチャートでサブスクリプション形式の音楽サービスSpotifyをランキングで下回ったことは,Supercellの合計収益の落ち込みの兆候といえる。Spotifyのようなサービスは,一般にIAP駆動のF2Pゲームに比べてより安定した短期収益があり,ゲームのランキングの上下に際しては,このようなサービスをベンチマークとして見ることができる。


 よりコアなターゲット向けの「クラッシュ・ロワイヤル」の登場には,「クラッシュ・オブ・クラン」のプレイヤーがSupercellの世界から姿を消すきっかけになるというリスクがある。データによれば,「クラッシュ・オブ・クラン」は,直接的にも間接的にも「クラッシュ・ロワイヤル」への主要な入り口となっている。EEDARのリサーチによると,北米の「クラッシュ・ロワイヤル」のプレイヤーの大半(74%)には,「クラッシュ・オブ・クラン」のプレイ経験があり,さらに重要なことに,「クラッシュ・ロワイヤル」のプレイヤーのおよそ4割(37%)が過去1か月以内に「クラッシュ・オブ・クラン」をプレイしたことがある,アクティブな「クラッシュ・オブ・クラン」プレイヤーであった。2つのタイトルのユーザーは大きく重複しているため,「クラッシュ・ロワイヤル」の登場後に「クラッシュ・オブ・クラン」の収益が落ち込んでいることも驚くことではない。

 Supercellにとって大きなリスクとなるのは,ミッドコア向けの都市建造ゲームである「クラッシュ・オブ・クラン」を楽しんでいるプレイヤーの多くが,もう少しコアなリアルタイムのマルチプレイヤーゲームである「クラッシュ・ロワイヤル」を楽しめるとは限らないという点である。業界内には,「コア」や「カジュアル」といった用語の使用を厭う向きもあるが,これらは市場ダイナミクスを理解するうえで価値のある分類である。EEDARは,「カジュアル」「ミッドコア」「コア」という用語をゲームがプレイヤーに要求する投資(時間,金銭,集中力など)の量を定義するために使用しているが,ゲームが要求する投資レベル(コアさ)と,潜在的なプレイヤーの市場規模には強い相関がある。

 ミッドコアのゲームデザインにおけるブレイクスルーは,伝統的なHDゲームのプレイセッションに比べて短いセッションを数多く行うことにより,エンゲージメントを深めるというものだ。「クラッシュ・ロワイヤル」の戦闘は短いが,複数プレイヤーで行われるため「クラッシュ・オブ・クラン」のレイドに比べて高い集中力が要求される。「クラッシュ・オブ・クラン」から移行してきたプレイヤーの多くがこの種のゲームプレイに長期的な魅力を感じないというリスクがあるのだ。

 4月に収集されたEEDARの消費者データは,食いつぶしのメリットが存在する可能性を示唆している。Supercellの両タイトルをプレイしているプレイヤーは,明らかに「クラッシュ・オブ・クラン」よりも「クラッシュ・ロワイヤル」に多くの時間を費やしており,2つのゲームのプレイヤーの中で一番のめり込んでいるグループである。しかし,「クラッシュ・ロワイヤル」に費やす時間が多いのに対して,両タイトルで遊んでいるプレイヤーの大半は,「クラッシュ・オブ・クラン」のほうを好んでいる。


 さて「クラッシュ・オブ・クラン」のほうを好むプレイヤーは,そちらに戻るのだろうか。それともSuppercellの世界からいなくなってしまうのだろうか。ゲーム業界では,昔から新しいゲームに移行するときにゲーマーが離脱するリスクが認識されていた。「EverQuest 2」がリリースされたタイミングは,「EverQuest」のプレイヤーにとって「World of Warcraft」に手を出す良い機会となった。残念ながら,そのようなプレイヤーの多くが「EverQuest 2」よりも「World of Warcraft」を好んだため,新たに絶対的なMMORPGが誕生する運びとなった。SOEとは異なり,Blizzardは「World of Warcraft」に関して,続編を作る代わりに継続的にアップデートや拡張を行う手法を選んでいる。

 Supercellは,「クラッシュ・オブ・クラン」から「クラッシュ・ロワイヤル」へとプレイヤーを移行させる際に,同じようなリスクに直面する。「クラッシュ・ロワイヤル」を「クラッシュ・オブ・クラン」ほど気に入らない一部のユーザーがいる場合,彼らが「クラッシュ・オブ・クラン」に戻るのか,それともSupercellの独占的な時代の終焉の始まりとなるのか,が最大の焦点となるだろう。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら